Rb.8 零と三奇の作戦
「………はっ?」
零の攻撃で前方の鎧が壊れ地面に落ちた事にイロカは驚きを隠せず固まる。零はその隙を逃さず、剣を籠手に変えてイロカの右頬を全力で殴った。
「っっ!!」
防御力が著しく下がったイロカは体勢を整えようとするも、背後に誰かが通り背中を守る鎧も壊される。
「はぁっ!?」
さらに防御力は下がり、イロカは一瞬頭が真っ白になる。しかし冷静を取り戻し、イロカは状況整理に頭を使う。ふと零の姿を見ると、服の一部が破れている事に気づく。
「ちっ、そういう事かよ!卑怯な手使いやがって!」
少し時間は遡り………イロカと二菜達が戦っている間、三奇はイロカと距離を置いて気のそばに零を下ろし、背中をさすっていた。
「ひゅーー…ひゅーー………」
【零、本当に大丈夫!?】
顔も青ざめ、明らかに正常じゃない状態の零に、三奇は慌てながらもホワイトボードを零に見せる。それから少し時間が経過し、零は少しづつ回復する。
「はぁ、はぁ、」
(まずいな…とても気分が悪い……脳と腹の中で虫が暴れまわっているような感覚だ………でも、視界は開けてきた………)
【零、この耳が見える?】
三奇は不安な顔をしながらボードを零に見せ、波のように揺れている自身の耳に指を指す。
「あ、あぁ、見え……いや、なんで耳…?しかもどういう原理で揺れているんだ……?」
【良かったぁ…!ちゃんと見えてる……!】
三奇は安心したのか、揺れた耳をピンッ!と伸ばす。
(聞いてない……………それより、どうしてこんな森の奥に……って、そうか、三奇が運んでくれたのか。)
「ありがとう、助かった……」
【気にしないで!体調は大丈夫?】
「回復はしている。でも、まだ戦いには出られないな…」
【今、力斗と二菜と四炉と正哉が時間を稼いでいるから、まだ休んでいていいよ!】
「ありがとう。」
零はイロカが使っていた魔法について思考を巡らせる。
(イロカの命令に従わなければならないという魔法、なぜか僕だけ効果が薄かったのは後で考えるとして、どう対策を取るべきか……耳を塞げば命令を聞かずに戦えることはできるが、イロカが魔法を使わずに命令する場合もある。それに、いちいち耳を塞いでしまうと、攻撃ができなくなってしまう。どうしたものか………)
【イロカの魔法について考えてるの?】
「うん。どう対策すればいいのかなって。」
零は三奇のボードを見ると同時に、その奥にあったちぎれた植物を見てひらめく。
「なるほど、こうすればいいのか!」
【……………えっ?】
零は武器石を剣に変え、袖を斬った。
【えぇっ!?零!何してるの!?】
「服の一部を耳栓代わりにすれば、イロカの命令を聞かずに戦える!」
【……確かに!】
零は袖を適当な大きさに斬り、丸めて耳の中に入れようとする。
【待って!耳栓をしたまま戦うとイロカの命令だけじゃなく私達の声も聞けないから、なにか攻撃の合図を決めた方がいいんじゃないかな?】
「確かにそうか。片目を瞑った時、追撃を入れてという合図にする、とか?」
【そうそうそんな感じ!早く決めちゃお!】
零と三奇が作戦を話し始めて五、六分後、遠くから二菜達の悲鳴が響く。
「っ!」
【今の……!】
「かなりまずいみたいだな……俺が先に行くから、三奇は準備して!」
【了解!】
そして今に至る。
「でも、貴方達が何をしようと、四人より二人の方が圧倒的に弱い!そんな事をしてもあたしに勝てない事、わからせてやるわ!!!」
イロカはチャクラムを持ち直して叫ぶ。
(何か叫んでいる……ってことは、気づかれたか。まぁ、だからと言ってやることは変わらないけどね!)
零は何も言わずに籠手を剣に変え、イロカへ向かう。イロカは姿を消し、零の周りを囲むように走る。
(逃げ場をなくされたか。)
零が状況を確認している間に、イロカとチャクラムが何度も零を攻撃する。イロカの攻撃により作られた円の外にいる三奇が攻撃をするも、チャクラムで防がれ、ただ一方的にイロカが攻撃する状況となってしまった。
「うぅ………っ……………!」
「ほらほらぁ!痛いでしょう?辛いでしょう!?そんなつまらない事をしたって、あたしには勝てないのよ!!」
(こうなったら……………!!)
