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定められた物語<ログストーリー>  作者: 霖雨 晴流
第二章 岩石の国と何かに限りなく似た物
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Rb.18 アパタイト

 零が硬直して数秒後、水夏は口を開く。


「あぁいや実はだな、別の村にサフラーで有名な歌手がライブをすると聞いてな。零くんは『アパタイト』を知っているか?」

「『アパタイト』?」

「えっ!?もしかしているの!?」


 零は聞き返すが、踊子は目を輝かせながらとても驚く様子を見せた。


「『アパタイト』はチェン・ジューと岩敷(いわしき) (ほたる)が歌っているコンビだ。サフラーで二人を知らない人はいないだろうな。『アパタイト』は定期的にいくつかの村を回ってツアーライブを開催するんだ。そのライブの開催地が、隣の村ってわけ。」

「そうなのか……っていうか、こんな時期にライブをして大丈夫なのか?」

「おそらくだが、少しでも不安を取り除きたいんだろう。各地で窃盗事件と冤罪が起きている中、国民はいつ事件が起きるのか、いつ冤罪になるか不安になりながら日々を過ごす。そんな人達の心を少しでも癒してあげたいんだろう。」

「癒せるのかわからないんだけど…………」

「いや、実際かなり助けにはなっている。楽しい気持ちを持ち続けるのは大事だからな。いつまでも恐怖におびえ続けていると、もはや何も信じられなくなって、最悪人間不信になってしまうからな。」

「そういうものなのか………?」

(でも、どこか怪しいような………………)


 零は不安な目で水夏を見る。


「その目は疑っているな?なら、実際に身に行ってみるといい。開催は明後日だから、明日出発しようか。それじゃ、アタイは仕事に戻る。またな。」


 水夏はそう言ってその場を去った。


「歌手、なぁ…………」

「『アパタイト』かぁ………………まさかこの目で拝められるなんて………………!!」


 踊子は両肘をテーブルに置き、両方の手のひらに顎を乗せてうっとりとする。


「そんなにすごいのか?」

「そりゃあもうすっごいよ!!!『アパタイト』の曲は本当に救われるんだぁぁ!!!零君も聞いてみなよぉ!!きっと心に刺さるって!!」

(まぁ、聞くだけならいいか………)


 満面の笑みのままでいる踊子を見て零はそう思った。



 翌日



「おはよう!!さて、そろったな。さぁ、次の村に行くぞ!!」


 水夏は大きな声で言い、三人は次の村に向かった。



 四時間後



 三人は隣の村に着いた。


「はぁ、はぁ、休憩があったとはいえ、山道が多くて疲れたな…………」

「そう…………だね………………」


 零と踊子は膝に手を置いて言う。


「大丈夫か?でも、村に着いたからいいじゃないか。」

「………………そういえば気になっていたけど、水夏は仕事とか大丈夫なのか?」

「アタイ?アタイはここを門番する事になったから来ただけだ。」

「…………え?じゃあ水夏は聞かないのか?」

「聞かないぞ?一度聞いたことはあるのだが、聞いた後は仕事に全く力が入らなくてな………聞きたい気持ちはあるのだが、聞いたらおそらく仕事をさぼってしまう。そうならないために、アタイは門番をしてくる。」

「あ、そう、か………」


 水夏は手を振ってその場を去った。


「えぇ~聞かないんだ~…もったいないなぁ……」

「でも、その事情があるなら、仕方はないな…」


 二人は門をくぐってまっすぐ進む。するとその先には大きなステージがあった。


「わぁ…………!!」


 大きなステージを見て踊子は目を輝かせる。


「ねぇ零君!!あれがライブ会場だよ!!!」

「大きいな…………二人が歌うにしては広すぎる。」

「ふっふっふ…………それはね、『アパタイト』の歌に演出が入るからなんだぁ!!」

「演出?」

「ただ歌っているだけだと飽きてしまう人もいるから、歌っている間に場を盛り上げるための演出を出すんだ!!だからあんなに広いんだよ!!」

「演出、か…」


 零はぽつりと言う。


「見たらわかるよっ!絶対盛り上がるから!!!」


 零はふと右に向くと、そこにはびっしりとポスターが貼られた壁があった。


「な、なんだあれ…………」


 壁の色さえ認識ができない程埋め尽くされたポスターを見て零はわずかな恐怖を覚える。


「あぁー…『アパタイト』のスタッフとファンの仕業かなぁ…行き過ぎた愛情表現って感じ?」

「あれはもはや狂信者だろ…………あれって許可はもっらているのか?」

「あの建物の持ち主が『アパタイト』のファンなら、喜んで受け入れてくれるはずだよ?それ以外は知らないけど……」


 零は別の方向に目をやると、不満げな顔で『アパタイト』のポスターを剥がす男性がいた。


(それ以外、は、ああいう人か……)

