第十話 ゼロ距離魔法
『キュアル草』を集め終わった私達は森を抜け開けた草原に移動した。
もちろん、ママが魔法でめちゃくちゃにした場所はママ自身が魔法で元通りに直してある。
なぜ草原に移動したかと言うとママの放った魔法のせいで周囲にいた魔物全てが逃げ出してしまったからだ。
魔物がいなくなってしまったために経験値を稼ぐことができないと判断した私達はママの提案で魔法の練習をすることになったのだ。
「さて、この辺りでいいかしらね。ミーシャ、一度魔法を使ってくれないかしら。そうね、とりあえず『フェンリル?』でいいわ」
「うん。わかった『氷魔狼』」
私はママに言われた通りに魔法を行使した。
魔法陣から出てきた氷の狼は私の前にチョコンと座った。
ママは私の狼をじーと見つめると何か納得がいった様子でママは魔法を行使した。
「ふーん。なるほどね。まぁこんな感じかな」
ママは私の魔法と似たような魔法陣を描くとそこから私の狼より遥かに小さな氷の子犬を作った。
「よし。ミーシャ、ママの作った子犬を狼で倒してみなさい」
「わかった。やっちゃえ『氷魔狼』!」
命令を下すとすぐに私の狼はママの子犬に襲いかかった。
私の狼は素早い動きで間合いを詰める。
その様子を子犬はただその場でじっと見つめている。
瞬く間に距離を詰めた狼は、子犬に向かって凶爪を振り下ろした。
キインという音と共に氷が宙に舞った。
私は子犬の首を落としたと確信した。
だが、その確信は誤りであったとすぐに気づかされた。
大きな狼の爪に切り裂かれ、倒れたと思われた子犬は傷一つなくその場に佇み。
逆に攻撃をしたはずの私の狼の前足が綺麗になくなっていたのだ。
そこでようやく、私は先ほど宙に舞った氷の塊が狼の足だったことに気が付いた。
なんで?確かに私の狼は攻撃をしたはずなのに……それに子犬の動きもちゃんと見ていたけど、攻撃をする素振りは見せなかった。どうして私の狼が負けたの?
「ふふふ、やっぱりね」
私が先ほどの結果に頭を抱えている様子を見て、ママはしたり顔でこちらにやってきた。
「さぁて、なんでミーシャの狼がママの子犬に負けたのでしょうか」
「むむむ、待って考えるから、言わないで……」
私はあらん限りの知識を導入し、この結果について考える。
攻撃したはずの私の狼の前足が宙を舞ったということは……先に攻撃されたってこと?
でも、攻撃する素振りなんてなかったし……う~ん。攻撃したのは、子犬じゃない?ってことは——。
「わかった!ママが別の魔法で攻撃したんでしょ!」
「ぶー。違いますよ。ママは何にもしていませんよ」
「むむむ、じゃあ子犬が攻撃したんでしょ!」
「ぶー。違います。ママの子犬も何もしてませんよ」
その後も色々と言ったみたのだが、全て外れてしまった。
もうアイデアが枯渇して最後の方は、支離滅裂なことや突拍子もないことを言っていた。
まぁ流石に私も見えない魔物が突然襲ったとか、神様のいたずらとかは自分で言っていて無いなとは思った。
万策尽きた私にはもうは、ママに白旗を上げるしかなかった。
「えー。もうわかんないよぉ」
「ふふふ、仕方ないわね。ならヒントをあげるわ。狼の足が壊れた要因は強度の差よ」
「強度の差?あ、わかった!ママの子犬は魔力をたくさん使ってとっても硬かったんだ!だから私の狼の足が逆に壊れちゃったんでしょ!」
「う~ん。半分正解かな」
「えー。半分だけ?」
「半分だけ。ママの子犬はミーシャの魔法と同じくらいの魔力しか入れてないもの」
「うん?それじゃなんで私の狼の足が壊れるくらいのさができるの?」
「それはね。ミーシャの魔法には欠点があるからよ」
ママが言うには、私の『氷魔狼』、『雷鳥』は欠点だらけの魔法であるらしい。私の保有する魔力量はレベル1であるため、微々たる量しかない。
魔力の量がただでさえ少ないのに、大人ほどの大きさの狼や鳥を作れば、当然その身体を構成する魔力は広く分散してしまう。
そのため攻撃力、機動力はもちろん単純な強度も同じ魔力量で作ったママの子犬に劣ってしまったのだ。
「つまり、私の魔法は見た目だけのハリボテってこと?」
「厳しいようだけどそう言うことね。いくら見た目が強そうな魔法を使っても効果がなければ意味がないの。でもそこさえ直せばきっと強くなれるわ。魔力の変換効率も発動速度も要練習だけどまぁよくできたと言えるしね」
「うん。わかった」
「さて、それじゃあ、お待ちかねの新しい魔法をミーシャに教えるわね」
「やった!あ、さっきの『アーマブレイク』?」
「あんなチープな複合魔法じゃないわ」
「チープってあんな威力だったのに……」
