Rb.17 ロックアント
踊子が再び倒れ、再び回復した後、零と踊子は冒険者ギルドに行き、依頼を受けて村を出た。
「零ってリベルタージュから来たんだよねっ?サフラーの魔物と戦った?」
「サフラーに行く道中、砂スライムとサンドリザードを倒したくらいだな。」
「なぁるほど~。それじゃ、もう少し他の種類の魔物と戦った方がいいかも?」
別の村へとつながる道をたどり、少し遠くにある橙色の山を見ながら踊子は人差し指を顎に当てて言う。
「そうなのか?」
「なんとなくだけどね~。ま、サフラーの事件が解決した後は魔王討伐にも向かうんでしょ?魔王城には魔物が山ほどいるし、いろいろな魔物と戦う経験を積んでおいて損はないんじゃないかな~なーんてっ。」
「それもそうか。」
二人が話していると、真横から風の刃が飛び出した。
「っ!!」
零はそれに気づき、武器石を剣に変えて風の刃をはじいた。零は風の刃が来た方に目をやると、そこにはゴブリンがいた。
「おぉ~さっすがー!」
「魔法を使うゴブリンがいるとは……」
「そりゃいるよ~。あれはマギアゴブリンだね。」
(マギアゴブリン、魔法が使えるだけのゴブリンか。なら、対して強くはないな。)
零はマギアゴブリンに向かって走り、一気に距離を詰める。マギアゴブリンは次の魔法を放つ準備を整えているが、その間に零は斬る構えをとっていた。零は迷いなくマギアゴブリンを一刀両断する。
「…うん、弱いな。」
「まぁゴブリンだからね。」
マギアゴブリンが動かなくなっている事を確認した零は踊子の近くに寄る。
「…………あっ。」
踊子に近づく零を見て踊子は何かに気付く。その様子に零は頭を軽く傾ける。
「零君、ちょっと横に移動して。」
「ん?わかった。」
零は指示通りに動くと、踊子は槍を持ち、零が踏むはずだった土を突き刺す。すると「ギャァ!」と断末魔が響き、地面の中からサンドリザードが飛び出る。
「サンドリザードか……?全然気づかなかった……」
「わかりづらいもんねぇ…………これについてはもう慣れだね。」
踊子は槍を武器石に変え、落ち着いた様子で話す。
「マギアゴブリンって、確かどこでも生息する魔物だよな?」
「うんうん。ゴブリンやスライムは種類は違えど基本どこにでもいるよ。」
「うーん…………できればゴブリンやスライム以外の魔物と戦いたいんだけど……」
「例えばどんな魔物?」
「宝石に擬態するジェマーって魔物とか……」
「あぁ~、ジェマーかぁ。それじゃあ、山に行かないとねっ。」
二人は近くの山に向かった。
「ジェマーは宝石に擬態しているから、普段は土の中にいるんだ。」
「だからジェマーと戦うには、土を掘る必要がある、と。」
「そうなんだけど、土の中を闇雲に掘っていくってすっごく大変だよね?だから、土を掘らずにジェマーを見つける方法があるんだ!」
「ロックアントの巣を探す?」
「よく知ってるね!?正解!!」
「リベルタージュで学んだからな……」
「石を食べるロックアントは餌を巣の中に集めるんだけど、その中にジェマーがいる時があるんだ!」
「ジェマーを巣の中から引っ張り出すには、ロックアントをほとんど倒して巣を掘らないといけないんだよな?結局、掘る事に変わりはないのか。」
「ジェマー自体全く動かないからなぁ…まあでもいいんじゃない?ロックアントって巣の中に大量にいるから、素材もたくさん集まるし、経験も積めて一石二鳥だよっ!」
「そう、なのか…………?」
二人が話しながら歩いていると、零は地面にある不自然な穴を見つける。
「これ……ロックアントの穴、だよな?」
「そうだね!それじゃ、ロックアントが出てくるまで待とっか!」
「待つのか?待つにしても、時間はどれくらいかかるんだ?辞典には記載されていなかったんだけど…………」
「…………さぁ?」
踊子は首をかしげる。
「えっ?」
「だって戦った事ないんだもん。ロックアントは餌を探す時以外外に出ないから、いつ出てくるのかわからないんだ。」
「………まじか。」
(じゃあどうする…………?待つにしても暇だし、最悪収穫なしで今日を過ごすかもしれない…いったいどうすれば…………)
「う~ん、巣の中を一気に掘り出せる魔法があれば良いんだけど…………」
(魔法…)
零はピーンッ!と閃いた。
「よし、じゃあ、魔法を作るか。」
「えっ?」
零はそっと目を閉じ、穴を中心に魔法陣を出す。
(範囲を決め、土魔法の力で巣を無理やり上にあげる。そうすれば…………!)
