第26話 箱庭の、増改築
ピクニックのあと、私は箱庭の増改築にもとりかかった。
家族が増えたのだ。ティルに、ヒノに。そして、これから遊びに来るかもしれない、みんなのぶんも。もっと広くて、あたたかい家にしなければ。
ヒノの炎を使えば、金属を溶かして加工することもできた。丈夫な調理器具。あたたかい暖炉。お湯を沸かす設備。どんどん家が快適になっていく。
ティルの鱗は、相変わらず大活躍だった。床に敷けば、あたたかい。落とし蓋にすれば、料理が美味しくなる。壁に埋め込めば、部屋の温度を保ってくれる。
毒霧スライムの発酵調味料。氷霧クラゲの鎮痛ゼリー。深層の珍しい食材。街で買った日用品。棚には、宝物みたいな素材が、どんどん増えていく。
「レンのおうち、まほうの、おうち、みたい」
ティルが、しみじみと言った。
「まほう、じゃないよ。……ぜんぶ、“誰も気づかなかった使い道”を拾ってきただけ。役に立たないものなんて、ないの。危ないもの、地味なもの、いらないと言われたもの。そういうものほど、ちゃんと向き合えば、とびきりの宝物になる」
火竜の炎。竜鱗族の鱗。毒の発酵。痛みの霧。
……そして、たぶん、前世で“使えない歯車”だった、私自身も。
みんな、居場所さえあれば、輝ける。ちゃんと、役に立てる。
そのことを、私はこのあたたかい家で、日々噛みしめていた。
ある日、ネルさんがこっそり箱庭を訪ねてきた。(この人は、私の秘密の“共犯者”なので、箱庭に招いてもいい、数少ない人だ。)
広くなった家と、寛ぐ火竜を見て、ネルさんは絶句した。
「……ちょっと。あなた、火竜まで飼い始めたの!? 伝説の、災厄級の魔物よ!?」
「はい。ヒノっていいます。いい子ですよ。ほら」
ヒノが、ネルさんに、ぐるる、と鳴いて挨拶する。ネルさんは、腰を抜かしかけた。
「い、いい子って……あなたの常識、どうなってるの……」
「まあまあ。ネルさん、疲れてるでしょう。ヒノの炎で淹れた、あったかいお茶、どうぞ。……肩こりに効く薬草も、入れときました」
「……いただくけど。いただくけども! 突っ込みどころが多すぎて、私、どうしたら……」
ぶつぶつ言いながらも、ネルさんは、あたたかいお茶を飲んで、ほう、と息をついた。張り詰めていた肩から、力が抜けていく。
「……はぁ。美味しい。……もう、いいわ。あなたのやることに、いちいち驚いてたら、身が持たない。……火竜でも、なんでも、飼えばいいわ」
「ありがとうございます」
「褒めてない!」
いつものやりとりに、私は、くすくす笑った。
こうして、私の箱庭には、新しい家族と、新しい設備と、時々遊びに来るあたたかい友人が、少しずつ増えていった。
◇
夜。
増改築の済んだ広い箱庭で、私たちは、あたたかい夕食を囲んだ。
移動かまどで作った、山盛りのごちそう。大きな食卓。ティルと、ヒノと、私。
「いただきます」
二人と一匹の声が、あたたかい家に響く。
まだ、椅子はたくさん空いている。でも、いつかきっと、埋まっていく。そんなあたたかい予感がした。
どこでも、あたたかいごはんが作れる、移動式かまど。
それは、ただの道具じゃない。
“どこでも、帰れる場所を作れる”という、私のいちばん大事な力の形だった。
この火さえあれば、私はどこへでも行ける。世界でいちばん危険なダンジョンの奥だって、あたたかい我が家に変えられる。
食後、ティルが、うとうとと、ヒノのあたたかい背中にもたれて眠り始めた。ヒノも、ティルをそっと翼で包むように丸くなる。ふたり(一人と一匹)の寝顔は、とても穏やかで、幸せそうだった。
私は、その光景をしばらく眺めていた。
……最初は、一人だった。誰とも関わらず、隅っこでスープを煮ていた。
それが今は、ティルがいて、ヒノがいて、ネルさんやジオじいさんやガーゴさんがいて。このあたたかい食卓を囲んでくれる人が、こんなに増えた。
目立ちたくない、という願いは、もうずいぶん遠くにいってしまった。でも、不思議と、後悔はなかった。
このあたたかさを知ってしまったら、もう、あの冷たい、一人きりの静けさには、戻れそうになかった。
……まあ、それは、もう少し先のお話。
今は、このあたたかい食卓を、ゆっくりと味わおう。ことこと、と音を立てる移動かまどの優しい火に、照らされながら。
道具が増えると、暮らしが広がります。
次回もどうぞ、あたたかくお過ごしください。




