幕間 第二夜(後編) ジオじいさんと、ただいま
ジオじいさんの様子も、こっそり見に行った。
じいさんは、小さな庭先で、あたたかいスープを、のんびり飲んでいた。私のあげた、あの発酵調味料で作ったスープだろう。……顔色が、とても、よさそうだ。前に会ったときより、ずっと元気そうに見える。
物陰からそっと見ていると、じいさんは、ふと空を見上げて、しみじみと、独りごとを呟いた。
「……レンちゃんは、元気にしとるかのう。西の街で、あったかいもんを、作っとるんじゃろうな」
その優しい声に、私は、危うく、飛び出して「ここにいますよ」と言いそうになって――ぐっと、こらえた。
……ごめんね、ジオじいさん。今は、まだ言えない。でも、私は、あなたのすぐ近くにいます。あなたが、あたたかいスープを毎日飲んで、元気でいてくれる。それを確かめられただけで、私は、十分、嬉しいです。
いつか、ちゃんと種明かしをしよう。「実は、すぐ近くにいたんですよ」と。そのとき、じいさんが、どんな顔をするか。……それを、楽しみにしておこう。
◇
帰り道。パン屋の前を通りかかった。
あの、引き取られた男の子が、店先で働いていた。……と、その子が、通りの隅でうずくまっている、別の小さな子に、そっと近づくのが見えた。
男の子は、店のパンを一つ、その子にそっと差し出していた。
「これ、あげる。……おなか、すいてるんでしょ。あったかいもの、たべると、げんき、でるよ」
その言葉に、私は、思わず足を止めた。
……あの子は、覚えていた。約束を。「おなかを空かせた子を見つけたら、あたたかいものを分ける」という、あの約束を。私が、この街を去るときに託した、あの願いを。
あたたかさは、繋がっていく。私がいなくなっても、この街には、ちゃんとあたたかさが根付いている。私が蒔いた、小さな一杯の種は、こうして、次の花を咲かせている。
私は、そっと、その光景を見届けて。フードの中で、静かに微笑んだ。
◇
地の底の我が家に帰ると、ティルとヒノが駆け寄ってきた。
「おかえり、レン! ……おみやげ、あった!?」
「うん、たくさん。……ネルさんのパンに、ガーゴさんのお肉。それから――みんなが元気だったっていう、いちばんのお土産」
「いちばんの、おみやげ?」
「うん。……街のみんな、元気だったよ。ジオじいさんも、顔色よくて。パン屋の子は、ちゃんと、あなたと同じことをしてた。おなかを空かせた子に、ごはんを分けてた」
その話をすると、ティルは、へへ、と嬉しそうに笑った。
「……あたたかさ、つながってるんだね」
「うん。ちゃんと、繋がってる。……私たちが、いなくなっても」
私は、あたたかいお茶を淹れて、ティルとヒノと、窓辺で一休みした。窓の外は、私が選んだ、穏やかな夕暮れ。
……お別れじゃ、なかった。ちゃんと、繋がっている。すぐ会える。街のみんなのあたたかさは、今も、あの場所に根を張っている。
それを確かめられただけで、今日という日は、とても、いい一日だった。
――こっそりの、里帰り。それは、私に、確かな安心をくれた。あたたかいこの街の、すぐ真下で。私は、今日も、あたたかいごはんを煮る。いつか、堂々と会いに行ける日を、楽しみにしながら。
街のみんなは、今日も元気。レンは、すぐ近くで、そっと見守っています。
★次回は「幕間 第三夜」。少しずつ大きくなっていく、レンのお話です。 次回もどうぞ、あたたかくお過ごしください。




