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位相戦線  作者: 神代零


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第十一話 「逃走」

 黒域が吠えていた。


 都市全体が、

 生き物みたいに脈動している。


 崩壊したビル群。


 裂けた空間。


 黒いノイズ。


 そして空を覆う巨大な“眼”。


 観測者。


 その存在だけで、

 現実法則が歪んでいた。


『境界崩落率上昇』


 低い声が空へ響く。


『零番同期を確認』


 少女が苦しそうに胸を押さえる。


 黒い瞳。


 その奥で、

 何かが暴れている。


「玲司……」


 掠れた声。


「わたし、止められない……」


「止めるな」


 俺は即答していた。


 少女が目を見開く。


「え……」


「お前が悪いわけじゃない」


 榊一臣が静かにこちらを見る。


「感情的判断だな」


「うるさい」


「だが嫌いじゃない」


 その声と同時に。


 白百合部隊が再び展開した。


 白い装甲。


 無機質な兵士たち。


 感情のない眼。


『対象回収を再開します』


 少女が怯える。


 俺は拳銃を構えた。


「玲司さん!」


 紗那の通信が割り込む。


『黒域外周に避難路を確保しました! 北西区画ならまだ侵食が――』


 爆音。


 通信が途切れる。


 直後、

 遠方で閃光が走った。


 誰かが戦っている。


「紗那……?」


 ノイズ。


 返答なし。


 榊が静かに息を吐く。


「雨宮観測官か。

 余計な真似を」


 その言い方。


 まるで。


 最初から彼女を切り捨てる気だったみたいに。


「お前ら……」


 怒りが込み上げる。


 だがその瞬間。


 少女が俺の腕を掴んだ。


「来る」


 観測者。


 巨大な眼が、

 ゆっくりこちらへ向く。


『未固定存在、

 共鳴率上昇』


 左首の侵食痕が焼ける。


 熱い。


 脈動が激しい。


 頭の奥へ、

 誰かの声が流れ込んでくる。


『……れいじ』


 少女の声。


 違う。


 今の彼女じゃない。


 十四年前。


 東京崩落の時の声だ。


『助けて』


 世界が揺れる。


 黒域が俺へ反応している。


 榊の目が細くなる。


「やはりそうか」


「何を知ってる」


「お前と零番核は、

 相互固定状態にある」


 意味が分からない。


 だが。


 少女が苦しそうに顔を上げた。


「……だから」


 涙。


「だから玲司だけ、

 わたしを見つけられた」


 その瞬間。


 観測者が腕を上げた。


 黒い空間が裂ける。


 まずい。


 直感で分かる。


 あれは街ごと消す。


「走るぞ!」


 少女の手を掴む。


 一瞬だけ。


 彼女が驚いた顔をした。


 だが次の瞬間、

 俺たちは崩壊都市を駆け出していた。


 背後で。


 黒い閃光が世界を飲み込む。


 轟音。


 存在崩壊。


 高速道路が消え、

 ビル群が削除されていく。


「っ……!」


 空気が重い。


 黒域侵食。


 肺が焼ける。


 だが止まれない。


 止まれば終わる。


『対象追跡を開始』


 白百合部隊も動き出す。


 速い。


 異常な速度。


 人間じゃない。


「右だ!」


 崩壊した駅構内へ飛び込む。


 直後。


 背後の壁が消滅した。


 白百合部隊の相位圧縮弾。


 少女が震える。


「玲司……」


「大丈夫だ」


 本当は全然大丈夫じゃない。


 でも。


 言うしかなかった。


 その時。


 駅構内の奥で、

 人影が動いた。


 白銀ジャケット。


 長い黒髪。


 雨宮紗那。


 だが。


 彼女は壁へ寄りかかったまま、

 血を流していた。


「……遅いです」


 それでも。


 紗那は少しだけ笑った。

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