Rb.10 イロカ・ヴァレの結末
零がイロカに剣を振り下ろそうとするが、イロカは腕を後ろに回し、零の攻撃をチャクラムで受け止める。
「暴走しても冷静か…さすがだな。」
動 く な !
三奇以外の五人の動きが止まる。その直後、イロカは零、力斗、正哉、を斬るが、深い傷は負わなかった。
(言霊魔法による拘束時間は大体三秒程…二菜のおかげで軽傷で済む事が一番の救いだ。イロカは暴走しているが、全力を出すのは今しかない!)
零は魔法の準備をしたが、ある違和感を覚えた。
「…………?」
(一瞬、体が動かなかった…?)
零は左手を握っては開くを繰り返したが、異変はなかった。
「お、おい、なんか魔法の効果時間が長くなってないか………?」
(っ……………………!!!なるほど、あの違和感はそういう事か!!)
力斗が疑問に思い、口に出すと零はある事に気が付いたが、力斗の背後にチャクラムを振り下ろす直前のイロカの姿があった。チャクラムが力斗の頭に当たる直前で三奇の剣が割り込み、攻撃を防ぐ。
「くそがぁぁぁぁ……!!!こざかしい真似をすんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
イロカは叫び、三奇を全力で殴り、耳栓を抜き出した。
「三奇っっ!!」
零が叫ぶと、三奇は親指を立てた。
(大丈夫、気にするなって事か……?本当に大丈夫なのか!?いや、そう信じるしかない!!)
「創作魔法 上昇気流!!」
零はイロカの足元に魔法陣を出し、真上に強風を出す。イロカは上空に吹き飛ばされたが、周りを見ずにチャクラムを投げる。
「危なっっ!!」
「拘束が解けたぞ!これであいつに攻撃できる!」
チャクラムは零の頬をかすめたと同時に力斗と正哉が動き出したが、その直後、
動 く な !
イロカが叫び、再び動きを封じられる。
「また……!?」
「まじかよ!?これだと一生動けねぇじゃねぇか!!」
「攻撃できるのは零と二菜と四炉だけ……かなりまずいね…………」
いまだに空中にいるイロカに向かって火の玉や風の刃が進むも、チャクラムが手元に戻ったイロカは空中で回転し、それらをまとめて打ち消す。
「零!これって…………!」
「あぁ、イロカが暴走状態になったことで言霊魔法が強化されている。しかも、イロカは遠慮なしに魔法を連発して力斗と三奇と正哉を動けないようにしている。これは、まさに全滅の危機に瀕しているといっても過言ではないのかもしれない………!」
「勝利はすぐそこまで手繰り寄せていたはず…………!それが一瞬にして絶望の淵へと転落しただと!?動けるのは有栖川 零のみ……この絶望的状況を覆す術はどこに…………!?」
動 く な !
イロカが叫び、六人は動けなくなる。その間にイロカは六人を攻撃し、さらに傷を増やす。
(二菜と四炉は魔法は使えるけど冷静かつ素早いイロカには通用しない。力斗と三奇と正哉は動けないし、このままでは傷が増える一方だ。耳栓を付けたところで、イロカはそれに気づいてすぐに外しに来るだろう。どうにかして言霊魔法を対処しないと…………!!考えろ…………考えろ………………!!)
零はイロカの攻撃を防ぎながら思考を巡らせると、ある結論にたどり着いた。
「創るしかない…………俺だけが使える、唯一の魔法を……!!!」
零が覚悟を決め、剣を元の武器石の形に戻す間に、イロカは着地し、叫びながらありとあらゆるものを斬りつけていく。人、木、植物関係なしに斬り続けるイロカの顔は目や口の一部が溶けたかのように紫色の何かが垂れていて、とても人間とは思えなかった。
動 く な !
