表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新版】痛いのも苦労するのも嫌なので、お家で美味しいご飯を作って静かに暮らしたい(※ただしダンジョン最深部)  作者: 翠碧ノ人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/103

第28話 みんなで、炊き出しを

 ティルも、ヒノも、私の“炊き出し”を手伝ってくれた。


 ティルは、器を配って回る。「あったかいよ」と、たどたどしく声をかけながら。ヒノは、かまどの火を守る。時々、寒そうにしている人のそばで、あたたかい風を送ってあげたりして。


 里で“使えない子”と追われたティルが。山で独りぼっちだったヒノが。今、こうして、誰かをあたためる側にいる。


 その姿を見ているだけで、私は胸がいっぱいになった。


 そして――嬉しいことに。あたたかさは、私たちだけのものではなくなっていった。


 最初に私がスープをあげた、あの身寄りのない男の子。あの子が少し元気になると、今度は、私の炊き出しを手伝いたい、と言い出した。


「ぼくも。ぼくみたいに、おなかすいてる子に。ごはん、あげたい」


 その言葉に、私は胸が熱くなった。


 もらったあたたかさを、今度は誰かに渡したい。その気持ちの連鎖が、少しずつ広がっていく。


 それを見ていた街の人たちも、動き始めた。


 パン屋の主人が、「売れ残りだが」と言って、パンを届けてくれるようになった。八百屋のおかみが、「傷ものだけどね」と、野菜を分けてくれる。ガーゴさんたち冒険者は、「魔物のいい肉が手に入った」と、狩りの獲物を持ってきてくれる。


 みんな、照れ隠しみたいに「余り物だ」「傷ものだ」と言うけれど、……ちゃんといいものを持ってきてくれるのは、私にはお見通しだった。


 一人の、小さな一杯のスープが、街の人たちの優しさを引き出して、いつのまにか、街ぐるみのあたたかい支え合いになっていた。


 私は、そのきっかけになれただけ。あとは、この街の人たちがもともと持っていた優しさが、ひとりでにあふれ出しただけだ。


 あたたかさは、伝わっていく。もらった人が、今度は誰かにあげる側になる。ティルがそうだったように。ヒノがそうだったように。


 私が始めた、小さな一杯のスープが、少しずつ、少しずつ、この街をあたためていく。


    ◇


 その夜、箱庭に帰って、ティルがしみじみと言った。


「レン。……ぼく、おもうんだ。レンは、ほんとに、まほうつかい、だって」


「まほう? また、それ?」


「うん。だって。おなかすいてる人に、ごはん、あげると。その人、わらうでしょ。こわいかおの人も、やさしいかおに、なる。……それって、まほう、みたい」


 私は笑った。


「魔法じゃ、ないよ。……ただの、あったかいごはん。でもね、ティル。あなたの言うとおり、かもしれない」


 あたたかいごはんには、人の冷えた心を溶かす力がある。剣でも、魔法でもない。ただの、湯気の立つ一杯が、誰かの一日を、時には一生をあたためる。


 それはたぶん、この世界でいちばん地味で、いちばん優しい魔法だ。


 後日、ネルさんがしみじみと言っていた。


「……ねえ、レンちゃん。最近、この街、雰囲気が変わったの。気づいてる?」


「そう、ですか?」


「うん。前より、みんな優しくなった。困ってる人がいたら、放っておかない。あたたかい食べ物を分け合う。……そういう空気が、街に根付いてきた。ぜんぶ、あなたが始めたことよ」


 私は少し照れて、それから、首を横に振った。


「私は、きっかけだけです。……あたたかさって、たぶん、伝染するんですよ。ひとつ火がともれば、それが次の火をともす。私は、最初の一杯を配っただけ」


 ネルさんは、優しく笑って、それから、少し真面目な顔になった。


「……でもね。あんまり目立つのも、考えものよ。“街を変えた聖女”なんて噂が広がったら……また、良くない連中が寄ってくるかもしれない」


 その言葉に、私の胸が、少しだけざわついた。


 そうだ。あたたかさが広がるのは、嬉しい。でも、それは同時に、私の名が広がる、ということでもある。……いつか、それが、私の静かな暮らしを脅かす日が来るのかもしれない。


 でも――今は、目の前のあたたかい食卓を大切にしよう。心配事は、そのとき考えればいい。


 私は、その魔法を、これからも使い続けよう。どこにいても。誰に対しても。


 腹を空かせた人がいる限り、私はあたたかい一杯を煮込む。


 ……まあ、本音を言えば、半分は、ただ自分が美味しいものを食べたいだけ、なんだけど。それでもいい。その“ついで”で誰かがあたたまるなら、こんなにいいことはない。


 あたたかい湯気の向こうで、ティルとヒノが笑っている。


 私の小さな、あたたかい世界は、今日も少しずつ広がっていた。

見えない飢えにも、一杯のスープを。

次回もどうぞ、あたたかくお過ごしください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