狡い大人だけれど、それでも―― side.スーザリオ
つくづく実感する。大人というのは狡い生き物だと。まだ子供だというのに未来を託すのだから。
つい昨日まで普通の人間として生きてきた少年に、命を賭けて戦えと強いる。これがどれほどに酷い仕打ちなのか、誰もが分かることだ。
お前が戦わなければ、この星に生きる人間は死ぬ。そう脅されているようなもので、子供が恐怖心を抱かないはずがない。
大人というのは狡い生き物だ。スーザリオはミソロジア・ザフィーアのパイロットが十八歳の少年と知って思った。
でも、彼に託すしか、道はないのも理解していた。
(娘の一つ上か……)
一人娘の事が頭に浮かぶ、妻の残してくれた大切な存在が。
長い戦いでもうずいぶんと顔を見ていない可愛い娘と少年を重ねてしまう。これを人間というのは同情と言うのだろう。
スーザリオは苦く笑った。自分もだいぶ狡い生き物になったものだと。でも、彼を放っておくことはできなかった。
少年は孤独だ。彼の傍には誰かが居てやらなければならない。スーザリオはこれが余計なお節介である自覚はあった。
(教えてやれるのは、おれだけだろう)
これもまた、傲慢な大人の考え方だ。けれど、自分しかいないという自信というのはあった。
(優しさと温もりならば、姫が教えてくれる)
ポラリスの心は純粋なもので、全てを包み込んでくれる。戦うためだけに生まれた子であったとしても。
(おれが教えるのは……)
あと、彼に足りないものは――
死ぬ間際に走馬灯が見えるというのは本当のようだ。スーザリオは迫りくるレーザー砲を見て実感した。
それでも逃げることはなく、バズーカ砲の引き金を引く。
「なぁに、王子ならやってくれるさ」
死ぬことが怖くないわけではない。
もう二度と娘と再会できないことが辛いわけではなかった。
この行動もきっと少年の心の傷になるだろうことは分かっている。けれど、それでも。
「大人として、教えなきゃならないんだ」
撃ち抜かれる機体に痛みなどなくて。スーザリオは遠のく意識の中で笑みを見せた。
狡い大人だ、本当に。傷をつけて教えることしかできなかったのだから。もう少年は逃げることができなくなってしまったのだ。
それでも、彼にはなってほしかった。未来への道標に。
(お前さんなら、大丈夫さ)
もう一人ではないのだから。スーザリオはそう思いがらゆっくりと、ゆっくりと沈んでいった。




