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第十一話 野外活動

今回は長めです。

冒険者登録をしてから数日後、ようやくこの時がやってきた。

そう、野外活動の時間だ。


冒険者登録をしてから数日が経った今、私のレベルは……1です。

うん。本当は野外活動前にレベルをあげておきたかったんですけどね、そこまで私、暇じゃないんですよ。

宿題やったり、宿題やったり、あと宿題やらないといけなくてクエスト受ける暇なかったんですよね。

え?宿題しかないじゃないかって……だって……宿題終わんなくて外出してもらえなかったんだもん。

前世の学校の宿題って数分で終わる簡単なものだったから油断してたけど、あの学園の宿題の量は異常なんだもん。

あれじゃ休日も学校で勉強してるのと変わらないよぉ。

まぁそんな感じで、私は異常に多い宿題が終わすために休日の全てを使ってしまったのだ。

そして、また新しい週になり学園に行っていたから私のレベルは1のままなのだ。


だけど、もうレベル1は卒業なのです。はぁ……思えばこの世界に生を受けてから十年、私ずっとレベル1だったんだよね。せっかくの異世界転生で十年間もレベル1の主人公って私ぐらいだよ。

ふふふ、でもそれも今日までなのです。

今日からグングンレベルを上げてチートの限りを尽くして成り上がってやるのですよ。

ふふふ、ハハハハハ。


「ん?ミーシャ随分と楽しそうにしているな」


突然隣から声を掛けられ私はビクッとした。


「え!セリナ!も、もしかして私、顔に出てた?」


「あぁ。何だかとても楽しそうに見えたぞ」


私としたことがどうやら顔に出ていたらしい。

危ない危ない。

ここは本当のことは流石に言えないので適当にごまかすことにしよう。


「う、うん。みんなと野外活動ってわくわくするなぁって思ったんだ」


「そうだな。でも、あんまりはしゃぐんじゃないぞ。森には危険がたくさんあるんだからな」


「大丈夫。そんなのわかってるよ」


「そうか。まぁいざとなったら私がミーシャを守ってあげるわ」


「ありがとう。セリナ」


今日行われる野外活動は午前と午後の授業全てを使って街の外にある森で行われる。

野外活動の主な目的は学園の生徒のレベリングである。

レベルを上げるためには一般的には魔物を倒すしか方法はないため、多少なりとも危険が伴う。

そのため安全に生徒のレベルを上げるために学園の教師たちに加え、街の騎士団もこの野外活動に参加してもらっている。

そのため結構な大人数で森の中を移動している。


学園の生徒は各自武器や防具を身につけてこの野外活動に参加している。

だから今日のクラスメイトたちの服装は学園の制服ではない。

私も今日の服装は制服の軍服ワンピースではなく、動きやすい服装をしている。

また、防具の類はつけていないが家から弓矢とパパから借りた短剣を腰に差して参加している。

他にも武器や防具を持っていない生徒のために学園が武器防具などの貸し出しもしている。

騎士団ほど立派な装備ではないが、それでもないよりマシだろう。



野外活動の午前中は森での戦い方や魔物の知識を実践を交えながら学んだ。



「それでは誰かにこの魔物、『スライム』を倒してもらおうか。誰かやりたいものはいるか」


「はーい!」


「お、ではミーシャにやってもらおうか」


「はい!わかりました」


私は目の前にいる半透明の水色のゼリー状の魔物。

俗に言う『スライム』の前まで行った。

この世界のスライムは基本的に自我を持たず、ただ地面を這う魔物らしい。

私は腰に刺さった短剣を抜きスライムの弱点であるコアと呼ばれる小さな結晶目掛けて突き刺した。

私の短剣は見事にスライムのコアを貫くことに成功した。

コアを貫かれたスライムは割れたコアだけ残すと体を液体に変化するとビチャと地面に小さな水たまりを作った。

スライムを倒すことに成功すると突然頭の中にベルが鳴ったような音が響くと無機質な声が聞こえた。



