Rb.6 結界の奥
『毒道の森』にて…………
「さて、昨日の勉強会のおかげで魔法や武器についていろいろ知れたし、今日はできる限り実践の練習をしておきたいな。」
「そうね。理論と実践は別だもの。ところで気になっていたのだけれど、零は魔法を作る時何をイメージしているの?」
「イメージ…………というより、理論的に考えて作っているな。二菜が前に使っていたメテオを真似しようと思った時、メテオはおそらく岩石の塊だから、それを集め、火をまとわせた状態で魔法陣から出す、と考えて魔法を唱えたんだ。」
「理論的に、ねぇ……その発想はなかったわ。魔法は言ってしまえばイメージすると出てくるから、すごく楽なのよ。だから理論的に考えて魔法を唱えるなんて一つも思わなかったわ。それが分かったなら、私にも魔法を作れるのかな?」
「できると思うよ。二菜は頭がいいんだし。」
「うーん……できるのかなぁ…………」
二菜が不安げな顔をした途端、左手に杖を持った。
「もしかして、魔物が現れた?」
「うん。探査に引っかかった。」
「いつの間にその魔法を使ってたんだ……?」
「魔法は無詠唱でも出せるからね。その代わり必要とする魔力量は多くなるけれど。」
零は腰に下げた武器石の姿を変え、右手に短剣を持つ。
「右前に二体、前に一体いるわ。まわりは草や木に囲まれて少し視界が悪いから気を付けて。」
「わかった。」
二菜は零に杖を当てる。
「防御魔法 シールド」
二菜が唱えると、零の周りに青色の盾が現れた。
「まずは手始めに!」
零は短剣を前に投げた。投げた短剣は何かに突き刺さり、魔物の悲鳴が響く。
「当たった!」
投げた短剣は零の手元に戻る。零は短剣を通常の剣の形に変えて前へ進む。するとそこに現れたのは武器を落とし、血だらけの右肩を左手でおさえているゴブリンだった。零は何も言わず、剣を縦に振り下ろし、ゴブリンを倒した。
「次は、右か。」
ゴブリンが断末魔をあげ、その声に反応して二体のゴブリンが近づく。
(二体の距離は近い。それなら!)
零は剣をハンマーに変え、ゴブリンに近づいて横に大きく振り回す。
「くーーーらーーーーーーえーーーーー!!!」
大きく振り回したハンマーはゴブリンに命中し、遠くへ吹き飛ばされた。
「おぉ……すごいね!もう武器石使いこなしているじゃん!さっすが~!」
二菜は拍手するが、ハンマーをもとの形に戻した零はふらふらしていた。
「目が、回る…………」
「あー……それは、何度もやって慣れないとね…………」
「そういえば、魔物って体が魔力でできているんだっけ?」
「そうよ。血液に魔力が含まれている私達とは違って、魔物は細胞や肉体、ほとんどが魔力でできているの。捉え方によっては、魔物は魔力そのものともいえるわね。」
「魔力そのもの…ってことは、魔力を多く持っていれば持っているほど回復は早いのか?」
「おそらくそうね。ついさっき倒したゴブリンは待っている魔力が少ないから、傷の治りが遅いの。」
「じゃあ、魔力を多く持つ魔法使いの魔物は傷の治りが早いのか…」
「私はまだそのような魔物を見たことがないからわからないけれど、恐らくそうだと思うわ。」
「それなら、魔物が回復するより早く倒せるような技や魔法を覚えておかないとな…………次は、魔法の練習だな。」
「そうね。がんばろっ!」
零と二菜はその後も多くの魔物と戦い、着々と実力を身に着けていった。
『毒道の森』を離れ、冒険者ギルドへ向かう途中……
「零。あなたの魔法、消費魔力量が多いから、魔力量回復ポーションを買っておいたほうがいいと思うわ。」
「たしかに、そうだな。後で買いに行くか。それに、どのようなものが売られているのか気になるしな。」
二人は冒険者ギルドに行き、依頼の報告をする。
「えぇと……お二人は、まだ依頼を受けていらっしゃらないのですが…………」
「「…………あっ。」」
受付嬢に指摘され、二人の顔が赤くなる。
「わ、忘れてた…………そうだった………まだ依頼受けていないんだった…………」
