第十七話 「黒域接続」
二号が消えた。
白い光の中で。
存在ごと。
音もなく。
跡形もなく。
駅構内には、
ただ白い粒子だけが残っていた。
少女が呆然と呟く。
「……そんな」
紗那も言葉を失っていた。
だが。
俺だけは違った。
胸の奥が焼ける。
痛い。
怒りなのか、
悲しみなのか、
自分でも分からなかった。
ただ。
あいつが最後に残した言葉だけが、
頭の中で反響している。
『お前だけは、
人間でいろ』
白観測者が静かにこちらを見る。
『統合障害因子を確認』
冷たい声。
感情はない。
なのに。
明確な“排除意志”だけが存在していた。
『修正を開始』
次の瞬間。
白い光が俺へ降り注ぐ。
身体が凍る。
思考が停止する。
存在固定。
人格同期。
自我そのものが、
白へ塗り潰されていく。
「玲司!」
少女の叫び。
だが届かない。
意識が沈む。
白い海。
無数の人間。
溶け合う人格。
笑顔。
涙。
苦痛。
全部が混ざって、
一つになっていく。
『個は不要』
白観測者の声。
『統合こそ完全』
その瞬間。
左首の侵食痕が脈動した。
黒いノイズが身体を覆う。
白を侵食する。
拒絶。
破壊。
存在固定を崩壊させていく。
『矛盾反応』
白観測者の声が初めて揺れた。
そして。
黒域が応答した。
駅構内の床が崩壊する。
違う。
“現実定義”が外れる。
黒い空間が広がった。
底がない。
世界の裏側みたいな空間。
紗那が息を呑む。
「黒域深層……!」
少女が俺の腕を掴む。
「玲司、だめ!」
だが止まらない。
侵食痕が熱い。
脈動。
共鳴。
そして。
黒域が俺を呼んでいた。
『接続許可』
黒観測者の声。
巨大な黒い眼が、
ゆっくり開く。
『適合体確認』
その瞬間。
世界が反転した。
◆
落下感。
暗闇。
無音。
そして。
黒い海。
どこまでも広がる、
存在情報の墓場。
無数の人影が沈んでいる。
消えた人間たち。
横浜第七相位区。
十二万人。
東京崩落。
無数の死者。
全員ここにいる。
いや。
“存在だけが残っている”。
「……ここは」
『黒域深層』
声。
振り返る。
そこにいたのは。
人間だった。
黒いコート。
長い黒髪。
男とも女ともつかない顔立ち。
だが。
その左目は、
観測者と同じ漆黒だった。
「ようこそ」
その人物は静かに笑う。
「未固定存在」
背筋が凍る。
こいつ。
人間じゃない。
だが。
観測者とも違う。
「誰だ」
「名前はもうない」
その人物は、
黒い海を見下ろした。
「昔は人間だった」
黒域が脈動する。
そして。
その人物はゆっくりこちらを見る。
「君は、
世界を壊す側か」
静かな声。
「それとも、
救う側か」