「創作魔法 土流天井!」
零が唱えると、魔法陣の下にあった土が四、五メートル上へ運ばれ、巣の中があらわになる。
「…………えっ?」
土は重力に従い、真上へ飛ばされた土がさらさらと崩れ、小さな山を作る。巣の中にいたロックアントは真上に飛ばされ、土に埋もれながらももぞもぞと動いて外に出る。
「よし、出てきたな!!戦闘開始だ!!」
「ちょちょちょ!!!!零君何したの!?たった今起きたことを説明して!!!」
「魔法を作っただけだよ。」
「『作っただけだよ』じゃないよ!!??」
落ち着いた様子で話す零に、踊子は真似しながらも突っ込む。
「話は後だ!今は戦いに集中するぞ!」
「え、えぇー…………」
踊子は状況に脳の処理が追い付いていないが、武器石を槍に変えて先頭の構えをとる。ロックアントは山から這い出て零を見ると、前足を上げて「キィーーーー!!!」と威嚇した。零は何も言わず威嚇するロックアントの頭と体の間を剣で斬る。するとロックアントは頭と胴体を切り離され、動かなくなった。
(’脆いな。これなら早く終わりそうだ。)
「次っ!」
零は声を上げ、土の中から次々と湧いて出るロックアントを斬り続ける。
「な、何が何だかわかんないけど、や、やるしかない!!いっくよぉぉぉぉ!!!!」
踊子は考える事を辞め、戦いに集中した。
五分後…………
山の中からロックアントが出なくなり、辺りには死体でいっぱいになった。
「はぁ、はぁ…勢いが止んだ………じゃ、これで終わりか。」
「そ、そう、だね…」
二人は剣と槍を元の形に戻す。
「弱いとはいえ、これほどの量を相手していたとなると疲れるな……………まさか、巣の中に50匹以上いるなんてな…これが普通なのか?」
「いや、おそらく稀かな……あたしも戦った事ないからわかんないけど、ロックアントって多くても30匹が住める巣を作るらしいから……かなり珍しいかも。」
「珍しいのか。それなら、ジェマーのいる可能性も…………」
「どうだろ…………」
二人が話していると、突然零の視界がぼやける。
「っ!?」
零は右手で頭を掴み、ふらふらした様子を見せる。
「零君っ!?大丈夫!?」
(この感じ…まさか………魔力切れ…………!?)
