Rb.7 言霊魔法
両手にチャクラムを持った女性は飛びながら四炉に向けて刃物を振り下ろす。
「四炉っっ!!!」
刃物が四炉に当たる直前、零が四炉の腕をつかんで引っ張り、剣でチャクラムを受け止める。
「あっぶねぇ…!」
「あら残念。斬れると思っていたのに。」
女性は着地して数メートル後退し、紫色の液体を振り払う。女性の服装はついさっき会った観光客のような服とは一変し、紫色の模様が入った鉄鎧を身に着けていた。
「やっぱり、お前がイロカ・ヴァレだったのか。なぜそんな事をする?」
零は剣を持ち直し、威嚇するように言う。それに対し、女性は笑顔で首をかしげる。
「そんな事?どんな事?」
「なぜ一般人に変装し、奇襲を仕掛けた?なぜ正面から戦わずに卑怯な手を使った?」
「だって、そっちのほうが早く楽に殺せるじゃん。卑怯な手を使ったとしても勝ちは勝ち。そうでしょ?貴方の言う通り、あたしはリベルタージュの元騎士団長イロカ・ヴァレ。23年前、通りすがりの魔法使いに閉じ込められたかわいそうな人よ。」
「たくさん人を殺しておいて自分をかわいそうな人と言うとは、随分ふざけた人だね。」
「でもそうでしょ?十分な食料があるかどうかわからない真っ暗な場所で23年間閉じ込められるなんて、生き地獄だとは思わない?あたし、とっても寂しかったのよ?でも今日、結界が壊されてやっと外に出られると思ったら、貴方達にゆく先を阻またのよ。はぁ、本当に残念。」
(この人……自分から戻ってきておいて何を言っているんだ………)
森の中で20年以上過ごしたとは思えない程若々しい見た目のイロカは右頬に右手を当ててため息をつく中、力斗は剣を持って言う。
「なぁ、お前、なぜ人を殺したんだ?いくらリベラ王の考えに反対したいとは言え、罪のない人を殺すのは御法度だろ。」
「あぁ、あの事かしら?あの時、あたしは革命を起こそうと思ってやりたくもない事をやったのにこの仕打ちなんて、あんまりだわぁ…」
「被害者面かよ。革命だぁ?リベラ王の何がだめなんだ?」
「ふぅん、何がだめかって、あの人、魔法も武器石も使えないのよ。そのくせに、王になりやがって、すっっっっっごく腹が立つのよ。筋肉以外なんも持っていないくせに…!元々はただの一般人だったくせに…!!あたしより上の立場になりやがって……!!!」
イロカは爪を噛んで怒号する。
「むかつくのよ!!!!大した才能もないくせに、下民だったあいつが!!!貴族のあたしを指揮しやがって!!!!!あいつが王になるなんて心底嫌だったのよ!!!!!」
「元々はただの一般人……?二菜、それは本当なのか…?」
「いいえ、リベラ王は元々貴族のはずよ。でもご先祖様がリベルタージュを滅茶苦茶にした張本人だったらしくて…治安をよくしてもなお酷い扱いを受けていたらしいの。」
「それで、イロカは一般人だと勘違いしているって事か。」
「うーん、どんな事をされても貴族は貴族だから、一般人と間違えるなんて事はないはずなのだけれど……」
(じゃ、ただの思い込みか。面倒な人だな……)
イロカははっとして叫び声を止める。
「はぁ、ごめんなさいね。あたしったらつい熱くなっちゃって。まぁとにかく、あたしはあいつが王と認めないから革命を起こしたの。それで話はおしまい?」
「なるほどな…」
「いかなる理由も言い訳にはならぬ!その手に宿した 死の記憶 は永劫に消えぬのだからな!!罪人イロカヴァレよ、覚悟しろ!選ばれた数字の名において、今この場で貴様の罪に終止符を打ってやる!!」
眼帯に付いていた魔法陣の形の武器石の姿を杖に変え、四炉は決めポーズをとる。
「ふぅん、選ばれた数字、ねぇ………じゃあ、殺ってみろよ!!!!」
イロカは叫び、零達に向かって走る。
(円形の武器、チャクラムか…リーチは短剣と同じか、それより短い…どのくらいであろうと、カウンターをすれば…!)
零がイロカの攻撃を剣で受け止めた直後、イロカが口を開く。
動 く な
その言葉を六人が聞いた途端、六人の体が固まる。
「はっ…………?」
「体が、動かない……!?」
イロカは動けなくなった零を蹴飛ばした。
「~~~~~~~~~っっ!!!!」
イロカの足が零の腹に直撃し、約5メートル遠くに吹き飛ばされる。
(何が起きた!?イロカの声を聴いた瞬間、体の自由が利かなくなった!?)
声を聴いて2秒後、零の体が動いた。
(いってぇ…でも体が動く。なんの魔法だ……?)