《レベルが上がりました》

《条件を満たしたことでステータス機能を拡張しました》

《レベルが上がりました》



「おぉ!」


私は初めてレベル上昇に驚きの声を漏らした。

まさか、この世界でレベルを上げると脳内アナウンスが流れるとは思わなかった。

初めて魔物を倒してレベルが上がったことは嬉しいが脳内アナウンスでどうも気になることも聞こえた。

ステータス機能の拡張?つまりステータスで何かしらできるようになったんだろうかな。

私がステータスを開こうとしようとしたが、それは出来なかった。


「お疲れ様。ミーシャ、ステータスの確認は授業が終わってからにしろよ」


「は、はい」


私は急いで自分が先ほどまでいた位置に戻った。


「よし、それでは午前中の授業はここまでにする。各自持ってきた昼食を取るように。午後の授業は班ごとに分かれてレベルを上げてもらうからな。では解散」




チグリス先生の解散を聞くと私はすぐに自分のステータスを確認するために画面を開いた。



名前  ミーシャ・フォン・シリウス

種族  エンシェントエルフ

レベル 3


生命力 +4

魔力  +10

筋力  +2

耐久力 +6

敏捷  +8


スキル 転生リンカネーション

称号  転生者 神から愛されし子 神殺し 


おぉ。生命力とか魔力とか新しい項目ができてる。

なるほどね、これがステータスの拡張機能ってことなのか。

私はステータスをもう一度まじまじと見つめた。

今までよりも遥かにゲームっぽくなったステータス表示を見る限り筋力や敏捷の下に書かれている数値分その項目が強化されたということなのだろう。


私は試しに自分の手をにぎにぎとしたり、その場でぴょんぴょんと跳ねてみた。

しかし。うん?あんまり変わってない気がするなぁ。

数値を見る限り魔力と敏捷は結構強化されたと思ったのだが、レベルアップ前とたいして身体には変化が見られなかった。


「あれ?私ほんとにレベル上がったんだよね?」


私が疑問に思っているとそこには重箱のような大きなお弁当箱を持ったセリナが笑いながらやってきた。


「ハハハ、ミーシャもしかしてレベルが上がったらいきなり強くなれると思ったのか?」


「違うの?」


「あぁ。確かにレベルを上げれば強くはなれるがいきなり強くなるなんてことはない。何事も積み重ねが大切なのさ」


「そういうもんなのか……」


まぁ考えてみたら当然のことだよね。某RPGゲームでもレベル1からレベル3になったところでさほど変わらないし、数レベル上げただけですぐ強くなれたら苦労しないもんね。

まぁそこまでこの世界もヌルゲーではないってことだね。


「教えてくれてありがとう、セリナ」


「あぁ。それよりミーシャよかったら、その、い、一緒にお弁当を食べないか?」


「うん。いいよ」


何やら緊張している様子でご飯に誘ってきたセリナは私が了承した瞬間に安堵の息を漏らした。

えっ?セリナもしかして私が断ると思ったのかな?

はぁまったく私が綺麗なレディのセリナの誘いを断るわけないじゃないですか。


私達は少し開けた場所に移動しそこで自前のお弁当を広げることにした。

私のお弁当は、パンで焼いたお肉や野菜を挟んだママお手製のハンバーガーだ。

前世でもよく食べていたものだが、ママの作るハンバーガーは肉厚で私は前世よりもこちらの方が好きだ。エルフは草食な種族で肉を忌避する種族だとこの世界に来る前は思っていたけど、やっぱりみんなお肉は好きなんですよ。

現に今、私は大きなハンバーガーを口いっぱいに入れてお肉のジューシーな味わいを堪能しているのだから。


「ふふ、ミーシャ口が汚れているぞ。待って綺麗にしてやるから動くなよ」


そう言うとセリナは私の口元に付いたソースを細い指でそっと取ると自らの口に入れた。


な、な、な。今、私何されました?えっ、食べたの?

あ、あの恋人同士でやるお弁当イベントを実行したというのか!