「やらかしてしまったな…………」
「あの、もしお二人が本当に魔物の討伐に向かったのであれば、倒した魔物の素材をこちらに売っていただければ、依頼を受けたことになりますが……」
「それなら、売っちゃおっか!」
「よかった……」
零と二菜は倒した魔物の素材を渡す。
「はい、確認しました。ではお二人は、魔物討伐依頼を受けたとして報酬をお渡しします。お疲れさまでした!」
受付嬢から報酬を受け取り、二人は近くにあるテーブルと椅子に座って休憩した。
「ふぅ…なんとかなってよかったぁ……」
「危うく報酬なしになるところだったな……」
零は冒険者カードを取り出し、書いている文を読み始める。
「…………ん?」
「零、どうかしたの?」
「二菜、『Rb』ってなんだ?」
「『Rb』?」
二菜は零の冒険者カードを見る。
「あれ?そこは本来『Lv』の文字が入っているはずなんだけれど…………」
二菜は少し考えて頭上に「!」を浮かべたような顔を見せる。
「そういえば、昨日行った図書館にあった選ばれた数字の歴史書に書いてあったわ!もしかして私も…」
二菜は急いで自身の冒険者カードを取り出し、じっくりと読み始める。
「やっぱり、私も『Rb』になってる……!」
「どういうことだ?」
「どうしてかはわからないけれど、選ばれた数字は皆、『Lv』の文字が『Rb』に変わっているの。まぁ、そもそもLvはその人の熟練度を表すものだけれど、全然あてにならないから無視をしていてもいいんだけれど……」
二菜は不安げな顔を見せる。
「選ばれた数字は、『神様の反逆者』って言われているの。それがどうしてなのかわからなくて…………」
「『神様の反逆者』?変わった言葉だな…ま、まだ気にすることじゃないだろ。LvだろうとRbだろうと、気にする必要のない事なら、ほっといてもいいんじゃないか?」
「うーん…そう、なのかなぁ…」
二人は冒険者カードをしまい、冒険者ギルドを出て店に寄り、ポーションを買った。
翌日……
「よし、今度こそ皆ちゃんと眠れたか?」
【ばっちり元気だよ!!!】
「深淵の眠りから解き放たれし今、我が身に揺らぎはない。刻は満ちた。我は常に戦場へ踏み出す覚悟がある!」
【快調だ。いつでも行けるよ!だって。】
「あぁ、大丈夫だよ。」
「そろそろ行こうぜ、早く元騎士団長を倒さねえとな。」
「それじゃ、しゅっぱーつ!!」
六人は宿を出て『毒道の森』へ向かった。
六人は『毒道の森』に入り、結界のある場所へ進むが、ある異変に気付く。
「なぁ、なんか静かじゃねえか?」
【そうかな?いつも通りだと思うんだけど……】
「昨日、二菜と魔物を倒しに行ったんだけど、倒しすぎたのかな?」
「この辺りには行っていないはずよ。でも、何かおかしいわ……探査が全く反応しない……」
六人が歩いていると、零は周りを見た。
「零、どうかしたの?」
「いや、視線を感じると思って…」
「視線?」
零は足を止め、それに続いて五人も足を止める。零は右手に剣を持ち、左にある草むらに向ける。
「そこにいるのは誰だ?」
一瞬、辺りが静けさに包まれる。
「あちゃぁ、バレちゃったかあ。うまく隠れたつもりだったんだけどなぁ。」
草むらの中から、少年のような声が響き、姿を現す。ゴーグル付きの帽子、機械や歯車のような詩集、装飾がついた茶色の長袖長ズボンとコートを着た幼い顔つきで目に星が入った子供は、「あちゃ~」と少し悔しがっているような顔をしている。
「よくボクがいるって気付いたね。さすがは選ばれた数字の『0』だ。」
【だ、誰!?】
「やぁやぁやぁやぁ、はじめまして!ボクは選ばれた数字の『13』、探検家の 十三 探也だよ。よろしくねっ!」
子供のような笑顔を見せる探也は帽子の鍔を少しつまんだ。
「十三 探也……もしかして、『知恵の数字』の『13』!?」
「おっ、よぉく知っているねぇ!そうそう、ボクは『知恵の数字』のリーダーだよ~!あ、童顔だからよく間違えられるんだけど、ボクは立派な大人だよ~!」