「創作…魔法……上昇気流……!!」
零は足元に魔法陣を出し、イロカを自分ごと真上に吹き飛ばす。
「っ!?」
紫色の血まみれの零は空中で剣をハンマーに変え、大きく振り回す。
「ちぃっっ…!!」
イロカはハンマーを受けると同時にチャクラムを投げ、零の横腹を斬る。
「うあぁぁぁ!!!」
零の悲鳴が響き、五人は上を向く。
「零っ!!」
零の耳から耳栓が落ちるのを見逃さなかったイロカはニヤリと笑い、投げたチャクラムを手元に戻す。
「落としたわね!耳栓を!!」
イロカは口を大きく開ける。
動 く な
零は体の自由が利かなくなり、イロカはチャクラムを零の心臓に向けて投げる。しかしチャクラムは空を切り、零の姿は消えた。
「……あぁ、そういえばもう一人いたわね。こざかしい真似をする小娘が…………!」
イロカは零を抱きかかえた三奇を睨みながら着地する。
「はぁ、はぁ、助かった。」
三奇は零の感謝の声が聞こえたのか小さくうなずく。零は息が切れており、ハンマーを本来の武器石の姿に戻す。
「そろそろ、限界じゃないの?傷だらけで、息切れもしてて、使い慣れていない魔法を使って……体が、悲鳴をあげているんじゃないかしら?」
「ははっ…………言うな……………」
(実際、立っているのがやっとなくらい痛いからな………)
イロカはチャクラムについた紫色の血を見て何かに気付き、口を開く。
「……………ねぇ、貴方、もしかして有栖川 零?」
「どうして俺の名前を……………」
零が頭上に「?」を浮かべながら返答をした途端、イロカはチャクラムについた零の血を舐めた。
「「っ!!??」」
イロカが突然見せた奇妙な行動に全員は恐愕し、零の背筋が凍る。
「はっっ……?い、今、舐めた、よな……………?」
「あぁ、零の血を舐めたね。」
「く、狂ってる………!!」
「はぁぁ…………これが、零君の味…………!!」
イロカは零の顔を見ながら恍惚の表情をしている。
「これが…………これがあれば、あたしもあのお方みたいに…………!!!」
「人の血を啜るなど正気の沙汰じゃない…………それがどれほど身を蝕むかも知らずに。そこまで堕ちたか……もはや貴様を人間とは呼べない…………!!」
「あははっっあっっっははははははははははははは!!!!!!」
イロカは零の血を舐めきり、喜びが隠せないまま高らかに笑う。
「これ…これよぉ!!あたしが求めていたもの!!!もっと、もっともっともっともっとあたしにちょうだぁい!!」
イロカは上機嫌に襲い掛かる。三奇がイロカの攻撃を防ぎ、零を守る。
「怖えな…本当に人間とは思えない。」
「ねぇ、なんだか、色が変わってない?」
「色?なんのだ?」
「目とか、髪とか…」
二菜の言葉に、力斗と四炉と正哉はイロカの姿を見る。イロカは髪も一部が紫色になり、瞳が紫色に、目から紫色の涙が出ていた。
「あれ、もしかしなくてもやべぇ感じか?」
「もしかしなくてもやばいわね…」
二菜の言う通り、イロカの攻撃の速度は明らかに上がっていた。零や三奇を攻撃するだけでなく、辺りにある草や木など、無差別に斬り続けていた。
「っっっ!!!防御魔法 エリアシールド!!!!」
二菜は杖を上に上げて大声で唱え、零と三奇、そして二菜たちの周りに盾の模様がついた結界を張る。次の瞬間、刃をはじく音が四方八方から響いた。
「うるっさぁ……!!」
鼓膜が破れんばかりの騒音に、三奇以外の五人は耳を塞ぐ。攻撃が止むと同時に結界がはがれると、イロカは笑顔のまま零を見ていた。零が武器石を剣に変え、攻撃の構えをすると、三奇が零の裾を引っ張り、合図をする。
「っ!わかった。」
零が頷くと、二人は左右に分かれて走り出した。
「あらぁ?挟み撃ちのつもりかしらぁ?そんなの、あたしには通用しないのよ!!」