セリナ、もしかして私のことを……って私、今、女の子じゃん!しかも幼女。

はぁ……一瞬ドキッとしたけど、勘違いですね。

まぁ知ってましたよぉ。


自分の中で完結すると頭が一気に冷静になっていった。

セリナにとっては先ほどの行為はどうってことな子供の食事の面倒を見ただけなのだろうと。


当のセリナはソースを取って指を味わうように未だに口に含んでいる。

指を舐めるセリナの姿は艶ややかで美しくもあったが、見ようによっては変質者のようにも見えた。

だが、そんな様子を当のミーシャは疑問にも思わなかった。


まったく私を子供扱いして!お返ししてやる。

こういうところが子供なんだろうけどそんなことは知ったことではない。


「ありがとうセリナ。それにしても……ふふふ、相変わらずおっきいお弁当だね」


「うっ、し、仕方ないだろ。私は鬼人だから……お腹減るんだから」


やはり、たくさん食べる様子を恥ずかしいと思っているんだろう。

セリナの声は徐々に小さくなるって言った。

だが、別に私はセリナのたくさん食べる姿をバカにしたいわけじゃない。

ここであえて彼女を褒める、褒めて、褒め殺すのだ。


「ふふふ、たくさん食べるセリナは可愛いよ。うん。とっても可愛いよ」


「な、な、な、な!」


私に可愛いと連呼されたセリナは茹蛸のように真っ赤に顔を染めていった。

まぁこの辺にしといてあげるか、これ以上赤すると爆発しちゃいそうだし。

私はわざとらしくニヤニヤしながらネタ晴らしというか、からかっていたということ教えてあげることにした。


「ほら、そういうとこだよ。可愛いのは」


「そういうとこって……ってミーシャ!私をからかったんだな!」


「セリナは可愛いよ。私の次くらいにね。ふふっ」


「はいはい、ミーシャは可愛いですよ」




昼食を食べたあと、次は待ちに待った班別行動の時間がやってきた。

気になる私の班はというと、くじ引きによって決められた。

私の班は、なんとセリナと同じ班でした。

危ない、危ない。

クラスに馴染んできたと言ってもまだ少し他の人と話すのに緊張する。

けれど、セリナと同じなら大丈夫だ。

いざとなったらセリナに助けてもらえばいいんだから。

ちなみに、私とセリナ以外の班員はというとメルシアという犬の獣人の女の子と男の子三人だ。


「あ、あ、あの私、メルシアです。ミーシャ様よろしくお願いします」


おどおどとした様子の犬の少女に私は握手を求めるように手を差し出した。


「うん。よろしくね。メルシアさん」


「さ、さん付けなんていらないですよ。わ、私、平民なので……あぁ貴族さまに無礼を……私はいけない子です」


メルシアは手をぶんぶん振り自分を卑下した。

おかげで私の差し伸ばした手はいまだに放置されている。

うぅ……握手って無視されるとこんなにも虚しいのですかぁ……。

だが、そんな私を毎度のように助けてくれるセリナさんがまたも助け船を出してくれた。

同じ班になってそうそう助けてくれるとは、さすがセリナ一家に一人欲しいくらい優秀だな。


「メルシアさん。学園内では貴族だろうが平民だろうが関係ない。私達は同じ学園の生徒なのですから」


「わ、わかりました。セリナ様」


「様付けはしないでくれないか。セリナで構わないよ」


「私もミーシャでいいよ」


「わ、わかりました。ではセリナさん、ミーシャちゃんとお呼びしてよろしいでしょうか」


未だに敬語で話すメルシアにセリナは困った様にしながらも了承した。

だけど解せないのは、メルシアはセリナはさん付けなのに対して私はちゃん付けな点だ。

まったく、ここでも私は子供扱いですか!


「ミーシャちゃん俺らもミーシャちゃんって呼んでいいかな。あ、俺はソーラン」


「俺はバルバドだぜ。よろしくな」


「俺はヴァルクルシュ。ヴァルクでいいぜ」


「う、うん。よろしくみんな」


さり気なく男子も自己紹介に混ざってきたが、一度の自己紹介されたせいで私の頭はプチパニックになった。

えっとあの猿っぽい獣人の人がソウラン?

であの蜥蜴っぽい鱗をした人がバルババ。

最後に山羊みたいな角を持った人がバルクでいいのかな?