零は倒れそうになるが、踊子が零を支える。
「ねぇ、大丈夫!?」
「魔力が切れた………ポーションがあるから大丈夫だ……………」
「魔力切れ…………!?もしかして、創作魔法?って魔法の反動!?」
零はアイテムボックスから魔力回復ポーションを取り出し、全て飲み切る。すると視界が晴れ、体調も回復する。
「助かった。ありがとう。」
「大丈夫だよ!それにしても、急にふらふらになるなんてびっくりしたよ!!零君、その魔法、使っちゃだめだからね!!」
「………………………………………………善処する。」
「何その間…」
零は一人で立てるほどの体力まで回復すると、踊子からほんの少し離れて山に近づく。零は山を掘ると、中からたくさんの石と宝石を見つけた。
「これがロックアントの餌か。」
「そうだね。ロックアントの数が多かったからかな、石と宝石も多い…」
零は何の変哲もない石を取り出し、じっと見る。
「たしか、石に擬態する魔物もいたよな…?」
「ロックゴーレムの事?あれは石というより岩かなぁ。」
二人は宝石を集め、別の場所に運ぶ。
「ジェマーは宝石よりも軽く、輝きが弱いらしい。重さはともかく、輝きが弱いってなんだ…?」
「単純に反射している光が弱いんじゃないかな。」
「そうだといいんだけど…」
二人は宝石を一つずつ持ち、確認を始めた。
「…………全っ然わかんねぇ。」
「零君、この作業を始めてどれくらい経った…………?」
「おそらく十分…………っていうか違いがわかんねぇ。ロックアントってこんなに宝石を集めるのか……?」
「わからない………あ゛つ゛い゛……………あ゛つ゛く゛て゛と゛け゛ち゛ゃ゛い゛そ゛う゛…………………………………」
「踊子の場合本当に溶けそうだからやめてくれ………………ここで溶けたらまずいぞ……………」
踊子は零の右手にある緑の宝石を見る。
「そういえば零君、右手にある宝石をずーっと持ってるけど、それがジェマーだったりしない?」
「…………………………………………ありえるかも。」
零は緑の宝石をじっと見る。その数秒後、宝石から虫のように細い手足が「こんにちは」と言っているかのようににゅっと出た。
「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!?????」
突然目の前に起きた事に零は驚きのあまり声さえ出なかった。零は宝石に擬態する何かを投げようとしたが、投げる寸前で止めた。
「ちょっ!これがジェマーか!?」
「多分そうかも!やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
さっきの力尽きそうな声はどこへ行ったのか、踊子はとても元気な声で叫ぶ。
「やっと!!やっとみつけたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「なんか軽いなと思っていたら、そういう事だったのかよ…………ところで、これ、どうする?倒すか?」
「うーん、どっちでもいいかなぁ。ジェマーってそこまで害がある魔物じゃないし、ほっといてもいいかも。」
「じゃ、逃がすか。」
「あーーーちょっと待って!!もう少し眺めさせて!!!」
踊子はそう言ってジェマーに顔を近づける。
「これがジェマー……………!!輝きが弱いとは言っていたけど、全然違いがわかんないや……………」
「軽い事だけはわかるけど、輝きはわからないな……………」
ジェマーは暴れることなく、されるがままとなっている。
「……………ジェマーって、捕まらないようすぐに逃げようとするって聞いたことあるんだけど、この子はおとなしいんだね。」
「確かに…………逃げようとしないな…………」
(本には捕まえられてもすぐに逃げ出そうとするって書いてあったけど、本当なのか…………?)
「そろそろ逃がそっか。」
零はジェマーを地面に置くと、ジェマーは地面の中にもぐり、姿を消した。
「…………………………はぁ、長い戦いだった。」
「正直、ロックアントの群れと戦うのと同じくらい大変だったかも…………」
「同感だ…………」
零はロックアントの死体を見る。
「さて、ロックアントを剥ぎ取るか。たしか殻が鎧に使えるんだっけ。」
「そーだよ!ロックアントの体は堅いからね!その代わり、頭と体をつなぐ部分が脆いけど。」
(だからあんなにスパッと斬れたのか…………)
二人はロックアントを剥ぎ取り、零のアイテムボックスに入れようとした。しかしアイテムボックスに入った量は全体の三分の一にも満たず、二人で全体の半分を持ち、もう半分は諦める事にした。
二人はロックアントの殻を抱えながら出発した村と同じ村に戻り、冒険者ギルドに入る。
「あっ、アリスさんと踊子さん。お疲れ様です!今日はどう、で…………」
「見ての通りだ…………」
二人が大量に抱えるロックアントの殻を見て受付嬢は言葉を失う。
「…………殻を入れる籠を持ってきますね!!」
「助かる。」
受付嬢は席を外し、十秒後、大きな籠を持って零と踊子の前に立った。
「こちらに殻をお入れください!!」
二人は指示通りに殻を入れる。二人が抱えた分だけで籠はいっぱいとなった。
「こんなに多く…………お疲れ様です!」
「いや、アイテムボックスにこれと同じくらいの量の殻がある。とりあえず置く場所を教えてくれないか…………?」
「わ、分かりました!!ではこちらへ!!」
受付嬢は案内し、用意された部屋で零はアイテムボックスの中にある殻を全て出す。
「こんなに多くの殻を………お二人で…………?」
「…………実は、これでも半分くらいの量なんだよね。多すぎて持ち帰れなかったから証明はできないけど………」
踊子の言葉に、受付嬢は再び言葉を失う。
「流石、選ばれた数字、ですね………………」
(これ、そんなにすごい事なのか………?)
