Rb.14 サフラー
「……………………?」
零がサフラーに入って約10分後、零は立ち止まり、後ろを振りかえる。しかし後ろは何もなく、はるか遠くにかすかな緑があるだけだった。
(何か、忘れているような………何だろう…………まるで、心のどこかに穴が開いたような…………)
「気のせい、かな……」
零は前を向き、足を進めた。
「…………………………………………あっっっっっつい!!!!」
零が再び歩き出して5分後、溜まりに溜まった愚痴が吐き出される。
「リベルタージュと気候が違うとはいえ、ここまで暑いとは思わないよ…」
零はリベラ王の言葉を思い出す。
「そういえば、衣類を用意したって言っていたよな………衣類ってなんだ……?」
零は立ち止まって知らぬ間に覚えていた『アイテムボックス』という魔法を使い、リベラ王に渡された袋を開く。袋の中は大量のお金と、一週間分の非常食、大きな帽子、マフラー、分厚い服、そして水が入っていた。
「………帽子はわかるけど、なぜマフラーと分厚い服…………?使う時があるのか?」
零は大きな帽子をかぶり、冷えた水を飲む。帽子のおかげなのか水のおかげなのかなのか、暑さが和らぎ、歩きやすくなった。
「ふぅ……歩くか。」
零は再び足を進めた。
「………………ん?もしかしてあれが村か?」
零は遠くにある建物らしき四角の何かと門らしき何かを見つけ、少し安堵する。
「はぁ…やっとか。それにしても、魔物いなかったな…何かあったのか…?」
零がつぶやくと、まるで空気を読んだかのように、ある魔物が零の目の前に現れ、道を塞いだ。
「…まじか。」
現れた魔物はどことなくスライムに似ていたが、目の前にいる魔物は無色透明なスライムと違い、砂をまとったような魔物だった。
「辞典にいたな…たしか、砂スライムだったか?見て数秒で思いつきそうな名前だな……覚えやすいからいいけど。」
零は武器石をチャクラムに変え、狙いを定める。
「これを……投げる!!」
零は砂スライムに向かってチャクラムを投げると、チャクラムはスライムを真っ二つに斬った。二つに斬られた砂スライムは消滅した。
「おお、うまくいった!あとはあれを回収するだけ」
零が言う間にチャクラムはカーブし、零に向かう。
「あぶなっ!!」
チャクラムが零の手元に戻ろうとした瞬間、零はとっさにチャクラムを避けた。
「戻ってくるのか…!?てっきり戻らずに武器石の形で手元に来ると思っていたんだけど……投擲武器としてはいいと思うけど、これ以上はいいかな……」
チャクラムが本来の武器石の形となって零の手元に戻る。
「それにしても、イロカはチャクラムを二つ持って戦っていたよな……でも武器石は一つしかもっていなかったような……チャクラムを二つ持つには武器石が二つ必要なのか…………?ま、気にする事ではないか。」
零は歩き始めると、突然足元からぐにっと柔らかくも固くもない感触が零に伝わる。
「…………ぐにっ?」
零は足元を見る。するとそこには目を光らせ、明らかに怒ったような顔をする全長一メートルのトカゲらしき生物がいた。
(そういえば、辞書に書いてあったな……魔物の中には環境に適応して擬態する魔物がたくさんいるって……って、事は……)
「これ、もしかしてまずい感じか?」
零は足を退けると、トカゲはブルブルと体を揺らして砂を払い、輪郭をあらわにする。
(サンドリザード……砂に擬態して獲物を狩る魔物……基本的にこちらから攻撃を仕掛けなければ何もしてこないといっていたけど…)
サンドリザードと呼ばれたトカゲは零を睨んだ。
「…………はぁ、倒すか。」
零はサンドリザードにひるまず、武器石を剣に変えた。サンドリザードは走り始め、零にかみつこうとする。しかし零はそれを避け、隙ができたサンドリザードに剣を振り下ろす。
「おらぁっ!!」
剣はサンドリザードに直撃したが、体はおろか皮すら刃が通らず、ガキィィン!と音が鳴った。
「かっっっっっっっっっっっっっったぁ!!!!」
零はあまりの硬さと、剣から手に伝わった振動で手がしびれ、剣を落とす。
「サフラーの魔物ってこんなに硬いのかよ!?辞典で硬いとは書いてあったけど、まさかここまでとは…………!」
零はサンドリザードから距離をとる。
「とりあえず、今は手が回復するまで回避に集中しよう。その後は、どうしようか…」
サンドリザードは零を追いかけ、牙を見せる。
「サンドリザードが一匹でよかった…何匹もいたら間違いなく人生終わるところだった…」
サンドリザードが零に攻撃する間、零は簡単に避けて手の回復を待つ。
「よし…もう大丈夫だろ!」
(武器石も手元に戻った、あとはあの魔法で…!!)
