第三十九話 「中枢崩壊」
白域中枢が崩れていく。
巨大な“眼”へ、
銀色の亀裂が無数に走っていた。
『定義維持不能』
白い光が乱れる。
人格固定構造が崩壊している。
同時に。
黒域中枢も震えていた。
『解放維持不能』
黒いノイズが不安定化する。
白。
黒。
二つの超存在が、
第三位相によって“人間”を観測してしまった。
だから。
完全ではいられなくなった。
銀色の光が世界を包む。
固定されない。
崩壊もしない。
揺らぎながら存在する世界。
第三位相。
いや。
人類位相。
それが現実を書き換えていく。
「玲司……」
ユナが弱々しく呟く。
身体が透けていた。
銀色の粒子。
境界核負荷が限界を超えている。
「ユナ!」
抱き寄せる。
軽かった。
存在そのものが薄くなっている。
「大丈夫……」
「嘘つくな」
ユナは少しだけ笑った。
「でも、
世界は止まったよ」
その言葉通りだった。
東京湾の白化が止まっている。
黒域侵食も消え始めていた。
世界中で。
白と黒の災害が収束へ向かっている。
紗那が震える声で言う。
「成功したんですか……?」
黒瀬が静かに首を振る。
「まだ終わってない」
その瞬間。
白域中枢が最後の脈動を放った。
『統合維持を優先』
白い光が圧縮される。
崩壊しかけた中枢が、
最後の固定を開始した。
同時に。
黒域中枢も暴走する。
『解放継続』
黒いノイズが膨張。
世界境界が裂ける。
銀色の光が押し潰され始めた。
「っ……!」
ユナが苦しそうに胸を押さえる。
「玲司……
支えきれない」
境界核が崩壊寸前だった。
第三位相はまだ生まれたばかり。
白と黒、
二つの中枢を完全に止めるには足りない。
その時。
榊一臣がゆっくり立ち上がった。
白い粒子へ変わっていく身体。
もう長く持たない。
それでも。
彼は静かに白域中枢を見上げた。
「……私は」
震える声。
「間違えた」
白域中枢が反応する。
『統合管理者』
榊は笑った。
初めて。
本当に人間らしい笑みだった。
「人類を信じきれなかった」
そして。
榊は俺たちを見る。
「神代玲司。
ユナ」
白い粒子が舞う。
「君たちに託す」
次の瞬間。
榊の身体が、
白域中枢へ接続された。
「榊!!」
『統合管理権限移譲』
白域中枢が震える。
榊は最後にこちらを見る。
「不完全でいい」
その言葉と共に。
白域中枢内部から、
巨大な銀色の光が溢れ出した。
白が崩れる。
固定が解ける。
同時に。
黒域中枢も激しく脈動した。
『均衡崩壊』
黒いノイズが世界へ広がる。
今度は黒が暴走する。
黒瀬の顔色が変わる。
「まずい……
黒域側が止まらない!」
世界の空が裂ける。
黒域深層。
その奥で。
巨大な“黒い本体”が、
ゆっくり目を開いた。




