89. 2つめのコア
雄太が木下から聞いた両親の話は想像を絶するものだった。
だが、これが作り話の可能性もある。
しかし、木下は雄太の家族についてを全て知っていた。
まるでずっと一緒に居た、家族の一員の様に。
「それで、アンタはお袋達が死んだ後、何をやっていたんだ?」
「ワシはオマエに干渉せずにずっと陰から見守っておった。そして、オマエが会社をクビになった後はずっと必死に探しておった。なんせ、オマエに関する記録の全てがうやむやにされており、全く足取りをつかむことができなかったからのぉ」
「じゃぁ、何故、俺を見つけた時に穏やかに接触せずに俺を襲った」
雄太は昨日、いきなり自身が襲われた事について木下へと尋ねた。
「オマエが、最後のダンジョンを踏破したと言う報告を日向から聞き、ワシは、オマエがコアを手に入れたのを確信した。ワシらがオマエからコアを奪い、オマエを王国の兵やギルドのヤツらから遠ざける為だ」
「そんなの、アンタが俺に直接言えば、俺を襲う必要もなかっただろうが」
「ワシが直接オマエと接触をすれば、ギルドのヤツらはオマエまで標的にする。まぁ、オマエが真っ先にギルドに呼ばれた今となっちゃ、意味は無くなったがな。それでも、オマエが襲われ、コアが奪われたと言う事になれば、ギルドの目は再度ワシらへと向き、少なくともオマエをギルドの目から遠ざける事ができただろう。だから、全く接点のないダイバー崩れの様なヤツらにオマエを襲わせ、オマエからコアを奪おうとした。だが、オマエの力は予想以上に強かった。日向には、コアを奪えなかった場合、オマエをここに連れてくる様にと指示をしておった。オマエに力があるのならば、ワシらの仲間として迎え入れようと思ってな」
木下は雄太へと力の籠もった視線を向けた。
「もし、俺が向こう側だった場合はどうするんだ?」
「その時は、ワシがオマエをこの手で叩き潰す。王国側がコアを手にれても、鍵であるオマエがいないのであれば、コアを持っていても意味がないからのぉ。もし、オマエが鍵を使ってミディアから増援を呼んだとしても、ワシらは戦う大義名分ができ、大々的に表立って暴れられる。まぁ、ギルドに懐柔された世界の政府共は、異世界が攻めて来ても周りの意見を無視して犬の様に尻尾をフルと思うがな」
「・・・本気なのか?」
「あぁ。本気だ。ワシは、ルカと翔吾、そして死んでいった者達の為に王国と戦う。オマエが向こう側にいるのであれば、たとえ、ルカと翔吾の息子であったとしてもこの世界を救う為にオマエを潰す。だが、ワシは家族同然であるオマエとは戦いたくはない」
木下の覚悟は決まっている様で、目には揺るがない意志が見て取れた。
「それで、俺を呼んだ理由は俺をこの組織に勧誘する為か?」
「あぁ。オマエが良いのであれば、ルカと翔吾の意思を継いで、ワシらと一緒にこの世界を守る為に戦ってほしい」
「俺に、復讐をしろと?」
雄太は、木下から聞いた両親の死因や会社をクビになった経緯が頭に浮かんできた。
「それはオマエ次第だ。オマエが復讐をしたいと言うのであればワシは手を貸そう。だが、オマエにはルカが心を病んでいた復讐の連鎖を背負わせたくはない。ワシには、死んでいった大事な“友”に頼まれた、この世界を異世界の侵略から守り、幸せにすると言う目的がある。だから、ワシはギルドからコアを全て回収し、全てを終わらせる為に、ヤツらの本拠地である王国があるミディアへと向かおうと思う。オマエはどうする?」
雄太は鎖に囚われていたアリアの言葉を思い出した。
『どうか、ダンジョンに囚われている者達を解放し、異世界人の侵略を食い止めてください』
「そうだな・・・俺にもやる事がある」
「聞いても?」
「・・・・・・」
雄太は暫く考えた後、アリアから聞いたコアの事を言う事にした。
「俺はー」
雄太は木下へとアリアの事や、鎖に繋がった者達を解放する事、コアを回収する事、スライムグラトニーを倒した事を全て伝えた。
