第十二話 転生(リンカネーション)
「セリナ、ミーシャ無事か?」
「イヤ、イヤ、イヤ、イヤ」
騎士やチグリス先生がその場に駆け付けたときには、狂ったように泣きじゃくるセリナの姿と紅い炎に包まれた人影があった。
燃える人影は既に動かなくなっており、肉が焼ける不快な匂いを漂わせていた。
「クッなんでこんな森の浅い所にレッドグリズリーがいるんだ!」
「畜生!遅かったか」
大きく舌打ちをしたチグリス先生はすぐにこの事態を引き起こした熊の魔物の討伐に動いた。
投擲用の投げナイフ二本同時に投げ、熊の魔物の両目を潰すとすぐに肉薄し剣でその首を跳ね飛ばした。
騎士たちの出る幕がないほど見事な一撃であったが、それを今称賛する声はない。
それをよりも大切なことがあるからだ。チグリス先生は泣き狂うセリナのもとへ駆け付けた。
「大丈夫か?セリナ?」
「ミーシャが……ミーシャが……先生、ミーシャが……」
「あぁ……」
「先生……ミーシャは助かるんですよね?」
「今、治癒魔法を使える騎士が診ているところだが……」
光が抜け落ちたまるで虚空を見つめる瞳をしたセリナを優しくチグリス先生は抱きしめた。
おそらく、いや既に私達が駆け付けた時点でミーシャは死んでいた。
いくら治癒魔法が使える騎士でも死人を蘇らせることは不可能だ。
だが、それを今伝えてしまえば、セリナは壊れてしまう。
そう思ったチグリス先生はただ彼女を抱きしめたのだ。
「う、嘘!な、なにこれ!」
「うん?一体何があった?」
不意にミーシャの手当て(消火)をしていた女性の騎士が悲鳴をあげたのだ。
その場にいた全員が駆け付けてみると、そこには先ほどまで紅く燃えていたミーシャの死体が蒼い炎に包まれていたのだ。
「おい!お前何をやっているんだ!」
「わ、私じゃないですよ!火を消そうと水の魔術を使っていたら急に蒼い炎が出てきたんですよ!」
「そんなわけないだろ!」
「本当に何もしてないんですよ!」
先ほどまで消火をしていた女の騎士は必死に弁明をする。
その様子は明らかに演技ではなく、そもそも死体を消火している様子は他の騎士たちも見ていたのもあって疑いは容易に晴れたが、未だに燃え続ける死体に誰もが不気味に思った。
蒼い炎は激しく燃え上がりミーシャの全身を覆った。
蒼い炎は炭化したミーシャの身体を燃やしていく。
炎で焼けた肉を溶けた皮膚を燃やし新しい肉体を再生していく。
時間を高速で逆再生するかのように戦う前の、傷を負う前の状態に戻していく。
そして気が付けば、傷一つない美しい少女が一糸まとわない姿でそこにいた。
「う……うん?ここはどこ?」
「ミ、ミーシャ?」
「セリナ?」
「生きてる?生きてる!」
「うん?ってうわぁぁぁぁ」
セリナは私が生きているとわかるとぎゅっと力強く抱きしめてきた。
「生きてる!生きてる!良かった。本当に良かったよぉぉぉ」
「うん……ごめんね。ごめんね。心配かけたよね」
私はセリナをギュッと抱きしめ返した。
再び再会できたことを私達は心の底から喜びあった。
涙で互いにぐしゃぐしゃになった私達であったが、そこに水をさす人物がいた。
「そ、その涙の再会中に悪いんだが、ミーシャそろそろ服を……」
「ふぇ?ふ、服?ってキャァァァァ」
私は自分の体を今一度確認した。
私は何も着ていなかった……うん。全裸。すっぽんぽんだった。
私は森中に響びきわたるほどの叫び声を上げた。
ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。
嘘。見られた?全員に私の裸を?ありえない。ありえない。ありえない。
どうしよう。恥ずかしくて死にそう……。もういやぁぁだよぉぉ。
「み、み、見ないで!」
「お、落ち着いてください」
「安心しろ。ミ、ミーシャ。君の裸を見たのはここにいる我々三人だけだ。男の騎士たちも誰一人見ていないから安心しろ。ほら、先生の上着を貸してやる」
チグリス先生がそう言うと女の騎士の人もこくこく頷いていた。
女の騎士の人の後ろで律義に後ろを向きながらメルシアの目を手で隠している騎士たちも頷いていた。
どうやら本当に私の裸を見たのはここにいる三人だけのようだ。
何故わかったかというと……女騎士もチグリス先生も真面目な話をしているのに鼻から血が出ていたからだ。というか騎士の貴女も鼻血出さないでくださいよぉ。
貴女もロリコンなんですか!