「パパをぶっ飛ばせる魔法よ。ミーシャはもう属性魔法、回復魔法、結界魔法、精霊魔法が使えるのよね?」
「う、うん。あと付加魔法と支援魔法も使えるよ」
「そんなに使えるなら複合魔法、合成魔法は別に教えなくていいじゃない。なら『世界構築』はまだできないだろうから『概念魔法』から教えましょうか」
「はーい」
そしてママとの魔法の授業が始まった。
魔法、魔力を対価に世界を変革する魔術とは異なる術。この世界には様々な魔法が存在する。
火や水を操る『属性魔法』
人や筋力や脚力を高める『支援魔法』
モノに魔法を纏わせたりする『付加魔法』
傷や病を癒す『回復魔法』
精霊の助力を得て発動する『精霊魔法』
複数の魔法を同時に発動し効果を発揮する『複合魔法』
別の魔法を組み合わせた『合成魔法』などがある。
これらの区分けは一応あるのだが、ママ曰く『精霊魔法』以外は物理現象の再現でしかなく、真の魔法とは言えないらしい。
氷の狼とか物理現象じゃないだろなんて思ったけど、どうやらそういうことではないらしい。
これらの魔法は魔力を既存のモノに置き換えたり、魔力で補強することで効果を発揮する。
しかし、真の魔法は違う。
真の魔法とは、魔力を持って新たな法則を創る。
理を侵食し、改変し、造る。故に『魔法』だと。
「ということで、ミーシャには真の魔法の入門編『概念魔法』を教えます。『概念魔法』っていうのは簡単に言えば一つの概念を魔法で再現することなの。今までの魔法だと『風の刃を飛ばして斬る』っていうふうに魔法を使っていたと思うけど、『概念魔法』はただ『斬る』のよ」
「えっ?そんなの簡単じゃないの?だって『斬る』ことだけイメージして魔法使えばいいんでしょ」
「ふーん。ならやってみなさい。試しにこの石を真っ二つにしてみなさい」
私は目をつぶり魔法をイメージする。
目の前にあるであろう石を縦に真っ二つなるイメージをした。
そして、身体の中にある魔力で魔法陣を作って……よし、発動!
「ふふふ、やっぱりね」
「えっなんで魔法は発動したのに!」
私が目を開くとそこには先ほどとなに一つ変わらない風景がそこにはあった。
でも、おかしい確かに私の身体からは魔力は失われているし、魔法が発動する感覚は確かにあった。
私が疑問に思っているとその疑問に答えるようにママが先ほど起きたことを教えてくれた。
「『概念魔法』っていうのは、今までの魔法とそもそも使い方が違うのよ。自分で新しい『法則』を定義して概念を再現するのよ。見ていなさい」
ママはそう言うと、目の前に石を見つめながら魔法を発動し、何故か腕を石に向かって振り下ろした。
石は丁度ママと腕の延長線上に来ると同時に真っ二つに割れた。
「今のは『指先の延長線上にあるものを切断する』っていう『法則』を魔法で創ってそれを再現したのよ」
「な、なるほど……なんかめちゃくちゃ難しそう」
「難しいわよ。まずは自分だけの法則を決めないといけないし、それをするために必要なこと、法則の結果、法則の影響で起こる変化。その全てをイメージで決めないと『概念魔法』は発動すらしないでさっきみたいに不発になってしまうわ」
「わ、わかった」
「あ、あとは『概念魔法』は法則が限定的であればあるほど少ない魔力で使えるからね」
「はーい。よし、今度こそ成功させるぞ!」
五分後
「……」
一時間後
「……」
二時間後
「……あぁ!できた!」
「思ったより、時間がかかったわね。もう日が暮れ初めているわよ。でも、おめでとう」
「うん!これでパパをぶっ飛ばせる!」
ママの魔力供給と丁寧な教えのお陰で私はようやく一つの概念魔法の習得に成功した。
まぁこんなに時間がかかってしまったのは、なかなか私の魔力量で発動する条件が見つからなかったからだ。
魔法を使っては不発を繰り返していたが、二時間と少しの末にようやく私だけの法則を創ることに成功したのだ。
私の法則それは、『右手の指先から1センチまでの間にある物体を全て切断する』というほとんどゼロ距離でないと意味がないが、こうでもしないと発動しなかったのだから仕方ない。
はぁ……私の魔力量どんだけ乏しいんですか。
ちなみにパパはと言うと、私達が魔法の練習をしている間、悠長にいびきをしながら木に縁りかかるように寝ていました。
まったく、人が苦労して魔法の練習をしているというのにいいご身分なのですよ。
まぁその余裕もここまでです。
私の概念魔法は悪く言えば良く斬れる手刀ですけど、距離さえ何とかできれば防御無視の切断能力を持つ凶器。
ふふふ、さぁ私の力思い知るがいい。
もう魔法の名前も決めてあるし、目標は爆睡中。ガハハハッ、勝ったな!