零は走る。イロカはまだ動けない二菜を攻撃しようとする。
「っ!」
「二菜っ!」
チャクラムが二菜に当たる寸前で零は二菜を押し出し、イロカの攻撃を防ごうとしたが、チャクラムが零の腕を斬った。
「痛っ…!」
「零っ!」
「あらっ?もう動けるの?おかしいわねぇ。本来なら今頃動けるはずなのに。」
傷は浅いが、傷口から血液が流れ出る。しかし次の瞬間、赤色の血液が次第に紫色へと変わる。
「なっ!?俺の血が、紫に…!?」
「あぁそれ?色が変わるだけで別に害はないわよ。どうしてかわからないけれど、あたしが斬った生き物の血はみーんな紫色になるの。紫色のこの道も、あたしがここで生き物を狩った事でできた道なのよ?それにしても変な子…顔はかわいいのに、あたしの思い通りに動いてくれなくて全っ然かわいくないわ。」
「っ!?」
イロカの言葉に零の何かの記憶がフラッシュバックする。
「かわいい……かわいいね、君…………!」
「うん、十分かわいいよ…………!!だから、君はずっとそのままでいてね…?」
脳内に流れた大人の声に、零は剣を落とし、呼吸が浅くなる。
「…っ、は…………ぁ……は…………!?」
「零!?どうしたの!?大丈夫!?」
「おい!呼吸が浅くなってるぞ!しっかりしろ!!」
零は膝から崩れ落ち、口を押える。
「うぅっ………お、おぇ……………」
そして、零は嘔吐した。
「っ!!??零!!!」
【何がどうなってるの!?零!突然どうしたの!?】
「…………あぁ、なるほど、ねぇ。」
イロカはなぜこうなったのか理解し、零の耳元に口を近づける。
「かわいい、かわいいよ、あなた、十分かわいいわ。本当に、かわいいっ。かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい」
そしてイロカはかわいいと言い続け、零の呼吸がさらに浅くなり、手が震え、視界がチカチカする。
「てめぇいい加減にしろよ!!」
力斗は大剣を振り回し、イロカを退けさせる。三奇は零を抱きかかえ、イロカと距離を置く。
「三奇、零を頼んだわ!」
二菜の言葉に三奇は「任せて!」と言わんばかりのポーズをとり、さらに距離をとる。
「てめぇ、それでも人間かよ。零が苦しむさまを楽しみやがって。人の心とかねぇのかよ!!!」
「はぁぁ?何言ってるの?あたしは敵が不利になるようなことをしているだけに過ぎないわ。貴方だって、敵が弱点をあらわにしていたら容赦なくそこを攻撃するでしょう?」
「それでも、限度ってもんがあるだろうがっ!!!!」
動 く な
力斗は怒りに身を任せ、イロカに近づくが、イロカの声が響き、四人の動きが止まる。イロカは力斗を零と同じように蹴飛ばしたが、零とは違って1メートル程しか飛ばされなかった。
「くっ………!」
「あら、貴方思っていたより重いのね。なら、何度だって傷つけてやるわ!!」
イロカが叫んだ直後、イロカの真後ろに一つの風の刃が近づく。イロカはそれに気づき、チャクラムを方の高さまで上げて振り回しながら後ろを振り向く。風の刃はチャクラムに当たる瞬間、避けるように動き、イロカに近づく。
「っ!?」
風の刃がイロカの肩に命中した。
「な、何!?今の…魔法が攻撃を避けた…!?」
「今の攻撃、二菜がやったのかい?」
「いいえ、私じゃないわ。だから、四炉ね。」
四人は動けるようになると、決めポーズをした四炉に顔を向ける。
「肉体の自由を封じたところで、心と意志で紡ぐ我が魔法は止まらぬ!罪人イロカ・ヴァレよ、貴様の弱点を見抜いたぞ!!我が魔法に呑まれ、そのまま朽ちるがいい!!」
「…………へぇ、その程度であたしに勝てるとでも思ってんの?」
「勝機をつかんだ瞬間、人は迷いを捨てる……自信とは、意識せずとも湧き上がるもの……それが 勝者の在り方 だろう?」
「……変なの。じゃ、その勝機、今すぐ壊してあげる!!!」
「あの人、どうして四炉の言っている事がわかるの…?」
「フィーリングじゃないかな。」
イロカがチャクラムを持ち直す中、二菜と正哉が小声で話す。
「防御魔法 シールド!!」
二菜は力斗、四炉、正哉に触れ、魔法を唱え、自身を含む四人にシールドを出す。
「ここに来る前からすでにシールドは張っていたけれど、今度は、より防御を固めないとね!防御魔法 硬化!!」
二菜はさらに防御魔法を重ね、力斗は大剣をもって振り下ろす構えをとる。
「厄介なパーティーねぇ…攻防全部そろっているなんて…ま、攻撃ができなければ、意味はないんだけれど!!」
攻 撃 す る な
イロカは命令すると、力斗の腕が止まり、大剣を振り下ろすことができなくなった。
「なっ!?そんなのもありなのかよ!?」
「別に、使える言葉が 動くな だけとは言っていないもの。」
