第26話 別れに涙を
巨大空母艦オリジンビリーブの飛行甲板の上で戦士たちが黙祷を捧げる。それはこの戦いで亡くなったスーザリオへの祈りだ。
この星を守るためにその命を燃やしてくれた戦士たちに想いを捧ぐ。
アルフィルクは黙って星のペンダントを握りしめる。スーザリオが最後に自分に渡してくれたお守りを。
長くも短い黙禱を終えて戦士たちが戻っていく中、アルフィルクは俯いていた。気づくのが遅かったと自分を責める幻聴が脳裏を巡る。
「それはスーザリオのお守りだ」
隣から声がしてアルフィルクが顔を上げれば、タツノリがぼさぼさの黒髪を掻いてから、だらしなく着こなした白衣のポケットに手を突っ込んで遠くの空を見つめていた。
「それはな。スーザリオの奥さんが初めて誕生日プレゼントで贈ったものでな。スーザリオはお守りとして大事に持っていたんだよ」
「おっさんの妻は……」
「流行り病で亡くなったさ」
元々、身体が弱かったスーザリオの妻はその身で娘を産んで、さらに悪化させていた。
スーザリオ自身、妻の身を考えて産む必要はないと言ったけれど、彼女の決意は強かったのだ。
そうして生まれた娘が三歳を迎えたある冬の雪降る日に流行り病で生涯を終えた。
あっけなかったとスーザリオは話していたとタツノリは話す。
「何か祈るものがあれば、恐怖も寂しさも和らぐでしょう。きっと勇気を貰えるはずよ。だから、それをお守りにして。アナタは一人ではないの」
スーザリオの妻の最後の言葉だ。タツノリに言われてアルフィルクは思い出す、このペンダントを渡された時のことを。
「あいつはこうなることも考えていたんだろうな。だから、そのペンダントを君に渡したんだ」
「どうしてだ……」
「君は一人ではないって伝えたかったんだよ、多分な」
スーザリオは妻の最後の言葉に救われた。勇気をもらい、前に進むことができたのだ。
自分は一人ではないと、空で見守る彼女と、慕ってくれる仲間がいるのだと気づけたから。
「勇気を与えたかったんだ、きっと」
「あれが、おっさんの勇気だって言いたいのか?」
自分の身を盾に守ることを、勇気と呼んでいいのか。アルフィルクの問いにタツノリは「その一つだよ」と答えた。
命を賭けて誰かを守る、それは勇気がなければできない。人間は誰だって死ぬことを恐れる。
理不尽に死にたくはないし、大切な人と離れたくはないのは皆、同じだ。
それでも、先の未来のために命をかけて守り抜く覚悟、それを勇気とも言う。
「スーザリオは勇気をもって、その覚悟で君を守った」
この星を守るためでもあり、大切な人たちの未来を失わなせないために。
「王子。君には伝わったんじゃないかな、あいつの覚悟が」
優しく笑むタツノリの眼は濡れていた。
想い。そんなもの、伝わらないわけがない。あんなにも、強い揺るがない覚悟が分からないわけが。
勇気とは、何か。その答えをスーザリオは教えてくれたのだ。父親のように。
アルフィルクは握っていたペンダントから手を放す。タツノリと同じように遠くの空を眺めて、スーザリオの言葉を思い出していた。
『後悔するぐらいならば、その想いをぶつけてやれ』
彼は後悔を望んではいない、自分に未来を託してくれたのだ。アルフィルクの眼にもう迷いはなかった。
タツノリは「よかったよ」と安堵したふうに呟いてから戻っていく。
その背を見送ろうと振り返れば、少し離れた先でポラリスが見守ってくれていた。
顔に感情があまり表れないので彼女が今、何を考えているのか、どう思っているかはアルフィルクには分からなかった。
けれど、駆け寄ってくる行動から優しさを感じる。隣に立ったポラリスは空を見上げた。
「アナタの淹れたコーヒーは美味しかったよ、スーザリオ」
温かくて、ほんのりと甘いコーヒーの味をワタシは忘れない。
ポラリスの別れの言葉にアルフィルクは目元を下げる。
「お前、あいつが生きているうちに名前を呼んでやれよ……」
「愛称は親愛を意味するって教えてくれたの」
スーザリオは愛称に親愛を籠めていた。ネーミングセンスが無いと笑われても、彼は曲げることなく。
だから、王子呼びをやめなかったのか。途端にアルフィルクの目から涙が溢れ出た。
きっと泣いてもスーザリオは困った顔一つ見せずに「泣きたいときは泣け」と肩を叩いてくれるのだろうな。想像ができてしまって、また涙がこぼれる。
ポラリスが背伸びをして頭を撫でてくれる、ただ何も言わずに。彼女の優しさに甘えてアルフィルクは静かに泣いた。




