Rb.16 熱血の踊子
「っ!?だっ大丈夫か!?」
突然目の前に起きた事に零は脳の処理に追いつかず、倒れた女性に駆け寄る。
踊っていた時よりも髪がふわふわになった女性は起きる様子がなく、静かに目を閉じている。その様子はまるで眠り姫のようだった。
「お、おいっ!!」
零は女性の脈をはかる。女性の脈は問題なく動いていた。
(生き、ている…じゃあ、寝ているだけか………?なぜ急に…………?とりあえず、宿に運ぶか…………?いや、医療施設か………?)
零は少し考え、医療施設は開いていない事に気付き、女性を宿に運ぶ事にした。女性を宿に運び、本来は零が使うはずだったベッドに女性を寝かし、零は近くにあった椅子に座った後、女性のが無事であることを確認して眠った。
翌日…………
「うぅ…………ん……………………」
眠っていた女性が目を覚ます。
「あれ…?ここは………?」
女性は見渡すと、椅子に座って静かに眠る零の姿があった。
「…………………っっっ!!けだものーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!」
状況を理解した直後、女性は髪飾りにしていた武器石を槍に変え、零を斬る構えをとる。
その直後、零はゆっくりと目を覚ました。
「……………………えっ?」
零は目の前に起きている事を整理しようとするも、見るよりも早く感じた事は命の危機だった。
「あたしの華麗なる槍技にやられなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!」
「えっ!!ちょっっ!?」
女性は零を全力で斬るが、零は武器石を剣に変えて攻撃を防ぐ。
「あっぶなぁ!!!!倒す気!?」
「当然倒す気だよ!!!君みたいなけだものなんて今この場で成敗してやるーーーーーー!!!!」
「ちょっっ待っっっっ!!!!」
女性は続けて攻撃するが、零は回避と防御を続ける。
「お客様!?何事ですか!!??」
二人がドタバタしている中、扉からこんこんとノックする音が響く。
「たっ助けてください!!女性に襲われてます!!」
「あたしの方が先に襲われてるよ!!!さっさとやられなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」
店員が扉を開け、女性の全力の槍技を回避した直後、零の真後ろにあったベッドが壊れる。
「あっ。」
「やべっ…………」
物を壊した衝撃に二人は固まる。店員は数秒硬直し、その間に溜まった言葉を吐き出す。
「っっっっっ出て行ってください!!!!!!!!」
「……………ごめん。」
「いや、俺の方こそごめん…………」
宿を追い出され、少し離れた場所で零と女性は互いに謝る。
「………………実は昨日の夜、君が一人で踊っているのを見かけてさ、踊り終わるまで見ていたら、突然君が倒れたんだ。真夜中だったから医療施設も開いていなくて…それで、俺が今泊っている宿まで連れて行ったんだ。」
「あぁ、なるほど…………」
女性は遠い目で言う。それを見た零は疑問に思う。
「どうかしたのか?まるで、何か察したような目をしているけど……」
「…………実はあたし、踊った記憶がないの。昨日の夜、あたしはあたしの家で寝ていただけなんだけど、夢遊病が発症したのかな…?たまに起きるんだ。」
「夢遊病?」
「知らない?本人は寝ているんだけど体は動いていて、どこかに歩き回る病なんだ。」
(昨日の夜のあれは歩き回るなんてレベルじゃねぇけどな…………)
「たまに起きるのか?」
「うん、たまにね。」
女性はそう言っているが、零の目には何か別の事情があるようにも見えた。
(…………いや、ここで調べる必要はないか。プライベートの話になるかもしれないし。)
零が考えていると、女性は両手をぱんっ!とたたき、笑顔を見せる。
「さて、暗い話はここまでにしてっ!自己紹介しよっ!あたしは 八幡 踊子 !選ばれた数字で、槍使いをしているんだ!!」
八幡 踊子と名乗った女性に零の目が点になる。
「……えっ?君選ばれた数字なのか?」
「うん、そーだよ?」
「…まじか、まさかここで見つかるとは……俺は有栖川 零、選ばれた数字の『0』だ。」
零の言葉に、踊子の表情が明るくなる。
「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!貴方が噂の『アリス』ちゃん!?どんな子かなぁって思ってたけど、貴方だったんだぁぁ!!女の子っぽくてかわいいぃぃぃぃぃ!!!」
踊子は零に抱き着くが、その直前、零のトラウマが呼び起こされる。
「そう…………■■はかわいくならないとだめだよ…………?ちゃぁんと、かわいくならないと、どうなるか、わからないからね?」
脳内に響く男性の声に、零は青ざめ、呼吸が急激に浅くなる。
「アリスちゃん!?だだだだ、大丈夫!?」
「うぅぅぅ…………おえぇ……………………」
零はその場にうずくまって右手で口を押え吐き出さないようこらえていたが、その場しのぎにもならず、嘔吐して倒れた。
「わわわわわわ!?え、えぇぇぇとっ、どど、どうしよう!!??ち、近くに医療施設は……!?」
「あれ、よーちゃん?どうしたの?」
踊子が慌てていると、近くを通りかかった清潔な服装の女性が声をかける。
「そ、その声はるーちゃん!!アリスちゃんが突然吐いちゃったんだ!!あ、あたしどうしたら……」
「落ち着いて!近くに私が働いている医療施設があるから、そこに行こう!!」
踊子は零を背負って女性と共に医療施設へ向かった。
