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位相戦線  作者: 神代零


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第二十九話 「固定兵」

 白い軍勢が押し寄せてきた。


 顔がない。


 目もない。


 ただ人型だけが存在している。


 白域固定兵。


 塔内部で人格同期された存在。


 全員が同じ動きで、

 同じ速度で、

 こちらへ歩いてくる。


 不気味だった。


 個性がない。


 感情がない。


 まるで。


 人間の抜け殻だ。


『排除開始』


 白観測者の声。


 瞬間。


 固定兵たちの腕が変形した。


 白い刃。


 白い銃口。


 人格そのものを固定する武装。


「来る!」


 紗那が発砲する。


 青白い閃光。


 一体の固定兵を吹き飛ばす。


 だが。


 そいつは即座に再構成された。


「再生……!?」


「違う」


 黒瀬が低く言う。


「固定されてるんだ」


 白域内部では、

 存在が崩れない。


 だから。


 壊しても戻る。


 最悪だ。


 固定兵たちが一斉に射撃する。


 白い光。


 空間固定弾。


 床へ着弾した瞬間、

 空間が凍りついた。


「っ!」


 避けきれない。


 だが。


 黒いノイズが光を侵食する。


 俺の侵食痕が脈動していた。


 白を拒絶している。


『矛盾個体確認』


 固定兵たちの動きが僅かに止まる。


 その隙に。


 黒瀬が前へ出た。


「下がれ」


 侵食痕が開く。


 黒い線が空間を走った。


 瞬間。


 固定兵たちの身体が崩壊する。


 白い粒子となって霧散した。


 黒域侵食。


 白域固定を解除したんだ。


「行くぞ!」


 黒瀬が走り出す。


 俺たちも続く。


 塔内部は異様だった。


 重力方向が一定じゃない。


 壁が床へ変わる。


 空間が折れ曲がる。


 巨大な人格情報の海が、

 頭上を流れていた。


 人間の記憶。


 感情。


 思考。


 全部が白い光として固定されている。


「これ全部……」


 紗那が震える。


「同期された人格情報です」


 ユナが苦しそうに俯く。


「声がする……」


 白域中枢が近い。


 零番核が共鳴している。


『ユナ』


 突然。


 白い空間全体へ声が響いた。


 優しい声。


 男の声だった。


 ユナが硬直する。


「……え」


『こちらへ来なさい』


 空間中央へ光が集まる。


 そして。


 一人の男が現れた。


 白衣。


 白髪。


 穏やかな笑み。


 榊一臣。


「榊……!」


 だが。


 以前と違う。


 彼の身体は半分ほど白い光へ変質していた。


 人間じゃない。


 既に白域へ融合し始めている。


「ようこそ」


 榊は静かに笑う。


「白域固定塔へ」


 その瞬間。


 塔全体が脈動した。


『統合率四十八%到達』


 白観測者の巨大な眼が開く。


 東京湾全域が白く染まり始めていた。

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