斉藤一
斉藤一が、屯所に戻ろうとすると、向こうから異相の男が歩いてくる。
両刀を腰にするが、髪は伸び、月代はない。猛獣の、豹の様な目付き、身のこなしだ。
侍というより、武芸者だな、と思った。
「斎藤一」
いきなり話しかけてきた。
「貴方は」
と尋ねると、いきなり刀を両手に抜いた。
二刀の構えである。
これで分かるだろう、という事の様だ。
斎藤は、三尺も後ろに、飛びすさっていた。
「君の身のこなし、実は、柳生かね」
もう二刀を納めながら、男が言った。
斉藤一は、一刀流、或いは無外流 、とも言われるが、実のところ、はっきりとは分かっていない。要するに、謎の男なのだ。
そもそも、新撰組に入った、きっかけが分からない。近藤勇の道場に出入りしていたらしいが、京の都に浪士隊として上る中には、存在していない。
しかし、いつの間にか、京の壬生には現れている。
まるで京の都の情勢を探っていたかの様だ。
さて、異相の男。
すなわち、宮本武蔵が、
「柳生か」と言ったのは、忍者かという意味に近い。
柳生が忍者であると言われるのは、将軍家の御庭番であった。
また、地理的に柳生の里が伊賀、甲賀に隣接するから。
それに、五味康介の柳生武藝帳の影響である。その中では柳生十兵衛が、宙を飛んでいる。
「沖田は、どうしているかね」
「少し、休んでいます」
「ふむ」
「佐々木小次郎には、蹴りを用いたらしいな」
「はい」
「小次郎は、剣を用いるしか頭にない男だ。武術というものは、数多の技でなければならない」
武蔵は意外に饒舌であった。
「物干し竿しか、考えない男。良く言えば生真面目、悪く取れば融通がきかぬ」
話しを続ける。
「我などは、吉岡伝七郎を相手にした時は、素手というか、まあ拳法を使っている」
「小次郎に、蹴りを用いたのは悪くない」
さらに、一言。
「沖田も、そろそろ我らの仲間入りだろうが」
斎藤が、ぎょっとした顔になる。
「驚くな。帷子ノ辻には、あの世からの穴が空いている。会いたくなれば、いつでも、やって来れるよ」