とツッコミをいれられるくらいまで精神が回復したので私は素直に先生から上着を借りた。
「あ、ありがとうございます。でも、鼻血は拭いてください」
「あ、す、すまない」
チグリス先生と女騎士は鼻血を拭いたあと私達に何があったのかを質問した。
私達は質問に対してあるがまま嘘偽りなく答えた。
「なるほどな。つまりお前たちは死にかけのウォードッグに手を出し、レッドグリズリーに襲われたと……はぁお前ら私は言ったよな?他の魔物を見つけたら逃げろと」
「「す、すみませんでした」」
「まったく、まぁともあれ二人とも無事とはいかなかったが、生きていてくれてありがとう」
「はふぅ」
「ん」
チグリス先生は私とセリナをキュッと抱きしめた。
はふぅ。なんかチグリス先生はいい匂いがするのです。
これが大人の女性というものなのですね。
おっと意識が軽くそれてしまったのです。危ない危ない。
「さ、とりあえずみんなのところに戻るぞ。と言ってもミーシャは別だがな。一応、他の先生に頼んで学園の救護室で診てもらいなさい」
「は、はい」
「わかりました」
そして、場所は移り私は今、学園の救護室にいる。
残念ながら、私の服は全て燃えてしまった。
下着も靴下も全てだ。
だから私は今、チグリス先生から借りた上着一枚しか着ていない。
なんだか、救護室、前世でいう保健室っぽい教室で服一枚、しかもぶかぶかの服……。
うん……なんかエッチな感じがする。
で、でもこれは私がエッチじゃなくて、ふ、不可抗力なんですからね!
「レッドグリズリーの炎でね……うん。なるほどね。それじゃあ診てみようか」
金髪エルフのお姉さん、養護教諭のパルネーシ先生は自分の額を私の額に当てた。
キスできるほどの至近距離にまで迫られ私の胸はドキドキした。
「せ、先生?」
「うん?もう少し我慢してね。いまミーシャちゃんを診てるとこだから……なるほどなるほど。理解したわ」
パルネーシ先生は納得した様子をすると、カルテのようなものにスラスラペンを走らせた。
「あ、あの先生?私の体は大丈夫なんですか?」
「うん?あぁ大丈夫だよ。君の傷は君自身のスキル『超回復』のお陰で死ぬ直前に全ての傷を癒したんだよ。だから君の体はもう問題ないよ」
「『超回復』?」
「ん?あれ?もしかして自分のスキルの使い方を知らないのかい?ほらステータスを見てないのかい?」
「え?」
私のスキルは『転生』のはずだ。
断じて『超回復』ではない。だが、一応私はステータスを開いて確認することにした。
名前 ミーシャ・フォン・シリウス
種族 エンシェントエルフ
レベル 12
生命力 +24
魔力 +60
筋力 +10
耐久力 +16
敏捷 +50
スキル 転生{三分料理}
称号 転生者 神から愛されし子 神殺し
ステータスを開くとそこには午前中とは少し異なった内容が書かれていた。
まず変わった点はレベルだ。
まぁこれは魔物を狩っていたために多少レベルがあがり、それに比例するように他のパラメータも上昇していた。
次に変わった点はスキルの下に何やら見慣れない文字が増えたことだ。
不意に私はステータスのスキルの部分を手で触れた。すると新たに別の画面が出てきた。
スキル 転生
発動条件 スキル所持者が死亡したとき
効果 スキル所持者を完全回復した状態で蘇生し、———————のスキルを獲得できる。
備考 スキル発動に伴い身に着けている衣服はすべて焼失する
少し読めない部分もあるけど、なるほどこうやって自分のスキル使い方をみんな知るのか……。
っておい!