女性は患者の部屋に案内し、踊子は零を真っ白なベッドに下ろす。零の表情は依然として青ざめており、間違いなく体調は優れていなかった。
「るーちゃん、アリスちゃん大丈夫なのかな……?」
「重症ではあるけれど、命に別状はないね。」
眠っている零の額に手を置き、表情を診て女性は言う。
「この子、嘔吐する前までは大丈夫だったの?」
「うん、元気そうだった。その子が選ばれた数字の『0』である事がわかって、あたしはその子に抱き着いたんだけど、そしたらその子の体調が悪くなっちゃって……」
「本当に突然体調が悪くなったんだね…………何か不自然なところはなかった?」
「なかったよ。ごまかしている様子もなかったし…………」
「うーーん……しばらく安静にしておきましょう。時間が解決してくれるかもしれない。よーちゃん、ここは私に任せてもいい?」
「うん、お願い。」
踊子はその場を去り、女性は零の看病をした。
十分後……
零は目を覚ました。
「…………」
(ここ、は……俺は、何を…………?)
零は過去を振り返ると、トラウマを呼び起こす寸前で理解し、頭を振って無理やり記憶を飛ばした。
(あぁ、そうか、あの時に…………)
零は体を起こして周りを見渡すと、そこには宿とは違って清潔感にあふれた部屋の中にいる事を理解した。
「失礼します。」
状況を完全に把握した直後、扉の奥から女性の声が響き、部屋に入る。清潔な仕事服を着た女性は零を見て驚きの表情を見せ、カルテを右手に零に近づく。
「有栖川さん、起きたんですね!!」
「えっ?えっと、誰?っていうか、ここは?医療施設?」
「はい、ここは村の医療施設です。そして私はここで働いている塩谷 瑠璃と申します。あなたは、有栖川さんでいらっしゃいますよね?」
「あ、あぁ。」
「あなたが今どのような状況なのか理解していますでしょうか?」
「大体はな………踊子が運んでくれたのか?」
「はい。突然倒れてとても慌てていましたが、ここまで運んでくださいました。」
(あとでありがとうって言わないとな…………)
「有栖川さん、体調はどうですか?」
「悪くはないって、言ったところかな……」
「そうですか…………今日の朝の体調は大丈夫でしたか?」
「あぁ、問題はなかった。」
「なるほど…では、よーちゃん、八幡さんの言葉に原因があったのですかね……」
「言葉……そうだな。踊子の言葉に、トラウマを呼び起こされた。」
「そうですか……八幡さんには後で連絡しておきます。とりあえず、食事を用意してまいりますので、安静にしておいてください。」
「わかった。」
瑠璃は部屋を出て、零は横になる。
(トラウマ、な…………)
数分後、瑠璃は軽い食事を持って部屋に入った。
「失礼します。有栖川さん、こちら、食べられますでしょうか?」
「問題ないと思う。」
「そうでしたか!では、こちらを食べ終わりましたらよんでください。」
瑠璃は退出した。瑠璃が持ってきた食事は味が薄い物の、栄養は満点だった。
食事が終わった直後、部屋の奥からドタバタと走る音が響く。
「零君っっ!!大丈夫!?」
そして扉を蹴破らんばかりの勢いで入ってきたのは踊子だった。
「あぁ、大丈夫だ。体調も、優れてきた。」
「よ、よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
踊子は安堵し、力が抜けたように座る。
「ごめん零君……あたしが何も考えず適当に言っちゃったせいでこうなったんだよね…?本っっ当にごめん……」
「いや、気にしなくていい。俺は大丈夫だから。」
「うぅ~……」
踊子は目じりに涙を浮かべていた。
「話が変わるけど、踊子は槍使いなんだよね?」
「うん…………」
「槍使いにしては、少し動きにくそうな服装をしていると思うんだけど、なぜその服装なんだ?」
零は派手過ぎてはいないがドレスのように綺麗でキラキラした服装を見て言った。
「あぁー、この服?実はあたしね、踊るのが趣味なんだ!!」
「踊り子、って事か?」
「そうそう!踊り子兼槍使い!!まぁ、冒険者として活動するなら槍使いなんだけど…たまに、この村で踊っていてね、かといって槍使い重視の服装じゃ地味だし、踊り子重視の服装だと戦闘時動きづらいし、いちいち着替えるのも面倒だし、緊急時に対応できないから、槍使いと踊り子を両立させた服装をオーダーメイドしたんだ!!」
「なるほど、そういう事だったのか。」
「零君から見たら、この服は先頭に向いていないように見えるけど、案外この服は動きやすいんだよ?」
「そうなのか?」
「うんっ!それで、あたしはこの服でたまに踊りながら、槍使いをしているんだ!零君は、何使いなの?」
「何使い?あぁいや、俺は武器全般に適性があるから、何使いかと言われたら…………」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!零君全部の武器使えるのーーー!!??すごーーーーい!!!」
零の言葉に、踊子はオーバーリアクションのような反応をする。
「そういう事だから、何といえばいいのか…」
「じゃあ、零君は武器使いだね!!」
「………まぁ、そうか。」
「すっごーい!!選ばれた数字って、国の問題を解決する力を持っているんだよねっ!!それじゃあ、二人で窃盗事件の解決、頑張るぞーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「お、おー…………?」
零は燃え上がっているような踊子のテンションに追いつけず、雰囲気で乗り越えようとする。
(なんというか……随分熱血な人だな…………)
零は踊子を見ていると、踊子の髪や頬に水滴が伝っている事に気付く。
(……………………?)
