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定められた物語<ログストーリー>  作者: 霖雨 晴流
第二章 岩石の国と何かに限りなく似た物
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Rb.27 事件のきっかけ

「はっ………………?」


 突然の裏切りに零は反応が遅れ、一本の槍は零の腹を貫こうとする。しかし槍は零を貫かず、まるで硬い壁に衝突したかのように動きが止まる。


「なっ!?」


 貫くどころか傷さえつかなかった零に、チェンは驚き、観客は困惑する。零は状況を理解し、即座に武器石(ウェポンブロック)を籠手に変える。


「やっぱそういう事かよ!!」


 零はチェンの腹を殴り飛ばした。チェンは槍を手放さず、腹を抱えながら数メートル後退した。


「チェン・ジュー…ずいぶん大胆な事をしてくれるな!」

「まさか、攻撃が通らなかったとは思いませんでした……いえ、よく考えてみれば、そちらには防御魔法が使える魔法使いがいらっしゃるのですから、当然の事でしたね。」

「あ………………あぶなかった……です…………」

「助かった…ありがとう。」


 零は耐笑に目を向けて伝える。


「それにしても、ここで自ら犯人である事を皆に伝えるなんて、かなり狂じ…変わったことをするじゃない。負けを認めたのかしら?」

「負けを認めるのであれば、僕はあのような事はしませんよ。それに、僕はここで貴方達、いえ、僕ら含めここにいる全員を終わらせますから。」

「…?それってどういう…」

「炎魔法 エンドフィールド!!!」


 猫が聞こうとすると、蛍が大声で唱え、ライブ会場の周りを炎で囲む。観客は感情が困惑から絶望へと変化し、身動きが取れなくなった。


「っ…………!!??」

「まさか………!」

「こいつら……まさか観客も巻き込んで……!?」

「さぁ、始めようじゃあねぇか!!俺らVSお前らの、ファイナルライブをよぉ!!!」


 炎のように燃える大剣を持った蛍が威嚇するように言う。


「まままままままま、まずいですよ!!逃げ場もありませんし、観客に被害がっ……!!」

「加えて炎に囲まれているとなれば、踊子と耐笑が弱くなってしまう……」

「有栖川君、水魔法は……」

「創ろうと思えば創れるかもしれないけど、この状況で創れるか……?」

(炎に囲まれている以上、全部の炎を消すようなまねはできない。だとしたら、一部の炎を沈下して逃げ道を作るしか……)


 零が考えていると、蛍が零の前まで走り、大剣を力強く振り下ろす。


「っ!!」


 零はそれに反応して籠手を剣に変えて受け止める。


「考える時間なんて与えると思うかぁ?」

「与えるわけにもいかねぇよな………!」


 零と蛍が互いの剣を押し合わせ、身動き一つ取れなくなっていると、一本の黄色の矢が蛍の足元に落ち、それに気づいた零は数歩後退する。その直後、黄色の矢からは電気が放たれ、蛍の体に流れる。


