Rb.9 魔物になった人
「ま、魔物になる……だと…………!?」
「えぇ、そのおかげで、あたしは取れた頭もすぐにくっつく程の早い自己回復能力を手に入れたのよ。」
「あまりにも傷の治りが早いからおかしいとは思っていたんだ…………!!四炉が最初に付けた方の傷も、いつの間にか治っているし、何より、力斗の攻撃で付けた脚の傷が、ほとんど治りかけている…!!」
「で、でもよ、人が魔物になるなんて聞いたことがねぇぞ?そんなのできんのか?」
「私も聞いたことがない………あるとすれば、ゾンビくらいだけれど、この辺りにゾンビはいないし…そもそも、人が死んでからゾンビになるまで数週間は必要だから、その間に紫色の道が消えていないとおかしいわ。」
「不可能を可能にするのが魔法なら、人が魔物にする魔法も存在しているんじゃないか?」
「ある………のかなぁ?」
「あの女性が何者であろうとかまわない。だが、人の断りを外れた存在である事は明白だ。ならば今、この場で討ち滅ぼすのみ!!!」
力斗は大剣を構えて叫んだ。傷がほとんど治ったイロカは不敵な笑みを浮かべたまま六人を見る。
「ふふふ………さぁて、本当に殺せるのかしら?魔物になった、元騎士団長のあたしに。」
イロカは姿を消した。
「防御魔法 エリアシールド!」
二菜は結界を張るが、それよりも早く、イロカの攻撃が二菜の腕に当たり、左手の甲から左肘にかけて一直線に傷ができる。
「痛ぁっっ!!」
「攻撃速度が上がってる…!まずいぞ……!!」
動 く な
「っっ!また……!!」
三奇以外の動きが止まり、イロカは猛攻を仕掛ける。しかしイロカの攻撃はすべて結界で防がれる。イロカの攻撃が終わると同時に結界が破れ、零が動き出す。
(やっぱり俺だけなぜか早く動ける!どういう仕組みなんだ…?)
零は剣を持ち直し、姿を消したままのイロカを探す。三奇はじっとして様子をうかがっている。次の瞬間、
「っっっっ!!!」
三奇の目の前にチャクラムが飛び出し、三奇はそれを間一髪で避ける。その直後、イロカが三奇の背後に現れ、もう一つのチャクラムで斬ろうとするが、零は剣を籠手に変えてイロカの横腹を殴り、数メートル吹き飛ばす。三奇は体勢を整え、吹き飛ばされたイロカを追う。しかしその後ろをチャクラムが追い、三奇の背中を斬ってイロカの手元に戻る。
「うーん致命傷じゃないかぁ…」
「創作魔法 上昇気流!」
イロカの足元に魔法陣が現れ、イロカを上空に吹き飛ばす。零は籠手を大きなハンマーに変え、宙に浮くイロカに向けて投げる。
止 ま れ
イロカが静かに言うと、投げられたハンマーが空中に泊まり、重力に従って落下した。
「なっ…!その魔法、武器にも適用されるのかよ!?」
「言霊魔法の効果を受けるのは、魔力を持つものだからねぇ。そりゃ武器石も反応するわよ。」
イロカが話す中、三奇は高く飛んでイロカに剣を振り下ろしたが、イロカはチャクラムで受け止める。その間に零は落ちたハンマーに近づく。
変 化 す る な
零がハンマーを手に取る瞬間、イロカは魔法を使う。すると零はハンマーが持ち上がらなくなった。
「武器石が、元の姿に変わらない……!?」
「零君にはぴったりの命令よねぇ。」
「くそっ…………!」
イロカが着地すると、力斗がイロカに体当たりをした。力斗の力強い体当たりは、イロカのあらゆる骨を粉砕し、奥にある木を次々と貫通してはるか遠くに飛ばす。
「っし!いくら回復が早いとはいえ、これくらいのダメージなら回復に時間がかかるだろ!!」