イロカは高く飛び、両手に持ったチャクラムで上から力斗を十字に斬る。二菜の防御魔法のおかげか、力斗の鎧に傷はつかなかった。
「かったいわねぇ…」
イロカは力斗の顔を斬ろうとするも、大剣で攻撃を防がれる。
「あっぶねぇな…!」
「剣技 クロスロード!」
イロカが攻撃する間に正哉はイロカの背後に回り、十字に斬ろうとする。しかしイロカは力斗の鎧を足場に高く飛び、正哉の攻撃を避ける。その直後、イロカの前後から風の刃が挟み撃ちのように迫る。
「ちっ…」
イロカはチャクラムを縦に振り回し、片方の風の刃を消したが、もう片方は再びイロカの攻撃を避けて体に命中する。
「下民のくせに、小癪な………!!」
「四炉の魔法、イロカの攻撃を避けるなんてすごいわね……魔法の操作は得意なの?」
「幼き頃より魔法の深淵に魅せられ、束縛なき遊戯の中で力を弄んできた……その果てに、我は魔法を自在に操る術を手に入れたのだ。」
「えぇ、と…………つまり、子供の頃から魔法で遊んでいたら、自然と操作できるようになったって、事?」
「そう捉えてくれてもかまわない。」
「あぁ、だからそんなに上手く魔法を操れるわけね…………」
二菜と四炉が会話していると、イロカの瞳に少し紫色が入り、髪に紫色のメッシュが入る。
「面倒なことをしやがって……こうなったら……!」
動 く な
イロカが口を開く。それに合わせて、正哉と二菜が耳を塞ぐ。すると力斗と四炉だけが動けなくなっていた。
「やぱり…………!」
「思った通りだ!」
「ちっ……気づかれたか…………!」
「えっ!?なんで二菜と正哉は動けるんだ!?」
「イロカの命令は一つの魔法だ!聞いたことのない魔法だけど、彼女の命令を聞いてはだめなんだ!」
「イロカが命令をする前に耳を塞げば魔法は聞かないのだけれど、その分、力斗と正哉と三奇は攻撃が難しくなるのよね…………」
「あたしの言霊魔法の仕組みが分かったところで、意味なんてないわよ!!」
イロカは口を開いたまま命令する。
動 く な
イロカの声に反応して二菜と正哉は耳を塞いだが、何も起きなかった。イロカは四人にできた隙をついてチャクラムで斬りながら進む。
「いっ…たぁ……!!」
「ブラフか……………!!」
「勝機が見えたからって、調子に乗るんじゃないわよ!!」
イロカは狂ったようにチャクラムを振り回し、四人をさらに斬りつける。
「い゛っ………!!」
「くそっ…!」
「まずい…!」
体や顔を傷つけられ、あちこちに痛みが走る。四人が動けるようになっても、イロカは休む事なく攻撃を続ける。
「あっはははははははははははははははははは!!!!!!!!!さぁ、耐えてみなさいよ!!!この 円月輪の円舞曲 からぁ!!!」
イロカは笑いながら攻撃を続ける。四人が逃げられないよう円を作って風のように走り、誰これかまわず斬り続ける。やがて、イロカが攻撃を止めるころには、四人はボロボロになり、所々が紫色に染まった。
「防御魔法を使っても、ここまでやられるなんて…………強すぎる……!!」
「まさか、ここまでだったとは…………」
「そりゃ当然よ。あたし、元でも騎士団長だもの。さぁて、誰から殺ろうかしら?」
イロカが紫色の血が付着したチャクラムを持ち直すと、真上から一人の少年がイロカに向かって剣を振り下ろす。イロカはそれに気づき、チャクラムで少年の攻撃を防ぐ。
「あらぁ?もう復活したのかしら?かわいいかわいい剣士君?」
イロカは優しい声で言うが、少年は反応せず、イロカを蹴飛ばす。
「っ!」
イロカは両腕で攻撃を受け止め、少し後ろに退く。
「もうトラウマを克服したの?面白くないわねぇ…」
「………………」
「零……?」
力斗、二菜、四炉、正哉はイロカとは少し距離を取り、回復に務めている。零は何も言わず着地し、右目を瞑りながら剣をかまえる。
「なんのつもりかしら?四人がかりであたしを殺せなかったんだから、残りの二人が頑張っても、あたしには勝てないのよ?」
零は何も言わずにじっとしている。まるで話を聞いていないかのような素振りにイロカは苛立ちを覚える。
「…………ねぇ、いい加減諦めたらどう?貴方達は、あたしに、絶対勝てないのよ!!そんな事もわからないのかしら!だからさっさとあたしに殺され」
イロカが話す途中、イロカの前に一人の女性が横切る。その瞬間、イロカの鎧が横一直線に斬られた。
「……はっ?」
イロカは今起きた事に動揺を隠せず、零は一瞬できた隙を見逃さず動き出す。
「ちっ……余計な事を…!」
イロカは口を大きく開けて命令する。
動 く な
しかし、零の動きは止まらず、右肩から左腰にかけて一直線に斬った。
次の話は4月13日に投稿予定です。




