Rb.26 アパタイトのライブ、再び
「早速なんだが………………聞きたい事がある。」
「聞きたい事?」
「あぁ………お前達の名前を知っておかなければな………………」
「そうだな。すでに知っているだろうけど、俺は有栖川 零だ。」
「私は狐塚 猫よ。」
「わ…わた…しは、六車 耐笑…です………」
「あたしは八幡 踊子だよ~」
「そうか、改めて…自己紹介しよう。おれは射手矢 七彩……この国にはあまりいないエルフだ。それで………『アパタイト』は、どのような武器を使うんだ?」
「たしか、チェン・ジューは槍使いで、岩敷 蛍は大剣使いだったわね。」
「チェン・ジューが槍使い………?それは…本当なのか………?」
猫の言葉に七彩は首をかしげる。
「『アパタイト』のライブで、お二人が…そう………言って、いたので、間違いは、ない………かと………」
「本人が……」
七彩はぼそっとつぶやく。
「何かおかしいのか?」
「これは……チェン・ジューが変装しているのを見た時の話なんだが………チェン・ジューが変装したのは…ある短剣使いの、冒険者だった………偶然、チェン・ジューは魔物の群れに囲まれ、危険な状況ではあったんだが………チェン・ジューは短剣を使いこなしていた………」
「じゃあ、チェンは短剣使いでもあるって事?」
「その可能性はあるけど、もしそうだとしたらどうしてライブの時に言わなかったんだ?」
「普段は槍で戦っているって事かしら………………短剣で戦う事はごくまれだとか………」
「その可能性もあったが………チェン・ジューはその後、武闘家に変装して戦っていた…………………結果、チェン・ジューは傷一つ残らず勝利を掴んだ……槍、短剣、そして武闘家………チェン・ジューは、少なくとも三つ以上の武器が使えるという事になる…………………」
「剣や大剣ならまだ理解できるけど、武闘家って事は、チェンは拳でも戦えるって、事よね?」
「そういう事、になる…………………」
七彩は腕を組んで猫に視線を向ける。
「あまり考えたくはないが………あの人は、変装した人が使う武器を使いこなす力を持っている可能性がある…………………そこで危険なのは………彼がお前達に変装している時、もしかすれば…腕前が、お前達よりも上になっている可能性がある、と…いう事だ…………………」
「確かに、あまり考えたくないな………」
「付け加えるのであれば………彼の変装が、どれほどのレベルかにもよる…………腕前だけでなく、声までも本人と同じなのかもしれない…………ならば、戦闘中に変装されてしまうと、おれ達は不利になってしまう………」
「そう、ねぇ…………」
猫は顎に手を添えて困った顔をする。
「変装できる時間が何分かはわからないけど、戦闘中に本物と偽物を見分ける方法を考えないと、だね。」
「そのとおりだ。」
「本物と偽物………もし、チェンが変装するところが見た目、声、武器だけなら、彼が知らない情報を、今この場で共有しておくべきじゃないか?それか、自分が本物である目印をつけておくとか…………………」
「目印……なるほど…………」
七彩は小さく言う。
「おれは、その作戦に賛成だ。」
「そう、ですね…………」
「さ~んせい~!」
「私も賛成よ。」
「じゃ、どのような目印を付けるか考えるとするか。」
零達は墓場の上で作戦会議を続けた。
翌日、零達は冒険者ギルドに集まった。
「犯人と戦う前に、七彩の実力を知りたいんだけどいいかな。」
零の言葉に七彩はわずかに嫌な顔をする。
「以前…戦っただろ……」
「それはそうだけど…これから五人で戦うというのに、チームワークがなければ負けてしまう可能性が高いだろ?戦わなくてもいいけど、せめて七彩はどのような魔法を使っているのかを知りたい。」
「魔法………おれは…初心者と同レベルの魔法ならば、ほとんどの属性の魔法使う事ができる………」
「ほとんど…」
「使えない属性があるとすれば………空間魔法、だな……………」
「そ、それでも、すごい、じゃないですか…………………!!??それなのに、弓使い、なのですか……………?」
「魔法使いにしては弱い………それに、おれは『紅弁慶』…を卒業した元隊員………弓使いなのも当然の事…………………」
「べに…べんけい………?」
『紅弁慶』という言葉に、耐笑と踊子は首をかしげる。
「あら、ってことは、あなたフィシ出身なの?」
猫の問いに、七彩は小さくうなずく。
「そうなのね。それなら、弓使いなのも理解できるわ。」
「猫、『紅弁慶』ってなんだ?」
「『紅弁慶』は隣の国のフィシにある軍隊よ。自然の国とも呼ばれるフィシは弓矢を得意とする人が多くて、『紅弁慶』はほとんどの人が弓矢使いなのよ。」
