Rb.11 毒道の森に残る謎
翌日の昼過ぎ、リベルタージュの城にて、一人の兵士が王室に入り、玉座に座るリベラ王に敬礼する。
「失礼します。捜索の報告に参りました。」
「ご苦労。それで、イロカ・ヴァレは見つかったのか?」
「それが、紫色の血痕らしき物はありましたが、途中で途切れており、他の兵士とともに辺りを隅から隅まで調べましたが、血痕以外何も見つけられませんでした。」
「骨すら見つかっていないのか…………」
「もう一度調べましょうか?」
「いや、いい。これ以上体力を無駄に消費するわけにもいかん。それに、有栖川 零達に昨日は何があったのか詳しく聞こうと思ってな。」
「そうでしたか。それでは、私は捜索の中止をしてまいります。」
兵士はそう言って再び敬礼し、王室を出る。
「……………見つからなかった、か。嫌な予感が、まさか的中するとはな……………選ばれた数字達の元へ行くとしようか。」
リベラ王は立ち上がり、王室を出た。
城の中にある療養所にて全身に包帯を巻かれた零、力斗、二菜、三奇、四炉、正哉が三人ずつに分かれ、向かい合わせのベッドに座りながら話す。
「なんとか、生きててよかったぜ。」
「重症とも軽傷とも言えない状態だけどね。」
「零は重症なんじゃないかな」
「そうね。消費魔力量の多い創作魔法を何度も使ったもの。まさか都市に戻る途中で倒れるとは思わなかったわ。」
「ご、ごめん………」
「それにしてはおかしいと思うけどね。零が初めて毒道の森に入った日、創作魔法を一回使うだけで零はふらふらになっていたのに、昨日は何度も使っていた。魔力量が急に増えたとは考えにくい。どういう事なんだろうね?」
「確かに変だな……上昇気流は創作魔法の中でも消費魔力量が少なかったとか……?」
「そう考えるのが妥当かもね。」
「創作魔法を使うだけでも多くの魔力を使うのに…本当にどういう事なの…?」
「ま、もういいじゃねぇか。生きてりゃなんでもいいんだよ。」
「死ぬこと以外はかすり傷、とはよく言ったものだ…………」
「四炉、その言葉使う場所を間違えていると思う。」
「まさか顔以外ほとんど包帯で巻かれるなんてね…もはや、ミイラとも呼べるんじゃないかな。」
「浅い傷をつけるだけで骨折とかしなかったからね。まぁ、私は左腕に深い傷ができたのだけれど…………」
「二菜がシールドを張るよりも早く攻撃した時の傷か?そんなに深かったのか?」
「跡が残る程でもないのだけれど、回復魔法があれば明日には治っているはずよ。」
二菜が左腕を見ていると、三奇の包帯で巻かれた長い耳がピコピコと動き、文字が書かれたホワイトボードを見せる。
【私の耳も治るのかな………】
「回復魔法は魔法を受ける人の自己回復能力を一時的に上げる魔法だから、きっと治るわ。その代わり、魔法を受けた人は少し疲労がたまると思うけれど…気にするほどでもないわね。」
尻尾をぺたんとベッドに下ろした四炉が決めポーズをしようとしたが傷が痛み、両手を膝に置いておとなしく言う。
「如何なる代償を払おうとも、全員が癒えし時が訪れるのなら何も問題はない。今はただ、安息の時に身を委ねるとしよう。」
【四炉の言う通り!今はただ休もう!!】
真っ白で清潔な療養所の扉からノックする音が響く。
「失礼するぞ。」
扉の奥から低い男性の声がすると、扉が開き、とても高貴な王衣を着たリベラ王が落ち着いた様子で入る。
「リ、リベラ王!?ごごご、ごきげんよう!!」
「二菜、落ち着いて。滅多に使わない挨拶が出ているよ。」
「傷だらけで体力も限界だったろうに、一晩寝て元気に会話ができるほど体力が回復するとはな。若いとはいいものだな!」
「リベラ王、何か御用ですか?」
「あぁ、話したい事があってな。君たちはそのまま座っててくれ。横になってもかまわん。」
リベラ王は扉を閉めて前で足を止める。
「まず、リベルタージュの長きにわたる事件を解決してくれた事について感謝したい。君達のおかげで、この国はより平和になったのだ。ありがとう。」
リベラ王は深く頭を下げる。
「そんな、頭を下げてもらう程の事はしていませんよ。だから顔を上げてください。」
「いや、君達はそれ程嬉しい事をしてくれたのだ。頭を下げない理由などない。」
