第29話 静けさに木霊する咆哮
警報のサイレンが鳴り響く早朝。リュウグウ国の南、タイエン国シャルワン港にアポストルスは降り立った。
小さな港町は戦場へと変わり果て、逃げかう人々の悲痛な声で溢れている。
避難などアポストルスが待ってくれるわけもない。彼らは破壊を尽くすためだけに生まれてきているのだから。
モグラのような鼻先に女性を連想させる胸囲のボディ、脚部は細く足先は針のように鋭い、白雪のような機体の両腕で、フラフープのような光の輪が円を描いていた。
くるり、くるりとゆっくり回る光の輪が太陽の日差しに照らされてギラリと煌めく。
鋭い足先で滑るように移動しながら建物を破壊して――頭上の影にぐるんと後ろに一回転した。
隼の爪を思わせる槍が瓦礫に突き刺さる。上空から獲物を捕らえんと白き隼が降り立った。
『こちら、オペレーターKR。オリジンビリーブによる解析結果、敵機はアポストルス・リーダー機、機体識別名:サルタートル』
送られてくる情報が視界モニターに表示されるのをアルフィルクは目を通す。索敵結果、リーダー機であるサルタートル以外のアポストルス反応はない。
一機だけとはいえ、リーダー機だ。戦った経験から手ごわいのは嫌と言うほど理解している。
何をしてくるのか、警戒しながら戦わねばならない。アルフィルクは操縦桿を握る手に力を籠めた。
町の中で戦うのは被害を最小にするならば、避けるべきだ。アルフィルクは操縦桿を操作し、浜辺のほうへと誘導を試みる。
ザフィーアが槍を振い、少しずつ移動していけば、サルタートルは追いかけてきた。
アポストルスにザフィーアは敵だと認識されている。彼らは邪魔する存在に容赦はなく、敵意を向けてくるのだ。誘導はそう難しいものではなかった。
浜辺のほうへと降り立った二機は向かい合う。ザフィーアが槍を向ければ、サルタートルは片足で立ち、くるくると回転し出した。
竜巻のように風を纏い迫りくるサルタートルをザフィーアは白翼のマントで押し返す。シールドの耐久値が削られていくのを感じながら、アルフィルクはマントを下ろさない。
ザフィーアを守るように白翼のマントが前に出され、サルタートルの竜巻を受け切る。
金属を擦切る音を響かせて、サルタートルは華麗に宙を回転し、着地するのと同時に連続で蹴り上げた。
脚部の動きとは思えぬ速さで連続する蹴りにアルフィルクはマントで防御するのを止めて、操縦桿を素早く動かす。
ザフィーアは槍で足を捌ききるも、サルタートルはさらに蹴りを早める。
(目で追うのは無理だ)
人間の目に捉えられる動きではない。アルフィルクはザフィーアの感知能力を利用し、それと己自身の感覚で蹴りを捌く。
数秒、少しでもズレれば、鋭い足先の蹴りが入る。アルフィルクの額からは汗がにじみ出た。
それでもこのまま防御に徹している状態では戦況が変わることはない。どうにか相手の隙を見つけなくては、アルフィルクは小型パネルに指を滑らせる。
ザフィーアの索敵機能を起動させ、サルタートルを選択すれば、【解析中】と表示された。
(性能までは解析できないが、行動から予測はできるはずっ)
今までの行動からいくつかの行動パターンが予測できるのではないか。アルフィルクはザフィーアの索敵機能を使ってみる。
すると、足蹴りの予測パターンがいくつか出てきた。
(これならっ)
一つの予測パターンに攻撃の一手を見出し、アルフィルクは操縦する。
サルタートルの素早い連撃に生じる数秒の間。足を思いっきり蹴り上げる瞬間を捉える。ザフィーアは足を掴み、その勢いのまま浜辺に叩きつけた。
強い衝撃にサルタートルの機体が軋み、跳ねる。その隙を狙い、槍を向けるも浜辺を転がりながら避けられてしまう。
ぴょいっと軽く跳ねて立ち上がったサルタートルはザフィーアから距離を取った。しんと静まる。海風が吹き抜け、波しぶきの音しかしない。
サルタートルは動かず、じっとザフィーアを見つめ、何か違和感をアルフィルクは抱く。様子がおかしいとは違う、そうこれは――
はっとアルフィルクが気づくとサルタートルは片足を勢いよく浜辺に突き刺す。
それから両腕を広げ、フラフープのような光の輪がぐるんぐるんと速度を速めて回転し、金切り声が木霊した。