「手伝おうか?」


 零は背の高い瘦せ型の男性に近づいて話しかける。


「ん?あぁ、助かる。」


 零はポスターを剝がし始めた。


「『アパタイトライブ開催!今回ライブする場所はこの三つの村!今回はスペシャルゲストも登場予定!?お楽しみに!!』…スペシャルゲスト…?」


 右下に描いてあるマップにおそらく現在地であろう場所にぐりぐりと印をつけられたポスターを見て零は声を漏らす。


「誰なんだろうね。今までそういった事はなかったから、ファンも驚いているよ。」

「それで、こんなに貼るっているのか?」

「いいや、これはいつもの事だ。本当、やられる側はたまったもんじゃない。」


 零は黙々と剥がし続け、最後の一枚を剥がす。


「ありがとう、助かったよ!あんたがいなかったら、あと一時間はかかっていただろうね……」

「困っていたから助けただけだ。それに、俺も気になる事ができたからな…君はライブを見に行くのか?」

「もちろん見に行くさ。二か月に一回のライブだからね。数ある中でこの村が選ばれるのは、本当に運がいいよ!」

(二か月に一回か…)

「そうか、じゃ、明日はお互い楽しもうな。」

「あぁ!!」


 男性は笑顔で頷き、ポスターを持って帰った。


(スペシャルゲスト………なんだか嫌な予感が…………)

「零君、どうかした?」


 一枚のポスターをじっくり見る零に、踊子がひょこっと顔を出した。


「踊子は、スペシャルゲストが誰か知ってる?」

「えぇ~?知らないから楽しみなんだよ~!」

「まぁ、そうか。」

「でも、なんだかおかしいんだよねぇ~」

「おかしい?」

「『アパタイト』はライブで忙しいから、ゲストを呼ぶ暇なんてないって噂されているんだけど、気が変わったのかなぁ?」

「そう、なのかもな…………」


 零の予感が、次第に不安へ変わっていくのを零は感じた。


(明日のライブ、大丈夫なのか…………?)



 翌日



 零は踊子と共にライブ開始二時間前にもかかわらず、ライブ会場へ向かった。


「ちょ、早すぎないか…………?」

「なぁに言ってんの!?ファンは多いんだから、観客席なんてもはや戦場だよ!!!」

「せ、戦場?」

「ほら見て!!」


 踊子はそう言って指をさした先には、ライブが始まってすらないのにもかかわらず席を奪い合う人達がいた。その様子は、魔物と戦う時と同じくらいに状況だった。


「…………いつも、あんな感じなのか?」

「うん。あれでもまだ優しい方だよ。前は席をとるために手段を選ばない人だっていたんだから。今は暴力禁止で、そこそこ落ち着いているけどね。」

「あれで落ち着いているなんて、狂気すぎるだろ…………」

「さっ!ここで話してないで早く行こっ!!あたし達の席は奪われる前に!!」


 踊子は零の腕を引っ張って走った。


「あっっ!!零君!!一番前の席が空いてるっっ!!取られる前に取らなきゃ!!!」

(何その都合のいい展開…)


 二人は運よく三つの空席に座って一息つく。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………今日は運がいいなぁ…………」

「そうだな…」


 踊子は安心して背もたれに体を預ける。零は今起きた状況を疑っている。その二人の後ろでは、いまだに席を奪い合う人達であふれていた。


(本当に都合がよすぎる……まるで仕組んでいるような…………)