なんで今まで気付かなかったんだよ!
あ、もしかしてこれが新しく追加された機能なのかな?
そんなことはどうでもいいのですよ!えっなに?
転生ってデメリットないとか言ってたくせにバリバリあるじゃん!
これじゃあスキル使う度に私すっぽんぽんになるってことですか!ふーざーけーんーな!
ちなみに私が初めて手に入れたスキルは……。
スキル 三分料理(三分クッキング)
発動条件 料理をしている時
効果 料理が上手くなる。
下ごしらえなどの料理過程を省くことができる。
料理中、脳内に特有の音楽が流れる。
……私が文字通り死ぬ思いをして手に入れたスキルがこれですか……。
ふぅ……落ち着くのです。
クールになれ私。
きっと一見ゴミスキルみたいに見えるだけで実はすごいチートな……うん。ないな。
自分でもわかる。これはゴミスキルというかネタスキルですよね。
おい!百歩譲って料理スキルなのは許してあげますよ。
私も女の子なので料理は上手くなりたいと思うから……でもね。
なんですか?このふざけたスキル名『三分クッキング』ってもうこう完全にアレですよね?
前世でたまにテレビでやってるアノコーナーですよね?わかりますよ。
ご丁寧に料理手順の省略とか、脳内音楽とか絶対あっちの世界を知ってる私に対する嫌がらせですよね。
女神クロリスめ。やってくれましたね!私激おこですからね。
ここに先生がいなかったら台パンしてますからね。
今度話す機会があった文句言ってやるのですよ。
私は密かに復讐を決意するのであった。
「確認できたかしら?それにしても驚いたわ。貴女のスキル『超回復』は凄いわね」
カルテのようなものを書き終えたパルネーシ先生は振り返ると私の頭を優しくなでた。
「え?」
私の疑問に思ったような反応を勘違いしたのか先生は得意げに語り始めた。
「ふふ、私のスキルは『触診』身体接触した相手の体を分析する能力なのよ」
「な、なるほど。でも額を合わせる必要ってないんじゃあ……」
「可愛い女の子が手で『触診』するなんて勿体無いじゃない!」
「そ、そうですか」
フスンと鼻息を荒くしたパルネーシ先生は拳を握りしめ言った。
私は念のため、というか身の危険を感じたので先生から少し距離を取った。
こ、ここにもロリコンがいたのですよ。
まったく、この学園の女教師はロリコンしかいないのですか!
「まぁそんなことはどうでもいいことよ。凄いのは貴女の『超回復』のスキルのほうよ。自分でも確認したと思うけど、発動条件は極度の重傷を負ったとき、効果は傷を完全に癒すというものね。簡単な話、貴女は即死しない限り不死身ということね。うん、実に素晴らしいスキルね」
「そ、そうですか」
私のスキルは『転生』は先生の言う『超回復』とは似て非なるスキルであるのだが何故か私のスキルは『超回復』であると決めつけていた。
「せ、先生スキルの件はわかりました。それで、私の体は異常ないんですよね」
「ええ、傷も完全に回復しているし、特に問題はないわ。けど、まだ救護室にいてね」
「えっどうしてです?」
「だって貴女、今その下に何も着てないじゃない。そんな恰好で外歩いたら悪い人に捕まって大変な目にあうわよ」
先生は手で何かを揉みしだくように私を脅してきた。
「ひぃ」
「ふふふ、怯えなくても大丈夫よ。貴女の家にはもう連絡いれたから。たぶんもう少しで迎えが来るんじゃないかしら。それまで先生と二人っきりで一緒にい・ま・しょ」
先生はいやらしい手つきで私の方へ近寄ってきた。
ペロリと唇を舐める仕草は蠱惑的でもあり、獲物を見つけた肉食獣のようでもあった。
私はゆっくりと先生との距離を取ろうとする。
ちょ、ちょっと嘘でしょ!た、タイムなのですよ!