「ふふ………さぁ、どうかしらねぇ!?」
ついさっき力斗が吹き飛ばしたはずのイロカが一瞬にして力斗の前に現れ、チャクラムを振り下ろす。しかしイロカの腕が思うような動きをせず、チャクラムはどこにも当たらなかった。
「っ!はっ!しっかり効いてんじゃねぇか!」
力斗の言葉に、イロカは悔しそうな顔をする。その間に、正哉がイロカの真上に移動する。
「剣技 二重回転斬り!!」
正哉は双剣で回転斬りをする。それと同時に力斗が大剣をイロカの胴体にめがけて大きく横に振る。しかし、イロカは足腰の力を抜き、重力に身を任せて二人の攻撃を避ける。イロカはその場を去り、二人から距離をとる。
「ふぅ……面倒なことになったわねぇ………」
「体力が切れてきたか?」
零はイロカと同じように目の前に現れ、剣を振り下ろすが、チャクラムで防がれた。
「それは、貴方達も同じことでしょう?でもあたしはね、すぐに完治するのよ!!!」
動 く な
イロカが叫び、同時に姿を消した。そして始まる、見えない程に早い敵の猛攻。零と力斗と正哉の動きが止まり、イロカの攻撃を受ける直前、イロカの動きが止まり、その場に倒れる。
「えっ………!?」
「何が起きた!?」
「くそったれぇぇぇ…………!!!!!」
イロカは膝から下を切断され、恨みを噛みしめたような声で両手を使って体を起こす。
「速度の増大はそのまま破壊力の増幅を意味する…………罪人イロカ・ヴァレは疲弊している。間違いない、勝利がこちらへと手招いている!!!」
「イロカの足の速さを利用して風の刃で斬るなんて…すごい判断力だわ…………」
応急処置を済ませた四炉が決めポーズをして叫び、二菜は四炉のポーズに思わず身を少し引くも、驚いた顔をする。
動 く な
イロカは命令し、零達が動けなくなっている間に腕を使ってほんの少し離れた場所にある脚に近づき、回復を試みようとするが、三奇がイロカの脚を蹴飛ばし、はるか遠くに行ってしまった。
「ちっっ…………まだ耳栓をつけてるのかよ………………くそがぁぁ…………!!!」
イロカは脚の回収を諦め、膝立ちしてチャクラムを持つ。
「こうなったら………!!」
「っ!耳を塞げ!!!」
零が叫んだ直後、
自 殺 し ろ!!!
イロカが叫んだ。零、二菜、正哉は耳を塞いで魔法を受けずにやり過ごしたが、力斗、四炉は魔法を受け、大剣と杖を自身の首元に当てる。
「っ!力斗!四炉!!」
正哉が叫び、力斗と四炉が自身の命を絶とうとした瞬間、大剣と杖の動きが止まる。力斗と四炉の首には、それぞれ盾のマークがついていた。
「あ、危なかったぁ…………」
「助かった……危うく死ぬところだったぜ…………」
「ここが我が人生の終焉かと錯覚した……」
「空気読めよぉぉぉぉ…!!!」
イロカが苦しそうに言う。
「よし…これでイロカの切り札は潰えた!あとは」
力斗が勝利を確信したかのように言い、イロカに顔を向けるが、そこにイロカの姿はなかった。そしてその直後、その場にいる全員の体が傷だらけになる。
「「「っっ………………………!!??」」」
「あれが切り札だと思った?ざんねぇん!時間が稼げたらなんでもいいのよぉ!!忘れたの?あたしは魔物なのよ?どこが欠けようと魔力さえあればすぐに補うことができる。そう、たとえ脚が欠損したとしてもねぇ!!!」
ついさっき苦しんでいたイロカの感情が一変し、遠くに飛ばされたはずの脚が元通りになり、生気に満ち溢れた張りのある声で言う。
(まずい…………!無理をしすぎた…………!)