リベラ王は顔を上げた。
「そして、イロカ・ヴァレについて兵士達が捜索をしたのだが、死体は見つからなかった。」
「そうでしたか……」
「う~ん……じゃあどこに行ったのだろう……?」
「あの時に現れた黒い手についても気になるしな。」
「黒い手、とは?」
「僕達がイロカを瀕死まで追いやったあと、黒い手が彼女を掴み、森の奥まで連れて行ったんです。血痕は残ったんですが、具体的にどこに行ったのかはわかりません。」
「なるほど…半分、予想通りといったところか……………………」
「予想通り…?リベラ王はこのような結末になる事はわかっていたんですか?」
「黒い手については初めて聞いたのだが、イロカ・ヴァレの死体が見つからない事は予想していた。とはいっても、起こりうる最悪な予想だがな…………」
リベラ王は腕を組み、悩む様子を見せる。
「毒道の森は少しは安全にはなるだろうが、依然奥は暗いままだ。紫色の道が消えた後、道を整備して明るくしようと思う。そういえば、イロカ・ヴァレはどのような様子だった?」
「様子…と言いますと?」
「激怒していたり、不気味なところはなかったか?」
「それでしたら、気になるところがいくつかありましたね。」
正哉はイロカが激怒しながら話していた事を話す。
「む?私が最底辺の貴族から王に成り上がった事に不満を抱いていたと?」
「そういう事ですね。」
「それはおかしいな。彼女がそのような事を考えるはずが………」
「それはどうしてですか?」
「私がまだ貴族であった時、イロカ・ヴァレの言う通り私は死にたいと願う程に酷い扱いを受けていたのだが、その苦痛な日々から解放してくれたのがイロカ・ヴァレだったのだ。」
「えっ……!?」
「私は彼女のおかげで他の貴族や国民と交流を深め、体を鍛え上げてくれた。騎士の仕事で彼女自身とても忙しいはずなのに、私のために時間を作ってここまで鍛えてくれたのだ。だから私が今の姿でいられたのは彼女のおかげなのだ。それに、私が国王に推薦したのもイロカ・ヴァレだ。」
「イロカが推薦したんですか…!?」
「あぁ、だから邪な気持ちがあって私をここまで鍛え上げてくれたとは考えにくい。だが、九十九 正哉の話が本当とするならば、謎が多すぎる。これは本当に、どういう事なのだろうか…………」
(リベラ王が国王になってから革命を起こすまでの間に性格が一変した…?リベラ王がおかしなことをしたとは考えにくいし、何かリベラ王を嫌うきっかけを作った出来事が………)
零ははっとある事に気付き、ポケットから一枚のカードを取り出す。
「む?それはなんだ?」
「イロカが黒い手に引きずられる直前、俺にこのカードを渡されたんです。イロカはこのカードを手に取ってからあたしは変わってしまったと言っていました。もしかしたら、これがイロカを暴走させた原因かもしれません。」
『74』と大きく書かれたトランプのようなカードを見たリベラ王は零に近づく。
「少し、触ってみてもいいだろうか?」
「はい。いいですよ。」
零はリベラ王にカードを渡そうと腕を伸ばし、リベラ王はそのカードをとろうとした。しかしリベラ王の手はカードを通り抜けた。
「む?」
「え?」
「今、リベラ王の手がすり抜けたよね?」
「うん、俺もそう見えた。」
「ふむ…なるほど。有栖川 零よ、そのカードを御守 二菜に渡してみてはどうだ?」
「は、はい。」
零は二菜にカードを差し出すと、二菜は問題なくカードを持った。
「あれ、触れた…?」
「ふむ……少し、待っててくれ。」
リベラ王は扉を開け、メイドを呼んだ。メイドが療養所に入ると、リベラ王はメイドに命令した。
「御守 二菜が持つカードを取ってくれないか。」
「かしこまりました。」
メイドは二菜に近づき、カードを取ろうとするが、メイドの手はカードをすり抜けた。
「あれっ?」
【すり抜けた…!】
「やはりそうか。どうやらそのカードは選ばれた数字しか触れないらしい。」
リベラ王はメイドを退出させた。
「でも、それだとイロカは選ばれた数字って事になりませんか?」
「そう、そこだ。たった今思った事なのだが、そのカードに触れる条件はいくつかあり、複数ある条件のうち一つでも満たせば触れる事ができるという事なのではないだろうか?」
