第19話 敵機を撃墜し、彼を想う
ザフィーアがレーヴェシメーレンの腹部を蹴飛ばすも、相手は脚に力を籠めて姿勢を維持する。
距離を取るためにザフィーアを後ろへと下がらせながら、アルフィルクは小型パネルに指を滑らせた。
レーヴェシメーレンは雄叫びを上げながら鉤爪で攻撃を仕掛けてくる。ザフィーアがそれを槍で弾きながら、隙をついて空いている右手で相手の顔を殴った。
獅子の顔に傷をつけるも、深手とはいかない。レーヴェシメーレンは倒れることなく、鉤爪を振りかざす。
アルフィルクは相手の動きを見切り、操縦桿を切り返した。瞬間、ザフィーアが姿勢を低くし、槍先がレーヴェシメーレンの左肩を貫く。
ばちりと火花が散った。ぐらりと身体が揺れて、レーヴェシメーレンがのけぞる。そのまま、ザフィーアは回転し、槍で脇を殴り飛ばす。
アルフィルクの操作がザフィーアの動きを加速させる。相手の一手一手を躱し、確実にダメージを与えていく。
レーヴェシメーレンの振り上げられた鉤爪が頬を掠める。ザフィーアは怯むことなく、拳を向けた。
ザフィーアの背後から第一戦隊のエクエス機たちの銃撃がレーヴェシメーレンを襲う。けれど、その数は少ない。
「第一戦隊隊長より、第一戦隊Aチームを残し、B,Cチームを第三戦隊の加勢に向かわせたという報告あり」
ポラリスの「総司令官から許可が下りたみたい」という報告に、クリフトンから見ても第三戦隊の戦況は悪かったようだ。アポストルスのリーダー機と通常機を同時に相手をするのは避けたいのだろう。
ザフィーアはリーダー機に注力してもらうほうが良いという判断がでたということだ。
アルフィルクは「それはよかったな」と返事を返して――ザフィーアを素早くしゃがませた。
足払いをし、レーヴェシメーレンが膝から崩れ落ちる下から拳を振り上げて、顎に入れ、地面へと倒す。鈍い金属音を鳴らして、傷ついた左肩が破損した。
起き上がろうとするレーヴェシメーレンは、エクエス機の援護により負傷した左肩を狙い撃ちされて身体を転がす。
黒いスマートなフォルムのエクエス機、隊長であるスーザリオの射撃にアルフィルクは彼の作った隙を使い、ザフィーアがレーヴェシメーレンに馬乗りになる。
大鷲の翼を掴んで引っ張りながら押さえつけ、左手に構えた槍を手早く持ち直す。槍先の根元を掴み、勢いよくレーヴェシメーレンの継ぎ接ぎにされた首根に突き刺した。
返り血のような火花が散って、悲鳴が上がる。もだえる相手を押さえつけながらザフィーアの腕に力を籠め、一気に抉った。
継ぎ接ぎにされた頭部と胴体が二つに分かれて、僅かに繋がった箇所を引き千切っる。頭を放り投げれば、レーヴェシメーレンの動きは止まった、静かに。
【アポストルス レーヴェシメーレン
リーダー機 生命反応無し】
視界モニターに表示される生命反応無しという文字にアルフィルクはふっと息を吐いて、第二、第三戦隊の戦況をポラリスに聞く。
それにポラリスが「第二戦隊はアポストルスの撃破に成功」と答えて、アルフィルクは問題となった第三戦隊が交戦している位置を視界モニターで確認した。
ザフィーアの白翼のマントをはためかせて現場へと向かう。アポストルスとはいえ、通常個体。多勢の連携に翻弄されたようで、虫の息だ。
合流した第二戦隊の包囲から逃れることができず、第一戦隊B,Cチームと第三戦隊のチームワークでアポストルスは機能を停止させた。
「倒した、か……」
アルフィルクは現場にいるエクエス機たちを数える。今回は一機も欠けることなく、アポストルスの撃墜及び撤退させることに成功しているようだ。
複数機のエクエス機が負傷してはいるが、パイロットは無事である。それにアルフィルクは安堵した。
少しばかり荒くなりかけた呼吸が落ち着いていく。気持ち悪さも治まって、アルフィルクは力を抜き、コックピットの背もたれに身体を預ける。
『こちら、オリジン。オペレーター・KR、周辺の索敵により安全が確認されました。全ての敵機は撃墜及び撤退しています。ザフィーアは第一戦隊と共に母艦オリジンビリーブへ帰還。第二、第三戦隊はリーダー機の機体回収を――』
通信から指示が聞こえる。ザフィーアの索敵機能でも周辺に敵機は見つかっていない。此処の安全は確保されているのだ。
アルフィルクは「ザフィーアはどうだ」と、ポラリスに問う。
「ザフィーアの調律は良好。調律値は72%を維持して、稼働率も68%と問題ない数値。機体損傷は軽微、シールド耐久値もそこまで削れていないから、ザフィーアは無事よ」
これなら自立モードで帰還しても問題はない。ポラリスの返答にアルフィルクは「なら、お前に任せるか」と、ザフィーアに声をかけて、目を瞬かせる。
ザフィーアの視線が上空を向いていた。何かいるのかとアルフィルクも見るも、視認できない。
ふと、グラナートの撤退していった方向であるのに気づく。
『グラナート……』
ぽつりと呟かれた言葉。それはザフィーアの悲しみが籠められていた。アルフィルクは声をかけられない。そんな想いが伝わってきて。
暫くの間。ザフィーアの視線がゆっくりと空から逸らされる。それから、彼は『帰還して問題ないのか?』と、何でもないふうにアルフィルクに声をかけてきた。
気遣いなのか。それはアルフィルクには分からなかったけれど、ザフィーアが何も言わないのであれば、問うことはしない。
だから、「さっさと帰るぞ」と、返事を返した。




