Rb.21 墓守
「俺の事?」
零はキョトンとした顔で言う。
「はい。君の事を。」
それに対し、真剣な眼差しでチェンは言う。
「僕はずっと気になっていたのです。冒険者ギルドに入って一か月もたたぬうちにたった一人で難事件を解決したという伝説の冒険者『アリス』、いったいどのような戦い方で、どのような魔法を使って難事件を解決したのか、僕は、とても気になるのです。」
チェンの言葉に、零の心に激しい痛みが走る。
「っ………………!?」
零は咄嗟に胸を掴む。
「零君っ!?大丈夫!?」
「だ、大丈夫………!」
痛みが消え、零は手を下ろした。
(また……?これはいったいなんだ……?)
「零さん、もし言いたくないのであれば、言わなくてもかまいませんよ。」
「いや、話せる。」
零はそっと手を胸に置いた後、深呼吸して手を下ろす。
「とは言っても、大したことはしていない。相手を分析し、弱点を考え、犯人を倒しただけだ。運よく相手の魔法が俺と相性が悪かったらしく、体力は限界だったが勝つ事ができた。」
「なるほど…つまり、実力の勝利と言う事ですか。」
「実力…まぁそうか。でも…」
零は目線を下げ、眉をわずかにひそめる。
「何か、何かがおかしいんだ。俺は一人で解決したはずなのに、経験では明らかに一人でやった事ではない。」
「…………?どういう事ですか?」
「なんと言えばいいのか…俺の記憶では、犯人を一人で倒したことは紛れもない事実だ。しかし、犯人は相手の動きを制限する魔法を使っていた。一人で相手するには厳しすぎる。さらに、俺は魔法を使った後、反動として二十秒から一分程立てなくなるほどのめまいや熱などを引き起こす。魔法を使う事はとても危険である事にもかかわらず、俺は魔物が住む森の中で何度も使っていた。その後、どうやって森を出たのか覚えていない。明らかに仲間がいたからこそできた行動なのに、俺は一人で倒したと思っている。この国に来てから、何か心に穴が開いたような、そんな感じがするんだ。」
「心に穴が開いた感じ、ですか…」
チェンは顎に手を添える。
「零さんは、事件の犯人について、相手の動きを制限する魔法を持っていたといっていましたが、具体的にどのような魔法なのですか?」
「言霊魔法って言って、命令を聞いた人を命令通りに動かせる魔法だ。動くなと命令すれば動かなくなり、目を閉じろと命令すれば目を閉じる。でも、俺には効果がいまいちで、本来なら動くなと命令した場合、命令を聞いた人は十秒間動けなくなるんだけど、俺は三秒間動けなくなった。たった三秒とはいえ、戦況は変わるはず。だから、仲間が必要なはずなんだ。」
「ふむ……であれば、耳を塞いで戦っていたのではありませんか?」
「それも考えた。でも、相手はすぐに耳栓を着けている事に気付き、耳栓を無理やり外されてしまった。さらに、相手はとても素早く、耳栓があってもなお、一人で戦うには厳しいくらい、犯人は強かった。」
「…………全く分かりませんね。」
「だよね…………」
零がチェンと同じように顎に手を添えると、猫が口を開く。
「零ちゃ…零くん、あなた、国の兵士と一緒に倒しに行ったの?」
「えっ?いや、一人だけど…」
「じゃあ、なぜ言霊魔法の効果が十秒って知っているの?」
猫の言葉に、零ははっとする。
(確かに、どうして俺は言霊魔法の効果を知っているんだ…………!?あの時いたのは俺とイロカの二人だけだったはず。イロカが魔法の事を言っていたか……?いや、イロカは魔法の名前と効果について話していただけ、効果時間については何一つ話していない。そもそもイロカの反応からして、効果が薄かったのは俺だけのはず。イロカが最初から効果時間が三秒である事を知っているはずがない。)
零は黙り込んで長考する。
「有栖川…さん?大丈夫…です、か?」
固まって長考する零に、耐笑はそっと肩をたたく。すると零はびくっと体がわずかに跳ねる。
「っ!あっ、いや、何でもない。考え事をしていただけだ。」
「考え事、ですか………」