「弓矢使いが多いのか…それだと、接近戦が苦手なんじゃないか?」
「どうかしらねぇ…でも、それの対策法も考えていると思うわ。」
「弓矢も、時には接近戦に使える…気にする必要はない………」
(弓矢で接近戦…………全然想像できないな……………)
「とにかく、それなら弓矢使いなのも当然よね。あとは………私たちの役職について話した方がいいかしら?」
「いらない…お前達は好きに動け……おれが後ろから支援する…………」
七彩は右手を二回横に振った。
「そ、そう…………?」
「お前達がどう動こうと…おれはおれのやりたいように、支援するだけ………弓矢使いは…ただただ後方支援に徹するのみだ…………」
「そういうものなのかなぁ…」
「そういうものだ…………」
七彩はぽつりと言った。
(じゃあ。なぜ『紅弁慶』はほとんどが弓使いなんだ………?後方支援ばかりだと、前戦が不安定になるんじゃ…………)
零は少し考えたが、七彩からはその話に触れてほしくないような気配を感知し、ここで話を止める事にした。
七彩が仲間に加わって一週間後、冒険者ギルドで、受付嬢が零達を呼んだ。
「アリスさん、『アパタイト』から手紙が届いております。」
「手紙?」
(もしかして次のライブの開催地についてか………?)
受付嬢は零に一通の手紙を渡す。零はそれを受け取り、冒険者ギルドを離れ、人気のない場所で手紙の中身を開き、一枚の紙を読む。
『選ばれた数字の方々へ
前回のライブから約一週間が経ちましたが、いかがお過ごしでしょうか。
依然話した通り、次のライブの開催が決定いたしましたので、
場所を伝えようと思い手紙を書かせていただきました。
開催日と開催地は以下の通りです。』
零はもう一枚の三つの村に丸が書かれた地図を見る。
「開催日は三日後、五日後、一週間後…開催地は真北の村、中央寄りの北の村、そして中央の村か………俺達は今ここにいるから…………話をするなら、中央の村だな。」
「………………早くない?ライブって、二か月に一回だったよね…?」
「確かに変ね………………」
「まるで、おれ達が真相に気付いているかのような…開催日と開催地だな…」
「そう……ね………」
「だ、だだだだだだだだだだいじょうぶ……なんでしょうか…………………」
「こ、こわくなってきたぁ…………………」
「耐笑ちゃん、大丈夫……?さっきから尋常じゃない程に震えているけど…………」
耐笑がブルブルと大きく震え、今までにないほどの緊張と不安を表している。
「……………覚悟を決めよう。絶対、あの作戦を成功させて、事件を終わらせる!」
「そおだね……!よぉっし、がんばるぞーーーー!!!」
「「おーーー!!」」
耐笑と踊子は右手を突き上げ、元気を出したが、数秒後、二人は自身の熱で溶けた。
(ふ、不安しかねぇ…………………)
「零くん、できるだけ早く氷魔法を覚えられるようになってほしいわ…………………」
「努力するよ…………………」
零が不安そうな表情で話している間、七彩は手紙の内容を読み返す。
「…………………なるほど。」
「ん?七彩、どうかした?」
「有栖川君、手紙を………最後まで読め………………」
「最後まで?」
零は手紙を最後まで読んでいると、最後の一行に、『次で最後のライブなのでぜひいらしてください。』と書かれていた。
「最後………なるほど、それにしては速すぎるけど…そういうものなのか…………?」
「怪しい…………が、行くしかない………………」
一週間後、零達はサフラーの中央の村の中にある宿で戦闘の準備をしていた。
「ついに、決戦の日、ね………………!!」
「ふ、ふあんしかない、です…………………」
耐笑は今にも泣きそうな目でガタガタと震えている。
「ライブ開催まで時間はある。今は体力の温存に集中しよう。」
「おれ達は与えられた役割を全うするのみ…………………全力を出すほかない…………」
「そうだな。これ以上、被害を出すわけにもいかないしな。」
「で、でも、もし『アパタイト』が犯人じゃなかったら、どどど、どうしよう…………………!!??」
「それは知らん。場合によっては……『アパタイト』のファン、がおれ達を倒しに来るが…………仕方のない事、だ……」
「先の事を考えるより、今はただ、犯人が『アパタイト』である事を信じるしかないと思う。」
「そうねぇ…………」
「やるしかない……よね………!!頑張る…………………頑張るぞーーーー!!!」
踊子は元気を出したが、数秒後に再び溶け、零と七彩はため息をついた。