零は数秒動けなくなり、イロカの攻撃を生身で受け止めたが、倒れることなくイロカに近づいていく。
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
イロカは激怒し叫んでいた感情から一変し、不気味な笑みをこぼしながら走っていた。五人から少し離れた場所で零はイロカに顔を掴める程に近づき、真正面からイロカの首を右手で掴んだ。
「がぁぁっっっ!!!!」
イロカは零の胴体をチャクラムで斬るが、零は手を放さず、次はイロカの口に左手を入れる。
「いってぇ……でも、これで終わりだ!!創作魔法 業火症!!!」
零は唱えるとすぐに後退し、イロカと距離をとる。その直後、イロカの喉と口が燃え始めた。
「か゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!!!!!!!!!!」
イロカは獣のような悲鳴を上げながら苦しむ。
「零っ!?なんだかすっごい咆哮みたいな声が聞こえるのだけれど大丈夫!?」
少し遠くから二菜の心配する声が響く。
「あぁ、俺は問題ない。イロカには大問題だけどね。」
(そろそろ皆が動けるはず……)
数秒後、五人が悲鳴が聞こえた方向に足を進め、その先で見たのは、喉と口から炎を出して苦しむイロカとそれを見ている零の姿だった。イロカは喉がつぶれんばかりに叫び続けている。
「あの咆哮みたいな声って、イロカの悲鳴だったの!?っていうか、あれどういう状況なの!?」
「俺が触れた場所に魔法陣を出し、そこから火力の高い炎を出し続ける魔法を作った。もちろん、イロカが動けば魔法陣も動く。だからイロカは死ぬまでずっと喉と口から炎が出る。」
「なるほど。それで言霊魔法を使えないようにしたという事だね。ところで触れた場所に魔法陣を出すという事は、零はイロカの口の中に手を入れたのかい?」
「入れたけど……何も問題はないだろう?」
「…………………………………………」
零の言葉に五人は絶句する。
「そんな事より、これで俺達は動けるようになった。攻撃された分、倍以上に返してやるぜ!!」
「う゛う゛う゛う゛………………………く゛そ゛か゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!!!!」
イロカは零を睨み、苦しみに耐えながらチャクラムを持って走り始める。しかし見てわかる程に速度が落ちており、すべての攻撃が二菜と三奇に防がれた。
う゛ こ゛ く゛ な゛ ぁ゛!!!
イロカは叫んだが、何も起きなかった。
「よっしゃぁ!!体が動く!!!」
「鈍き脚、そして言霊魔法という切り札を失ったその瞬間、貴様の敗北は、すでに運命に刻まれたも同然だ!!!」
「一気に畳みかけるよ!!」
イロカの攻撃は次々と防がれ、零達の攻撃がイロカに当たり続ける。
「零っ!とどめを刺して!!!」
「わかった!」
すでに武器石を剣に変えた零は助走をつけて跳び、その勢いのままイロカを右肩から左腰に掛けて斬ろうとする。しかしイロカはそれをチャクラムで受け止める。
「く゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛………………………!!!」
「あいつ、まだ諦めてねぇのかよ!」
「零!もっと力を入れろ!!」
「うううううおおりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
零は叫び、イロカをチャクラムごと斬り、着地した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
「た、倒した、のか…………?」
深い傷を負い、喉と口の炎が消えたイロカは後ろに倒れ、大量の紫色の血を流した。
「まだ生きているだろうけど、戦える程の体力はもう残っていないだろうね。」
「じゃ、じゃあ…………!」
「俺達の、勝ちだ…………!!」
零は息を切らしながら勝利を確信した。すると先ほどの戦いによる疲れはどこに行ったのか、三奇は子供のようにはしゃぎ始め、ものすごい速度で二菜に抱き着いた。
「ちょっ、三奇!?急に抱き着かないでよ!びっくりするじゃない!!」
三奇は何も言わないが、目が『><』になり、喜んでいる事は明らかだった。突然、零がふらつき、その場に倒れようとしたが、四炉が肩を貸した。
「あっ、ご、ごめん…」
「気にする必要はない。この勝利は有栖川 零が引き寄せた物だ。あの戦いを潜りぬけた身だ。この程度、苦痛とすら呼べない。歩けなくなったら言え。その程度、我が背負えば済む話だ。」