零は表情を明るくして両手を横に振る。チェンは手を下ろし、零に目をやる。
「謎はたくさんありますが、いずれわかる事でしょう。僕から話しておいてなのですが、打ち上げに暗い話をするのもよくありませんし、この話はいったんここまでにしておきましょう。」
「そうだな。ところでよ、零って、どんな魔法を使うんだ?」
今まで静かに話を聞いていた蛍が口を開く。
「あ、それ、わたしも気になります…!」
「私も気になるわ。」
「どんな魔法?どんな魔法って……自分で作った風魔法や、土魔法としか言えないんだけど……」
零の言葉に、場が凍り付く。
「えっ………?魔法を……………………作った……………?」
「あぁ、作った。」
「…………覚えた…わけではないんですか?」
「一から作った。俺はどうしてか皆が使える魔法が使えないんだ。だから論理的に考えて、魔法を唱えてみたら上手くいったんだ。」
零の予想外の回答に、チェンと猫は額に手を当て、頭の中で散らばった思考を整理するように息を吐く一方、驚きのあまり酔いも冷めた蛍と耐笑は情報の処理が追い付かず停止し、踊子は「あぁ…」と過去を思い返し、気づいたように声を漏らす。
「零くんって、本当にすごい子ね……………」
「そうですね………」
「そう?やろうと思えばだれでもできるはずなんだけど………」
「零君、もしかしてロックアントの巣を掘り出した時って…」
「土流天井の事?あれも即興で思いついた魔法だ。」
「即興…!?」
踊子は目を丸くした。
「もしかして選ばれた数字って、皆さんこのような力を持っているのですか……………………?」
「そんなわけないでしょう!!」
チェンの言葉に、猫は食い気味に否定する。
「これもまた謎、なのか?」
「そうだな…選ばれた数字って、本当に謎が多いぜ………」
ウェイターがデザートをのせたプレートを持って部屋に入り、六人の前に置いた。六人はデザートをおいしく平らげ、その後も会話を続けた。
「さて、そろそろお開きにしましょうか。」
「そうだな。もう日も超えているんじゃねぇか?」
「そんなに話したか…………?」
「話したわよ。零くんのあーんな事やそーんな事が、一番長く話していたんじゃないかしら?」
「なんでそんなにやましい言い方をするんだよ!?普通に魔法やリベルタージュの体験について話しただけじゃねぇか!!」
「ふへぇ……とても楽しかったです…」
「もうお別れの時間かぁ………悲しいなぁ……………」
踊子がしょんぼりと悲しそうな表情をしていると、チェンが踊子の肩にそっと手を置く。
「悲しまないでください踊子さん。僕らは必ず、どこかで会いますから。」
「次のライブに行けばまた会えんじゃねぇか。」
「でもでも、次どこでライブするかわっかんないじゃん!!!」
踊子が両手を握って縦に振り、嫌がる様子を見せる。
「それならこれはどうでしょう?僕らが次どこでライブをするのか、冒険者ギルドでお話しておきます。冒険者ギルドは大事であれば全国に情報を伝えるはずなので、冒険者である君なら、すぐに会えると思いますよ。」
「えっ!!ほんとっ!?やったぁーーーーー!!!」
踊子は大はしゃぎする。
「それでは、またお会いしましょう。さようなら。」
「またな。気ぃ付けて変えろよー」
チェンと蛍が手を振ってその場を去った。四人は手を振り返し、チェンと蛍を見送る。
二人が闇の中に消えた後、零は手を下ろして口を開いた。
「……さて、俺達も宿に行くか。」
「………………今の時間って、宿開いているのかしら?」
猫の言葉に、三人は硬直する。
「………………どうしよ。」
「ここからなら、私の家が近いと思うわ。今日はそこで寝泊まりしましょう。」
「いいのか?」
「かまわないわよ?そんな見られて困る物なんてないし。あら?それともあれかしら?大人の女性の家に入るのが恥ずかしいのかしら?」
「はぁっ!?そんなわけねぇって!!」
にやにやと笑う猫のからかいに、零は顔を赤くして否定する。
「猫さんの家に行けば…大きくなる秘訣が……!」
「耐笑ちゃん…………?」