「ちっ……!」


 蛍が痙攣している間、チェンは姿を変えて猫に迫る。


「っ!?もう隠す気もないのね!?」

「もう正体が暴かれるのも時間の問題ですからね。それならば、僕らが犯人であると暴かせてやりますよ!!」


 そう言って変装したのはある短剣使い。チェンより背は低く、右手に持った短剣を猫に向けて振っていた。猫は籠手を装備した手で短剣を掴んだ。


「短剣くらいなら、この手で掴めるわ!」


 その直後、チェンは短剣を手放して横に一回転し、猫の腹を横から蹴った。しかし猫は微動だにせず、短剣を放してチェンの脚を掴み、勢いをつけて背負い投げをした。


「ぐぁっ……!」

「あまいわねっ…………!耐笑ちゃんのおかげで、こっちはちょっとの攻撃なら耐えられるのよ!」


 猫は耐笑に目をやると、そこには杖を支えにフラフラになっている耐笑とステージに座る踊子の姿があった。


「も、もうげんかい……です…………」

「あ゛つ゛す゛き゛る゛……………う゛こ゛け゛な゛い゛…」

「ふむ………………」


 猫と同じく二人に視線を向けていた七彩は水色の矢を五本ほど二人の間に刺す。すると刺した場所を中心に氷が現れ、辺りを冷やす。


「焼け石に水………………だが、少しはもつ……………」

「そうね。零くんが氷魔法を使えたらいいのだけど………」

「すみません……あつ、すぎて……………………魔法が、使えない…………です…………………」

「まずいわね……………………」

「実質三人VS二人の状況、何とか隙を見つけないとな………………」

「ははっ!だが、そう簡単に隙を与えると思うかぁ!?」


 蛍は獣のように叫んで威嚇すると、蛍の周りに魔法陣が現れ、それと同時に噴火したかのように炎が噴出される。


「熱っ!?炎に触れてないのに熱すぎるだろ!?」

「なるほど………辺りを炎の海にして………ここにいる全員を焼死させる気………………か。」

「とんでもない事をしてくれるわね……」

(魔法を唱えずにここまでしてくるとは……魔力切れの心配がいらない程に多く持っているって事か………………?)


 零はほんの少しの時間考え、行動に移す。


「隙を与えないのなら、隙を作ってやるまでだ!!」


 零は剣を片手に走り出し、炎を突き抜けて蛍に突撃する。


「ははぁっ!炎に恐れず突っ込むなんてお前面白いな!だが、それだけで俺様に勝てると思うなぁ!!!」


 零と蛍は再び剣を押し合わせるが、蛍の大剣からは炎が噴出した。


「っ!?」


 零は大剣を横にいなして避ける。


(剣から炎が出るとは思わなかった…………炎魔法なら何でも使えるって事か………………?)

「炎魔法 サラマンダー!」


 蛍が唱えると、辺りの魔法陣から炎が噴出し、生きているかのように零を追いかける。


「なんだあの炎!?」


 零は追いかける炎を避け続けていると、背後から猫の声が響く。


「零くん!後ろっ!」

「っ!?」


 零は声に反応して振り向くが、そこには何もなかった。


(何もない…………?)


 その直後、蛍が零の背中を大きく斬った。


「はっ……?」

「おいおい、敵に背中を向けるなんて随分余裕だなぁ!おかげですぐに決着がついたぜ!!」


 零はその場に倒れ、猫、耐笑、七彩、踊子は状況を理解できずに硬直する。


「…………っ!まさか……………!!!」

「お前の仕業か……チェン・ジュー!!」


 猫は投げた方向にめをやると、そこにチェンの姿はなく、何もない空間だけが残っていた。


「いやぁ、まさかこんな簡単に騙せるとは思っていませんでしたよ。零さんは仲間への信頼が強いですね。おかげで、すぐに倒せました。」


 猫に変装したチェンは元の姿に戻り、倒れた零が気絶しているかどうか確認した後、横を通り過ぎて蛍の隣で足を止める。


「残念だったなぁ!!」

「なんて非人道的な事を………………!」


 猫は手のひらから血がにじむほど強くこぶしを握り締める。


「猫、落ち着け…怒りに身を任せるな……」

「えぇ、分かっているわ。問題はこれからどうするか、よ。」

「二人を守りながら僕らを相手するのは大変でしょう。せっかくなので、僕らの事についてお話ししましょうか。」


 チェンは微笑み、両手をわずかに横に広げた。


「この状況で………!?」

「何のつもりだ…?」

「いえいえ、貴方達が事件の真相を知ったところで、すぐに死ぬと思いますし。」


 蛍は炎を消し、チェンは笑顔で話し続ける。


「もうわかっているとは思いますが、僕らは窃盗事件の犯人であり、冤罪事件の犯人でもあります。主な犯行は僕がしているので、蛍は共犯者、ですね。」

「なぜ…………事件を起こした……………?」

「理由…ですか………もともとは、魔王に恐れる人達の心の支えになるために、僕らは『アパタイト』として活動していたのです。ですが、あまり効果はなく、知名度もありませんでした。冒険者としての活動と、歌い手としての活動を同時並行で行うにはとても厳しい状況でしたので、『アパタイト』を辞めようと思っていたのです。ですがある日、僕らは二枚のカードを見つけたのです。」

