第23話 炎の効かない子と、仲良くなりました
炎が効かないと悟った火竜の幼体は、警戒しながらも、私から目を離せずにいた。
当然だ。全力の炎を浴びせても、びくともしない。そんな相手、火竜だって初めてだろう。私は、その“何が起きたのか、わからない”という隙を逃さなかった。
ゆっくりと。刺激しないように。私は、持ってきた大きな肉を、火竜の前にそっと置いた。
「はい、これ。……お腹、空いてるでしょ?」
火竜は、びくっとして、肉と私を交互に見た。罠だと思っているのかもしれない。
でも、その鼻は、ひくひくと動いている。お腹が空いているのは間違いない。この山に住みついたばかりの子どもだ。まだ、上手に狩りができないのだろう。だから、痩せている。
「毒なんて、入ってないよ。ほら」
私は、その肉を少しだけちぎって、自分の口に放り込んで見せた。もぐもぐ。うん、美味しい。
それを見て、火竜は、おそるおそる肉に鼻を近づけて――ぱくり、と口に入れた。
次の瞬間。火竜の目が、まんまるになった。
よほど美味しかったらしい。あっという間に肉を平らげて、「もっと」と言うように私を見上げてくる。さっきまでの威嚇は、どこへやら。
「あはは。気に入ってくれた? よかった。……まだ、あるよ」
私は、次々と肉をあげた。ただあげるだけじゃない。ちゃんと下ごしらえをして、臭みを抜いて。ヒノ――いや、まだ名前はないけれど。この子が食べやすいように、ひと口大に切って。
料理人の性、というやつだ。相手が魔物でも、食べさせるなら、美味しく食べさせたい。
火竜は、夢中で食べた。しっぽをぶんぶん振って、まるで大きな犬みたいに。
よく見ると、あばらが浮いている。ずいぶん痩せているのだ。この山に来たばかりで、まだ大きな獲物を狩れなくて、ずっとお腹を空かせていたのだろう。
だから、あんなに気が立って、近づくもの全部に炎を吐いていたのだ。怖かったのは、火竜のほうも同じ。お腹が空いて、独りぼっちで、心細くて。だから、精一杯威嚇して、自分を守っていた。
……なんだか、ほうっておけない。腹を空かせた者を見ると、体が勝手に動く。この私の、社畜由来の“お節介”は、相手が伝説の魔物でも発動するらしい。
◇
お腹がいっぱいになった火竜は、すっかり機嫌が良くなって、私の足元に、ごろん、と寝そべった。ぐるぐると喉を鳴らしている。甘えている、みたいだ。
「……ちょろい」
思わず、呟いてしまった。
あんなに街の冒険者たちを怯えさせていた火竜が、肉、数切れで、こんなに懐くなんて。まあ、子どもだし。お腹も空いてたし。……それに、たぶん、この子も寂しかったのだろう。一匹で、こんな山の上にいて、誰にも優しくされなくて。
その気持ちは、少しわかる。
「あなたも、独りぼっちだったんだね。……よし。じゃあ、うちの子になる?」
火竜は、きゅう、と鳴いて、私の手に鼻をすり寄せた。
背後で様子を見ていたティルが、おそるおそる近づいてきた。
「レン……その子、なかよく、なれた?」
「うん。ばっちり。……ティルも、触ってみる? 優しくしてあげて」
ティルが、そっと火竜の頭に手を伸ばす。火竜は、一瞬身構えたけれど、ティルのおっかなびっくりな手つきが、怖くない、とわかると、ぺろり、とその手を舐めた。
「わっ……ざらざら、してる。……あったかい」
ティルの顔が、ぱあっとほころんだ。里で“使えない子”と追われたこの子と、山で独りぼっちだった火竜。似た者同士が、今、そっと心を通わせた。
なんだか、いい光景だった。
この、あたたかい炎に。……私は、ひとつ、お願いがあった。