零達は宿を出てライブの会場に行くと、そこには依然見たライブの会場よりも二回りほど大きなステージがあった。零達は最後列の席に座り、辺りを見渡した。
「広いな。今回はいつもより派手にライブするつもりなのか?」
「そう見えるわね……観客席も明らかに多いし………」
「サフラーの中央の村は、人口がどの村よりも多い……加えて、今回はファイナルライブ………………観客席も、多く配置しなければならないのだろう…………」
「たしかに、そう、ですね…………」
「すみませーん、貴方達もしかして、選ばれた数字の方々ですかー?」
ライブの開催を待っていると、右から優しい女性の声が五人の耳に届いた。
五人は声のする方に顔を向けると、そこにはルビーとブラックオパールの宝石をあしらったペンダントをさげ、チュニックワンピースを着た若々しい女性がいた。
「えっ……?そうだけど、どうかしたの?」
突然話しかけられ、零は少し驚きながらも質問する。
「あぁー!よかったー!!やっと会えましたー!!」
砂漠に住んでいるとは思えないほどに白い肌と灰色寄りの黄緑の編み込みハーフアップの髪、そして横長の楕円形の眼鏡をかけた女性はにっこりと笑い、胸の前で両手を合わせて喜ぶ。
「やっと会えたって……どういう事…?」
「あぁっ!ユースイさんだー!!こんにちはー!!」
零は四人に目をやると、踊子は元気に手を上げて挨拶をした。
「こんにちは、踊子さん。猫さんと耐笑さんも、こんにちは。」
「こ、ここここんにちは……!!」
「お久しぶりですユースイさん。」
耐笑と猫はあいさつし、七彩はぺこりと軽く頭を下げた。
(ユースイ……って事は……!)
「あなたが、サフラーをまとめる方……ですか。」
「その通りですー!『アリス』さんは初めまして、ですね!リベラ王から話はいろいろ聞いていますよ!ようこそサフラーへ!楽しんでいますか?」
「まぁ、それなりには……」
「あー……もしかして、窃盗事件の協力をしている真っ最中、ですか?」
「そうですね。」
「あはは……本来私が解決すべき問題なんだけれど、リベルタージュから来た貴方に手伝わせてしまいましたね……本当にすみません……」
ユースイはそう言って頭を下げる。
(なんだか既視感が……)
「大丈夫ですよ。選ばれた数字には難事件を解決する力がありますし、困っているなら、助けてあげるのが道理ですよ。」
「うーん……それでもですよ…………やっぱり申し訳ない気持ちがとても強くて…………」
「ユースイさん……貴方、ただでさえ普段の仕事で忙しいのに、難事件の解決に協力するってなったら、過労死してしまうわよ…………」
「そ、そんなに仕事の量が多いのか…!?」
「まーこの国は村が多いですからねー、まとめるのも一苦労ですよ。今日は休日なので、今こうして貴方達ちと会話できているんです。」
「そ、そうなんですね…」
「…あっ、そうでした。ちゃんと名乗っていませんでしたね。私はサフラーをまとめる村長の長、 ユースイ・エーデルシュタイン です。よろしくお願いしますね。」
「有栖川 零です。よろしくお願いします。」
零とユースイはお互いに頭を下げた。
「有栖川…だから『アリス』って呼ばれているんですね…私としては『零』さんと呼んだ方が楽だと思うんですが…」
「俺もそう思います…」
「そーかなー、そーかもー?」
踊子がこてんと首をかしげていると、ユースイは零に数歩近づき、零をじっと見つめた。
「ど、どうかしました?」
「…………へぇ。」
ユースイは宝石のように輝く明るい緑の瞳で零を見続け、何か察したように微笑む。ユースイは数歩は慣れ、元の位置に戻った。
「なるほど、そういう事なんですね。」
「どういう事なんですか……??」
零が質問すると、ユースイはそっと口に人差し指を添え、優しく微笑んだ。
「零さん、あまり、無理はしすぎないようにしてくださいね。事件の犯人は一筋縄ではいきませんから。」
その時、零は異様な気配を察知した。
(なんだ……この雰囲気…………?まるで、人じゃないような…………)
「それでは、私は失礼しますね。ライブ、楽しんでくださいねー」
ユースイはそう言ってその場を去った。
「…………………………………………優しそうではあるが、不思議な方だな。」
「そうよね。でも、ユースイさんは上下関係を気にしないフレンドリーな方だから、皆あまり気にしていないわ。いずれ慣れるわよ。」
「そう、か………」
(でも…………何かおかしいような………………あの雰囲気はまるで、魔物のような………………)
零は少し考えたが、諦めて事件の解決に集中する事にした。
「さぁ皆さんお待たせしました!!これより『アパタイト』のファイナルライブを開催します!!」
