第二十二話 「人類保全手順」
白百合部隊が空を埋めていた。
純白の機体。
無機質な兵士たち。
避難区上空を覆うその光景は、
救助じゃない。
処刑だった。
『人類保全手順を開始する』
榊一臣の声が、
避難区全域へ響く。
瞬間。
人々が悲鳴を上げた。
「やめろ!!」
「撃つ気か!?」
「まだ避難民が――」
だが。
白百合部隊は感情を持たない。
白い銃口が、
正確にこちらへ向けられる。
ユナが震えていた。
「玲司……」
「大丈夫だ」
反射的にそう言う。
だが。
今回は本当に危険だった。
数が違う。
完全制圧部隊。
しかも避難区そのものを包囲している。
紗那が端末を操作する。
空中投影マップ。
「逃走経路は三本……いえ、
もう二本潰されました」
「早すぎる」
「中央統制局本隊です。
現場判断速度が違う」
榊の映像がこちらを見る。
『神代玲司。
君は理解しているはずだ』
白観測者が脈動する。
『零番核は世界崩壊因子だ』
ユナが俯く。
『今ここで回収すれば、
被害は横浜圏で抑えられる』
つまり。
差し出せと言っている。
数百万人のために、
一人を。
「玲司さん」
紗那が低く言う。
「これは誘導です」
「分かってる」
榊はわざと避難民へ聞かせている。
“誰が悪か”を。
空気が変わり始めていた。
避難民たちの視線。
恐怖。
憎悪。
敵意。
全部ユナへ向いている。
「……あの子を渡せば」
誰かが呟く。
「助かるのか……?」
最悪だ。
人間は追い詰められると、
簡単に生贄を求める。
ユナの手が震える。
「玲司」
小さな声。
「わたしを渡して」
「断る」
即答だった。
ユナが目を見開く。
「でも……!」
「お前、
死にたいのか」
「違う……!」
涙声。
「でもみんなが……!」
「だからって、
お前を差し出す理由にならない」
沈黙。
その瞬間。
榊が静かに目を細めた。
『なるほど』
白百合部隊が一斉に武装展開する。
『では強制執行へ移行する』
「来るぞ!」
次の瞬間。
白い閃光が避難区へ降り注いだ。
轟音。
爆発。
相位圧縮弾。
防壁が消滅する。
悲鳴。
混乱。
人々が逃げ惑う。
白百合部隊が降下を開始した。
『対象確保』
『零番核優先』
『抵抗個体は排除』
紗那が拳銃を抜く。
「玲司さん!
東側ゲートへ!」
「ユナ、走れ!」
少女の手を掴む。
その瞬間。
避難民の男が前へ出た。
「待て!!」
血走った目。
震える声。
「娘がまだ中にいるんだ……!」
俺たちへ銃を向ける。
「お前を渡せば助かるんだろ!?」
ユナの顔が凍る。
だが。
次の瞬間。
白百合部隊の閃光が男を貫いた。
消滅。
一瞬だった。
悲鳴。
絶句。
榊の声だけが静かに響く。
『誤差だ』
その瞬間。
俺の中で、
何かが切れた。
侵食痕が脈動する。
黒いノイズが全身へ走る。
空気が歪む。
白百合部隊の兵士たちが一斉にこちらを見る。
そして。
黒観測者が、
空でゆっくり開眼した。
『黒域適合体、
感情暴走を確認』
紗那の顔色が変わる。
「玲司さん、だめ!!」
だがもう止まらなかった。
怒りが。
黒域と繋がっていた。




