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【新版】痛いのも苦労するのも嫌なので、お家で美味しいご飯を作って静かに暮らしたい(※ただしダンジョン最深部)  作者: 翠碧ノ人


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第24話 火竜の炎で、とろ火にします

 さて。仲良くなれたところで、本題だ。


「あのね、火竜さん。……あなたのその、すごい炎を、ちょっと料理に貸してほしいの」


 私は、火竜に事情を説明した。(通じているか、微妙だけど。)どこでもあたたかいごはんが作りたいこと。そのために“ちょうどいい火”が欲しいこと。


 火竜は、こてん、と首をかしげた。


 問題は、ここからだ。火竜の炎は、強すぎる。あたりを焼き尽くすほどの火力。そのままでは、料理どころか、食材が一瞬で炭になってしまう。


 でも――そこは、私のスキルの出番だった。


 私は、火竜にそっと手を当てた。そして、その燃え盛る炎に、意識を集中する。


 【硝子の繭】は、あらゆる攻撃を無効化する。ということは、炎の“勢い”や“熱”を繭で受け止めて、加減することもできるはずだ。全部を防ぐんじゃなくて、ほんの少しだけ通す。ちょうどいい火力になるように。


「火竜さん。ちょっとだけ、炎を出してみて。……そう、優しく、ね」


 火竜が、ふう、と小さく炎を吐いた。


 最初は、うまくいかなかった。


 少し力を緩めすぎると、炎は、ぼっ、と燃え上がって、危うく私の髪を焦がしかけた。(繭があるから、平気だけど。)逆に抑えすぎると、炎は、しゅん、と消えてしまう。


 ちょうどいい加減。それを探るのは、まるで繊細な火加減の料理と同じだった。強火と弱火のあいだ。素材がいちばん美味しく火の通る、その一点を、指先の感覚だけで探り当てる。


 何度も、何度も試して。


 私は、その炎を繭で包み込んで、少しずつ、少しずつ勢いを殺していく。ごうごうと燃える破壊の炎が、やがて、ゆらゆらと揺れる、あたたかくて優しい――ちょうど料理にぴったりの“とろ火”になった。


「……できた」


 その、ちょうどいい炎に、私はそっと手をかざした。あたたかい。熱すぎず、ぬるすぎず。まさに理想的な火加減だ。


 破壊の炎が、世界一のコンロになった瞬間だった。


    ◇


「すごい……レン、すごい! かりゅうの、ほのおが、おりょうりの、ひに、なった!」


 ティルが、飛び跳ねて喜んだ。


 火竜も、自分の炎が褒められて嬉しいのか、誇らしげに胸を張っている。


 私はさっそく、そのちょうどいい炎で、持ってきた食材であたたかいスープを作った。山の上で、湯気の立つ、あたたかい一杯。


 三人で――いや、二人と一匹で。それを囲んだ。


「いただきます」


 火竜も、器に顔を突っ込んで、ふーふー、しながらスープを飲んだ。(猫舌ならぬ、竜舌、らしい。)そして、美味しそうに目を細めた。


 あんなに恐れられていた火竜が、今は私たちと一緒に、あたたかいスープを飲んでいる。


「あなた、名前、いる? ……そうだな。“ヒノ”なんて、どう? 火の子、だから」


 火竜――あらため、ヒノは、きゅう、と嬉しそうに鳴いた。気に入ってくれたらしい。


 名前をもらう、というのは、この世界の生き物にとって、特別な意味があるのかもしれない。ティルがそうだったように、ヒノも、名前をもらった瞬間、ぐっと私たちに心を開いた気がした。


 名前は、「あなたは、ここにいていい」という印だ。「あなたを、ちゃんと見ているよ」という証だ。


 だから、私は、出会った子には、ちゃんと名前をつける。前世の私が、誰にも“個人”として見てもらえなかった寂しさを、知っているから。


「ヒノ。これから、よろしくね。……たくさん、美味しいもの作るから。あなたも、いっぱい手伝ってね」


 ヒノは、大きく頷いて、私の頬を、ぺろりと舐めた。ざらざらして、あたたかい竜の舌。くすぐったくて、私は笑った。


 こうして、私の家族は、また一人(一匹)増えた。


 ……静かに暮らしたいはずなのに、どんどん賑やかになっていく。まあ、いいか。ヒノの炎があれば、これで、どこでもあたたかいごはんが作れる。


 念願の移動式かまど計画は、思わぬあたたかい形で、実現に近づいたのだった。


 その日の帰り道。ヒノは、当たり前みたいに、私たちの後をついてきた。もう、この山に一匹でいる気はないらしい。


「ヒノも、うちに来る?」


 私が聞くと、ヒノは、大きく頷いた。


「よし。じゃあ、決まり。……といっても、あなた、大きいから。箱庭のどこに住んでもらおうかな」


 ヒノを連れて帰ることになると、ティルは、最初、少し緊張していたけれど、すぐに、ふたり(一人と一匹)は仲良くなった。ティルが、ヒノの背中に乗せてもらって、はしゃいでいる。


「レン、みてみて! ヒノ、あったかい! せなか、ふかふか!」


「あはは。よかったね。……ヒノ、ティルのこと、よろしくね」


 ヒノは、任せろ、と言うように、ぐるる、と鳴いた。


 独りぼっちだった、火竜。独りぼっちだった、竜鱗族の子。そして、前世で独りぼっちだった、私。


 そんな寄る辺のない者たちが、少しずつ集まって、あたたかい家族になっていく。


 ……悪くない。むしろ、最高だ。


 私の箱庭の食卓の椅子は、また埋まっていく。(まあ、ヒノは大きすぎて、椅子には座れないけど。)その賑やかさが、今の私には、たまらなく愛おしかった。

炎の子とも、ごはんで仲良く。

次回もどうぞ、あたたかくお過ごしください。

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