私はじりじり距離を詰められ、とうとう私は壁際まで追い詰められたしまった。
先生は片手で私が逃げられない様に片手を私の顔のすぐ横に当てた。
そして、もう片方の手で自分の服のボタンを一番上から外していった。
か、壁ドン?まさか、こっちの世界にも!いや、そんなことは今はどうでもいい。
早く何とかしなければ私、先生に襲われちゃう!
「せ、先生!だ、ダメ!」
「大丈夫よ。優しくしてあげるから」
先生は胸元までボタンを外すと私の顎をクイッと上げた。
あ、アゴクイだと!ヤバイ本当に、に、逃げられないよ。
そしてゆっくりと近づいてくる先生の綺麗な唇が私の唇に触れる直前、万事休すかと思われた瞬間、養護室の扉が勢いよく開き中に人影が入ってきた。
「ミーシャ!ミーシャ!無事か!」
「パパ!」
そこには額に汗を浮かべ、心配そうに周囲を見渡すパパの姿があった。
私はパパの登場で生まれた一瞬の空白の時間を利用し、パルネーシ先生の魔の手から逃れるとパパに抱き着いた。
「パパ!」
「ミーシャ!よかった。よかった。無事なようだね」
パパは私をギュッと抱きしめながら涙ぐみながら言った。
私とパパが抱き合っていると、しれっと服装を正したパルネーシ先生がカルテみたいなもの持ってやってきた。
「ミーシャさんのお父様ですか?」
「ええ。父のアーサー・フォン・シリウスです。そして——」
「母のシェリー・フォン・シリウスです」
「ママ!」
「遅くなってごめんなさい」
パパの後ろから少し慌てた様子でママの遅れてやってきた。
パルネーシ先生はパパとママに座るように促すと先ほどまで雰囲気と打って変わって真面目な雰囲気で話し始めた。
「まずは娘さんの状態ですが、魔物との戦闘で負った傷などは全て完治しており、問題はありません」
問題無いという先生の言葉にパパもママの安堵の息を漏らしたが、パルネーシ先生はなおも真面目に一相顔をこわばらせるように話す。
「問題は娘さんのスキルですが、お父様もお母様もご存知でしょうか?」
「ええ。『超回復』ですね」
なんとびっくりママも私のスキルを『超回復』だと思っているらしい。
というか私は自分のスキルのことを誰にも言っていないはずなのになんでママは知っているんですかね。
私はそのことが気になったので聞いてみると、どうやら私が生まれた時点で既に『触診』スキルのような他人のステータスを覗き見るスキルを使われていたらしくパパもママも私のスキルを知っているとのことだった。
まさか、生まれた時点でスキルを把握されていたとは……でも間違ってるけどね。
なんども言うようだけど、私のスキルは『転生』なんですよ。
流石に訂正するべきかなぁと思ったのだが、それよりも私にとってとても重要、というか最重要案件についてママから告げられた。
「ミーシャ?いつまでその恰好をしているの?ほらママが新しい服を持ってきたからこれに着替えてらっしゃい」
ママはそう言うと私の制服と下着を収納魔法から取り出し手渡してきた。
私はすぐにその服を受け取ると着替えるために救護室の奥の方へ向かった。
よかった、これでようやくまともな格好ができる。
危ない、危ないパパとママが迎えに来てくれたとはいえ、流石にダボダボの服を着て街中を歩いたら絶対変な目で見られてしまうのですよ。
ここへ来るときも大変だった。
森の中では先生と女の騎士の人達に隠されながら馬車まで連れて行かれ、馬車に乗って学校へ送られるとまるで姿を見せないように用心警護みたいに辺りを女の人達に囲まれながらで救護室へ送られたのだった。
私の恥ずかしい姿は一応私の姿を隠してくれた人以外には見られていないのだが、それでもすっごい恥ずかしい体験だった。
ふぅでもこれでもう安心なのです。
ママが着替えを持ってきてくれたことに感謝です。
私はそそくさと制服に着替え、パパとママのもとへ戻ろうとすると何やらパルネーシ先生とチグリス先生の二人が緊張した様子でパパとママと話していた。
何やらただならぬ気配に私は頭を引っ込め話が終わるのを待つことにした。
パルネーシ先生もチグリス先生も緊張して何話してるのかな?