「カード…?」

「それは、簡単に言えば特定の魔法が使えるようになるカード。僕は片方の変装する魔法、蛍はもう片方の炎魔法全般が使えるようになるカードを取りました。僕はそこで気づいたのです。誰かに変装できる魔法があれば、サフラーで簡単に事件が起こせる、と。」

「それで………事件を起こし…『アパタイト』が有名になるように活動した……と?」

「そういう事ですね。マッチポンプ、と、いう事ですね。」

「あ…悪質だわ……………」


 二人の行動に、猫はゴミを見るかのような目で二人を見る。


「僕らも最初はこんなにうまくいくとは思っていませんでしたよ。事件を起こし、歌詞を書いて、曲を作って、歌って………すると、僕らを知らなかった人たちが、餌を見つけた虫のように僕らのもとに集まってくるのです。騙すことがこんなに簡単であった事、人は単純である事など、当時の僕はたくさん学びました。」

「昔の俺らなら、ここまで大騒ぎになって、ここまで有名になるとは思わなかっただろうなぁ。人っつうのは、ここまで愚かだったなんてなぁ!!」

「愚か………………ねぇ。」


 猫はぽつりと言う。


「本当に愚かなのは、果たしてどっちなのかしら!?」

「………………………………そうですね。本当に愚かなのはこちらです。」

「だがよぉ、本当に愚かっつぅなら、それを成敗するお前らは死なねぇよなぁ!?」


 蛍の言葉に、二人は「?」を浮かべる。


「何が言いたい………?」

「人を騙した俺らと騙されたお前ら、死んだ方が愚かって事だ!!結局は、勝った方が正義なんだよ!!!!」

「………………なるほど。」


 七彩は弓を構える。


「ならば……お前達には、ここで倒れてもらう!!」

「やれるもんならやってみろよ!!!選ばれた数字(ポインター)三人が役に立たねぇ今、俺らの方が有利だからなぁ!!!!」

「創作魔法 土流天井!」


 四人が言い争い、戦闘が再開しようとした直後、倒れていた零から魔法を唱える声が響き、それと同時にその場にいる全員を囲んでいた炎の一部が突然盛り上がった土で隠される。