「ーまさか、オマエ1人であのイカれた怪物を倒したのか!?」
「あぁ。色々とヤバかったがなんとかなった」
「それで、コアは?」
「俺が触った瞬間、何故か俺の指輪に吸収された」
「はあ!?・・・その、コアを吸収した指輪と言うのを見せてもらってもいいか」
雄太は指輪を木下へと見せた。
「まさか、コレは鍵なのか・・・ワシが以前見たものと全く形が変わっておるわい・・・それでここに嵌っている石みたいなのがコアだと?」
「俺にはコレが鍵なのかは知らんが、嵌っている透明な石みたいなのはコアだ。俺は、先ずは鎖に繋がれている人達をダンジョンから解放し、その後にコアを全て集める予定だ」
「そうか・・・コアを集めた後はどうする気だ?」
「そうだなぁ・・・お袋が居た異世界ってのにも興味があるし、アンタに着いて行くのも悪くないかもな・・・」
「助かる。どうかワシに、王国と戦う為の道を作ってくれ。アイツらだけはこのまま放ってはおけん」
雄太の指輪を見た木下は、何かを決心したかの様に、徐にソファーから立ち上がって執務机へと歩いて行き、机上のPCを操作した。
すると、部屋にあった本棚が動き、中から重厚な金庫が現れた。
木下は現れた金庫へと手をかざして扉を開くと、中からソフトボール程の大きさの透明な玉を取り出した。
「コレはオマエに預ける。ワシらが持っているより、オマエが持っていた方が安全そうだ」
「良いのか?」
「あぁ。誰もオマエの指輪にコアがあるなんて考えもつくまい。コレもルカの意図した事なんだろうよ」
木下は、金庫から取り出したコアを雄太へと手渡した。
雄太が木下からコアを受け取ると、手にしたコアが光だし、光は雄太の指輪へと吸い込まれる様に吸収され姿を消した。
「「おぉ!?」」
コアが吸収されたのを見た木下と日向は、目を見開いて驚いており、雄太の指輪には透明な丸い石の様になったコアが1つ増えていた。
「本当に吸収されよったぞ・・・どうやら、本当にオマエの指輪は鍵の様だな・・・こんなに姿形が変わってしまったら、王国軍はさぞ探すのに苦労するだろうな。クックックックック」
木下はザマーミロと言った様な悪そうな表情をしながら楽しそうに笑いだした。
「・・・楽しそうなとこ悪いが、以前の鍵はどんなんだったんだ?」
「んんっ。スマンな。つい王国のヤツらが以前の形の鍵を探している馬鹿顔が思い浮かんできてのぉ・・・以前の鍵はな、禍々しい装飾が施された丸い容器に入った、真っ赤な液体の様なモノだったわい。ルカが言うには、賢者の石とかって言っておったぞ」
「・・・これまた、ファンタジーあるある的な名前だな・・・流石にお腹いっぱいになってきたぞ・・・」
雄太は、木下から聞いた数々のファンタジー要素によって色々と情報がパンパンになりそうだった。
「・・・それで、俺は明日以降から鎖に繋がれた人達を解放しに行くが、アンタ達はどうする?」
「オマエのその案には賛成だ。鎖に繋がれた人達を解放し、意思のあるダンジョンマスターとして王国の者達をダンジョン内へと入れなくしてほしい。あの場所は要塞になりかねんからな。それと、あの空間にいるモンスターは早い内に潰しておくのが良いだろう。ヤツらは最終的にあのモンスター共を操って、地上へと解放しかねんからな。ワシらは・・・オマエにコアも預けたし、偽のコアと鍵を餌にして派手に王国の兵達を誘導するとするかのぉ。そうすればオマエも動き易くなるだろうよ」
「動き易くなるのはありがたい。ところで、鎖に繋がれた人達が居るダンジョンが何処にあるのか知っているか?俺が1カ所終わらせたから、スライムダンジョン以外の残りの6カ所だな」
「あぁ。勿論だ。後で資料を渡そう。日向、小僧に渡すダンジョンの資料の準備をしてくれ」
「分かりました。では、直ぐに」
日向は木下の命を受けて直ぐに部屋から出て行った。
「それとだな・・・ダンジョンへはワシらのメンバーを連れて行ってくれんか?」
「え?ヤダよ。俺にも仲間はいるし、そんな誰とも知らないヤツなんかと一緒に行動したら足手纏いにしかならねぇよ」
