第20話 向き合おう、彼らと
巨大空母艦オリジンビリーブへと戻ったザフィーアは機器に繋がれ、研究員と整備員に囲まれた。損傷が軽微とはいえ、修復しないでいいわけではない。
整備員たちは目視できる箇所だけでなく、研究員たちから指示された部分も修理するためにあちこちと忙しなく動く。
それが落ち着くまでアルフィルクは何も言わず、ザフィーアの足元に座っていた。
整備が終わる頃にはもう日は沈んでいる時間になっていたが、アルフィルクはそれでも自室には戻らない。
そんな様子を不思議そうにしながらも、ポラリスは傍に座っている。
『どうしたのだ、アルフィルク』
全ての機体チェックが完了したザフィーアが見下ろす。そんな彼を見上げながらアルフィルクは立ち上がった。
整備員と研究員たちが戻っていき、静かになった格納庫にはアルフィルクとポラリスしかいない。
今ならば、誰にも邪魔されることも、茶々を入れられることもないだろう。
「お前にも誰かを想う心はあるのか」
アルフィルクの問いにポラリスは目を瞬かせる。彼女の反応など、アルフィルクは気に留めない。ただ、ザフィーアを見つめる。
その真っ直ぐに向けられる視線に、ザフィーアは「この星の人間と同じものかは判断できない」と、前置きをしてから答えた。
『私は機械生命体だ。自我というものが自分にはあり、それを心と位置付けるのであれば、似たようなものはある』
アルフィルクの命の灯火を、ポラリスの優しさを、怒りや悲しみを感じる心は存在する。
ザフィーアは「今も二人を心配している」と胸に手を当てた。
『それに私は弟であるグラナートを助けたい。苦しんでいるだろう彼を救いたいのだ、また共にいたいと。これは君の言う誰かを想う心ではないのか』
ザフィーアの言葉にアルフィルクは黙って頷いた。それは投げかけた問いへの答えで間違いがない。彼にも心はあるのだ、自分と同じ。
だが、母であるオリジンビリーブの故郷をザフィーアは知らない。彼らの弔いでもあるフィーニスコアとの戦いに、彼は何を思って身を投じているのだろうか。
アルフィルクの疑問に、ザフィーアは「確かに私は母の故郷を知らない」と認めた。けれど、彼女たちの覚悟を知っていると話す。
『母がその命を使うと覚悟を決めたのだ。その覚悟を感じた私に逃げるようなことはできない。私には戦う理由はある、グラナートを救いたいのだ』
慕う母が覚悟を決めているというのに、自分が逃げるなど、そんな弱さを私は持ち合わせていない。
ザフィーアの力強く発せられる声に、アルフィルクは自分の意思を貫く心を感じ取る。
それは彼の正義感でもあり、母を慕う優しさでもあった。その姿は雄々しく空を駆ける隼のようで。
『アルフィルクよ。ミソロジアを疑うことも、戦いに巻き込んだ私を恨むのも、全てを受け入れよう。それはこの星の人間として当然の感情だ。けれど、どうか力を貸してほしい』
ザフィーアは膝をついて願った、頭を下げて。ポラリスが声をかけようとしてやめるのが視界の端に映って、アルフィルクは息を吐き出した。
自分の弱さを砕くようにぎゅっと拳を握り締める。ザフィーアを見つめる眼に光が灯った。
「やってやるよ」
オリジンビリーブも、ザフィーアも、この星の生命とは違う形をしている。
どんな生き物とも違って、それは恐怖を抱く存在にも見えるだろう。けれど、誰かを想う心に人間も機械生命体も関係はなかった。
復讐心を認め、それでも故郷の友を弔いたいと、惨劇を繰り返したくないと覚悟を決めて。
母の命を使う覚悟に己の正義を貫き、疑われようとも恨まれようとも構わず、弟を救いたいと願い。
それは人間と同じ心だ。彼らと話して、問いの答えを聞いて、心を感じてしまっては偽物などとは言えなかった。
アルフィルクはそれに気づいて、膝をつくザフィーアの折りたたまれた白銀の翼を撫でる。
目を背けてはいけないのだ、現実から、彼らから。アルフィルクは覚悟を決めた、形は違えど同じ心を持つ彼らと向き合うと。
それがたった一言に籠められていた。返事など要らない、そう言うように。
だから、ザフィーアもポラリスも言葉にしなかった。




