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星神機ミソロジア―孤独を抱く瞳に白翼の道標を―  作者: 巴 雪夜
第四章:勇気とは、何か

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第21話 ザフィーアを止められるのは

 アルフィルクは巨大空母艦オリジンビリーブの操舵室を訪れて、立ち止まる。


 最初に見た時と変わらず、様々な機器とモニターが設置されている室内では、オペレーターや隊員たちが忙しなく動きながら声を掛け合っていた。


 そんな操舵室の中心、視界モニターが一望できる席の近くで、クリフトンとタツノリ、それからフォルティアが何やら話し込んでいる。


 傍に備え付けられていたモニターを見ながら、三人で話す様子にアルフィルクは声をかけられない。


 アルフィルクはクリフトンに呼び出されて此処に来たのだが、三人で難しい顔をしながら話しているのを見ては口を挟みにくかった。


 どうするかと悩んでいれば、視線に気づいたフォルティアと目が合った。ダイヤモンドをそのまま埋め込んだような瞳がぱちりと閉じてから、瞼が上げられる。



「クリフトン。アルフィルクが来たわ」


「あぁ、すまない。待たせてしまっただろうか?」


「まぁ、少し」


「あー、そりゃあ、申し訳なかったな。すまん、王子」


「おっさん。相変わらずだらしないな、格好が」



 王子呼びをしたタツノリのだらしなく着こなす白衣を指差す、嫌味を言うように。


 仕返しとばかりなアルフィルクにタツノリは「だらしないおっさんで悪かったな!」と開き直った。


 休みなく調査や研究をやってるんだからなと言い訳を挙げるタツノリに、クリフトンは呆れた眼差しを向けながら「彼のことは気にするな」と、アルフィルクに言って話を戻す。



「君を呼び出したのはグラナートのことだ。現在、グラナートとの戦闘で得られた情報、通信を行ったことでの彼らの反応、声紋から得られた洗脳汚染状況などを解析している」


「何か分かったのか?」


「ユーストゥス、シリウスは洗脳汚染度は高いが、まだ残った自我によって抗っている状況だ。完全には洗脳されていない。グラナートはどうやら、フィーニスコアによって意識を遮断されているようだ」



 ユーストゥスとシリウスにはまだ自我が残っており、洗脳に抗っているという結果が出た。


 完全に洗脳汚染されたわけではないので、こちらの浄化が間に合えば精神異常などの後遺症は少なくて済むという見解だ。


 グラナートはフィーニスコアによって意識を遮断されているため、呼びかけても意思疎通をすることができなくなっている。


 ただ、声は届いているようで僅かな反応をオリジンビリーブが感知したということだった。


 また、破損し海に落ちていたグラナートの武器の一つ、ウルフヘッドの一機の解析は終わっており、グラナートはフィーニスコアからの改造はされていないと結果がでている。



「ただ、現在はということだ。これからさらに悪化する可能性も考えられる。君を呼んだのはザフィーアのことだ」


「ザフィーアがどうかしたのか?」


「ザフィーアはグラナートのことになると感情の揺れが激しくなるのよ」



 フォルティアが「感情の波形もこちらで計っているの」と教えてくれた。ミソロジアの感情というのも、機体面と関わってくる。


 調律と同じぐらいにと言われて、アルフィルクは首を傾げた。そういったことは調律者であるポラリスが聞くべきことではないのか。


 自分は操縦しているだけだと言いたげな表情をアルフィルクがすれば、クリフトンが「操縦する君だから制御ができる」と答えてくれた。



「君はザフィーアの神経を司っている。ザフィーアが感情で動き出そうとするのを、君は止めることだができるんだ。これは調律者であるポラリスにはできない。彼女は感情によって昂ったザフィーアの調律に集中している」