「ママやってきます!」
「やってらしゃい」
ママに見送られながら私は寝ている戦犯パパのもとにやってきた。
ふふふ、グースカ寝ていられるのも今のうちですよ。私の概念魔法くらうがいい!
「『絶対切断』」
私は指先をピンと伸ばし、パパの顔面めがけて手刀を突きだした。
だが、私の手刀は残念ながらパパの顔面には届かなかった。
「はっ!」
「なっ!」
なんとパパの顔面に達する前に目を覚まし、私の手刀を両手で白刃取りしたのだ。
唖然とする私をよそにママは笑いながらこちらに来た。
「あらら、やっぱり防がれちゃいましたか」
「危険な気配がしたから何事かと思い起きたが、これは一体どういうことなんだ」
「さぁなんでしょうか」
ニコニコと堂々と白を切るママに呆れた様子のパパは当事者の私にじとーとした目を向けた。
まったく、何て目で愛娘を見てるんですか。まるで私が悪いことしたみたいに……してるけどさ。
「ミーシャ、パパに何をしようとしたんだ」
「……モーニングコール?そう!モーニングコールだよ」
「ならこの手は何かな?」
「……パパが握ったんだよ。そろそろ離してくれない」
「う~ん。そうか。わかったよ」
パパは何か腑に落ちないといった様子で渋々私の手を離した。
だが、ここで諦める私ではない。
ママはパパにバレないように私に魔力を譲渡してくれたおかげでもう一回発動できるのですよ。
ふふふ、くらうがいいのです!
一度パパから離れる振りをし、右手を身体で隠し、もう一度魔法を発動した。
「『絶対切断』」
「ふっ!甘いぞ。パパを舐めてもらちゃ困るな」
こんどは防がれない様に身体に向かって突きを繰り出したのだが、パパは身をよじるように私の不意討ちを回避した。
空を切った私の突きは先ほどまでパパが寝ていた木に当たると手刀は木に中ほどまで埋まってしまった。
その様子を見てパパは驚きの声を漏らした。
「複合魔法?いや概念魔法か!」
「そうですよ。ミーシャったら一日でできるようになったんですよ。すごいでしょ」
「た、確かにすごいが、もしパパが概念魔法をくらっていたら怪我じゃすまなかったんだが……」
「そうですね。パパの防御力も概念魔法の前では無力ですものね。これで、ミーシャもパパに対抗する手段ができましたね」
「はぁ……洒落にならないよ」
パパとママが会話をする中、私は木に埋まってしまった手を懸命に引っ張り出そうとしていた。
私は木に方足を置き力いっぱいに手を引っ張った。
「キャァ」
スポッと力を入れた途端にあっさり抜けてしまい、私は無様に尻餅をついてしまった。
「ははは、大丈夫か」
パパは笑いながら私に手を伸ばしてきた。
「う、大丈夫だし!」
言葉の上では強気だが、ちゃっかりパパの手を借りて立ち上がる私を見てパパもママも笑みを深めた。
「さて、そろそろ帰るか」
「そうですね。そろそろ日も暮れますしね。ミーシャもそれでいいわね」
「はーい」
「それじゃあ、帰るか」
こんな感じで私の初めてのクエストは終わりを迎えたのだった。
「そう言えば、ミーシャの概念魔法『レーヴァテイン?』でしたっけ?また変な名前にしましたね」
「へ、変な名前じゃないもん!カッコいいもん!」
「言われてみれば、ミーシャの魔法って変な名前が多いな……なんだっけ『フェムミル』とか『ガンダ』とか」
「『氷魔狼』に『雷鳥』だよ」
まぁ私の魔法の名前を変に思うのも仕方がないのかもしれない。
私のオリジナルの魔法の名前はほとんど前世の知識から引用しているからだ。
北欧神話の魔狼フェンリル、同じく聖剣レーヴァテイン。インド神話の神鳥ガルダ。
実物とは遥かに離れているが、前世の記憶を持つならばやっぱり自分の魔法に名前つけちゃうよね。
うん。これは仕方ないんですよ。だから、変な名前とか言われて気にしないの。
「やっぱり変な名前じゃないか」
「い、いいんだもん。全然変じゃないもん」