ひょっとして私へのセクハラがパパにばれたとか……。
いや、流石にないかな。さて、ただ待ってるのも暇だな。
そうだ、なんでママ達私の『転生』を『超回復』だと勘違いしたのかな。
ステータス画面には確かに『転生』って書いてあるし……うぅん。謎です。
ステータス画面を見せれれば話は早いんだけどこれって自分以外には見れないしなぁ。
そう言えばステータスってスキルの説明以外にも他のとこも見れるのかな?
私はふと疑問に思いステータスを開き色々試しに押してみた。
すると予想通り別の画面、称号の画面を開くことができた。
称号 転生者
説明 女神クロリスの転生者に与えられる
効果 念話(女神クロリスのみ) スキル保護(鑑定偽造・干渉不可) 神様のいたずら
称号 神から愛されし子
説明 神から愛されている子に与えられる
効果 獲得経験値量五倍 幸運
称号 神殺し
説明 神を殺すことに成功した者に与えられる
効果 神と交戦したときステータスを倍にする
なんとまぁ称号にもスキルと似たような感じなものがありましたが……。うん。
こちらは一応当たりなのかな。
特に神から愛されし子ってのがいいね。経験値の量が増えるし幸運も素晴らしいね。
まぁ神殺しのステータスを倍にするってのも強いと思うけど神様と戦う機会なんてないから使えないかな。けど、どこぞのネタスキルよりはまだマシだからいいかな。
最後に、みんなが私のスキルを『超回復』と勘違いする原因らしいもの、『スキル保護』。鑑定スキルとかも欺けるから中々強力なものかもしれない。
さて、前座もこの辺りにして本命に移りましょうか。
ええ、こんなところにありましたね。
前世の私って結構コミュニケーション能力なくて電話とか嫌いだったんですよ。
もう電話越しなのにドキドキして上手くしゃべれなくなっちゃうんですよね。
だけどこの十年で私も成長しました。コミュ力爆上がりですよ。
今なら街中で演説だって出来ちゃうくらいですね。嘘です。そこまではないです。
無駄話はやめて、そろそろ本題に入りますよ。
なぜこんなことを言っているかというとですね。
あの不良品を寄越した(与えてくれた)クソ女神(女神クロリス様)に一言(文句)言ってやろう(言いたい)と思ったのです。
おっと私としたことが本音と建て前がごちゃ混ぜに……。もういいや、はっきり言いますよ。
私今から念話してアイツにクレーム入れてやるんです!そうと決まったら即行動。
私はステータスに表示された念話をポチっと押すと頭の中で電話のコール音のような音が響き始めた。
コール音は一回目が鳴り終わる前に止まった。
そして懐かしい女性の声が聞こえた。
『やぁやぁ、やっと念話してくれたね。待ちくたびれたよ。もう十年間も連絡くれないから暇で暇で……。ほら私が念話したのって一回だけじゃん。実は私達神様って普段こっちから連絡できないんだよね。自意識が芽生えた段階で全部説明する予定だったんだけど忘れてたのよ。めんご~テヘ』