「創作魔法 上昇気流!」
零はサンドリザードの足元に魔法陣を出し、風の力でサンドリザードを真上に吹き飛ばす。風が止むと零は武器石をハンマーに変え、横に大きく振り回す。
「これでも、くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
サンドリザードが落ちる間に零のハンマーが直撃しはるか遠くに吹き飛ばされた。
「よっし、これで脅威は去った。先に進むとしよう。」
零はハンマーを武器石本来の形に戻し、村に向かった。
数分後、零はサフラーの村に着いた。
リベルタージュの平和でにぎやかな雰囲気とは少し違い、サフラーは外が暑いにもかかわらず門の奥から歌が聞こえ、とても楽しそうだった。
(なるほど、かなりにぎやかで楽しそうだな。)
「そこの旅人、止まれ。君は何者だ?」
門の前に立つ女性が鉈を片手に話しかける。褐色肌で、まるで光っているかのようなセミロングの白い髪、そして少し軽装だが武装している少し低い声を持つ女性は零に威圧的な態度を見せる。
「俺は有栖川 零、リベルタージュから来た冒険者だ。」
零は女性に冒険者カードを見せる。
「ふ、む……!?選ばれた数字…………!?」
「そう、選ばれた数字だ。」
「選ばれた数字って、なんだ?」
「……………………えっ?」
女性の言葉に零は戸惑う。
「んなっはははは!!冗談だ。それにしても、まさか選ばれた数字が実在するとはなぁ。君、サフラーは初めてだろう?なら、ここでゆっくりしていくといい。改めて、サフラーにようこそ。歓迎するよ。」
「ありがとう。」
「あぁ、そうだ。アタイは坂木 水夏。ここで門番をしている者だ。よろしくな。」
(男勝りな雰囲気なのに一人称がアタイ………)
「よ、よろしく。水夏さん。」
「水夏でいいぞ。」
「そうか、じゃ、よろしく、水夏。」
水夏と名乗る女性は零の手を握った。
「さ、ここを通りたまえ。選ばれた数字なら、悪事は働かないだろうからな。」
水夏はそういって手を放し、零を通した。村の中は所々楽器を持って演奏している人がいたり、とても派手できらびやかなアクセサリーを売っている人がいた。建物はほとんどが四角で、岩を掘ったように硬く、分厚いように見えた。
(ここがサフラーの村か…………まずは……)
「冒険者ギルドからかな。」
零は足を進めてまっすぐ行くと、『冒険者ギルド』と大きく、派手に描かれた看板を見かけ、看板の近くにある建物の中に入った。冒険者ギルドの中もリベルタージュとは違い、内装に所々宝石が置かれていた。
(至る所できらきらしていて、まぶしいな………)
「冒険者ギルドにようこそ!何か御用ですか?」
受付の女性が零に話しかける。
「えぇ、と、俺、こういう者なんですけど………」
零は受付嬢に冒険者カードを見せると、受付嬢の目が点になり、即座に零にカードを返す。
「選ばれた数字でしたか!!…と、いう事はあなたは『アリス』さんで間違いありませんね?」
「『アリス』?俺は有栖川 零だ。」
「有栖川 零……はい、合っていますね!」
「????????」
突然のニックネームに零は「?」を浮かべる。
(『アリス』って、なんだ…?もしかして、名字からとったのか?)