 今はまだそういった行動を取っていないが、いつ感情で動くか分からない。だから、もしそうなったら君が止めるんだ。そう言うクリフトンの言葉は重い。


 ザフィーアは兄弟であるグラナートを救いたいと強く願っていた。アルフィルクは彼の心を感じ取っているので、感情的な行動をしてしまう可能性を否定できない。


 フォルティアは「ザフィーアは優しい子なの」と、煌めく瞳を細める。誰かを想う心が強い子と。



「だからこそ、何かをきっかけに感情的になってしまう可能性があるわ。オリジンビリーブもそれを心配しているの」


「俺に止められるのかよ」


「操縦することで止めることができる。パイロットが搭乗している時は神経である君の操作を優先されるからだ」



 意思がぶつかり合うことは間違いないが、どうか彼を頼む。頭を下げるクリフトンにアルフィルクは「わかったよ」と返事を返す。


 文句を言われる覚悟をしていたようで、クリフトンとタツノリが目を瞬かせていた。


 そんな二人の態度をアルフィルクは気にしない。自分でも急に変わったように見えなくもなかったからだ。


 けれど、フォルティアだけは驚いておらず、顔をにこりと微笑ませている。


 アルフィルクはミソロジアたちと向き合っていくと決めた。だから、ザフィーアを止めることを拒絶する理由はない。


 とは、口には出さなかったけれど、フォルティアは察しているような顔をしてみせる。


 本当に心が読めるのではとアルフィルクはじとりとフォルティアを見遣った。そんな視線など彼女には通用しないようで、表情を変えずに笑みを絶やさない。



「ザフィーアは対話ができるわ。止める時も声をかけることで理解してくれるはずよ」


「その時になったら、やってみるさ」


「君に負担をかけることを頼んで申し訳ないが、よろしく頼む」


「グラナートの救出はまだできないのか?」


「それはもう少し情報がほしいなぁ」



 タツノリはぼさぼさの黒髪を掻きながらタブレット端末に目を向ける。解析は順調に進んではいるが、グラナート・ユーストゥス・シリウスの精神状態の情報が足りないのだという。


 これは戦闘時にオリジンビリーブによって測定することが可能とのことだった。あと何度か、戦うことになるということをタツノリは言いたいのだ。


 アルフィルクはそう簡単にはいかないだろうと思っていたので、彼の説明に納得する。



「今はアポストルスもグラナートも出現してはいない。何処に潜伏しているのか、それに関しての疑問はあるだろう。こちらでは海上の何処かとまでは判明している」



 グラナートやアポストルスの撤退位置や、索敵範囲からの結果で海上とまでは判明している。


 けれど、詳しい位置に関しては、トライアングルと呼ばれる場所が原因だとクリフトンが説明した。


 ある一点の地点から三角形の結んだ中心の海域をトライアングルと呼んでいる。


 そこは電波障害などが起こりやすく、常に荒れ狂っていると言われている場所だ。アポストルスの最後の信号はその近辺で消失する。



「その海域は普通の航海はできない。探査などそう易々とできる海域ではないんだ。だが、その付近にフィーニスコアが居るのは確かだろう」


「グラナートたちがこちらに戻ってくれば、彼らの記憶や機体情報を解析することで詳細が分かる可能性があるってわけだ」



 慎重に、けれど確実に勝負を挑むならば、グラナートたちの救出は優先される。まだアポストルスの襲撃の数が少ないうちに。


 現在、襲撃されている国はトライアングルから近い土地が多いというのも、そこに潜伏している可能性を示唆しているのだと言われる。


 アルフィルクは難しいことは分からないが、クリフトンたちが言いたいことは理解した。



「襲撃してくるアポストルスたちを倒して土地を守りつつ、情報を集めてグラナートを救出する。これが今、やるべきことだろ」


「話が早くて助かる。これから負担がどんどん増えるだろうが、今はゆっくり休んでほしい」



 クリフトンなりの気遣いなのだろう。アルフィルクはいつ出撃するかも分からない状況で休むことなど、殆どできないとは思ったが口には出さなかった。



「つーことで、ザフィーアをよろしく頼むよ、王子」


「王子は余計だ」



 アルフィルクはじろっと睨むがタツノリには効いていない。そんな怖い顔するなよと言うだけだ。


 はぁと溜息を露骨について見せてから、アルフィルクは操舵室を出ようと扉を開ける。



「ポラリスのこともよろしくね、アルフィルク」


「あぁ」



 世話になっているのは俺のほうだけどな。アルフィルクは苦く笑った。返事をしておいてそれはないのではないかと思って。


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