「ありがとう…!」
「それにしても、言霊魔法なんて魔法聞いたことがねぇぞ。魔法の辞書にそんなのあったか?」
「なかったはずよ。私も初めて聞いたわ…命令を聞いた人を従わせる魔法かしら…………」
「でも、イロカは喉を焼かれたとはいえ命令はしていたよね。でもあの時は魔法の効果がなかった。喉が正常な状態で命令しないと魔法として効果を発揮しないんじゃないかな。」
「しかも、耳を塞げば魔法は効かなくなる……変わった魔法ね。」
「ま、なんにせよ勝てたからいいんじゃねぇの?気になるならリベラ王に聞こうぜ。もしかしたら辞書にも記載されていない機密事項だったりしてな。」
「そうだね。そうするとしよう。」
零達が話す中、イロカが口を開いた。
「…………………………………………は~~~…………負けちゃったわねぇ……………………」
倒れたままのイロカは全てを諦めたような声を出す。
「っ!?生きていたのか!?」
「力斗、落ち着け。もうどうこうする力もないよ。」
「そうねぇ……もう、動ける力もないわ。結局、あたしは最初からここで死ぬ運命だったのね。」
「…………イロカ。もし、更生する機会を与えると言ったら、イロカはどうするんだ?」
誰も予想もしなかった零の発言に、五人は目を丸くして零を向く。
「ちょっ零!?何言っているの!?この人大犯罪者よ!?」
「ふふっ……今更、情をかけてくれるの……?優しいわね…………でも、革命に失敗し、犯罪者としてここに封印された挙句、魔物になったあたしに、更生ができるのかしら?」
「どうだろうな。確かに、何百人もの命を消したお前の罪は重い。だが、これはただの勘だけど、革命を起こす程、お前が生まれた都市が好きだったんじゃないか?リベラ王が嫌いだったんじゃなく、お前が生まれ育った場所を移される事なくずっと守りたかったからそんな事をしたんじゃないのか?」
「っっっ…………………!!!!そう、だったわね……………………」
顔が元通りになったイロカの目から涙があふれる。
「どうして、どうして忘れていたのかしら………………そんな簡単な事、いつでも思い出せたはずなのに…それを忘れていなければ、革命なんてしなかったのに…………どうして、忘れていたのかしら……………!!」
「……………………」
「零君、顔を、見せてくれないかしら………?」
零は何も言わず、イロカに近づき、かがんで頬から血を流した顔を見せる。
「酷いこと言ってごめんなさいね……………あたし………最後に貴方に会えてよかったわ……!!そうじゃないと、ずっと大事な事を忘れたまま死んでいたもの…ありがとう、零君……!」
森の奥から、何かが這いずる音が響く。
「っっ!?なんだ!?」
「魔物か……!?」
「そろそろ、時間ね…………」
イロカは力を振り絞って手を動かし、いつの間にか持っていた一枚のカードを零に渡す。
「零君、貴方なら、これをうまく使う事ができるはずよ…………おそらくあたしは、これを拾ってからいろいろ変わってしまったのでしょうね…………」
「何、これ………?」
「あたしにもわからないわ……でも、あたしが使うには早すぎた事だけはわかったわ……」
音のする方向から現れたのは、細く、長く黒い手だった。
「な、なんだよあれ!?」
「不気味だわ……!!」
「あんな魔物、初めて見たぞ!?」
零以外の五人は武器を構えたが、黒い手は零達を襲うことなく、イロカの体を掴んだ。
「零君、貴方はこれから、たくさんの人と出会うわ……でも、決して道を踏み外しちゃだめよ…………?貴方が道を踏み外してしまうと、きっと、あたしみたいに大事な事を忘れて暴走してしまうから…………!だから…どうか……そのまま、綺麗なままでいてね………!」
黒い手はイロカを引きずり、森の奥に連れて行ってしまった。
その数秒後、どこからか子供の笑い声が零の耳に届いた。
「………………?」
「零、どうかしたの?」
「今、子供が笑う声がしなかったか…………?」
「え…?いや、聞こえなかったけれど…………力斗は聞こえた?」
「聞こえなかったぞ。」
「僕もだ。」
「うーん……気のせいか…………?」
その後、零達は引きずられたイロカを追いかけようとしたが、六人の体力はすでに限界を迎えており、魔物と遭遇する危険性も考慮して都市に戻る事にした。
革命を起こそうとして人の命を奪った犯罪者 イロカ・ヴァレ の生を知る術は、彼女が残した道以外に無かった。
Rb.0に前書きを追加しました。
次の話は4月25日に投稿予定です。




