続帷子ノ辻
「総司、出かけるのは、暫くやめておけ」
土方が言った。
「はい」
そう答えるのだが、また、様子を見計らって、出て行くのだろうと土方に゙は分かっている。
それで、気心の知れた幹部達に、出来るだけ沖田から目を離さないよう、頼んでおいた。
池田屋の後、その様子が何となくおかしい。池田屋では、沖田は幾人も斬っているが、その自分も血まみれになって倒れていた。
その理由は、未だ分かっていなかった。
案の定、土方が座を外した後。
沖田は身仕度を直して、出て行った。
斎藤一が、それとなく、ついていった。屯所から北東の方角へと歩いて行く。
「鬼門の方角か」
斎藤は、つぶやいた。そういう事も考える男である。
沖田が、ぶらぶらと歩いて行く。
いつの間にか、痩せたなあ、斎藤はそう思った。
行く先は、やはり、帷子ノ辻であった。それも土方から聞いている。
沖田の足に゙は迷いがなかった。
辻へ入れば、意外な事に、女が待っていた。
そういう事なのかと、斎藤は、逆に感心した。
若い女だ。似合いではないか、とも思った。
それにしても色が透けるほどに白い。いや、白すぎた。
斎藤は不安を覚えた。
そこで、禹歩という歩き方をした。目の曇りを払い、魔を退散させるものだ。陰陽道に伝わる特別な歩き方で、これに似た歩行は、忍術にもあるらしい。
斎藤には、そういった心得もある。
女の肌が、ますます白くなった。
そして斎藤の目から見えなくなった。
沖田は、何も感じないらしく、普通に話しながら歩いている。
これは、まずいと思った。
その頃、屯所では、近藤と土方が話していた。
「総司の、この前の一人稽古は見事であった」
「はい」
「まるで、目の前に、相手がいるかのようだった」
近藤は満足そうである。稽古をしていれば大丈夫と考える人だ。
土方は、別の事を考えていた。もしや、沖田には、別の何かが見えて来ているのではないか。
「この前は、たけぞう、とか言うのに、一本取られた、などと言っていたがな」
土方は、黙っていた。
「そう言えば、宮本武蔵の幼名は、たけぞう、であったな」
それを聞きながら、土方は、また不安を覚える。
「まあ、宮本武蔵と言えば、昔の人物であるがな」
近藤は笑いながら話している。
「宮本むかし、ですか」
わざと笑い話にした。
近藤は爆笑した。




