第二十八話 「塔侵入作戦」
白域固定塔が東京湾上空で脈動していた。
巨大すぎる。
都市どころじゃない。
まるで。
空へ突き刺さった“白い世界”そのものだった。
無数の光輪。
表面を流れる白い文字列。
人格同期波。
塔が呼吸する度に、
東京湾全域の人間たちが静止していく。
感情が薄れている。
思考が均一化している。
白域固定。
既に始まっていた。
その外壁へ。
黒瀬真琴が立っている。
黒いコートが風もない空で揺れていた。
「遅かったな」
銀色の光を背に、
彼は静かにこちらを見る。
敵。
そのはずなのに。
以前より表情が人間らしかった。
「黒瀬」
「玲司」
黒瀬の侵食痕が脈動する。
「お前も見たんだろ。
白域の先を」
脳裏へ浮かぶ。
統合された人類。
一つになった人格。
永遠の固定。
苦痛のない世界。
そして。
人間が消えた世界。
「……あれは違う」
「同感だ」
即答だった。
紗那が目を見開く。
「あなた、
永久機構側じゃ……」
「違う」
黒瀬は白域固定塔を見上げる。
「俺は人類側だ」
沈黙。
その言葉は、
榊とは決定的に違った。
「榊は白へ傾きすぎた」
塔が脈動する。
「だから世界を固定しようとしている」
「じゃあお前は」
黒瀬は少しだけ笑った。
「俺は均衡派だ」
その瞬間。
モニターの女――境界解放戦線指導者が低く呟く。
『やはり生きていたか』
「知り合いか」
『元・第三位相研究主任』
空気が止まる。
紗那が絶句した。
「まさか……」
黒瀬は否定しない。
「榊と一緒に研究していた」
白域固定。
黒域解放。
そして。
第三位相。
「だが榊は、
人間の不完全性を嫌った」
黒瀬の目が僅かに揺れる。
「だから白へ行った」
「お前は?」
「決めきれなかった」
その言葉だけ妙に重かった。
白にも。
黒にも。
完全には行けない。
それは。
俺と同じだ。
「玲司」
黒瀬がこちらを見る。
「塔へ入るぞ」
白域固定塔が脈動する。
時間がない。
東京湾沿岸マップの白化率が、
もう三十%を超えていた。
『統合進行中』
白観測者の声。
『人格同期率上昇』
ユナが苦しそうに胸を押さえる。
「っ……」
白域中枢が、
零番核を引き寄せている。
「急ぐぞ」
黒瀬が塔外壁へ手を触れる。
瞬間。
白い装甲へ黒いノイズが走った。
空間侵入口。
塔内部へ道が開く。
その奥は。
白かった。
果てが見えない。
無数の光。
浮遊する人格情報。
人間の声。
泣き声。
笑い声。
全部混ざっている。
紗那が息を呑む。
「これが……白域内部」
『固定領域』
白観測者の声が響く。
『侵入個体を確認』
その瞬間。
塔内部の空間が変形した。
白い壁。
白い床。
白い人影。
無数。
顔がない。
人格固定兵。
全員が一斉にこちらを向く。
そして。
『排除開始』
白い軍勢が動き出した。