踊子は水滴に気付かず、依然として心を燃やしている。しかし時間が経つにつれ、踊子に伝う水滴の量が増え、次第に踊子の迫力も失われているようにも見えた。
「おおーーーーーーーーーーー…………………………………………」
やがて、踊子は溶けて前に倒れた。
「はっ!?おいっ!!大丈夫か!?」
(なんでまた倒れてんだよ!?無限ループじゃねぇか!!)
「あ゛、あ゛つ゛い゛……………………………」
「え、暑い……………………?」
(今、涼しい気がするんだけど……)
全身から水があふれ、踊子がベッドを濡らす中、零は混乱していると、瑠璃が部屋に入った。
「失礼します……………って、よーちゃん!?大丈夫!?」
瑠璃は急いで踊子に駆け寄った。
「なんか、ついさっきまですごく元気で、熱血だったんだけど、急に髪や体から水滴が出てきて、今はこのようになってて……」
「……………あぁ、じゃあ、またやってしまったのね。」
「……………………また?」
瑠璃の言葉に零は首をかしげる。
「よーちゃんは昔から心が燃える時があるんだけれど、心が燃える度、このように体中から水滴が出て倒れてしまうの。どうやらよーちゃんは暑さに弱いみたいで、自分の熱でさえ溶けてしまうらしいんだ………………」
「自分の熱で!?いやそれより、踊子、お前この国に向いてないだろ!!」
「そう思うよね…………でも踊子にはここに住む理由があるらしくて……………」
「あ゛つ゛す゛き゛る゛………………」
「はぁ…仕方ないなぁ………」
瑠璃はため息をついて踊子の真上に魔法陣を出す。
「氷魔法 キュールネーベル」
瑠璃が唱えると魔法陣から冷気と雪結晶が降り、踊子に落ちる。
「…その魔法で、何とかなるのか?」
「応急処置って、ところかな。ここみたいに、涼しい場所で一休みすれば元気になるのだけれど、アリスさんやよーちゃんって選ばれた数字でしょう?早く元気にした方がいいんじゃないかなって。」
「それもそうか。」
数分後……
「う~ん、復活!!!」
踊子は起き上がり、元気になった。
「よーちゃん、まーたやっちゃったね。」
「あはは………またやっちゃったぁ………………」
「もう、気を付けてね?」
「はぁい。」
踊子は軽く返事をした。
「…さて、とりあえず二人にはここで1日休んでもらうけれど、明日はどうするの?」
「俺は冒険者ギルドに行こうかな…………そういえば、水夏さんに今どこにいるのか教えてない…」
「そのことなら大丈夫です!私がギルドに連絡しておきましたので!」
「本当か!助かる!」
「明日、かぁ、どーしよっかなぁー。なんにも決めてないんだよね~」
「だったら、村を出て魔物を倒しに行かないか?お互いどれほどの能力を持っているのか確認してないだろ?」
「確かにそうだね!じゃあ、明日は魔物狩りの時間だー!」
踊子は元気に叫ぶ。
(あれ、この感じ………………なんだか嫌な予感が………)
零の目には、心が燃えている踊子の姿が映った。
「他の選ばれた数字がサフラーにいる事を信じて、人々の冤罪を救うために…犯人を懲らしめるために……!!」
踊子は話しながらこぶしを握り、目に炎がつく。
「がんばるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」
そして、踊子は大きく叫んだ。そしてその直後、またしても自分の燃え上がる熱意に体が溶け、その場に倒れた。
「あ゛つ゛い゛ぃ゛……………………」
一人で勝手に溶けている踊子を見て零は感じた。
果たしてこの先、上手くやっていけるのだろうか、と。
次の話は5月23日に投稿予定です。




