第67話 路地裏の、あやしい男たち
斥候が鑑定をしかけてきた、翌日。
やはり、というべきか。向こうは次の手に出てきた。
もっと直接的で、もっと乱暴な手に。
◇
その日、私とティルが買い出しの帰りに、人気のない路地を通りかかったときだった。
ティルがふいに足を止めて、鼻をひくつかせた。
「レン……におい。あの、こわい人たちの、におい。……たくさん」
次の瞬間。
路地の両側から、数人の男がぬっと姿を現した。あの斥候たちだ。腰には剣。目には、“獲物を追い詰めた”という冷たい光。
……なるほど。囲んできたか。
「聖女様。……少し、お時間をいただこう。抵抗しなければ、手荒にはしない」
男の一人がそう言って、じり、と距離を詰めてくる。
……なるほど。人気のない路地を狙ったのは、街の人に見られないためか。ここでなら多少手荒にしても、誰にも咎められない。
いやなやり口だ。でも――冷静に考えれば、向こうにとってもこれは“賭け”だ。私が本当に規格外の力を持っているのか。それを確かめるために、あえて攻撃を仕掛けてくる。私の反応を見るために。
……つまり、これは試験だ。私が“ただの子ども”か、“それ以上か”を見極めるための。
ティルが真っ青になって、私の背中にしがみついた。その震える手を、私はそっと握った。
私はそっとティルを自分の後ろへ庇った。そして――いつもの退屈そうな声で呟いた。
「【硝子の繭】」
ふわり、と。私の体を、儚げな光の膜が包んだ。
◇
「……なんだ、その光は」
男たちが一瞬、警戒する。でも、すぐに「はったりだ」と判断したらしい。一人が剣の柄に手をかけて。
「馬鹿な子どもだ。……大人しくしていればいいものを」
男が剣を抜いて、その峰で、私の肩を打ち据えようとした。(さすがに子ども相手に刃は向けないらしい。良心があるのか、ないのか。)
鋼の刃が、私の肩に振り下ろされる。
――かきん。
乾いた音がした。
剣は、私を包む光の膜に触れた瞬間、まるで鋼鉄の壁を打ったみたいに跳ね返された。
男の顔が、ぽかん、とした。
私は一歩も動かず、髪の毛一本乱れることもなく、ただ退屈そうに立っていた。
「……あの。痛くないので、何度やっても無駄ですよ」
◇
男たちは色めき立った。
「な、なんだ、今のは!」
「くそっ、まぐれだ! もう一度!」
次々と、斥候たちが私に襲いかかる。剣で打つ。棒で殴る。投げ縄をかけようとする。
でも――どれも、私を包む繭に触れた瞬間、ぜんぶ弾かれた。
【硝子の繭】は、あらゆる物理・魔法の攻撃を百パーセント無効化する。神様の攻撃だって通さないと言われる、伝説級の盾。斥候の剣くらいで、どうにかなるはずがない。
私はその嵐のような攻撃の真ん中で、ただ静かに立ち続けていた。まるでそよ風の中にいるみたいに。退屈で、あくびが出そうだった。
困ったのは、私が“反撃”をしないことだった。
私の【硝子の繭】は、守ることしかできない。攻撃力はゼロ。だから私には、この男たちを倒すことはできない。(まあ、倒す気もないけれど。)
でも、逆に言えば、私はただ立っているだけで無敵なのだ。何をされても効かない。だったら、慌てる必要も、反撃する必要もない。ただ相手が疲れて諦めるのを、のんびり待てばいい。
私はティルをしっかり繭の中に庇いながら、攻撃の嵐の中を、すたすたと路地の出口へ歩き始めた。
男たちが慌てて道を塞ごうとする。でも、私が繭を張ったまま進めば、ぶつかった男のほうが逆に弾かれて、尻もちをつく。まるで動く鉄壁だ。
「ど、退け……くそっ、なんなんだ、こいつは!」
「……あの。もう終わりですか? 私、買ったお肉、早く冷蔵しないと傷んじゃうんですけど」
私がのんびりそう言うと、男たちはぞっとした顔で後ずさった。
全力の攻撃を何十発も浴びせて、かすり傷ひとつつかない子ども。それが退屈そうに、買い物の心配をしている。……人間業とは思えない光景だ。