四人は猫の家に向かって足を進めた。
その道中、四人は進む先に墓場がある事に気付いた。
「あれ………墓場、だよな?」
「墓ね…まさか帰り道の途中にあるとは思わなかったわ…」
「ずいぶんきれいなお墓、です、ね…………きちんと、掃除していらっしゃる……でしょうか……………………猫さんも知らなかったのですか?」
「あそこから私の家まで帰った事ないもの。それに、普段は冒険者ギルドから帰っているから、ここを通る機会もないし…」
「…………ん?耐笑、この距離であの墓がきれいだってわかるのか?」
四人から墓まではかなり遠く、零から見れば輪郭がうっすらと見える程度だった。
「あ……えと…………わ、わたし、夜目、が、よく効く……です……………」
「あらそうなの?私もそれなりに効く方なのだけれど、この距離だと、綺麗かどうかわからないわね………」
「目が良すぎるねぇ………」
「そそ、そうなのでしょうか…………?」
「…ん~?それよりさ、あそこ、なんか人がいない?」
踊子が墓の少し右に指をさすと、墓の近くに大人程の大きさの人影があった。
「こんな時間に墓参りかしら…………?変わっているわね…………」
「ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ亡霊、なんじゃ…………!?」
「なくはないな…………」
零は冷や汗をかきながら人影に近づく。
四人がゆっくりと足を進めていると、人影は四人の気配に気づいたのか、四人へ向く。
「ひぃっ!!!!」
その直後、耐笑は悲鳴を上げて気絶した。
「ちょっ!耐笑ちゃん!?しっかりして!!」
「キュウ…………」
猫は耐笑を抱きかかえると、耐笑は魂が抜けたかのようにぐったりとしていた。
「こっちに向いただけで気絶するとは…………どれだけ恐怖に耐性がないんだ……………」
猫は耐笑を背負い、墓に目を向けた。
「れれっれれれれっれれれれっれれ零君っ!!!こっち来てるこっち来てる!!!!!」
「どうしてそんなリズミカルに呼ぶんだ…………!?」
目線を耐笑から人影に変えると、人影は耐笑が気絶する前より近くなっていた。
零は足が軽く震えながらも、三人の前に立って武器石を剣に変え、牽制をとる。
「お前、誰だ?なぜこの時間にこんなところにいる。」
人影は徐々に輪郭が見え始め、零はそこにいる人が男性である事を理解する。
右目付近に少し前髪がかかった暗い青色のオールバック、右目には刃物で斬られたような傷跡があり、開けられないのか完全に閉じている。左目はわずかながら開いており、黄色がうっすらと見えている。自然を模したような服装だが、所々水色が入っており、少し変わっているような服装で、左腕には弓矢型の石が嵌められた銀製の腕輪をはめられている。よく見ると男性の耳がわずかに長くとがっており、目元には、酷い隈があり、とても健康そうには見えない顔つきだった。
「……………………何者だ。」
「いや、俺が先に質問したんだけど………俺は 有栖川 零 、冒険者だ。」
「そうか。」
ほんの少し老けたような、しかし若いようにも聞こえる声を持つ男性は四人に背を向け、墓へ戻る。
「…………おれの名は 射手矢 七彩 ……ここで、墓守をしている。」
「墓守…………?」
四人は七彩と名乗る男についていき、墓のそばに立つ。
「『二三味 伸椰』…………その人の墓なのか?」
「見ればわかるだろう……」
七彩は小さく返す。
「おれは、毎日ここで墓守をしている…伸椰だけではない…他の人の墓も、管理している…」
零は辺りを見渡すと、そこには十基以上の墓が横に二列並んでいた。
「この数を、全部七彩が……!?」
「一人で全部やるには、大変じゃない?」
「そうだろうか…………おれは、もう、慣れてしまった…………それに、時折、囁きが聞こえるんだ……………」
「囁き………?」
「そう…………お前達が、墓荒らしかもしれないという囁きが。」
七彩はそう言い、武器石を弓に変えて零達に矢を放った。
次の話は6月12日に投稿予定です。