「……」
女神クロリスは念話に出るや早口でまくし立てた。
その様子に私はあっけにとられ咄嗟に言葉が出なかった。
彼女に言いたいこと(クレーム)があったのだが、それが増えた。
「あ、あのクロリス様」
『あ、そういえば転生特典も渡すの忘れてたよ。君に与えるのは概念神具『外法魔書』いやぁほんとは生まれた時に一緒に送ればよかったんだけど、私も初めての転生ですっかり忘れてたよ』
「……」
女神クロリスはそう言うと私の目の前に急に大きな分厚い本が現れた。
『届いたわよね?それが私の概念神具『外法魔書』よ。その神具は私の創造神としての——』
女神クロリス、もうクロリスでいいや。
クロリスは突然、転生特典として送ってきた本について説明を長々としてきた。
なんていうか一癖も二癖もある代物であった。
『外法魔書』は簡単に言えば魔法を創る魔法の本であるらしい。
使い方は簡単、自分のオリジナルの魔法を本に書けば、書いた魔法が使えるようになるというもので、なんと私専用の神具であるらしく私の体に収納できる優れもの。
あら、簡単と思ったのだが、やはりそう単純なものではなかった。
まず本に書くのに莫大な魔力を必要とするため、クロリスの話だとあと十年は使えないとか……。
書く内容も起こる事象、必要な魔力量をこと細かく書かないといけなかったり……。
果ては魔法陣、詠唱、動作なんてものまで書かないといけないとか……。
クロリス曰く自分だけの世界の法則を創れる凄い神具らしいのだが、私としては概念魔法でいいじゃんなんて思ったりした。
クロリスは話終わると質問はないかしら?と自慢気に言ってきた。
「クロリス様、色々と言いたいことはありますが、まず言いたいのは……なんで『転生』使ったら裸になるんですか!」
『そんなの決まってるじゃない。美少女の裸が見たいからよ』
クロリスは悪びれず様子もなく、何を当然のことをと言った様子で言った。
「なっ、そんな理由で裸に……ほ、ほかにもあのネタみたいなスキルはなんですか!」
『あぁ三分クッキングね。ふふふ、私もあれは笑ったわ。でもあれも私は悪くないわよ。私は生き返って新しいスキルを得る力を創って与えたけど得るスキル私にはわからないもの。まぁ運なんじゃないかしら』
「そ、そんなぁ……」
もう愕然しました。
死ねば裸になって、得るスキルは完全ランダムで場合によってはネタスキルを得るとか……誰ですか私をネタキャラみたいにしようとしてるのは!
私はチート使ってウハウハしたり、楽してスローライフを満喫したいんですけど!
これって最強系のバトル物じゃないんですか!
というか今のところバトル展開全敗だし、助けてもらってばっかりだしもしかして私はヒロイン役なのですか?
そのうち人生イージーモードのイケメンでも登場するんですか!いや、それは流石にない……よね?
