第四十五話 「境界の果て」
銀色の光の中へ落ちていく。
上も。
下も。
時間すら曖昧だった。
世界境界。
白と黒が消滅した後に残った、
現実の“空白”。
そこへ。
俺とユナだけが存在していた。
身体の感覚が薄い。
境界核として、
世界へ接続され始めている。
無数の声が聞こえる。
◆
『ありがとう』
『助かった』
『怖かった』
『生きたい』
◆
人類全体の感情。
温かい。
苦しい。
でも。
不思議と嫌じゃなかった。
「玲司」
ユナが隣で呟く。
「綺麗だね」
銀色の光の海。
その中へ、
無数の記憶が漂っていた。
誰かの日常。
笑い声。
帰り道。
好きな人。
全部。
人間が生きた証だった。
「ああ」
胸が締め付けられる。
こんな世界を、
守りたいと思った。
その瞬間。
世界境界が激しく震える。
銀色の空間へ、
巨大な裂け目が走った。
『現実定義欠損』
声。
だが。
白域中枢でも、
黒域中枢でもない。
もっと冷たい。
もっと根源的。
『新中枢未確定』
世界そのものだった。
法則。
現実。
宇宙。
全部が、
“次の定義”を求めている。
「来る……!」
ユナが俺の手を握る。
銀色の光が不安定化する。
境界核が完成する前に、
世界が崩壊しかけていた。
その時。
無数の人間の声が響く。
◆
『生きて』
『終わらないで』
『帰ってきて』
◆
銀色の光が強くなる。
第三位相。
それは。
人間同士の繋がりで成立する位相。
つまり。
俺たちだけの力じゃない。
世界中の想いが、
境界核を支えていた。
ユナが涙を浮かべる。
「玲司……
みんな、
いるよ」
「ああ」
一人じゃない。
最初から。
ずっと。
その瞬間。
銀色の海の中心へ、
巨大な光が生まれた。
新しい中枢。
白でもない。
黒でもない。
人類位相そのもの。
『新世界法則、
承認待機』
世界の声。
俺は理解する。
最後だ。
ここで。
新しい世界を定義する。
ユナが静かに言う。
「玲司」
「ん?」
「どんな世界にしたい?」
考える。
苦しみがない世界か。
争いのない世界か。
違う。
「……不完全でいい」
ユナが少し笑った。
「うん」
「泣いてもいい。
迷ってもいい。
傷ついてもいい」
それでも。
「誰かと生きていける世界がいい」
銀色の光が脈動する。
その瞬間。
新世界中枢が、
ゆっくり開いた。