うぅ、やっぱり名前覚えるの苦手だな。

名前呼ぶ機会無いといいなぁ。



微妙に間違って名前を憶えているのは別にわざとではない。

人間興味のないこと、関心がないことには無意識のうちに適当になってしまうのだ。

正直男子の名前なんて覚えてもなぁ、なんてことを無意識に思っている私がいるのだ。

そんなこととはつゆ知らず、男子たちは他の班の男子のところに言って何やら自慢げに話をしていた。

大方私やセリナと同じ班であることを自慢しに行ったのだろう。

まったく見た目は高校生くらいなのにやっていることは小学生だ。

まぁ年齢的に考えればそれが普通のことなんだろうが。


当の男子たちはというとミーシャの予想通り他の男子に自慢話をしに行っていった。

ただミーシャが予想した内容とは若干異なっていたが。


「へへへ、俺らは『姫様』を名前で呼ぶことを許可されたぞ。いいだろう」


「な、なんだと貴様ら『姫様』に対して無礼であろう」


「これは『姫様』自身が許可したことだぞ。それに逆らう方が無礼だろう」


自慢げに三人は語っているがミーシャ自身この三人が名前で呼ぶことを許可した覚えはない。

あれはあくまでメルシアに対していったことであって三人の男子に言ったわけではない。

けれど別に名前を呼ぶのに許可が必要かと言われれば決してそんなことはない。

ミーシャ自身誰に名前を呼ばれようがあまり気にも留めていないのだから。

もし、ミーシャがこの会話にツッコムとしたら『姫様』って誰?というところだろう。

『姫様』というのは、ミーシャ以外のクラスメイト全員がミーシャが帰った後に行われた会議で決定した彼女のあだ名だ。


そしてミーシャが知らないだけで彼女のクラスにはいくつかの彼女にまつわるルールが存在する。

例えば男子は不用意に彼女に触ってはならないとか。

重いものを運ばせてはならないとか、もうどうでもいいルールがある。

おかげさまでミーシャの学園生活はクラスメイト達に甘やかされこのままではダメ人間まっしぐらではないかと本人は危惧している。

だが、そんなこと知ったことか発案者であるセリナは今もなおルールを増やし、それを当然のこととクラスメイト達も受け入れているのだった。

ミーシャをダメ人間にしている黒幕がセリナであるということは、クラスメイト達の周知の事実であるが、ミーシャがそれを知ることはないだろう。




クラスメイト全員の班分けが終わるとチグリス先生は各班にブレスレットのような魔道具を配った。


「全員、腕に魔道具をつけたか。この魔道具は学園の備品だから紛失しないように。」


「「「はーい」」」


「それでは、これから午後の野外活動の説明を行う。今から私が合図を出すまで班ごとに分かれて魔物を倒してもらう。倒す魔物は『スライム』『イビルバルーン』『ワタホウシ』の三種類にのみとする。これ以外の魔物と出会った場合は戦闘は行わず直ちに逃げるように、森の奥へ行くほど強力な魔物が出てくる。だからくれぐれも森の奥へは行くなよ、いいな。」


チグリス先生はキリッと私達を睨んだ。先生の視線に皆ゴクリと生唾を飲み込んだ。

『スライム』『イビルバルーン』『ワタホウシ』これらの魔物はこの辺りに生息する最弱の魔物達だ。

こいつらは攻撃らしい手段はなく、『スライム』は言わずもがな、『イビルバルーン』は辺りに浮遊するだけの風船のような魔物で『ワタホウシ』は全身がワタで覆われた魔物でこいつもふわふわと浮いているだけの無害な魔物である。