探也はそういって笑顔で両手の人差し指を両頬に当てる。
「『知恵の数字』ってなんだ?」
「『知恵の数字』は、悪事を働く人を成敗しながら世界中に散らばる謎を探し回っているパーティーの事ね。パーティー自体かなり謎に包まれているから、私が知っているのはここまでよ。」
「そのとーり!ボクらはあまり表に出ない、いわゆる影のヒーロー、と言っても、本業は謎を解決するほうなんだけどね~。成敗も楽しいんだけど、気になる事を調べるほうが楽しいかな!」
「成敗も、楽しい……?」
探也の言葉に零は頭上に「?」を浮かべる。
「選ばれた数字の『13』って事は、君も僕達の仲間なのかい?それなら、いまからこの先にある結界を壊して森の奥に住む人を倒そうと思うんだけど、一緒に行かないかい?」
「ん~?いやいや、ここはボクが出る時じゃないよ~。確かにボクは強いっちゃ強いと思うけど、ボクが君らに手を貸すのは、もー少し、先かなぁ~」
「それは、どういう事だい?」
「君らはリベラ王に頼まれてここに来たんでしょ?それなのに、無関係のボクが入るっていうのはなぁ~。ちょ~っと違うっていうかぁ……ここは君らが活躍する場所だから、部外者であるボクはあんまり長くいないほうがい~っていうかぁ……」
「部外者?僕達と同じ選ばれた数字なのにかい?」
「同じ選ばれた数字でも、出会ってすぐに仲間になるとは限らないからねぇ~。まぁ君らの邪魔はしないから、安心してい~よ~!そいじゃ!ボクは用があるから帰るね!じゃね!」
探也はそう言って姿を消した。
「なんていうか、変わったやつだったな。」
「そう?私は話しやすい雰囲気の人だったなって思ったよ?」
【面白い人だった!】
「少し、気になる事はあったけど、先に進もう。早くイロカ・ヴァレを倒しに行かないと。」
零は先に足を動かし、五人は零についていった。
数分後……
六人は結界にたどり着いた。
「ここね。リベラ王によると時間はかかるけれど結界を破る魔法を使えばここを通れるようになるみたいだから、少し待ってて。」
「じゃ、少し休憩だな。」
二菜は杖を持ち、触角のような髪をふよふよ浮かせる。一方、力斗は結界を触っていた。
「時間がかかるとは言っていたけど、具体的にどのくらいかかるんだい?」
「そこまでは聞いていないな。」
「救いを求めるならば、いついかなる時でも我を呼べ。」
【助けが必要ならいつでも言って。って四炉は言ってるよ。】
「大丈夫。これくらい一人で平気。だから皆はここで休んで」
「おらぁぁっっ!!!!!!!!」
二菜が話す途中、力斗は結界を殴り、破壊した。
「「………………………………えっ?」」
二菜の触角のような髪が垂れ下がり、力斗以外の五人が目を丸くする。
「よし、開いたな。早く入ろうぜ。…ん?どうしたお前ら?そんなハトが豆鉄砲を食らったような顔して。何かおかしな事でもあったか?」
「いや、えっと………………えっ?まってまって、どういう事?」
「なにがだ?」
「え、今、結界を、壊、した…?」
「おう。魔法で時間がかかるなら、こっちのほうが楽だろ?ほら、早く行こうぜ」
「いやいやいやいやいや!!!!!なんでよ!?普通壊せないわよ!?なんで力斗はそんないともたやすく壊せるのよ!?」
「なんでって…………俺はただ殴っただけなんだが…………」
「殴っただけでそうはならないよ………力斗の体は一体どうなっているんだい…?」
【力斗って人じゃないの?】
「はぁ!?なんでそうなるんだよ!?俺は人間だぞ!?」
「結界を素手で壊せるのは人間じゃないと思うぞ……」
「と、とにかく、二菜の魔力量の節約にもなったんだし、ここで話してないで行こうぜ。」
「そ、そうだな……」
この時、五人は思った。力斗を怒らせてはいけない、と。
六人は前へ進み、紫色の道を踏み、土を踏む音を鳴らす。辺りは結界の奥に進む前より暗くなり、ただ一直線の奇妙な色の道もあいまって不気味さを上げていた。
