幕間 第三夜(前編) また、大きくなってる
幕間、三夜目。見た目は少女、中身は元社畜のレン。その体が、少しずつ、大きくなってきて……。
その朝もまた、私は、寝間着が入らなくて固まっていた。
……もう、何度目だろう。この体になってから、数ヶ月ごとに、ぐん、と背が伸びて、服が追いつかない。地の底に持ってきた服も、もう、ほとんどつんつるてんだ。
磨いた金属の鏡を、覗き込む。
そこに映っていたのは、もう、あの頼りない幼女でも、手足のひょろりとした子どもでもなかった。
……ずいぶんと大人びた少女が、そこに立っていた。
背はすらりと伸びて、手足もしなやかになって、顔立ちも、幼さが抜けて整ってきている。……この規格外の成長速度なら、あと一年か二年もすれば、完全に、大人の女性になるだろう。
「……はやいなあ、ほんとに」
私は、思わずため息をついた。
◇
中身は、二十代後半の、くたびれた元社畜だ。だから、体が大人に近づくこと自体は、むしろ落ち着く。あの小さな体は、包丁も重い鍋も扱いにくくて、正直、不便だった。早く大人の体に戻れるなら、それはそれで、ありがたい。
……それにしても。なぜ、私だけ、こんなに成長が早いんだろう。
ティルは、竜鱗族で長生きだからか、ゆっくり育っている。ヒノも、そう。なのに、私だけが、まるで早送りみたいに。
理由は、わからない。転生のおまけなのか。それとも、私の四つの規格外なスキルの、どれかの副作用なのか。……まあ、深く考えても仕方ない。この世界は、そういう不思議なことで満ちている。私は、そう受け入れることにした。
ただ、ひとつだけ思うのは――この体が"大人"になったとき、私の中身と外見が、ようやく釣り合う、ということだ。
今は、見た目が子ども、中身が大人。そのちぐはぐさに、周りは時々戸惑う。私自身も、扱いに困ることがある。……でも、いつか、体も大人になれば、もう、"見た目が子どもなのに、やたら達観している変な子"では、なくなる。それは、少しだけ楽になるかもしれない。
◇
「レン……! また、おおきくなってる!」
起きてきたティルが、私を見て、目をまんまるにした。
そして、いそいそと私の隣に並んで、背比べをする。……これは、もう、地の底に来ても変わらない、恒例行事だ。
「……くっ。ぜんぜん、おいつけない」
ティルが、悔しそうに唸る。この前まで、私とそんなに変わらなかったのに。今は、私のほうが、頭ふたつ分も大きい。
「あはは。あなたも、ちゃんと育ってるよ。焦らないの。……竜鱗族は、長生きだって言うし。ゆっくり育てばいいの。……美味しいごはん、いっぱい食べてね」
「……ぼくも、はやく、レンみたいに、おおきくなりたい」
ヒノは、私の変化に、首をかしげていた。ぐるる、と鳴いて、「匂いは同じなのに、見た目が違う」とでも言いたげに。
「大丈夫だよ、ヒノ。中身は、同じ私だから」
私が頭を撫でてやると、ヒノは、安心したように喉を鳴らした。
◇
その日、私は、服がないので、【箱庭】の中で、有り合わせの布から、簡単な服をこしらえることにした。……街の女将さんに、また会いに行きたいけれど、さすがに、そう何度もこっそり出歩くのは、控えたほうがいい。
布を裁ちながら、ふと思い出す。……そういえば、女将さんに、初めて服を選んでもらったとき。「あんた、将来、とんでもない別嬪さんになるよ」なんて、言われたっけ。
鏡の中の、大人びた自分を、まじまじと見てみる。
……正直、自分の見た目がどう、というのは、あまりぴんとこない。中身が、くたびれた元社畜だからか。「綺麗になった」と言われても、「はあ、どうも」と、曖昧に笑うことしかできない。前世でも、恋愛とは縁遠かった。仕事ばっかりで、人を好きになる余裕なんて、なかったのだ。
……まあ、いつか。この体が完全に大人になったら、そういうことも、少しは考えるようになるのかもしれない。……なんて。今は、まだ、ぴんとこないけれど。
大きくなった体で迎える夜は、どんな夜になるだろう。