イロカはチャクラムを真横に投げる。するとチャクラムはイロカの手元に戻らず、零と三奇を追いかけ始めた。力斗と正哉は何も持っていないイロカに向かって走る。しかしイロカは高く飛び、二人と距離をとる。
「チャクラムがまだ帰ってこないなんて…かなり遠くに離れたわねぇ……何のつもりかしら?」
「剣技 半月斬り!!」
所々包帯が巻かれた力斗は大剣を半円を描くように大きく振り上げ、真上に斬撃を出す。斬撃がイロカに向かう中、片方の血が付いたチャクラムが右手に戻り、相殺しようと右腕を振る。斬撃はイロカの攻撃を受けてもなお消えず、直進し、イロカの脚に命中する。
「いった!」
「よっし!くらったな!!」
「…………?」
正哉はイロカの傷を見て違和感を覚えた。
「この人、まさか……」
「ん?どうかしたのか?」
「力斗、イロカの骨を折ってほしい。」
「別にいいが、急にどうしたんだよ?」
「いやな予感がするんだ。僕の予想が正しければ、彼女はかなり厄介な相手だ。」
「いや、もうすでに厄介だろ。」
「あの事が本当だとすれば、イロカはもっと厄介な人になる。」
「何が何だかわかんねえが、任せろ!」
「………………………………」
イロカは正哉の言葉に少し反応する。その間、背後からは三奇の姿が、真上からは小さな隕石が、左右からは魔法と零が挟み撃ちのように攻撃をしようとしていた。しかしイロカは急降下し、攻撃をすべて避ける。
「急降下!?重くもねぇのにあいつどうやって………………」
力斗は着地したイロカに突進するが、イロカは力斗を軽く飛び越え、正哉に向かう。
「くっ!!」
正哉はカウンターの構えをすると同時に、イロカの真横から岩石がイロカに向かって直進していた。イロカは飛んできた岩石を素手で破壊し、左手にチャクラムが戻ろうとする。その動きを狙ったのか、三奇がイロカの左腕を蹴り上げる。それにより左手が上に上がり、チャクラムは回転したままイロカを攻撃しようとする。
「ちぃっ!」
イロカはわずかに前へ動き、チャクラムはイロカの背中を斬った。その直後、力斗はイロカの背後まで来ていた。
「あっらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
力斗は叫び、イロカの顔を右手で力強く殴った。するとイロカの顔が回転し、首の骨がボキッ!と音を鳴らして折れる。
「えっ!?ちょっ!!力斗、やりすぎだって!!!」
「だ、だがよ、正哉が骨を折れって……」
イロカの首の骨が折れ、回り続ける中、零はその光景を見て目を丸くする。
「えっ!?ど、どういう状況…!?」
「力斗がイロカの顔を全力で殴った。」
「こ、これだとさすがに死んじゃうのでは……」
「いや、死なないと思うよ。」
「…………えぇっ?」
イロカは両腕を上げ、コマのように回転する頭を両手で止めた。その瞬間、千切れたはずの頭と首の間の皮と肉がくっつき、元通りとなった。
「…………はっ?」
「い、今、頭と首が、くっついた……………!?」
「やはり、そうか……………!!!」
「あ~あ、バレちゃった。」
「まじかよ…………!?」
突然の出来事に、五人は驚きのあまり呆然とする。
「ど、どういう事だよ!?お前、人間じゃねぇのか!?」
「ん~?いやいや、あたしは元人間よ?そもそも考えてみなさいよ。一人の女性がこんな森の奥に十年も生きていられるのかしら?」
「理論上は可能だけど、かなり難しいな…………」
「…………………………………………っ!?もしかして…イロカ、あなた…!!!」
「気づいたようだね。」
「普通の人間には難しい事を、あたしはある事をして簡単にしたのよ。それが、」
イロカはチャクラムを持ったまま両手を下ろし、不敵な笑みを浮かべて言った。
「魔族になる事、なのよ。」
Rb.5を少し編集し、三奇の耳に動きをつけました。
次の話は4月17日に投稿予定です。