「考察が随分雑な気もしますが、一理ありそうですね。」
「その条件のうち一つが選ばれた数字である事として、他の条件は何でしょうか…………」
「わからないが、いずれわかると私は思う。何せ、そのカードに『74』と書かれているのならば、残りは最低でも73枚あるからな。」
「73枚………もしイロカのよに暴走した人が持っていたとするならば、あと73人倒さないといけないって事ですか!?」
「うっそだろ…!?イロカでさえギリギリ倒せたというのに、あんなのが何人もいるのかよ……!?」
「だが、君達は魔王討伐を目指す選ばれた数字。魔王城に向かう間に見つかるだろう。そうだ、有栖川 零よ、君に渡したい物がある。」
「渡したい物ですか?」
リベラ王は零に少しボロボロの分厚い本を渡した。
「な、なんですかこれ?」
「皮製のカバーなんて変わっているわね……しかも留め具がついている…」
零が本を開くと、最初のページにはタイトルのように文字が大きく書かれていた。
「『定められた物語』………?変なタイトルだな…」
零はページを進めると、そこには主人公が魔王討伐を目指す物語が何章も続いていた。
(10章で最後…とりあえず全部の章の共通点は各章の主人公は皆魔王討伐を目指している事くらいか。)
零が最後のページを開くと、そこには大きく『C』と書かれていた。
「む?私が最後に確認した時このような文字は書いていなかったぞ?」
「じゃあいつの間に書かれていたんでしょう……?というかリベラ王、どうしてこれを俺に?」
「各章の内容をちゃんと読んでいなかったのか?各章の共通点は魔王討伐を目指すだけでなく、選ばれた数字も登場している。そう、まるで今の君達みたいにな。だから選ばれた数字と何の関係もない私が持っていたところで意味はないだろう。」
「そ、そうなのでしょうか…………」
「あと、その本、各章の主人公は皆選ばれた数字の『0』だ。君に渡さないわけにもいかないだろう?」
「うーん……そう、でしょうか…………」
「まぁとにかく、その本は君が持っていたほうがいいと私が判断しただけだ。その本をどうするかは君が決めるといい。私が話したい事は以上だ。何か聞きたい事があるなら遠慮なく言ってくれ。おすすめの筋トレや好きなマッスルポーズ、好きな筋肉の部位など、なんでもかまわん。」
「なんで例が筋肉に関することなんですか………」
零は定められた物語を膝の上に置き、手を上げる。
「それなら二つお聞きしたいのですが。」
「なんだ?筋肉を育てる時に必要な栄養か?それとも筋トレをするときに注意すべき事か?」
「いえ違います。」
(なんで急に筋肉に関する話を…………?)
「イロカは言霊魔法という見たことも聞いたこともない魔法を使っていたんですけど、何か知っていますか?」
「言霊魔法?私も初めて聞いたな………それに騎士は皆剣術を操る者達。魔法を使う姿を見たことがないのだが……」
(リベラ王も知らない……?じゃああの魔法は一体どこから………)
「それと、言霊魔法は命令を聞いた人を従わせる魔法なのですが、どうしてか俺には効果が悪かったんです。それもどうしてなのかなと…」
「ふむ……すまないが、一つ目の質問について、私は答えられそうにない。だが、二つ目の質問について、私は心当たりがある。」
「心当たり、とは?」
「歴史書に書いてあったのだが、選ばれた数字の『0』は皆、一部の魔法や薬、毒などが効きにくいのだ。だから、有栖川 零が言っていた言霊魔法の効果について、もしかすればそのことが関わっているかもしれん。」
「そうですか…」
「あまり力になれなくてすまんな…」
「いえ、何か情報が得られただけで十分です。」
(それに気になったことと言えば、イロカが言っていた『あのお方』も何なのかわからないし…)
「他に聞きたい事はないな?では、私は失礼する。傷が完治したら、私のもとに来るといい。」
リベラ王はそう言って療養所を出た。療養所が静かになった後、零は右手を顎に当てて考える姿を見せる。
(リベルタージュの事件はこれで一件落着と言いたいところだけど…謎が増えてしまったな…この先で解明できるといいけど……)
「今考えてみると、森の中にいたイロカって色々不気味だったよね……」
