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【新版】痛いのも苦労するのも嫌なので、お家で美味しいご飯を作って静かに暮らしたい(※ただしダンジョン最深部)  作者: 翠碧ノ人


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第33話 食べると力がみなぎる料理

 最近、私は、あることに気づき始めていた。


 私の【秘密の隠し味】――食べた人を強くするスキル。その効果が、どうやら「何を、どう料理するか」で変わるらしい、ということに。


 最初は、ただ漠然と「美味しいものを食べると、力が湧く」くらいに思っていた。でも、常連たちの様子を注意深く観察しているうちに、はっきりとした傾向が見えてきたのだ。


 たとえば。


 業火唐辛子をたっぷり利かせた辛い炒め物を食べた冒険者は、その日、やたらと攻撃的に、力強く戦った。まるで、内側から火が燃えているみたいに。


 一方で。


 蜜熊のはちみつを、とろとろに煮込んだ甘い菓子を食べた冒険者は、傷の治りが早くなり、気持ちがふしぎと落ち着いた。ささくれ立っていた者が、穏やかな顔になった。


 極めつけは、この前の鋼牙イノシシの、発酵させた出汁の煮込みを食べたパーティだ。


 彼らは、いつもよりずっと粘り強く戦った。長い探索でもへばらず、途中で受けた毒の攻撃にも、平然と耐えきったという。「あの煮込みを食べた日は、なぜか、しぶとくなる」と、口をそろえて言った。


「……これ、もしかして」


 私は、箱庭で帳面を広げて、これまでの観察を書き出してみた。


 思えば、料理には、昔からそういう言い伝えがある。前世でも、「精のつくもの」「体を温めるもの」「気を静めるもの」と、食べ物には、それぞれの働きがあるとされていた。生姜は、体を温める。うなぎは、精がつく。温かい牛乳は、寝つきをよくする。


 私の【秘密の隠し味】は、たぶん、その、食べ物が本来持っている「働き」を、とんでもない倍率で増幅している。ただ、それだけの話なのかもしれない。


 だとしたら――理屈が通る。ちゃんと、法則になるはずだ。


    ◇


 辛いもの、炙ったもの――食べると、力がみなぎる。攻撃的になる。


 甘いもの、じっくり煮込んだもの――傷が癒え、心が落ち着く。


 発酵させたもの、熟成させたもの――粘り強くなり、なかなかへばらない。毒やしびれにも強くなる。


 冷たいもの、さっぱりしたもの――身のこなしが軽くなる。頭が冴える。


 そして、出汁のきいたスープ――全体的に底上げされ、仲間との呼吸が合うようになる。


「……法則が、ある」


 私は、思わず呟いた。


 料理の「味」や「調理法」が、そのまま、力の「種類」に対応している。辛味は攻撃、甘味は回復、発酵は持久、冷製は敏捷、出汁は全体の調和。


 つまり――何を、どう料理するかで、私は、食べる人にどんな力を授けるか“選べる”ということだ。


 これは、すごい発見だった。


 戦う前に、その日の敵に合わせて料理を選ぶ。硬い敵には、攻撃を上げる辛い一皿。長期戦には、粘りを上げる発酵の一皿。傷ついた仲間には、癒しの甘い一皿。


 まるで、料理で戦略を組み立てるみたいに。


「……なんだか、面白くなってきた」


 私の料理は、ただ美味しいだけじゃなかった。使い方次第で、いくらでも深くなる。まるで、底の見えない、大きな、大きなパズルみたいに。


 もっとも――この“法則”を、他人に知られるのは、まずい。


「料理で、狙った力を授けられる」なんてバレたら、それこそ、軍隊が喉から手が出るほど欲しがる力だ。「兵士に、都合のいい強化を与える料理人」なんて、格好の“国家資源”になってしまう。


 だから、この帳面は、私だけの秘密だ。


 私は、書き終えた帳面を、そっと【箱庭】のいちばん奥にしまった。誰にも見られないように。この、面白くて深い料理の探求は、あくまで、私の静かな趣味の中だけで。


    ◇


 さっそく、私は、ティルで実験させてもらうことにした。(もちろん、本人の同意のうえで、だ。)


 まず、辛い炒め物を食べさせて、軽い運動をしてもらう。すると、ティルの動きは、明らかに力強くなった。薄い鱗の腕で、大きな薪を軽々と割ってみせる。


「うわ、すごい! ぼく、ちからもち!」


 次に、甘い菓子を食べさせる。すると、さっきの興奮が、すうっと引いて、ティルは、のんびりした穏やかな顔になった。狩りのときに擦りむいた小さな傷も、心なしか早く塞がっていく。


「なんか……ぽかぽか、する。ねむく、なってきた……」


「あはは。甘いものは、リラックス効果もあるみたいだね」


 私は、帳面に結果を書き足した。仮説どおりだ。ちゃんと、法則になっている。


 それから、私は、いちばん気になっていたことを試してみた。


「じゃあ、ティル。これは、どう?」


 差し出したのは、辛くて、なおかつ発酵させた特製の一皿。攻撃の「辛味」と、持久の「発酵」を掛け合わせた、実験作だ。


 ティルは、ひと口食べて――目を丸くした。


「なんか……ちからも、でるし、ながく、うごける、きがする……!」


 やっぱりだ。効果は、組み合わせられる。


 私は、思わずにやりとした。これは大きい。素材を掛け合わせれば、複数の力を同時に授けられる。料理の組み立て方は、無限に広がっていく。


「……でも、注意もいるね」


 書きながら、私はふと気づいた。強い力には、たぶん、反動もある。あんまり無茶な組み合わせを食べさせたら、体に負担がかかるかもしれない。ちょうどいい塩梅。それを見極めるのも、料理人の腕だ。


 やりすぎない。ちょうどいい。……料理も、力も、暮らしも、結局は、それがいちばんいい。欲張って、限界まで詰め込むから、人は壊れる。前世の私みたいに。ほどよくあたたかい。それくらいが、ちょうどいいのだ。


 そんな私の“ちょうどいい”暮らしに、とんだ横やりが入る。

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