 零は顔をわずかに下に向けて考える。すると突然、目の前にズザァァァァァと地面に飛び込む少女が現れた。


「「………………えっ?」」


 たった今起きた事に二人は目を丸くする。


「い、いたい…………」


 真っ白で清潔だった賢者のような服にかわいらしい顔がついた帽子をかぶった少女は、小さな声で言う。


「いや、そりゃそうだろ…………」


 零は立ち上がって少女の前に立って手を差し伸べる。


「えっと、大丈夫、か?」


 少女は顔を上げ、泥だらけの顔を見せる。


「えっと……その…あぅぅ……」


 少女は言葉が詰まったかのような声で言い、目から涙が浮き出る。


「ご、ごめんなさい!!!!」


 やがて少女は大きな声で泣き出した。


「えっっ!?ちょっ!?なんで!?」

「零君っ!とりあえず座らせよう!!」


 踊子は少女を抱きかかえ、一番前の席に座らせる。


「うわぁ…服が泥だらけだぁ………こりゃ酷い…………」


 少女の服を見て踊子は言う。幼い顔つきの少女は目尻に涙を浮かべたまま「ごめんなさい」と言う。


「いや、大丈夫だ…………っていうか、何に対して謝っているんだ?」


 零は聞くが、少女は答えない。


「うーん…とりあえず、俺は有栖川 零、そして君を座らせた女性は八幡 踊子だ。君、名前は?」


 少女はぐしゃぐしゃになった顔で答える。


「わ、わたしは六車(むぐるま) 耐笑(たえ)って、言います……その…………選ばれた数字(ポインター)、です………………」


 耐笑と名乗る少女に、零と踊子は固まる。


「えっあなた選ばれた数字(ポインター)!?ほんと!?」

「は…………はいぃ………………」


 踊子の反応に耐笑は少し驚きながらも返事をする。その数秒後、耐笑は泣き始めた。


「や、やっぱりむりですーーーーーー!!」

「な、何が!?」

「わ、わたしなんかが選ばれた数字(ポインター)なんてできるわけがありません…………だから、無理、なんですーーーー!!!うわーーーーーーーん!!!!」


 耐笑は大声で泣く。


(この子、大丈夫か…………?)

(この子、大丈夫なのかな……)


 零と踊子は目を合わせて言った。


「と、とりあえず落ち着こう?な?」


 二人は耐笑の背中を擦って優しく慰める。耐笑は泣き止み、目を赤くしながら服を見る。


「うぅ…………服が、こんなに汚れてぇ………………」

「どうする?『アパタイト』が目の前にいるのに、泥だらけの服で応援するわけにもいかないだろ。」

「あ、えぇ、と…………それについては、問題…ない、です…」


 耐笑はそう言うと、ネックレスとして身につけていた武器石(ウェポンブロック)を耐笑の身長より少し短い杖に変え、静かに唱える。


「か、風・水魔法 クリーン!」


 すると耐笑の服についていた汚れが一瞬にして落ちた。


「…………えっ!?何その魔法!?」


 その様子に、踊子は目を大きく開けて驚く。


「ふ、ふだんは掃除用に使われる魔法、です………それを…服の汚れを落とすために使った…です。」


 耐笑はおどおどしながら言う。その様子に対して踊子は拍手した。


「へぇぇぇ!すっごいじゃん!!」

「い、いえ!すごい事では、ありません…」


 踊子は耐笑をほめたが、耐笑は杖を元の姿に戻し、両手を振って否定する。


(もしかして耐笑って、自己肯定感が低い人なのか……?)

「話が変わるけど、さっき耐笑が急に俺達の前を滑っていたよな?何かあったのか?」

「い、いえ…………何もありません………………」

「いや何もない事はないだろ!?」


 耐笑の言葉に零はツッコミを入れる。


「それが………つい先ほど『アパタイト』のお二人に会いまして……お二人が、前の席に座ってほしいって、わたしに頼んだんです…………」

「えっ!?『アパタイト』に会ったの!?すっごいじゃぁぁぁん!!!」


 踊子は耐笑の両手を握る。


「ふぇっ!?」

「ねぇねぇ!!耐笑ちゃんって『アパタイト』のファン!?ライブ以外の時の『アパタイト』ってどんな感じだった!?」

「えぇっっっっとぉ………………」

「ねぇねぇ!!詳しく聞かせてよ!!どんな感じだったの!?」

「も、も、もうむりですーーーーーーーーーー!!!!」


 踊子が耐笑に迫っていると、耐笑は泣き叫びながら頭が爆発したかのような動きを見せ、気絶した。


「………………踊子、手、放してあげて。」

「えっ?なんで?」

「おそらくだけど、踊子の明るいオーラに耐笑が耐えられていない。」

「そうなの?」

「勘だけどね。」


 耐笑はぐったりとした。


「………とりあえず、今はライブが始まるのを待つとしようか。」


 二人はそのまま席に座り、ライブが始まるのを待っていた。

次の話は5月31日に投稿予定です。

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