第31話 生きる意味を見つけて
巨大空母艦オリジンビリーブに戻ったアルフィルクはザフィーアから降りると間もなく、医療班によって医務室へと運ばれてしまった。
精密検査と治療を施されて、解放れされたのは日が傾いた頃だ。フォルティアからも「大丈夫」と言われて、医務室を出たアルフィルクは格納庫へと向かう。
ポラリスが気になっていた、ずっと。降りてすぐに確認したかったけれど、医療班に運ばれてしまったので、その後のことをアルフィルクは知らない。
格納庫へと入ったアルフィルクは真っ直ぐにザフィーアの足元へ駆け寄って、立ち止まる。
艶のある藍墨茶の長い髪を無造作に垂れ流し、俯いて顔を手で覆いながら小さく丸まっているポラリスの姿があった。
声を殺しながら泣く彼女にアルフィルクは困惑する。
ザフィーアを見上げれば、彼は『ポラリスが悲しみ、そして安堵している』と告げた。どういう意味だと問いかけようとして、ポラリスの顔が持ち上がった。
顔を覆い隠していた両手を下ろし、サファイアの煌めく瞳がアルフィルクを捉える。
「アルフィルクっ」
ポラリスは勢いよく立ち上がってアルフィルクに飛びついた。よろけそうになるのをぐっと足に力を籠めて堪え、アルフィルクは彼女を抱きとめる。
ポラリスは震えていた。アルフィルクを抱きしめる手に力を籠めながら。
「……どうした」
彼女の感情が溢れている。アルフィルクはぽんぽんと背を叩きながら問いかける、あやすように。
「よかった……ほんとうに、よかった」
ポラリスは安堵の息を零す。アルフィルクの胸に耳を当てて心臓の鼓動を聞きながら、ほっと。
「アナタまで何処かに逝ってしまうかと思った……」
アナタがいなくなるのは嫌だとポラリスは自分の想いを吐き出した。
ずっと一人だった。支えてくれる人はいたけれど、それはザフィーアの調律者としてで。
母であるフォルティアだけは全てを受け止めてくれていたけれど、前線ではザフィーアと自分だけだった。
戦うために生まれた自分の隣にいてくれる、傍にいることを許してくれる人間はいない。
自分にかけられる言葉は調律者としてのことばかり。他愛のない会話など、誰も教えてくれはくれない。
スーザリオは話しかけてくれていたけれど、求めている温もりとは違うものだった。彼の温もりは父性からなるものだ。
友であるザフィーアと一緒にいる時は寂しさも和らいだけれど、それでも別の誰かが隣にいてほしかった。
傍にいることを許してくれて、戦い以外のことを教えてくれる、そんな人が。ポラリスはゆっくりと顔を上げる。
「アナタだけはそれを許してくれた」
たった一人だけ、アナタだけだ。傍にいても許してくれて、隣にいて会話をしてくれた。
気分転換を、怖いと感じることが悪い事ではないと教えてくれたのだ、アルフィルクは。
感情を露にしながら涙を流すポラリスに、アルフィルクは彼女の孤独と悲しみを、ずっと心を蝕んでいた恐怖を知る。
彼女へ抱く感情は同情なのか、アルフィルクには分からなかったけれど、放ってはおけなかった。自分もポラリスという存在に救われていたから。
ポラリスが黙って傍にいてくれて、そっと受け止めてくれたから、自分はザフィーアに乗れたのだ。
でも、彼女はずっと一人で抱え込んでいた。
(俺が教えてしまったんだ、感情を)
アルフィルクと話をすることでポラリスは失う恐怖を覚えてしまった。自分を受け入れてくれた存在が消えてしまう。
こんな彼女に誰が手を差し伸べられるのか。
(……俺しかいないんだ)
あぁ、そうかとアルフィルクは気づいた。自分しかいないのだと、彼女には。
「黙っていなくなったりしねぇよ」
アルフィルクはいつもの調子で言った。
「ずっとなんていう約束はできないが、黙って目の前から消えたりはしない」
ずっと一緒にいることはできない。死というのは生きる全ての存在に与えられている。誰かを残して眠りにつかなければいけないことになるのだ。
けれど、一言だけでも別れを告げることはできる。アルフィルクの言葉にポラリスは目を細めてから、うんと頷く。
(これがそうなんだな)
自分は誰かのために生きられるのだと、アルフィルクは知った。強くもない自分でも、支えになることができるのだと。
生きる意味は此処にあったのだ。アルフィルクはポラリスをぎゅっと強く抱きしめた。