二菜が不安そうな表情で言う。
「そうだね………血が紫色な事、魔物になった事、髪や目が紫色になった事、見たことのない魔法を使っていた事、性格が一変した事…………そういえば、彼女が暴走した時、彼女の目や口が溶けたように何か垂れていたよね。」
「そうなのか?俺はちゃんと見ていなかったんだが…だがよ、目や口が溶けるなんておかしくないか?ふつうありえねぇだろ。」
「イロカが人間だったならばありえないけど、魔物だからね……」
「魔物だからって…そんな理由でいいのか?」
「その理由以外思いつかないよ。僕達のまだ知らない魔物になってしまったとしか言いようがない。」
「魔物の系譜は無限に連なり、その全貌を知るものなど存在しない。万物を記す書物であっても、魔物のすべてを記しているとは限らない。もしかすれば、書物にも載っていない魔物が、今もなお闇の奥で息をひそめているのかもしれないな……」
「それは、そうなんだけどよ……」
力斗は腑に落ちない顔をする。
「見た事ない魔法といえば、選ばれた数字の『0』って、誰もが持たない魔法を使うのよね?言霊魔法ってそれの一つなのかな?」
「それだとさっきも言ったように、イロカが選ばれた数字って事になる。イロカは今行方不明だからわからないけど、選ばれた数字ではないと思う…」
「うーん…このカードを持っている人が選ばれた数字になる、とか?」
「滅茶苦茶だろそれ…何でもありなんじゃないか?」
二菜は零にカードを渡す。
「『74』…この数字が何を意味するのか全く分からないし…ひとまずこの話はいったん終わりにしよう。いろいろ考えていたらきりがない。」
「そうね。そういえば、完治した後はどうするの?」
二菜が質問すると、五人は少しの間沈黙した。
「…………何も考えていないのね。」
「だって仕方がねぇだろ?問題を解決することに精いっぱいだったんだからよ。」
【リベラ王に会いに行ってから決めない?】
「そうだね。」
「まだ休むのもだけど観光がした」
零が話す途中、突然零の頭に稲妻が走り、頭が痛くなる。
「っっ!!??」
零は頭を抱え、頭痛が治まるとゆっくり手を下ろす。
「零!?大丈夫!?」
「イロカの攻撃が今になって効いたのか!?」
「遅すぎない?」
「それとも、トラウマが呼び起こしたとか……?」
「いや、問題ない。」
(今のは、いったい…………??)
「それより、この後についてなんだけど、俺は隣の国に行こうと思っている。」
零の言葉に五人は驚く。
「えっ、早すぎない?もう少しゆっくりしていてもいいと思うのだけれど…………」
「二菜の言う通り、完治した後もまだ安静にしておいたほうがいいと思うぜ。」
「イロカとの戦いで感じた事をなるべく忘れずに、次の戦いに備えたいんだけど…」
「…………待って、零、その言い方だとまるでサフラーでも何か事件が起きるみたいじゃないか。零はそれをわかって言っているのかい?」
「……………………あれ、俺、今なんて言った?」
零の言葉に五人は不安になる。
「零、今はもう休もう。きっと疲れが取れていないのよ。」
「そう、なのか…………?」
「そうだと思うよ。急に零がおかしなことを言ったからね。」
「…じゃあ、俺はもう寝るよ。おやすみ。」
「おやすみ~」
零は横になり、眠りについた。
「…………二菜、さっきの零の言葉って…」
「えぇ、何かおかしいわね。まるで、誰かに操られたみたいな…………」
「まぁた謎ができちまったのかよ……もう勘弁しろよ…………」
「イロカ・ヴァレに秘められた謎だけでなく、有栖川 零に潜む深淵すらも、いずれ解き明かせればいいのだが………」
力斗が頭を抱える。
「僕達も寝るとしようか。」
「賛成~」
二菜が言った直後、どこからか腹が鳴る。
「「……………………」」
四人がどこから音が鳴ったのか周りを見ると、兎の耳を持つ三奇が顔を赤らめ、腹を抱えながらうずくまった。
【……………………ごめんなさい。】
三奇のホワイトボードを見た四人が一斉に笑う。
「寝る前に、ご飯を食べようか。」
「そうね。零には申し訳ないけれど、仕方がないわね。」
五人は療養所を出て腹を満たしに行った。
次の話は4月29日に投稿予定です。