すでに血まみれだった零の傷がさらに増え、体力は限界を迎えていた。零は片足をつき、その場に倒れようとする。その様子を見たイロカはニヤリと笑う。
「あらあら、いくら選ばれた数字の『0』のしぶとい零君でも、これほどの傷を負えば死ぬんじゃないかしら?」
「はぁ……はぁ……」
(やばい………視界がぼやけてきた……)
「ふふ……かわいい………!さようなら、かわいいかわいい零君。」
イロカがチャクラムを振り下ろすが、チャクラムは空を斬る。イロカが辺りを見渡すと、二菜のそばに零を背負い、アイコンタクトする傷だらけの三奇の姿があった。
「っ………!!わかった。零は私に任せて。」
「はぁ………どいつもこいつもあたしの邪魔をしやがって…………ほんと、なぁんで思い通りにいかないのかしら?」
「貴様の愚行など、我々が断ち切るのは当然のことだ!!思い通りに進むなど、幻想にすぎない!!!」
「ふぅん……………」
イロカはため息をつく。
「はぁ~……もう何もかも面倒になってきたわ。さっさと殺って、全部壊さないといけなくなってきたわ。」
「お前、最初からそのつもりだっただろ。俺たちはそれを止めるためにここにいるんだ。そもそも、何百人もの命を消した時点でお前は死刑に決まってんだろ。」
「はぁ………そんな人を犯罪者みたいに……あたしはただ革命を起こそうとしただけなのに。」
「まだ罪の自覚がないのか?お前、相当やべぇ奴だな。騎士団長としての誇りみたいな物がなくなったのか?」
「 元 騎士団長よ。今更誇りだのなんだの言ったってどうしようもないわ。はぁ、本当、憎たらしい……」
イロカは爪を噛み、ぶつぶつと何か言い始める。
「憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい憎たらしい…………………………………………!!!!!!」
「お、おい、なんか様子がおかしくねぇか?」
力斗がイロカの様子にわずかながら恐怖を抱くと、イロカは髪の一部や瞳の紫色がさらに濃く、瞳や髪だけでなく口や目全体までも紫色になり、人の形は保っているが形以外はすべて人ではない何かになった。そしてイロカは爪を歯で割り、目、口、手足、髪の先端が紫色に染まると同時に咆哮のように叫ぶ。
「すべて、斬り刻んでやる!!!!!!」
「っっっっ!!??」
体のほとんどが紫色に染まったイロカはチャクラムを両手に持って一直線に零に向かって走り出す。しかしその先を力斗と正哉が阻んだ。
「邪魔だぁぁぁぁぁ!!!!」
イロカは叫びながら二人を斬りつけるが、二人は大剣と双剣で攻撃を防ぐ。
「一撃が重くなってる……!?」
「こいつ、急に強くなってんぞ!?」
正哉はイロカにカウンターをするも、簡単に避けられてしまった。
「二菜!零の回復にどれほどかかるんだい?」
「少し時間が必要かも。っていうか、さっきからイロカの様子がおかしいのだけれど!?紫色になった途端、イロカから大量の魔力が放出されているわ!!もしかしたら、消費した魔力量が戻っているのかも…………!」
「なんだと!?魔物ってそんな事もできんのかよ!?」
「いや、普通はできないはずだ!でも、なんだかとても嫌な予感がするんだ。その嫌な予感を避けるためには、零が必要なのかもしれない!だからイロカを倒すために、二菜は零の回復に全力を注いでほしい!」
「わかった!もう、この魔法を使うしかない!!」
「防御・回復魔法 天使の加護!!」
二菜が杖を上にあげ、大声で唱える。するとイロカ以外の六人の真上に魔法陣が現れると同時に、魔法陣から白い光が降り注ぐ。
「この魔法……二菜、もしかして」
正哉が話す途中で、イロカは猛攻を仕掛ける。
「くっっ!!!正哉!今は話してる暇なんてねぇ!!早くこいつをどうにかしねぇと俺たちが倒れちまうぞ!!」
「そ、そうだね…ごめん。でも、この魔法を使えるってことは……!!」
正哉はイロカの攻撃を双剣で受け止めながら、一瞬だけ零と二菜に目を向ける。しかしそこに零の姿はなく、二菜が杖を持ってイロカの奥を見ていた。
「力斗、僕達の勝利が近づいてきたぞ……!」
「はぁ!?急になんだよ!?」
「防御・回復魔法 天使の加護はへルート魔法学校の生徒でも使える人が数えるほどしかいない超高難易度の魔法。使うと体力が回復すると同時に防御力と自己回復能力がとても上がる…だから……!」
正哉がイロカの奥を見ると、イロカの後ろには紫髪の少年がいた。
「零がすぐに復活するという事だ!!」
次の話は4月21日に投稿予定です。




