第25話 念願の、移動式かまど
ヒノが家族になってから、私はさっそく、念願の“移動式かまど”の製作にとりかかった。
といっても、難しいことは何もない。核になる“火”は、もうある。ヒノの炎だ。それを繭で、ちょうどいい火力に整える。あとは、その火を囲む丈夫なかまどの器を作ればいい。
ここで活躍したのが、ティルの鱗と、あとは、深層で採れた燃えにくい丈夫な岩だった。
ティルの鱗は、熱を優しく、均一に伝える。それをかまどの内側に敷き詰めれば、ヒノの炎の熱が、まんべんなく鍋に伝わる。むらなく、美味しく火が通る。
丈夫な岩で、持ち運べるくらいの大きさに組んで、中にヒノが、ちょこん、と収まれる空間を作る。
もっとも、完成までには、それなりに苦労もあった。
最初の試作品は、ヒノがうっかり力んで、炎を大きくしすぎて、かまどの器が真っ赤に溶けてしまった。
「あちゃー……ヒノ、力、入れすぎ」
「きゅう……」
ヒノが、しゅん、と耳(のような突起)を垂れる。悪気はないのだ。まだ、炎の加減がうまくできない。
「大丈夫、大丈夫。失敗したら、やり直せばいいの。……ね、ティル」
「うん! しっぱいは、やりなおせば、いい!」
ティルが得意げに言った。私がいつも言っている言葉を、ちゃんと覚えていてくれる。それがなんだか嬉しかった。
二つ目、三つ目、と試作を重ねて、ヒノも少しずつ、炎の加減を覚えていって。
完成したそれは、世界にひとつだけの、“火竜印の移動式かまど”だった。
「……できた!」
私は満足げに、それを眺めた。
ヒノが中に入って、ふう、と優しく炎を吐く。繭で整えられたその炎は、あたたかくて優しい、理想のとろ火。鍋をかければ、ことこと、といい音を立てて煮え始める。
どこでも。ぱっと。あたたかいごはんが作れる。
長年の――いや、この体になってから、ずっとの、私の夢が、ついに叶った瞬間だった。
◇
さっそく、試運転だ。
私とティルとヒノは、街の外れの、見晴らしのいい丘へ出かけた。移動式かまどを担いで。(重いところは、ヒノが運んでくれた。力持ちだ。)
丘の上でかまどを据えて、ヒノが炎をともす。
私は、そのあたたかい火で、持ってきた食材を次々と料理していった。
香り茸のスープ。串に刺したお肉の炙り焼き。ふっくら蒸した野菜。焼きたてのパン。
丘の上に、あたたかい湯気と香ばしい匂いが、ふわりと広がる。青い空と緑の草原を背に、あたたかい料理が並ぶ。
「わあ……ピクニック、みたい!」
ティルが、目を輝かせた。
「うん。ピクニックだよ。……こういうの、一度やってみたかったんだ」
外で、あたたかいものを、のんびりみんなで食べる。
前世では、絶対にできなかったこと。休みなんて、なかったし。あっても、疲れ果てて寝ているだけ。外で、のんびりごはんを食べる余裕なんて、一度もなかった。
でも、今は。
「いただきます」
あたたかいスープをすする。丘を渡る風が心地いい。ティルがはしゃぎながら串焼きを頬張る。ヒノがお肉をぺろりと平らげて、満足そうに寝そべる。
……ああ。しあわせだ。
こういう、なんでもない、あたたかい時間が、私のいちばん欲しかったものだった。
丘でごはんを作っていると、通りかかった人たちが、匂いにつられて寄ってきた。
畑仕事帰りの農夫。薬草を摘みに来たおばあさん。遊びに来た子どもたち。みんな、あたたかい湯気に誘われて、足を止める。
「よかったら、どうぞ。……たくさん作りすぎちゃって」
私が器を差し出すと、みんな、遠慮しながらも嬉しそうに受け取って、ひと口すすって、ほっと顔をゆるめる。
「……あったかいねえ」
おばあさんが、しみじみと言った。その一言に、私はまた、胸があたたかくなる。
あたたかい料理は、どこで作っても、人を笑顔にする。街の隅っこじゃなくても。丘の上でも。……いつか行く、地の底でも、きっと。
移動式かまどは、私に、その確信をくれた。
便利になった暮らしは、次の“やりたいこと”を、私に思いつかせる。