「きゃあああああ!!!!」

「なっなんだ!?」

「急に山が生成された……………!!??」

「おいっ!どういうわけか炎が消えたぞ!!今なら逃げられる!!」


 観客が混乱しながらも会場から逃げ、チェンと蛍も突然の出来事に目を見開く。


「はっ……!?」

「なるほど…まさか、気絶していると思っていたのですが……しぶといですね…」


 零はゆっくりと起き上がり、血を吐いてよろめきながら猫たちの傍に寄る。


「零くん!?大丈夫なの!?」

「大丈夫ではないな…魔力を消耗しすぎた……」


 零は口元をぬぐい、アイテムボックスから魔力回復ポーションを取り出して飲む。


「言っただろ……隙を与えないなら、作るまでだって……!!」

「隙を作れたはいいが……体を張りすぎだ…………」

「そうですね。ここまで体を張るとは思っていませんでした。貴方達には、驚かされてばかり、ですね。」

「……まさか、これで終わりなんて思っていないよな?」

「……と、言いますと?」

「創作魔法 陽下氷上(ようかひょうじょう)!」


 零は唱えると、自身を中心に大きな魔法陣が現れ、青白い光を放つ。すると炎に触れているかのように暑かった温度が急激に冷やされ、適温へと変化する。


「げほっっごほっっっ……!!」


 零は片膝をついて再び吐血し、ステージに血を落とす。


「零くんっ!?貴方無理しすぎよ!!」

「初めて使う魔法だからな……限度がわからねぇ……」

「初めてでこれほどの魔法を………素晴らしいですね………………!!」


 零と猫の様子に、チェンは目を輝かせていた。


「おい………何をそんなに喜んでいる…………?」

「あぁ…いえ、心から感激したまでです。お気になさらず。」

「嘘をつくな。平気で騙すお前の事だ………何か、裏があるに違いない……」

「酷いですね…たった一回、騙しただけというのに、ここまで言われるとは……」

「そのたった一度の嘘が、どれほど、この国に惨事を起こしているのか…………それを考えたうえで、ここで倒れるといい!」


 七彩は水色の矢を放つ。チェンはそれをひらりとかわし、槍を持って零に迫る。しかし零はそれに気づき、剣を持って起き上がる。


「槍技 光刺突!」


 チェンは槍で素早く突きをするが、零はそれを剣で受け止める。猫はその間に零とチェンの間に潜り込み、下からチェンを蹴り上げる。真上へ飛ばされたチェンに向かって、猫は高く飛んで追撃を仕掛ける。


「七彩くん!零くんの支援をお願い!」

「言わなくてもわかっている……」

「はぁ、はぁ…」


 零は息を切らしながら走り、蛍に近づく。


「あぁ?そんな体力で俺様に勝てんのかぁ?」

「勝てると思っていなきゃ、こんな事してねぇよ!」


 蛍は大剣に炎を出し、大きく振り下ろす。零は突然足を止め、大剣がステージに当たるまで振り下ろされる瞬間を待った。大剣がステージに当たると、零は蛍の横へ移動して剣を振り下ろす。しかし蛍はそれを狙ったのか口角を上げながら零を睨む。


「炎魔法 烈火の加護!」


 剣が蛍に当たる直前、蛍が唱え、蛍の体が赤く光ると同時に剣が当たり、蛍の体から炎が噴出する。


「っ!?」


 噴出された炎は零を襲う。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「有栖川君っ!」


 数秒後、炎は消え、零は一部火傷を負った。


「おいおい、俺様が後先考えずに剣を振るとでも思ったかぁ!?」

(あっついな……あと数回、似たような攻撃に耐えられるかどうか……)


 零が考えていると、火傷した場所と背中に緑色の矢が刺さる。


「……えっ?」


 突然何が起きたのか理解できず、零は刺された場所のうちの一つである脚に目をやると、そこには火傷を負ったとは思えないほどに無傷の脚があり、さらには背中に受けていた傷さえ治りかけていた。


「傷が治っている……!?」

「言っただろう……おれは、初心者が使える魔法なら、ほとんど使える、と…………」


 七彩はため息をつきながら言う。


「回復魔法まで使えるとは思わなかった…ありがとう!」

「なっかなか面白れぇ奴がいるな。」

(炎魔法全般使えるんだったか………………どうやって倒すか………………)


 零は剣を構えて考える。


(耐笑と踊子は今どうなっている……?とりあえず、二人が復活するまで時間を稼いだ方がいいか……?)

「なぁに考えているかわかんねぇが、俺様には通用しねぇぜ!!」


 蛍はステージを何度も強く踏み鳴らす。すると踏み鳴らす度にいたるところから魔法陣が現れると同時に炎が噴出し、ステージを炎の海へと変える。ついさっきまで適温だった環境が、一気に灼熱のように熱くなる。


(こいつ……魔力量に底はないのか……!?)

「さぁ、始めようぜぇ!!地獄の戦いをよぉ!!!」


 蛍は威圧的な声で叫んだ。

次の話は7月6日に投稿予定です。

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