88. 始まりの真実
「ワシを助けた後は、ダンジョンへと潜る為に組織の皆と一緒にダイバーになった。まぁ、王国の兵達に大々的に顔が割れているルカを含むワシのパーティーメンバー達だけは、ルカの技術で偽造のライセンスを用いたがな。当時のダンジョンは、ギルドによって厳しく管理されており、ダンジョンに潜るのにもかなり苦労したわい・・・しかも、アイツら、スキルの登録とか言う面倒な法律まで作りよって!王国の兵達は、なんとしてでも鍵を盗んだルカの足取りを掴もうとしておったのだ」
木下は心底うんざりする様な顔で、ソファーの肘掛の上に頬杖をついて項垂れた。
「それで?」
「この世界へとダンジョンが発現してから時間が経っていくにつれ、アイツらの作った制度や法律のせいで、ルカとワシのパーティーがダンジョンへと入るのが困難になり、ダンジョンに入って特殊なコアを探す部隊の戦力はガタ落ち、ギルドにおる王国の兵達は、犠牲をなんとも思わない人海戦術によってあっと言う間に特殊なダンジョンを特定し、4つのコアを手に入れよったわい」
「って言うか、この組織にも、あんたのパーティーの他に異世界の冒険者達がいたんだろ?なのに何故だ?」
雄太は、木下が言った戦力のガタ落ちと言う言葉に引っかかっていた。
「小僧?オマエ知っておるか?まぁ、知っていても知らなくても今はどっちでも良いわ。特殊なコアがあるダンジョンの最奥には、王国の宮廷魔道士が造った改造モンスターが居ってだな、王国軍は、そのモンスターを特殊な道具で操ることができるのだ。そんな特殊な道具を持っていないワシ達は、その改造されたイカれたモンスターと戦って倒すしかコアがある部屋へと抜ける方法がない。そんな、イカれたモンスターと戦う事ができるのは、ルカを含めたワシのパーティーしかおらなんだ。ルカがワシを助けた後に潜った特殊なダンジョンも、異世界で敵無しだったワシのパーティーメンバーでもギリギリだったわい・・・そう言う訳で、ワシら4人は、王国の兵達によるダンジョン管理のせいで全くダンジョンへと入れなくなってしまっていたのだ」
「ギルドの奴ら、いや、王国軍にはすごいやり手がいたんだな?って言うか、何故アンタ達は、王国軍と同じ様にこの世界の政治や中枢から攻めようとしなかったんだ?異世界人が侵略してくるって伝えれば、国や政府も何かしらの対応はできた筈だろ?しかも、聞く限りでは、お袋は魔道具や魔術の技術があり、それを利用すれば、マジで余裕だった筈だが?」
雄太は、あまりにも効率が悪すぎる裏ギルドのやり方に納得がいっていなかった。
「はぁ〜。バカだなオマエは・・・門の鍵を盗んだルカがそんな事して表舞台に立ってしまったら、即座に王国の兵達に見つかってしまい、隠れている意味がないだろうが・・・我らの第一の目的は、王国の兵から鍵を守り抜く事だ」
「それでも、地球のピュアもいたんだろ?その人達に話して、同じ地球の人達に交渉を任せる事はできなかったのか?」
「いや、地球のピュアがこの裏ギルドへと入って来たのは、王国の兵達がこの世界の人達を使って、多くの犠牲者を出しながらダンジョンを踏破した後だ。所謂、被害者の会みたいなやつだな。そんな、ギルドのやり方に疑問を持った者や、身近な人が犠牲になった者達が、ギルドと戦う為にこの組織へとやって来た」
雄太は、木下に言われた隠さなければならない鍵や組織の事情を聞いて、とりあえず、組織が政府へと接触しなかった事を理解した。
「鍵を守り抜くと言う事は分かった。しかし、ダンジョンが出現した55年もかけて、一体何をやっていたんだ?逃げ続けていただけなのか?そんだけの時間があれば、権力を手に入れた王国の兵達にここもバレて、潰されていてもおかしくない筈だが?」
「そうだな・・・ワシらは、何度も行動や拠点がバレて、沢山の犠牲をだしながらいくつもの拠点を潰されたわい。王国の兵達は、必死になって門の鍵を見つける為に、少しでもワシらの痕跡を見つけ次第、問答無用で誰彼構わず攻撃を仕掛けて来よった。そして、そんなイカれた王国の兵達の攻撃により、多くの被害者が出てしまい、組織の仲間やその親族達は更にギルドへの負の感情が高まり、復讐と言う連鎖が始まり出した・・・この復讐の連鎖にルカは酷く心を痛めておったよ。自分のせいで多くの犠牲者が出てしまったとな」