司会の女性が元気に声を上げる。
「今回はサフラーの中で最も大きな村でのライブです!前回のライブから二週間が経過してのライブ!異例の開催ではありますが、どのようなライブが行われるのでしょうか!?私にも予想がつきません!とても楽しみです!!」
(前回も異例だったな………………)
「これが最後のライブかぁ…………『アパタイト』が犯人じゃなかったら楽しめたのになぁ………………」
踊子が遠い目をして言う。
「仕方ない……………現実と事実は……時に残酷…………」
「そう……ですね…………」
「いつ、何が起きるかわからない。気を引き締めよう。」
「そうねぇ……私達も『アパタイト』も、お互いが何をするのか全く予想できていないもの。油断は禁物ね。」
「それでは登場していただきましょう!『アパタイト』です!!」
司会の女性の声と共に、チェン・ジューと岩敷 蛍がステージに上がった。
「皆さん、こんにちは、今日もいい天気ですね。」
チェン・ジューは優しい声で語りかける。
「そうだな!!最後のライブをするのに絶好調な日だ!!今日は一段と派手にやるぜ!!」
蛍は大きな声で観客を湧きあがらせる。しかしチェンが一歩前に出て蛍の前に手を出し、「止まって」と合図する。
「その事なのですが、今回はサプライズをしようと思いまして。ライブをするとは言ったのですが、歌うかどうかはまだ決まっておりません。」
チェンの言葉に、観客はざわざわとし始める。
「歌うかどうか決まっていない………………?」
「ど、どういう事……ですか…?」
「異様だ…………」
(嫌な予感がするな………………)
「突然なのですが、皆さんは知っての通り、この国には窃盗事件と冤罪事件の二つが現在進行形で起きています。僕らはその事件がいつ起きるかわからない不安にかられている皆さんを少しでも救うべく、『アパタイト』として皆さんに歌を届けてきました。」
「ど、どうして急にこの話を………………?」
「しかし、それだけで事件を解決できるわけではありません。僕らの役目は、事件の解決ではなく、皆さんを支える事ですから。さて、今日もスペシャルゲストが来ているようですね。とても嬉しいです。」
銀色の髪を揺らしながら、チェンはにっこりと笑う。
「す、スペシャルゲスト………………?」
(この感じはまさか………………)
「事件の解決を目指すこの国の希望、有栖川 零さん、そして、選ばれた数字の皆さん、どうぞご登壇ください。」
チェンは零を見て言った。
「えっ!?来てんのか!?まじかよ!!??」
「えぇ、来ていますよ。やはり、手紙を渡して正解でした。」
「こ、このタイミングで………………!!??」
「何か……裏があるな……………」
「か、考えすぎじゃ………………」
「でも、ステージに立たないと話が進まない気がする。警戒して進もう。」
零達は辺りを警戒してステージに上がった。
「こんにちは、そしてお久しぶりですね。『アリス』さん。」
「あぁ、久しぶり。まさか今回も呼ばれるとは思っていなかったよ。」
「えぇ、僕らももともとはライブが終わった後に話す予定なのでしたが、こちらの方が、より面白くなると思いまして。」
(………………………………)
チェンは笑顔で話し続ける。零の目には、チェンの笑顔が仮面のように見えていた。チェンは零の腕を見て眉をひそめる。
「アリスさん、その包帯、何かあったのですか?」
チェンの問いに対し零は右腕に数回巻かれた包帯を見る。
「これの事か?三日前、魔物に不意打ちを食らってしまって、パーティーに回復魔法を使える人がいないから応急処置で包帯を巻いているんだ。大したものじゃない。」
「そ、そうですか……」
「それで、要件は何?歌うと決まったわけじゃないと言っていたけど、ここで雑談でもするの?」
「それも面白そうですが、その前に、感謝をしようと思いまして。」
「感謝?」
チェンは右手を前に差し出す。
「この国のために全力を尽くしている事に対して、ですよ。せっかくなら、こういった場所で感謝を伝えようと思ったのです。」
(あ、怪しい………………明らかに何か起きそうな気配がする………………)
零は疑いの目を向けながら、ゆっくりとチェンの手を握る。
「選ばれた数字の皆さん、事件の解決に協力してくださり、本当にありがとうございます。これからも、頑張ってくださいね。」
(な、何もない………………?)
零は警戒が少し解け、チェンと握手を続ける。
「………………そして、お疲れ様でした。」
チェンは左手に槍を持ち、零の手を引っ張って突きをした。
次の話は7月2日に投稿予定です。