雄太は横に座っているスキルズへと視線を向けた。
「腕ならワシが保証する。小さい頃からワシが徹底的に仕込んだヤツらだ。ワシと同じくらいの力は保証する。なんなら戦ってみてオマエが連れていくかどうか決めてくれんか?」
「なんでだよ?なんで俺がそんな事しなきゃなんねぇんだよ。面倒臭ぇぇ。しかも、勇者のジジイと同じくらいの力があるとか、どんだけ勇者がインフラ化してんだよ」
「勇者基準で人を育てたら自然とそうなってしまったんだよ!そう言う事言わずにそこをなんとか頼む!ワシやこの世界に転移して来た冒険者達はもう歳だ。新しい世代に次を託したい。これから異世界へと攻める為に、あのダンジョン最奥の怪物共と戦って、若いヤツらに戦闘経験をつけさせてほしい。頼む」
木下は雄太へと頭を下げた。
「マジで面倒臭ぇなぁ・・・じゃぁ、俺の仲間と戦って、俺の仲間が認めたヤツだけを連れて行く。それでいいか?」
雄太の言葉に対し、横に座っていたエルダが、「え?わたしも?」みたいな顔をしていたので、雄太は目に力を込めて睨みつけ、「オマエは黙ってろ!」と言う視線をエルダへと向けた。
「ヒィっ!?」
雄太はエルダから移した視線を鬼達へと向けながら木下へと返答した。
「と言うか、オマエは戦わんのか?」
「どうせ、その若い世代ってヤツらは沢山いんだろ?俺が、一々そんな面倒な事なんてやってられるか。って言うか、こいつらに勝てない様じゃ、俺にも勝てないし、ダンジョン最奥のモンスターに瞬殺されるぞ?こいつらはアンタが思っている以上に強いぞ」
鬼達は雄太に誉られたからなのか、嬉しそうに目をキラキラとさせていた。
「オマエらもそれでいいだろ?」
「「はっ!主の仰せのままに!」」
「・・・オマエ・・・仲間に「主」って呼ばせておるのか?・・・仲間になんて事させてるんだ・・・勇者のワシを馬鹿にしていた以上に痛いぞ・・・」
木下は鬼達の揃った返事や“主”と言う言葉に反応し、雄太を見ながらドン引きしていた。
「ウルセーっ!!コレには色々と事情があるんだよ!マスターって呼ばれているアンタと同じだろうが!」
「ばっ!?オマっ!?ワシのこれは役職みたいなもんだ!オマエの様なロールと一緒にするな!」
「巫山戯んなよジジイ!?俺はそんな痛いロールなんてしてねぇよ!って言うか、アンタの勇者って言う設定こそが本物のロールじゃねぇか!!」
「グハぁっ!?クソっ!ここに来てそれを出しやがるか!?ルカめぇぇぇぇ!!世代を跨いでまでワシの黒歴史を継承しよってぇぇぇぇぇ!!」
木下は雄太の一言で撃沈したらしく、ソファーにあったクッションへと顔を埋めてもがき苦しんでいた。
「それで、やるのかやらないのか?どっちなんだ?」
「・・・あぁ、それで良い。できればオマエの力も見たかったがのぉ。ワシからも確認だ。オマエはこの組織に入り、ワシらと共に行動すると言う事で良いか?」
「そうだな・・・一応、お互いの目指しているところは同じ様だから、とりあえずこの組織に入っておくわ。だが、俺は俺で好きに行動するぞ?」
「構わん。ワシらは鍵とコアを所持しているオマエをサポートする形で良いわい。何かあれば遠慮なくワシらを頼れ。ルカが作り、翔吾がおった場所だ。ワシらをオマエの家族と思ってくれ」
「分かった」
(家族か・・・)
雄太は木下に言われた”家族”と言う言葉に対し、少し胸が暖かくなっている事に気付いた。
「そうそう。それと、日向がいない今だから聞くが・・・オマエの連れー」
「ーモンスターだよな?」
木下は声を低くし、雄太やスキルズへと殺気を含んだ鋭く冷たい視線向けた。
過去については別で書いておりますです。
「見参!スライムハンター 〜追憶のレジスタンス〜」
でダンジョン転移の真相やこの世界が変わった事を書いてますです!
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