木下は、悲しそうな顔で天井を見つめた。
「すまんな、少し感傷的になってしまった。まぁ、そんなこんなで王国の兵達が4つのコア、裏ギルドが1つのコアと言った具合で、残すは2つのコアとなった。その内の1つのコアの在り処は分かったが、もう一つのコアの在り処は全くの手掛かりすらなかった。ワシらは在り処が分かっているコアを諦め、在り処が分からない方のコアを探す事にした。在り処が分かる方のコアは、既に王国の兵達が動いておったし、その隙に手薄になった他のダンジョンを探す事にしたのだ」
「まぁ、ギルドとぶつかって、多くの犠牲を出さない為にも、それが良かったのかもな」
「あぁ、そうだな。それで、手薄になったダンジョンへと組織のメンバー達を送ったが、進展がなく全く情報が掴めない」
(スライムダンジョンの下層をエルダが隠したからか・・・)
木下が言う最後のダンジョンの話も、アリアが言っていたエルダが隠したスライムダンジョンと話が合っており、雄太は、アリアと木下が話した異世界についての大体の答え合わせができてきた。
「そんな中、ルカはこの世界のピュアと良い仲になった。その相手の名は、橘花 翔吾。オマエの父親だ」
「はあ?なんでいきなり親父の話が出てくるんだよ?ってか、その話ホントなのかよ・・・」
「まぁ、黙って聞いておれ。翔吾はルカに一目惚れしておって、ワシが「オマエは色々と騙されておるぞ」と何度も助言してやったにも関わらず、あの男は全く耳を貸そうともしなかったわ。あまりにも翔吾がルカへとしつこく迫るんで、ルカのアホが、ワシと戦って勝ったら考えても良い、等と巫山戯た事を言ったもんだから、無謀にもワシに勝負を挑んで来よったわい。まぁ、情けをかけずに瞬殺したがのぉ」
「・・・・・・」
雄太は、いきなり展開が変わって来た話に対して胡散臭くも思いながらも、木下の話に何か引かれる感覚があった。
「翔吾は根っからの負けず嫌いでのぉ。ワシとの勝負に負けて以来、毎日の様にワシと模擬戦をする様になった。翔悟は面白いユニークスキルを持っておってな、ワシと戦う度にだんだんとスキルの使い方も戦い方も腕を上げていきおったわい。アイツは、まるで戦いの神にでも愛されておるかの様にメキメキと腕を上げていき、時間はかかったが、終いには、元勇者であるワシを倒しおった。アイツの戦いのセンスは、ワシをも凌駕しておったわ。そして、ルカはワシを倒した翔吾と結婚し、そして、オマエを授かり、今まで逃げ続けて疲れ切っていたワシら組織のメンバー達も、新たな命に一時の幸せを味わえた。そして、翔吾を始めとした新たな戦力や仲間も増えていき、組織も力をつけて、やっとギルドと戦える様になってきた」
「・・・・・・」
「そういや、日向は翔吾を兄の様に慕って、いつも後を着いておったのぉ」
「マスター!?何故その話を今ここで!?」
日向は、いきなり自身が話に出て来た事に顔を赤くして吃驚し、木下は緩やかな笑みを浮かべて雄太へと視線を向けた。
「そんな幸せだったある日、ワシは、ルカと翔吾に呼ばれ、オマエの家へと赴いた。わしは、また、オマエのおもりをさせられると思っておったのだが、その日は何やら雰囲気が違っておった。ワシが呼ばれた理由は、小僧、オマエについてだった」
「はぇ?」
雄太は、いきなり木下に顎をしゃくられながら自身についてと言われてしまい、素っ頓狂な声が出てしまった。
「その日、ルカはワシにこう言いよったー」
『私と翔吾は、異世界の門を開く鍵を封印する事にした。だが、ただ封印するだけでは、封印した術師の私が死ねば封印が解かれてしまう。よって、丁度、スキルを持っていない純真なこの子へと”あるスキル”を与えた。そして、そのスキルの一部に門の鍵を組み込んで封印した。この子のスキルは、この子がダンジョンへと自らの意思で入らない限り、永遠に発現する事はないだろう。これで、鍵を盗んだ私を探している王国側の思惑は潰え、この世界への脅威は去るだろう・・・異世界より帰って来た勇者よ。どうか、この子がダンジョンへと入る事がない様に見守り、この世界の皆を幸せにしてくれ』
