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星神機ミソロジア―孤独を抱く瞳に白翼の道標を―  作者: 巴 雪夜
第五章:生きる意味は此処にあった

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第30話 襲い来る感情に視界が溺れ、名を呼ぶ声に浮上する


 耳から頭へと巡り、脳を揺らす。途端に襲われる頭痛に眩暈がしてアルフィルクは額を押さえた。


 ぐらぐらと視界がぼやけていく、痛みに意識を持っていけば金切り声が変わる。悲鳴だ。苦しみもがく、そんな声ではない。


 死を覚悟する、恐怖を吐き出す、怒りに満ちた悲鳴。男女の声が後頭部を殴ってくる。ぼやける視界には犠牲になった人たちの死に様が映った。


 瓦礫の下敷きに、アポストルスに踏みつぶされ、エクエス機を叩きつけられて。死を覚悟した人たちの感情が脳に染み付くようにループする。


 頭が痛い、血の気が引いていく。襲い来る寒気に身体が震え、歯ががちがちと鳴る。視界には死に様が流れ続け、吐き気がこみ上げた。


 

「っ、おぇっ」


 

 嗚咽が零れる。死にたくないと泣く声に、許さないと恨む感情に、胸が締め付けられた。


 胃の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、首を絞められているかのように息ができない。


 呼吸もまともにできなくて、アルフィルクは首元を掻きむしる。瞼を閉じても映し出される光景に、見たくないと瞳に涙が溜まっていく。


 それだけしか見えない、聞こえない。痛い、苦しい。助けられなかった人たち、守ってくれた戦士たちは自分の弱さのせいで死んでしまったのだ。


 自分のせい、自分のせい。頭が割れる、声も出ず、肺が空気を欲する。首を掻きむしった手で気持ちの悪い腹を押さえてアルフィルクは突っ伏した。 


 聞きたくない、見たくもない。全て自分が悪いのだ、責めらないでくれ。心が蝕まれ、支配される――はずだった。



「アルフィルクっ!」



 違う声がした、自分を呼ぶ。必死に叫ぶ震えた声、今にも泣き出しそうな、そんな音がする。


(この、声は……)


 また、名前を呼ばれる。涙に濡れた、この声は。


 

「アルフィルクっ……起きて……お願い……」



 ポラリスだ、彼女が涙を流している――アルフィルクの視界が晴れた。


 聞こえ続けていた声は消え、目の前には視界モニターに表示される外の映像が映る。息が吸えて、気持ち悪さも治まっていく。


【アポストルス・リーダー機:サルタートル 精神干渉を確認

 ザフィーアおよびパイロット:アルフィルクとの神経リンク乱れ有


 精神干渉解除

 神経リンク正常値まで低下】


 視界モニターに表示される情報にサルタートルによって精神干渉をされていたことを知る。アルフィルクはぎっとモニターを睨んだ。


 操縦桿を握りしめてアルフィルクは声を張り上げる。



「ふざけたこと、してんじゃねぇっ!」



 アルフィルクの怒りにザフィーアが動きを取り戻す。白翼のマントをはためかせて、サルタートルと一気に距離を詰めた。


 隼の爪を彷彿とさせる槍がサルタートルの首根に突き刺さる。ばちっと弾ける火花を噴かせて。深く刺さった槍先を引き抜く勢いで首を抉った。


 アルフィルクの心に怒りが灯る。この戦いで命の限りを尽くした戦士を利用されたことへの、覚悟を否定した行為に。


 恐怖を抱いただろう。けれど、彼らは最後まで立ち向かった。その意思を弄んだのだ、このアポストルスは。


 足を掴んでザフィーアはサルタートルの身体を砂浜に叩きつけた。強い衝撃に抉られた首が吹き飛んで――機能を停止させる。


 【アポストルス・リーダー機――サルタートル 

 機能停止 生体反応なし

 目標の討伐に成功】


 視界モニターに表示される情報にサルタートルの死を確認してアルフィルクは大きく息を吸った。


 ゆっくりと深く吐き出してから、瞼をぎゅっと閉じて持ち上げる。


 まだ少しばかり痛む頭を押さえる。ぐらつく感覚はあるものの、行動に支障はない。アルフィルクが自分の体調を確認していると、通信が入る。



『大丈夫かしら、アルフィルク』


「フォルティア……なんで、お前が」


『精神干渉反応を感じたからよ。その様子だと……大丈夫そうね』



 フォルティアの優しい声に少しばかり安堵してしまう。ちゃんと受け答えができていることに。


 アルフィルクが身体不調の状態を報告をすれば、彼女は「検査が必要かも」とすぐに戻ってくるように指示を出した。



『身体に影響が出ているかもしれないから検査はしましょう。サルタートルの回収は第一戦隊から第三戦隊までのエクエス機がやってくれるわ』


「わかった」


『早く戻ってきてポラリス()を安心させてあげて』



 フォルティアはそれだけ言って通信を切った。安心させる、そうだポラリスは泣いていたのだ。


 慌てて振り返れば、声を殺して泣いている彼女の姿があった。


 なんと声をかければいいのか、アルフィルクは戸惑う。あまりにも感情がぐちゃぐちゃになってしまったような顔をしていたから。



『帰還するのではないのか?』



 ザフィーアの問いにアルフィルクははっとして、「戻っていい」と返す。


 ポラリスの様子が気になるが、戻ってからのほうがいいだろうとアルフィルクは判断したのだ。


 操縦をザフィーアの意志に任せて、アルフィルクは操縦席から身体を起こし、泣き続けるポラリスの頭をそっと撫でた。

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