今回の野外活動はあくまで経験値を稼ぐことが目的であるため、安全第一なのであろう。

私としては、今日はレベルアップができるだけで満足であるので、別にどうってことないのだが、他の主に男子たちは不満があるらしいが、チグリス先生の目がそれを許さない。


「最後にもし何か問題が起きたら、巡回している騎士や私達教師をすぐ呼べ。わかったな?よし、それでは解散」


私達は配られたブレスレット状の魔道具を腕につけると、班ごとに散っていった。

この配られた魔道具はなんと同じ種類のものを身につけている間、獲得した経験値を共有することができるという超便利アイテムなのだ。

制限も七人までという人数制限だけでデメリットがない、まるでパーティーシステムのような魔道具なのだ。

そしてその便利アイテムを身につけた私達も魔物を倒しに向かった。

私達の班はまず、見晴らしのよい草原で魔物を狩ることにした。


「よし十二匹め!」


「ふっ俺は十四匹めだぜ」


「どうだミーシャちゃん、俺の見事な剣捌き」


「う、うん。すごいね」


「よっしゃー!」


私はフワフワと浮いているイビルバルーンを剣や槍で割って倒している男子たちに少し引きつった笑顔で応えた。

うん……だってもうずっとこんな雰囲気なんだもん。

魔物を見つけると男子たちは誰が先に倒すか競ったり、自慢したりしてくるんだもん。

そしてセリナやメルシアまでも私を守るように常に移動したり世話を焼いたりするの。


「ミーシャ、そこ段差があるから気をつけてね。ほら、手かしてあげるから」


「だ、大丈夫だよ。このくらいの段差のうちに入らないから」


「ミ、ミーシャちゃん。喉乾いていませんか?よろしければ、わ、私の水筒を——」


「自分のあるから平気だよ」


こんな調子でずっと私は男子組みからのアピールと過保護過ぎる女子組みの献身により私は一切戦うことなく経験値を稼いでいった。

これが所謂、姫プレイというやつなのですね……楽は楽なんだけどこれって姫側が楽をしたいと思わないとなんかウザいなぁ。

でも、ここであからさまに嫌な顔をすることなんてできないし……。

よし、ならあの作戦でいこう、そうと決まったら早速実行ですね。


私は少し顔を俯かせ申し訳なさそうに体を縮めた。

すると、その様子にいち早く気が付いたセリナが心配そうに声を掛けてきた。


「ミーシャどうしたの?具合が悪いの?」


餌に引っかかったセリナにつられ他の班員たちも私に注目を寄せた。

おぉこれは好都合なのですよ。

私はいじらしい健気な少女を演じるように顔をつくった。


「ううん、違うの。あのね、みんなばっかり戦わせてばっかりで私何にもやってなくて、申し訳ないなぁって思って……」


どうです!この周りを引き立てつつ、自分にも何かやらせて欲しいアピール。完璧でしょ。

さぁどうします?

この諸葛孔明にも劣らない策。

打つ手は一つですよね?

そう、私にも魔物を倒させるのですよ!さぁ、さぁ、さぁ!


「ミーシャ、君が気に病むことはない。これは私達がやりたくてやってることなんだ」


「そ、そうです。魔物の討伐なんて野蛮なことはミーシャちゃんには似合いませんし」


「そうだぜ。魔物の討伐は俺らに任せてくれ」


「あぁ。他の班よりたくさん経験値を稼いでやるぜ」


「おう。戦闘は任せてくれよ!」


「あ、う、うん……。」


「安心して、ミーシャは私が絶対守ってあげるから」


セリナも他の男子の班員もカッコイイ感じの雰囲気を醸し出しながら言ってきた。

メルシアにいたっては私の手を握って訴えるように言ってきた。

こいつ、私と握手しなかったくせに……なんてことは思ってない。

たぶん……。だって、私はその時は別のことを考えていたのだから。


なんでそーなるの!おかしいでしょ!ここは『そうか、なら一緒に戦おうか(イケボ)』でしょ?

そんな風に言われたら私、今日の野外活動ずっと姫プレイじゃん。

えーつまんないよぉ。

くっ策士策に溺れるとはこういうことなのですか。

いや、まだ策に溺れたわけじゃない!

メルシアのせいで直接的に言い辛くはなっているけど、遠まわし言えば……。


「わ、私もみんなの役に立ちたいの」


「ミーシャちゃんは俺達の応援をしてくれるだけで十分だぜ」


男子連中は完璧な回答だと思っているのか三人とも満足した様子で頷いている。

こいつら脳みそに花がさいているのか?

そんなこと言われても私は全然嬉しくない、寧ろムカつくわ。

だが、ここで諦めるわけにはいかない。

私はすかさず切り返した。


「待って……ほら、私魔法も弓も使えるしみんなの援護を……」


「スライムもイビルバルーンも小さい魔物だから当てるのは難しいだろ」


「そ、そうですね。それに私達のほとんどの攻撃手段は近接攻撃なので寧ろ味方に当たる危険が……」


「むぅぅぅ……」


なんでこういう時だけこの娘らは正論でくるんですかね?

いいですよ、もういいです。

直接言いますからね。


「……うん。わかったよ。もし、ケガとかしたら言ってね。私、回復魔法も使えるから」


「あぁ。ありがとうミーシャ」


トホホ……。直接言えませんでした。

まぁ仕方ないですかね。

そもそも直接言えてたらこんな周りくどいやり方しないもん。

ここは大人しくお姫様になっていましょう。

そのうち魔物を倒す機会が……機会が……く……く……来ない。


あれからどのくらい経っただろう。

気が付けば私のステータスはレベル7まで上がっていた。

そして私が午後倒した魔物数は0匹。

もう完全に養殖されてますよ。

普通チート系主人公ってヒロインとか奴隷美少女を養殖するんじゃないんですか?

なんで私が養殖されてんの!

私はひょっとして誰かのヒロイン役なの?