「ーとな。その日、ルカと翔吾は、オマエへと鍵を組み込んだスキルを与え、スキルを封印する為に自身のスキルを全て失った。2人共にな・・・多分、ルカの術式を使って門の鍵をスキルへと創り換えた為に、己の全てのスキルと等価交換したのだろう。しかも、オマエへとスキルを与えるばかりでなく、封印までした事によって、ルカと翔吾の2人分のスキルを全て使ったんだろうな・・・これで、分かったか?ワシが言ったオマエの事はなんでも知っておると言う事が・・・」
「・・・スキルを材料にスキルを創るとか・・・そんな事できんのかよ・・・しかも、自分以外の者にスキルを与えるなんて・・・お袋達が俺へスキルを・・・」
雄太は、木下の話をいまいち信じられてはいないが、木下が言う様に、生活の為とは言え、自らの意思でダンジョンへと入った時に急に発現した自身のスキルの事を思い出し、掌にある白い指輪をじーっと眺めた。
(このジジイが言っている事は本当なのか?・・・だからお袋達は、俺からダンジョンに入る事を遠ざける為に、俺に口うるさく学校へ行け。会社へ入れ。命を賭ける様なダイバーになんてなるな。って言い続けていたのか?)
「ルカは、【創造】と言うユニークスキルを持っておってのぉ、それでこんな馬鹿げた事ができたんだろうなぁ。それに、ルカと翔吾はスキルを失っても、組織の仲間達と楽しく過ごしておったわい」
木下は、どこか懐かしむ様に雄太を眺めていた。
「って言うか、もし、それが本当だとしたら、お袋と親父は、そんなスキルが無い状態でダンジョンへと潜っていたのか?それでモンスターに襲われて死んでしまったのか?俺にスキルを与えた為にー」
雄太は、指輪がある自身の左手を右手で覆おう様に握りしめながら木下へと質問したが、木下は雄太の言葉を遮る様に口を開いた。
「ーいや。オマエの両親は、スキルを失って以来ダンジョンへは一度も潜っていない。ずっと裏ギルドのアジトで事務的な仕事をやっておった」
「なんだよソレ!?俺が警察から聞いたお袋達の死因は、ダンジョンでモンスターに襲われたっ、って・・・!?」
雄太はフと何かが脳裏をよぎった。
「あぁ。今、オマエが思った通りだ」
木下の言葉によって、雄太の思った事が形を為し始めた。
「ールカと翔吾は」
ソレは、ハッキリと形を為していき、
「ー鍵を奪おうとした」
真実と言う楔を、
「ー王国の者達によって殺された」
雄太へと深く突き刺した。
雄太は木下によって紡ぎ出された言葉によって、静かに身体を震わせた。
「偶々、裏ギルドのメンバーがダンジョン内で二人の遺体を発見したのだが・・・ルカと翔吾の遺体は酷く拷問された後があり、まるで、捨てられたかの様にダンジョン内へと放置されておった・・・ワシが目を離した隙に・・・本当に・・・スマン・・・」
木下は、雄太へと深く頭を下げた。
雄太へと深く頭を下げながら強く握りしめられた木下の両拳からは、ポタポタと床へと血が滴り落ちており、時折、ギリっと言う強く奥歯を噛み締めている音が、静かな部屋へと小さく響いていた。
「この話が本当だとしても・・・アンタが頭を下げる様な事じゃないだろ?・・・二人が勝手に、俺にスキルや鍵を移したりしたのが悪いんだよ。って言うか、悪いのは、鍵の責任を放棄して戦うのを辞めた二人じゃねぇか。自業自得だよな」
「小僧っ!!貴さ!? ま・・・」
木下は、雄太が発した言葉に対して憤怒し、怒りに任せ、下げていた頭を勢いよく上げて雄太を見たが、雄太の顔を見た瞬間に動きが止まり、言葉の続きを言えなくなってしまった。
木下が頭を上げた先に座っていた雄太の顔には、一条の涙が流れており、雄太は、右掌でゆっくりと顔を隠す様にしながら、俯く様に膝へと右肘をつけた。
「そんなの嘘だ。アンタの話は、一応、辻褄は合っている様に聞こえるが、スキルがなくなったとしても、またスクロールでスキルを獲得できた筈だ」