「それでは、殻の数を確認してまいりますので、少々お待ちください!」
零と踊子は部屋を出て椅子に座り、休憩した。
数分後…………
「アリスさん、踊子さん、数え終わりましたので、受付にきて下さい。」
二人は受付嬢に呼ばれ、受付へ行った。
「お二人がお渡しした殻の数、ロックアント40匹分、ただいま受け取りました。よって、ロックアント40匹分の賞金をお渡しします。」
受付嬢はそう言って二人にお金を渡す。
「八日分の生活費……か。初めて協力して倒したにしては上々じゃないか?」
「はぁ………あそこにある殻全部持ってこれたら、16日分の生活費になったのになぁ…………」
踊子がわかりやすく落ち込む。
「仕方がない。誰にだって限界はあるもんだ。」
「お二人にお聞きしたい事があるのですが、これほどのロックアントの殻の数、もしかして群れに襲われたのですか?」
「いや、巣を一つだけ見つけただけだ。でもその巣には普段より多くのロックアントがいたらしくて…………」
「40匹以上のロックアントの巣、ですか……………その巣は壊しましたか?」
「あぁ、壊した。」
「それでしたら、ロックアントの巣を壊してくれたお礼として、追加報酬をお渡しします!」
受付嬢は嬉しそうに言い、二人にさらにお金を渡す。
「この金額…………二週間分の生活費じゃん!!!本当にいいの!?」
「はい!ロックアントは一匹だけなら危険性はありませんが、巣を作ると厄介になるので、巣を壊してくれたのであれば追加で報酬を渡す事になっているんです。」
(そういえば辞書に書いてあったな……………ロックアントの巣はとても広く、あちらこちらに掘っているから、その分地面が空洞になってその上を通る人が足場を崩してしまう恐れがあるって…)
「じゃ、ありがたくもらうとしよう。」
零はもらったお金をアイテムボックスに入れる。
「お疲れさまでした!ゆっくりお休みください!!」
受付嬢は満面の笑みで言った。二人は冒険者ギルドを出て近くにある食事処へ向かい、休憩をとる事にした。
「……………さて、何をしようか。」
「昼と夕方の間だもんね~。なぁにしようかなぁ~………」
二つのコーヒーを置いたテーブルをはさんで座り、踊子は頬杖をついて言う。
「ん?零くんじゃないか。まさかこんなところで会うとはな!」
突然、背後から女性の低い声が二人の耳に届く。
「その声、水夏?」
零は振り返ると、そこには褐色肌と白い髪が特徴的な坂木 水夏がいた。
「そのとおりだ!冒険者の仕事は順調か?いや、聞くまでもないか!もう噂は広まっているのだからな!」
「噂…?」
「選ばれた数字が大量のロックアントの殻を冒険者ギルドに持ってきたってな!ギルド内ではその話で持ち切りだ!」
「そんなに噂になっているのか……」
「んなっはっはっは!!そりゃあ噂になるさ!!何せ、リベルタージュを一人で救った英雄だからな!!」
水夏の言葉に、零はズキンと胸に痛みを感じた。
(……………?)
零は右手を胸に置くが、なんともなかった。
(なんだ…今の痛みは………?)
「ところで、そこにいる踊り子のような人が選ばれた数字かい?」
「そーだよっ!あたしは八幡 踊子!槍使いだよっ!よろしくねっっ!」
「アタイは坂木 水夏、各地で門番をしている。よろしく!」
踊子と水夏は握手した。
「ところで君達、明日は暇か?」
「えっ?まぁ、俺は暇だけど…」
「あたしも暇だよっ!!」
「そうか、ならば明日、別の村に行かないか?」
水夏の提案に、零は固まった。
「…………………………えっ?もう?」
次の話は5月27日に投稿予定です。