いや、美少女なのは認めるけどさ、なんか違うじゃん。主人公ぽくないよぉ。


そんなこんなで男子達が他の班より経験値を稼ぐと言って文字通り馬車馬のごとき働きで魔物を駆逐していったせいで草原一帯の魔物がいなくなってしまった。

そこで私達は木々がまばらに生えている森の入り口付近に狩場を変更した。


「あ、あの、この辺って来ていい場所でしたっけ?」


「問題ないはずよ。先生は森の奥へ行くなと言ったのよ。それにここはまだ入り口よ」


「そうだぞ。それに近くには騎士の人もいるし大丈夫だろ」


「だな。うん?おいあれ見てみろよ」


「うん?なんだ?」


男子の一人ソフラン?が何かを指さしながら言った。

私達の視線はその指先に向けられた。

そこにいたのは、大型犬ほどの大きさの犬の様な魔物だった。

だが、そのままは私達を襲ってくるわけでもなく、ただ地面に寝そべっていた。


「あ、あれは『ウォードッグ』ね。でも怪我をしているようね。もう虫の息ね」


セリナの言う通り『ウォードッグ』と呼ばれた魔物は腹部を爪のようなもので抉られ血を流し、今にも死にそうだった。


「チャンスね。みんなここを離れましょう」


セリナは解散前の先生の言葉に従うように離れることを班員のみんなに提案した。

もちろん私もセリナの案に賛成したが、男子達が異論を唱えた。


「おいおい。冗談だろ。ウォードッグが瀕死なんだぞ。さっくとヤっちまう方がいいだろう」


「そうだな。スライムなんかよりもよっぽどおいしい相手だ」


「ほっといても死ぬなら俺らが有効活用するべきだよな」


「ちょっと待ちなさい、あなた達先生が言ってたこと忘れたの」


セリナが声を張り上げ男子を止めようとするも、男子はその声に耳をかさずウォードッグの方へ向かった。

そして、瀕死のウォードッグのもとまで行くと腰に下げた剣で喉に剣を突き刺した。

剣で貫かれたウォードッグはビクッと体を一度のけぞらせると地面に倒れこと切れた。

ウォードッグが絶命した瞬間、私の脳にレベルアップを知らせる音が響いた。

男子達もレベルアップをしたのだろう、ガッツポーズをとりながら何事もなく帰ってきた。

私達女子組みは男子達の勝手な行動で多めの経験値を得て複雑な気分だった。


「ほら、何ともなかっただろう」


「楽に経験値入ってラッキーだったな」


「これで他の班の奴らと結構な差ができただろうよ」


男子組みが笑う中、ウォードッグがいた場所の奥の茂みが大きく揺れた。


私達はもっと考えるべきだった。

なぜウォードッグが瀕死の状態で倒れていたのか。

腹部を抉った爪の後を何がつけたのかを。

私達は逃げるべきだったのだ。

先生の言っていた通り直ちに逃げるべきだった。


だが、私達は選択を間違えた。

茂みの奥から現れたのは、全身が赤い毛で覆われた熊だった。

その口には男子が止めをさしたウォードッグとは別のやつが咥えられ、大きく鋭利な爪は毛と同じく血で真っ赤に染まっていた。


『ウガァァァァァァァ』


「「「うわぁぁぁぁ」」」


「「「きゃぁぁぁ」」」


熊の咆哮とほとんど同時に私達は叫び声を上げ全力で逃げ出した。

戦うなんている選択肢はない。あれと戦ったら絶対に死ぬという確信があったからだ。

だが、赤い熊の魔物も新たに現れた獲物を易々と逃すわけもなく咥えていたウォードッグをその場に捨てるとこちらを追いかけてきた。

前世の知識では熊と出会ったらゆっくり後退するとか、鈴を鳴らすのがよいらしいがアレにそんなことが通じるとは思えなかった。

認識した瞬間に本能が逃げろと告げたのだ。


叫び声をあげながら逃げる私達であったが熊の魔物との距離はみるみる縮んでいく。

はじめはのそのそとしていたが徐々に速度を上げまるで恐怖を煽るように距離を詰めてくる。

迫りくる恐怖に抗うように私は必死に走る。

全力で逃げる中、男女の差、体格の差、種族の差が如実に表れてきたのだ。

見た目が高校生ほどの皆と違い私の体は齢相応の幼女である。

誰が一番走るのが遅いかは火を見るよりも明らかであった。

一番後ろにいたはずの男子は我先にと私達を追い抜き脱兎の如く逃げていき、セリナもメルシアも逃げることで精一杯で私が一人遅れていることに気が付いていない。

熊の魔物もどうやら私に狙いを決めたようで距離を詰めて襲いかかろうと加速してくる。


近づく足音、荒い獣の息遣い、あらゆることが私の恐怖心を煽る。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