「・・・人間の身体の中には、人によって大小はあるが、誰もが魔核と呼ばれるスキルを使う為、魔素に順応する為の器官が体内に存在する。この魔核の大きさや質によって、人はピュアとしてユニークスキルを発現したり、スクロールを使って獲得できるスキルの数が決まる。しかし、この器官がなければ、スキルの発現はおろか、ダンジョンへは潜れない」
木下は雄太の質問へと淡々と答えていく。
「この器官がない者がダンジョンへと潜れば、ダンジョン内に循環している大量の魔素によって身体を蝕まれ、直ぐに死に至る。魔素は、ダンジョンの外にもあり、魔核がない者は虚弱体質や病気がち、何かしらの疾患や病と言ったモノが身体に現れてしまう。魔核が無く産まれてくる者は極稀であり、10年に1人現れるかどうかと言ったレベルだ。しかしー」
木下は言葉を一旦止め、俯いている雄太へと強い視線を向けた。
「ーオマエには産まれた時から魔核がなかった」
俯いて顔を隠している雄太の目が開かれた。
「オマエが産まれて直ぐは、ルカの術によって魔核がある者と同じ様に生活は出来ておったが、術も完璧ではなく、オマエはいつも熱を出したりと身体に異変が現れておったのだ。オマエも良く覚えておるだろう?あれだけ大食いのルカや翔吾が、何故かいつも痩せ衰えていた事を」
木下が言う様に、雄太は1日中何かを食べていた大食いの母親が太った姿を見た事が無かった。
「魔核が無くなったルカと翔吾は、モンスターから獲れる魔石を媒介にして、ギリギリ普段の生活をする事が可能なだけの術を自身と翔吾へとかけておったのだ。その為、ルカ達はスキルの再獲得はおろか、ダンジョンへと入る事は出来なかった。ルカと翔吾は自身の魔核を使って、魔核のないオマエにスキルと魔核を与えたからのぉ」
故に、魔核を失った者がダンジョンに居る事自体が普通ではない。
「そして、ルカと翔吾が死んだ後、奴らはルカから見つからなかった鍵を探す為に、オマエ達家族が住んでいた家も、思い出も、財産も、全てをオマエから奪い取った。権力で法をねじ曲げてまでもな・・・」
「!?」
雄太は、木下の発した言葉で、自身が会社でクビになった原因、各種契約や証明を必要とする機関が利用できなかった状況を思い出した。
「ワシは、いや、ワシらは、それすらも阻止する事ができなかった。力のないオマエら家族を、何一つ守る事ができなかった・・・終いには、オマエの消息すらも確認する事も出来なくなってしまっていた・・・本当にスマン・・・全てワシの責任だ・・・」
木下は再度深く頭を下げた。
「だが、こうして再びオマエと会う事ができた。オマエが無事に生きていて本当に良かった・・・ワシは、オマエの消息を追えなくなった時から、毎日、気が気でなかったわい・・・このまま、オマエまで失ってしまっておったら、この組織は更に負の連鎖を生んでいた事だったろう・・・」
木下は、まるで、久しぶりに見た我が子を見る様な優しい目で雄太を見つめた。
「しかし、王国のヤツらは、ルカや翔吾、オマエや沢山の人達に対して、やっちゃいけねぇ事を、自分達の思想の為だけに笑いながら平然とヤリやがった。奴らが異世界の技術をこの世界へと推んで提供していたのは、奴ら自身が住み慣れているミディアと同じ環境を作ろうとしたからだ。確かに、ヤツらは異世界の技術で”ついでに”この世界を発展させはした。だが、それ以上に多くの犠牲を作りよった。言うならば、これは異世界人による最初の侵略、テラフォーミングだ」
木下は、眉間にシワを寄せながら王国の兵へと向けて怒りを露わにしている顔を雄太へと向けた。
「だから、ワシは、ルカとの約束を守り、この世界を平和にする為に、ギルドと、そして異世界の王国と戦う決意をしたのだ!」
過去については別で書いておりますです。
見参!スライムハンター 〜追憶のレジスタンス〜
でダンジョン転移の真相やこの世界が変わった事を書いてますです!
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