「クロリス、まさかそのうち勇者とかが私の前に来たりとかないですよね?」
『……さぁ?』
「おい、なんだその間は」
『神様はあんまりそっちの世界に干渉しちゃいけないんだよー(棒)』
「う、嘘だぁーー」
『あははは、さて渡すものも渡したし、たくさん話せて私は満足だよ』
「私は不満足よ」
『随分と砕けてきたね。まぁ私としてもそっちの方が話しやすくいいけどね。むしろ、美少女の本音を聞けてお姉さんゾクゾクしちゃうわ』
「ホントに女神様なのか疑問に思えてきた」
『いやだぁなぁ。これでも女神よ。ボンキュッボンの美女神よ。ミーシャももう少ししたらなれるから安心してね』
「う、うっさいわ!切るからね」
『ふふふ、それじゃあまたね。ミーシャからの念話ならいつでもワンコール以内でるから、また念話してね』
「はいはい、それじゃ」
『バイバイ~』
まったく、あの女神め!馬鹿にしやがって神域に乗り込んで頭引っぱたいてやりたいのですよ。
クロリスとの念話を切り、私はこの先に待ち受けるかもしれない不安に大きなため息を吐いた。
私が制服に着替えている間、ママとパパはパルネーシ先生と話し込んでいた。
「さて、ミーシャが帰ってくる前に話をすませてしまいましょうか。先生、あの子がなぜ『超回復』の発動条件を満たしてしまったか、説明してもらえるんですよね」
ママは笑みを浮かべながら言った。
だが、その声には隠し切れない怒気が含まれ、漏れでた魔力は床を凍らせた。
「ママ落ち着いて、また魔力漏れて床が凍っているよ」
「あらあら、私ったらすみませんね」
「い、いえ……」
パルネーシ先生は顔を引きつらせながら言った。
「では聞かせていただきましょうか」
ママはパルネーシ先生を逃さないと言うかのように凍てつくほど冷たい目で見つめた。
覚悟を決めたような表情をしたパルネーシ先生が口を開こうとしたとき救護室の入り口が突然開くとチグリス先生が入ってきた。
「遅れて申し訳ありませんでした。ミーシャさんのクラスの担任のチグリスと申します。事のあらましは私がご説明いたします」
「そうですか。ではお願いします。私達のミーシャが『超回復』を使うにはめになった理由を」
「わかりました。ではご説明をします——」
チグリス先生の説明をパパとママは黙って聞いた。
「——以上が事の顛末です」
チグリス先生は簡単に起きたことを語るとママは少し考えこむような仕草をすると確認するかのよういくつか質問をした。
「なるほど……ウォードッグ、それにレッドグリズリーは普段も森の浅い所に出現するのですか?」
「いいえ。毎年同じ場所でやっていますが私達教師陣も初めての経験でした」
「そうですか……。ではこの近くに迷宮、もしくはダンジョンはありますか?」
「いいえ……どちらもないです」
「なるほど……わかりました。どうやらそちらに落ち度はないようですね」
「あ、ありがとうございます」
ママは一人納得した様子をしたが、先生達は何が何だかよくわかっていない様子でママに質問をした。
「どうしましたか?何か納得した様子でしたけど?」
「いえ、納得したというより、方針を決めただけです。お気になさらずに」
「そ、そうですか」
ママがそう言うと丁度タイミングよく、私が着替えを終えて出てきたのだった。
「ママ?お話は終わったの?」
「ええ。もう終わったわ。ミーシャ今日はもうお家へ帰りましょうか」
ママはそう言うと先生の方を横目でチラリと見た。
先生たちは、その視線に気が付くと慌てた様子でママの意見に賛成した。
「そ、そうだな。今日は早く帰ってゆっくり休むといい」
「え、ええ。そうね。なんだった数日休養をとった方がいいかもしれませんね」
「わかりました。それでは今日は帰りますね」
「「お大事に」」
私は先生に見送られながら、パパとママと一緒に家に帰った。
家に帰り、軽い食事をとった後、私はすぐにベッドに入り、その日は終わったのだった。
ミーシャが眠った後、父のアーサーと母シェリーはリビングで真剣な顔をしながら向かい合って座っていた。
「ママ、これから俺は何をすればいいのかな」
「そうですね。普段出現しない魔物が現れた。周りには迷宮もダンジョンもない。可能性としては、おそらく暴走それもかなり大規模なモノの予兆ですね」
「やっぱり、ママもそう思うか……。最近のこの辺りの魔物の出現率の増加を考えればその可能性は高いな。だけど流石に二人だけ核を見つけられるか?」
「私もそう思って援軍を里から呼びました」
「お、おい。それって……」
「はい。私の可愛い後輩の子達を呼ぼうかなと」
「後輩って長老衆は許可をくれるのか?」
「さぁ?だから内緒にお願いしました。たぶん、明日の朝にはこちらに来れると思いますよ」
「まったく俺もだけど、ママも過保護過ぎだな……」
「可愛い娘のためですからね。あの子のためなら私はなんでもやりますよ」




