第39話 街で、豊穣祭が開かれます
春が深まった、ある日。街で“豊穣祭”が開かれることになった。
厳しい冬を、なんとか越せた。そのお祝いと、次の実りを願うお祭りだ。冷害の冬を、支え合いで乗り切った街の人たちは、例年よりずっとあたたかい気持ちで、この祭りを迎えていた。
そして――今年の祭りには、ひとつ、特別な“目玉”があった。
「聖女様に、料理をお願いしたい」
街のみんなから、そう頼まれたのだ。
冬を支えてくれた私への、感謝のしるしとして。祭りの中心で、腕をふるってほしい、と。
……正直、目立つのは苦手だ。でも。
「わかりました。……喜んで」
この街の人たちのためなら、私はいくらでも鍋を振るう。それくらいの恩は、返したかった。
箱庭に帰って、その話をすると、ティルもヒノも大はしゃぎだった。
「おまつり! ぼく、はじめて!」
ティルは、目を輝かせた。里にいた頃は、祭りの輪の中に入れてもらえなかった、という。隅っこで、みんなが楽しそうにするのを、ただ見ているだけだったと。
……今度は、違う。
「今度の祭りは、あなたが主役の一人だよ。私のいちばん弟子なんだから。……いっぱい、料理、手伝ってね」
「うん! がんばる!」
ヒノも、「手伝う」と言うように、ぐるる、と鳴いた。
その夜、私たちは、祭りで出す料理の相談で盛り上がった。あれを作ろう。これもいいね。ティルが覚えた料理も出そうか。……献立を考えるだけで、わくわくが止まらなかった。
目立つのは苦手。人が多いのも疲れる。……でも、大切な人たちの笑顔のために料理を作るのは、私にとって、何より楽しいことだった。
◇
祭りの日。広場は、かつてない賑わいに包まれた。
私は、移動式かまどをいくつも並べて、朝から腕によりをかけて、料理を作り続けた。ヒノが、火の番を。ティルが、配膳を。(そう、ヒノも、初めて街にお披露目だ。最初、みんな、火竜を見て、腰を抜かしかけたけれど。ヒノが大人しく火の番をする姿を見て、すぐに、「聖女様の聖竜だ」なんて、また勝手な伝説が生まれていた。)
琥珀色の出汁のスープ。蕩けるお肉の煮込み。ふっくら蒸した野菜。甘い焼き菓子。……この街で覚えた料理の全部を、振る舞った。
「うまいっ!」「さすが聖女様!」「今年も、生きてて、よかったなあ!」
広場に集まった街の人たちが、口々に歓声をあげる。子どもも、大人も、老人も。冬を越せた喜びを、あたたかい料理を頬張りながら噛みしめている。
ティルも、大忙しだった。
いつのまにか、街の子どもたちとすっかり仲良くなっていて、「ティルにいちゃん!」と慕われながら、料理を配って回っている。あの身寄りのない男の子――今はパン屋に引き取られて、元気になったあの子も、ティルと並んで配膳を手伝っていた。
里で独りぼっちだったティルが、こんなにたくさんの友達に囲まれて笑っている。それだけで、私は胸がいっぱいになった。
ヒノも、大人気だった。最初は怖がられていたのに、子どもたちが、そのあたたかい背中に乗せてもらって、きゃっきゃとはしゃいでいる。ヒノは、まんざらでもない様子で、誇らしげに胸を張っていた。
その光景を見ながら、私はしみじみと思った。
……ああ。これが、私の作りたかった景色だ。
みんなが、あたたかいものを食べて、笑っている。誰も、一人じゃない。誰も、味のしない飯を、寂しくかき込んでいない。