零が首をかしげていると、受付嬢は「少々お待ちください」と言って席を離れた。
(『アリス』、か……女みたいな名前だな………)
「女………みたいな………………」
突然、零の脳内がフラッシュバックする。
少し広い部屋で、たくさんの机がきちんと並べられている。その中のいたるところで子供が集まって遊んでいたり、何か話していた。
(ここ、は…………?)
零は周りを見ようとしたがなぜか顔が思うように動かず、ただ顔を伏せて視界を閉ざした。すると少し離れた場所から、三人の子供が何か話している声が聞こえた。
「あの子の名前、女の子によくつけられる名前だよね…でも、あの体と顔、たぶん、男の子、だよね?どうして、あの子のお母さんとお父さんは女の子の名前を男の子につけたのかな…?」
「さぁ、わかんない。」
「なんだか、かわいそうだね…」
零の視界は真っ暗なまま何一つ動かない。
(女の子の名前の男の子…?どういう事だ…?この人達は、何を言っているんだ………?)
状況を理解できていない零はとりあえず子供が言っていた事について考える。
その直後、
「零さん、零さんっ!!」
「っ!?」
受付嬢が零を呼ぶ声が零の耳に届き、零ははっとする。
「えっ!?えっと、何?どうかしたの?」
「こっちのセリフですよ!ずっと立ち止まったままボーとしていて、呼びかけても反応しないなんて…心配したんですよ!?」
「あ、あぁ、ごめん。」
(今の光景と声はいったい…………?)
零はあたりを見渡す。しかし周りに零に目を向けている人はいなかった。
(本当に何だったんだ……………?)
「零さん?聞こえてますか?」
受付嬢が「おーい」と言わんばかりに零の目の前で手を振る。零はその様子に気付いて受付嬢に目を向ける。
「あ、ごめん、聞いてなかった。」
「はぁ…零さん、もしかしてお疲れですか?」
「そうなのかもしれない…なにせ今日リベルタージュを出てついさっきこの村に着いたばかりだから…」
「なるほど、それは疲れますね…でしたら、後で宿を予約しておきますので、今日はそこで休んでください。」
「いいの?」
「長旅で疲れているというのに仕事を与えるなんて、人の心がない外道がする事です。まずはしっかり休む事です。いいですね?」
「は、はい…」
(人の心がない外道って…言いすぎだろ…)
零は受付嬢の言葉の圧に負け、宿を案内された。案内された部屋には必要最低限の家具があり、零は昼過ぎにもかかわらず寝る事にした。
零が目を閉じて数分後、零の視界に不思議な光景が広がった。
(なんだ、これ…………?)
森の中で、零を含む六人が楽しそうに会話している。零の周りには初めて見る人しかいなかったが、零はどこかで会った事があるようなを何かを感じた。
(誰、だ………?いや、でも、この人達、どこかで…………)
鉄の鎧を着た赤髪の大柄の男性、深緑の髪で体は細く、軽装の男性、淡い黄色の髪で、兎の耳とホワイトボードを持った軽装の女性、緑の髪で少しボロついた服装と眼帯が特徴の男性、そして、水色の少し触角が生えたような髪で星座を基にしたかのような青色のローブを着た女性、その人達を見た零は、嬉しい気持ちや楽しい気持ち、悲しい気持ちでいっぱいになっていた。
(あれ…………誰、だろう…でも、どこか、心の穴が満たされるような感覚が…………)
零がそう思た数秒後、零は目を覚ます。少し狭く特徴のない部屋が、起きて数秒後の零の心情を表しているように零は感じた。
「……………………」
零は体を起こして目をこする。何度周りを見ても、そこにあるのはベッド、机、いすなど、必要最低限の物だった。零はふと枕を見ると、濡れた跡が残っている事に気付いた。
(泣いていた、のか。本当に、なんだったんだろう…………)
零は窓に目を向けると、外は完全に暗くなっていた。
「夜…そうか、昼に寝ていたからか。」
零は布団をたたんで立ち上がる。
「外に出るか…」
零は宿を出た。時刻は真夜中、村に明かりは全くついていなかった。
「寒っっっっっ……………………!!」
零はあまりの寒さに体を震わせる。その瞬間、村へ向かう途中の時を思い出す。
(アイテムボックスに入っている毛布と分厚い服ってこの時のためだったのか…………)
零はアイテムボックスからマフラーち服を取り出して着る。寒さは緩和したが、それでも少し寒かった。
(夜のサフラーってこんなに寒かったのかよ………)
「とにかく歩こう、歩いていれば温かくなるはず…………」
零は歩き始めた。
昼時のにぎやかさとは違い、真夜中の村はとても静かで、まるで村人が突然消えたような風景だった。
(夜に一人は怖いけど、たまには悪くないかもな……………)
ぶらぶらと村を歩いていると、零の視界に一つの黒い影が現れる。
(…………?なんだあの影…人か?この時間に?)