「なんというか、ここ暗くねぇか?」
「結界の奥にいるのはイロカ・ヴァレと魔物だからね。光をともしてくれる人もいなければ、木や植物を切って明るくしてくれる人もいない。でも、いくら人一人がここに住んでいるとはいえ、ここまで暗い事には疑問が残るけど……」
「光が消えゆく程……我が力は解き放たれていく……光の少ないこの領域こそ、我の本気をさらけ出すにふさわしい場所だがな…………」
【暗くて怖いよぉ……】
三奇の目が『><』になり、おびえた様子を見せる。
「日光が全然入らない……光魔法を使ったほうがいいんじゃないか……?」
「そうね…使って進もっか。光魔法 ライト!」
二菜が唱えると、六人の頭上に一つの明かりが現れ、辺りを明るくする。
「光魔法があってもなお奥が全く見えないな…」
「……ねぇ零、どうして僕に引っ付いているんだい?」
正哉にぴったりとくっつきながら歩く零に、正哉は質問する。
「いや、だって怖いだろ…十年以上誰も入っていない場所の中を進むなんて、何が起きるのか想像がつかない。」
「だからと言って、これはさすがに近すぎというか……」
二人が会話していると、その後ろにこっそりと二菜が近づく。
「……わぁっっ!!!!!」
「ひゃぁぁぁぁぁ!!!???」
二菜が後ろから零の両肩に手をのせ、大声を出すと、零は悲鳴を上げ、腰が抜けた。零は泣きそうな顔で二菜を睨む。
「お、おまえぇぇ…………!!」
「っははははは!!!零って怖がりなのね!面白いわ!!!」
「ふふっ……ひゃぁぁって……そのような高い叫び声初めて聞いたよ……!」
(こ、こいつら…………!!!)
零は笑う人達を次々と睨みつける。
「あはははは!ごめんごめん!もうしないから許して!」
「次はないからな!!」
「ごめんってば!ほら、進もう!」
二菜は零に手を差し出す。零は二菜の手を取り、立ち上がった。その数秒後、遠くから足音が響く。
「っ!」
六人は足音に反応して武器を取り出す。足音が近づき、少しづつ影が浮かび上がる。
「えぇ…と………誰、ですか………?」
大人しい女性の声が影から響く。そして光に照らされ、そこに現れたのは、薄茶色の帽子、茶髪のショート、黒いたれ目、顔立ちの良い観光客のような服装の女性だった。怖がっている顔を見せる無害そうな女性を見た力斗、三奇、四炉は武器を元の形に戻す。
「君は…どうしてこんな所に?こんな危ないところにいては行けないよ。」
「そ、それが……あたし、この国の隣にあるサフラーから来たのですけれど…近道できるかなと思い、この森に入ったのですが、お恥ずかしい事に道に迷ってしまって…どうしたらいいのかわからなくて、とりあえず目立っているこの道を歩いているのです…………」
おずおずと話す女性に、零は剣を片手に話しかける。
「それだったら、ここを真っ直ぐ進めば外に出られると思うぞ。」
零の言葉を聞いた途端、女性の表情はぱあっと明るくなる。
「そ、そうなのですか………!!ありがとうございます!!」
「でも、一人で大丈夫なのかい?僕達が護衛しようか?」
「いえ、大丈夫です!あたし、足の速さには自信がありますので!すぐに逃げられます!」
「そ、そうなのか……」
正哉が二菜に「本当に大丈夫なのかな…」と小声で話す間に、女性は「本当に、ありがとうございます!それでは!」と六人の横を通り過ぎ、風のように去った。森の中が静かになると、二菜は口を開く。
「………おかしいよね。」
「あぁ、おかしいな。」
「そうか?いたって普通の人に見えたんだが…」
「あえていつも通りに接したけど、こんな危険な場所に、わざわざ一人で来るなんてあるはずがないと思うよ。」
「そうね。だから、もしかすれば…………」
零、二菜、正哉が武器を持ちながら振り返ると、六人の真後ろについさっき去ったはずの女性が満面の笑みで近づいていた。
両手に、紫色の液体が付着した刃物を持ちながら。
次の話は4月9日に投稿予定です。