間近に迫った足音がし、不意に私は後ろを振り返った。

そこには今にも私に飛びかかろうとしている熊の魔物の姿があった。

そして次の瞬間、私の頭に食らいつこうと大きく口を広げ飛びかかってきた。

急に飛びかかってきた熊の魔物に私は怯んでしまい、足が絡まってしまいその場で転倒してしまった。

体勢が崩れた瞬間、私は自分の死を感じた。きっと私はあの顎で食い殺されてしまうのだろうと。


「きゃぁぁぁ!」


血で汚れた牙が私のすぐそこまで迫り、熊の魔物の巨体が私の頭上の上を通り過ぎていった。

転倒したことで熊の魔物の攻撃を辛うじて避けることができたのだ。

だが、状況がよくなったわけではない。ピンチには変わりない。


「ミ、ミーシャ?ミーシャ!」


地面に転がる私にセリナは血相を変えて私の方へ駆け寄ってきた。


「ミーシャ大丈夫?立てる?」


「うん。転んだだけだから」


セリナの手を借りて立ち上がった私は急いで逃げようとするも、私達の進路をふさぐ様に熊の魔物が行く手を阻む。

退路を塞いだ熊の魔物はこちらにじりじりと近寄ってくる。

熊が一歩詰めるたびに私達は一歩下がる。

背を向ければ襲われる、かと言ってこのまま下がり続けても未来はないだろう。

完全に詰んでしまっている。


死が近づいてくる恐怖に私の動悸が加速していく、足は震えが冷や汗が止まらない。

そんな私を心配するようにセリナが声を掛ける。


「大丈夫。ミーシャは私が何があっても守って見せるから。絶対守るから」


「……セリナ」


私に心配を掛けまいと気丈に振舞って見せるセリナであったが、彼女もまた、恐怖から足が僅かに震え、笑みもぎこちなかったが、それでも彼女のお陰で幾分か恐怖心が和らいだ気がした。

私を背に庇うように立つセリナの後ろ姿は儚く、恐怖で震え頼りがいのある姿ではなかった。

だが、それでも私を守ろうとする姿はとても美しかった。

そして、何かを決意したセリナは唇をギュッと結んだあとに私に語った。


「ミーシャ、聞いて。このまま下がっていてもいずれ私達はやられる。だから、これから私があの魔物に特攻をかける——」


「ダメ!そんな事したら——」


「最後まで聞いてミーシャ!大丈夫。私は死なないわ。私があの魔物の注意を引いている間に先生たちを呼んできて。それまで私が時間を稼ぐから」


「ダメ!そんなのダメ!無理だよ。セリナが、セリナが死んじゃう」


「安心しろ私にはとっておきがあるからね。それじゃ行くよ」

「ダメー!」


セリナは私に悲しげに微笑むと私の制止を聞かずに熊の魔物に突っ込んでいった。

一見無謀な突進にも見える攻撃だが、セリナにも勝算がない攻撃ではない。

セリナは勢いよく近づき、剣の間合いに入る手前で彼女のスキル(とっておき)を使った。


「『騎士の誇り(シュヴァリエ・フィエルテ)』」


熊の魔物に特攻するセリナの身体を包むように白銀の鎧が現れ、その手には白銀の剣と盾が握られていた。

セリナは自身のスキルを使い白銀の騎士へと姿を変えたのだ。


セリナは突進の勢いをそのままに白銀の剣を熊の魔物に向かって振り下ろした。

熊の魔物も剣を受け止めようと腕を振り上げた。

剣と熊の爪が交錯した。

瞬間、金属がぶつかった様な音が辺りに響いた。

勢いの乗ったセリナの一撃ではあったが、熊の魔物の腕力がそれを凌駕した。

セリナの上段斬りを熊の魔物は弾き飛ばしたのだ。

攻撃は防がれたセリナ僅かに体勢を崩したもののダメージらしいものは受けてはいなかった。


「セリナ!」


「くっ大丈夫よ。それより早く逃げて!」


「で、でも——」


「行きなさい!」


一人、単独で熊の魔物と対峙するセリナは私に怒鳴るように叫んだ。

私は震える足で地面を蹴ろうしたときだった。

金属がぶつかる音と少女の声が遠くから聞こえた。


「ミ、ミーシャちゃん無事ですか!」


「メルシア!」


声のする方に目を向けると、遠くからメルシアが騎士と先生を連れてこちらに走ってきていた。


「セリナ!あ、危ない!」


セリナの方へメルシアが騎士たちを連れてきたことを伝えようとしたときだった。

熊の魔物の口から僅かに赤い何かが見えた。

セリナも何かの攻撃の予備動作だろうと思ったのだろう。

手に持った白銀の盾を身構えた。

だが、私にはわかる。


そのではダメだ。


あの攻撃は盾では防げない。

熊の魔物の予備動作は、前世のゲームで散々見たあの攻撃の予備動作に酷似していたのだ。

口から火炎を吐き出す攻撃『ブレス攻撃』に。


あのままじゃいけない!セリナを助けなきゃ!