夜目が効いてきたころ、月の光に照らされ、影の輪郭がはっきりとする。フードを深くかぶり、素肌を見せまいとインナーを着た身軽な人は家のそばで何かしていた。
(何やってんだあれ…?)
零は身を隠し、こっそりとその人の様子を見る。するとその人は家の中に侵入した。
(っ!?あれってもしや………!)
零は人が入った家に近づく。一、二分後、大きな袋を持ったその人は屋根から抜け出し、地面に着地した。
「おいお前、そこで何してる。」
それを見た零は威圧的な態度で声をかける。その人は零の存在に気付いた途端すぐさま逃げ出した。
「っ!おいっっ!!!」
零はその意図を追いかけようと走るも、その人の脚の速さには追い付けなかった。
(くそっ、速い…!!追いつけない!こうなったら…!)
「創作魔法 風遊気流!!」
零は唱えると、自身の背後に魔法陣が現れ、強風を出して零を吹き飛ばす。人と離れていた距離が一瞬にして縮まり、零は再び唱える。
「創作魔法 風遊気流!!」
人が一本道の路地裏に入った直後、零は道の先にに魔法陣を出し、向かい風を送る。するとその人はまるで大きな袋に引っ張られたような動きをした後、袋を手放して後ろに転ぶ。
「っ!足を止めたな!!」
零はその人の体を掴み、地面に押し付けてその上に乗り、身動きが取れないようにした。
「観念しろ!お前、今何をしていた!!」
零が叫ぶと、どこからか走る音が響く。
「何事だ!!」
零の背後から女性の少し低い叫び声が響いた。
(この声…!)
「水夏!!」
零が声を大きくして振り向くと、そこには鉈とライトを持った水夏がいた。
「零くん!!その人は…!?」
「こいつ、ついさっき人の家に入って何か盗んだんだ!証拠に、あそこに大きな袋が…!」
「袋……!?」
水夏は周りを見る。しかし地面にあるのは空っぽになった袋だった。
「零くん、ここには空の袋しかない。大きな袋なんてないぞ。」
「えぇっ!?じゃあお前何したんだよ!?」
(もしかしてあの時、ただ空気を入れた袋を持って走ったって事か…!?何のために…!?)
「いや、関係ない、とりあえず顔を見せろ!!」
零がフードを取り上げる瞬間、その人は真下に魔法陣を出すと同時に煙幕を出す。
「っっ!?これは…………!?」
視界が悪くなり、零は煙を払う。その直後、零が一瞬だけ宙に浮く。
「っ!?まさか……!!」
「零くん、大丈夫!?」
「大丈夫……!!水夏は?」
「アタイも大丈夫だ。問題はない。」
煙が晴れると、零の真下にはフードしか残っていなかった。
「逃げられた、か………………」
「残念だ……やっと姿を現したというのに…」
水夏は肩を落とす。
「すまない零くん。このような事をさせてしまって。」
「大丈夫。こうなるだろうと思っていたから。」
「そうか…」
水夏は少し落ち込んだ様子で話す。
「…零くん、君は知っているだろうか、サフラーに起きている窃盗事件について。」
「うん、最近起きたんだって?」
「あぁそうだ。でも、変な事しか起きていないんだ。」
「変な事?」
「あれだよ。」
水夏は空になった袋を指す。
「窃盗事件って騒いでいるけれど、実は、何も盗まれていないんだ。」
次の話は5月16日に投稿予定です。




