表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新版】痛いのも苦労するのも嫌なので、お家で美味しいご飯を作って静かに暮らしたい(※ただしダンジョン最深部)  作者: 翠碧ノ人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/100

第58話 それでも、この力は悪くない

 ……この子は、私が教えたことを、ちゃんと自分のものにしていた。「一人じゃないから、大丈夫」。それは、私がこの子にあげたかった言葉。そして今、この子が、それを私に返してくれている。


 ティルはしばらく考えて、それからまっすぐ私を見て言った。


「でも、レン。……レンのごはんで、たくさんの人が、たすかった。ぼくも。ヒノも。ジオじいちゃんも。ネルねえちゃんも。……レンが、めだたなかったら。ぼくたち、みんな、いま、ここに、いないよ」


 その言葉に、私は、はっとした。


「レンの、りょうりの、ちからは、わるいものじゃ、ない。……たくさんの人を、しあわせにした、いいものだよ。それを、“めだつから、やめよう”なんて。……ぼくは、いやだ」


 まっすぐな、その言葉が、冷えかけていた私の心を、じんわりとあたためた。


 ……そうだ。この子は、私の料理で救われた一人だ。


 もし私が「目立ちたくない」からと、あの夜、ティルに二杯目をあげなかったら。この子はあの寒空の下で、飢えて死んでいたかもしれない。


 私の料理の力は、目立つ。狙われる。……でも、その力が、このあたたかい子を救った。


 だったら。……この力を恥じる必要はない。隠す必要もない。


「レン。……ぼくは、レンの、ごはんが、だいすき。レンが、めだっても、めだたなくても。ぼくは、レンの、みかた、だよ」


 ティルの金色の目が、まっすぐに私を見つめる。ヒノも、こくり、と頷いて、私の手にあたたかい鼻先を押しつけた。


 ……この子たちがいる。


 それだけで、私の心の冷たい影は、もうずいぶん薄れていた。


    ◇


 そうだ。私の料理の力は、悪いものじゃない。


 確かに、それは私を危険にさらす。目立たせる。狙われる。……“お値段”は高い。


 でも、その力で、私はティルを拾えた。ヒノを家族にできた。ジオじいさんを元気にして、ネルさんを救って、街の冬を越させた。


 もし目立たないために、この力を封印していたら。……このあたたかい繋がりは、ぜんぶ手に入らなかった。


 前世の私は「目立たないこと」を選んで、息を潜めて生きて、そして一人ぼっちで死んだ。冷たい静けさの中で、誰にも看取られずに。


 あれは“安全”だったのかもしれない。誰にも狙われず、誰にも傷つけられず。……でも同時に、誰にもあたためられもしなかった。


 私はもう、あんな暮らしには戻りたくない。狙われる危険を抱えてでも、あたたかい繋がりのある暮らしを選びたい。


 ……そう。私はもう選んでいるのだ。冷たい安全より、あたたかい危うさを。


 私はティルの頭を、そっと撫でた。


「……ありがとう、ティル。……そうだね。私の料理は、いいものだ。目立つのは怖いけど。……それでも私は、これからもあたたかいものを作る。誰かをあたためるために」


「うん!」


 ヒノも、そうだそうだ、と言うように、ぐるる、と鳴いた。


    ◇


 静かな暮らしには、“お値段”がある。目立てば、狙われる。あたためれば、羨まれる。……それはたぶん、変えられない。


 でも、その“お値段”を払ってでも、私はこのあたたかい暮らしを選ぶ。


 備えはする。用心もする。いざとなれば、あの地の底の隠れ家に逃げる。……でも、怯えて縮こまって、あたたかいものを作るのをやめたりはしない。


 それでは、前世と同じだ。誰にも関わらず、息を潜めて、冷たい静けさの中で擦り切れていく。……あんな暮らしには、二度と戻らない。


 私はあたたかい湯気の向こうの、ティルとヒノを見た。


 守るものがあるから、人は強くなれる。怖くても、前を向ける。


 一人ぼっちだった前世の私には、この強さはなかった。守るものがなかったから、だから簡単に折れた。……でも今は違う。守りたいものが、こんなにたくさんある。


 その夜、私は久しぶりに、ぐっすりと眠れた。


 監視の気配は、まだ消えていない。帝国の影も迫っている。何も解決していない。


 でも――心の持ちようが、変わっていた。


 怯えて縮こまるのをやめた。「目立ってしまった」と悔やむのをやめた。


 私はあたたかいものを作る。それはいいことだ。誰かを救うことだ。だから堂々と作る。……そして、もしその“いいこと”を奪いに来る者がいるのなら、ぜんぶ守り抜く。繭で。バフで。采配で。あたたかいごはんで。私にできるぜんぶで。


 静かな暮らしのお値段は高い。でも、それを守り抜くだけの理由が、今の私にはちゃんとあった。


 ……ティルと。ヒノと。ネルさんと。街のみんなと。このあたたかい食卓。


 それを守るためなら、私はいくらでも強くなれる。たとえ相手が国そのものだって。……怖くない。


 私はそう静かに心に誓って、あたたかい箱庭で目を閉じた。

目立つことには、お値段がある。

次回もどうぞ、あたたかくお過ごしください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