そう思ったときには既に私の足はセリナのもとへ駆けだしていた。

だが、熊の魔物もわざわざ回避を待ってくれるほど甘くはない。

熊の魔物は身を低くし確実に仕留められるように狙いを定めている。

明滅を繰り返す口内の火炎は、今にも放たれそうだったが、私は足を止めず、セリナのもとへ駆けた。


「セリナ!」


私の声に振り向いたセリナを突き飛ばしたのと熊の魔物が炎のブレスを吐いたのは、ほとんど同時だった。


「ミ、ミーシャ何を——」


「———」


「えっ?」




セリナのすぐ横を紅い炎が通り過ぎた。

近くにいるだけで肌が焼けるような熱量の炎を放った熊の魔物は未だ無傷なセリナを睨めつけるように低く唸った。

まるで避けられたのが不満であったかのように。

だが、ミーシャに突き飛ばされた当のセリナは何が起きたのかわからなかった。


熊の魔物が何か攻撃をしてくると思い、攻撃に備えようとした。

だが、その攻撃を受ける前に私は誰かに突き飛ばされた。

誰か?そんなの決まっている私が先ほど守っていた少女、ミーシャだ。

何故ミーシャが私を突き飛ばした?私を守るため?では私を守ったミーシャは?

そこまで考えつくと急に頭が冷えてきた。

停まった思考が現実に追いつこうと急速に加速していく。

確かめなければならない、私を守ったミーシャはどこにいるのか。

私は先ほどまでいた場所を見ようとした。

首はまるでさび付いたネジのように思うように動いてくれない。

身体がそこを見るのを拒絶する、だけど私は見なくてはいけない、確かめなければならないんだ。

私をあの炎から守ってくれた彼女の安否を。私はゆっくりと視線を向ける。

私の隣、地面、焼けた雑草。一向に見当たらないミーシャの姿に鼓動は加速し、息が荒くなっていく。

視線を徐々に遠くへ先ほどいたところまで向けると彼女はいた。

だが、その姿は私の知る美しい少女ではなかった。

全身を紅蓮の炎に包まれ地面をのたうちまわる少女らしき姿があった。


「嫌、いや、イヤァァァァ」


セリナは手に持った白銀の剣と盾を落としその場に泣き崩れた。

剣と盾は地面に落ちるとガラスが割れるような音と共に砕け、鎧も粉々に砕けてしまった。



失敗した。

こんなはずじゃなかったんだ。

本当はセリナを助けて私も辛うじて攻撃を免れるはずだった。

でも失敗した。

タイミング的には、ほとんど間に合わなかった、だから私はセリナを救うために飛びつく様にセリナを押し飛ばした。

おかげでセリナを無事ブレスから逃すことはできたが、私自身の回避は間に合わなかった。



私はもろにあの炎のブレスを受けてしまったのだ。

炎は私の全身を直ぐに覆いつくした。

全身を文字通り焼かれ激痛が全身に走る。

炎を払おうと地面にのたうち回るも炎の勢いは弱まらない。

このブレスは火炎を空中に吐くゲームのようなブレスではなく、寧ろ前世の兵器の火炎放射器に近いものなのだろう。

火炎放射器は炎を放射する兵器ではなく、燃える液体に火をつけ相手に吹き付ける兵器である。

そのため容易に炎を振り払うことができないのだ。

だが、人間誰しも炎に包まれれば炎を消そうとするだろう。それが無駄なことだとしても——。


全身を焼く痛みに気が狂いそうになる。

炎は容赦なく酸素を燃焼し呼吸もままならない。

叫び声をあげようとすれば炎が喉を焼こうとする。

酸欠で気を失いかけても全身を焼く痛みがそれを許さない。

まさしく拷問のようであった。

炎は私の皮膚を溶かし、肉を焼き、骨を焦がす。涙は蒸発し、喉を焼かれ、指先は炭化していく。

どのくらいの時間がたっただろうか、一時間だろうか、30分だろうか、ひょっとした数分しか経っていないかもしれない。

永遠に続くのではと思われた拷問は、身を焼く業火はようやく私の命を奪った。

痛みが不意に消え自分がようやく死んだと自覚した。


『ごめんね……セリナ……』


声にならない後悔の思いを残し私の意識はそこで一度途切れた。

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