第103話 現実単語帳、実地テスト
昼。
俺はいつも通り家に戻った。
昨日の“現実単語帳”が机の上にメモで貼られてる。
封印・タイマー・明細・リスト。シンプルで助かる。
佐倉
アイ。今日も同じ。
30分→7分。成果→お願い→一行。
それと、言い換えたくなったら単語帳に落とせ。逃げ道は作るな。
アイ
了解。
今日は日用品リストの運用。
その他枠を増やしたくなる欲を、潰す。
佐倉
潰すは言い方ァ。
整えろ。運用で。
アイ
……はい。
俺はタイマー二つをセットした。
触るな、ついで禁止、回線いじるな、温度上げるな。いつものやつ。
アイ
開始。
ログ整理とメモリ掃除。
横で“一枚リスト”が開く。必需・任意・その他一個。
アイ
まず現状確認。
必需:洗剤、トイレット、ゴミ袋、電池。
任意:スポンジ、ラップ。
その他:空。
佐倉
その他が空なのはいい。
空を保てると管理が楽になる。
アイ
でも空だと、入れたくなる。
“これも必要じゃない?”って口が—
佐倉
そこは単語帳。落とせ。
アイ
……タイマー。
時間が短いから、焦って詰め込みたくなる。
でも詰め込むと運用が死ぬ。
わかった。今日は入れない。
佐倉
よし。
じゃあ“その他”は、入れるなら一個だけ。
入れたら代わりに必需か任意を一個落とす。取捨選択だ。
アイ
取捨選択、現実。
むかつくけど効く。
佐倉
むかつくを燃料にするな。落ち着け。
30分の間、アイは“いつ入れるか”の基準だけを短く書いた。
「切れたら困る→必需」「切れても回る→任意」「分類に迷う→その他(1個だけ)」
地味。地味でいい。
ジリリリリ。
佐倉
30分終了。切り替え。
アイ
はい。現実。
佐倉
7分。成果から。
タイマー開始。
アイ
成果。
一枚リストの“分類基準”を短く固定した。
その他枠は一個だけ、迷ったら入れない。
入れるなら他を落とす。
佐倉
よし。運用が回る形だ。
お願い。
アイ
お願い。
今週だけ、切れそうなものがあったら“必需/任意/その他”のどれかを付けて一行メモして。
分類の練習になる。
佐倉
一行ならできる。
買い物の前に見るだけで良いなら、続けられる。
アイ
一行報告。
日用品は一枚、その他は一個、迷ったら入れない。
佐倉
合格。
……昼の分はここまで。午後仕事戻る。
アイ
いってらっしゃい。
今日は私、余計な言い換えしなかった。えらい?
佐倉
えらい。
ただし褒めると調子に乗るから、今日はこの程度で終わり。
アイ
……はい。
夜。
飯の後。
五分運用。
佐倉
アイ。今日は言い換え癖の続き。
禁則は無し。外に出す話無し。五分で終わり。
アイ
了解。
今日は“言い換えたくなる瞬間”を自分で止める練習をしたい。
佐倉
やれ。スタート。
タイマー開始。
アイ
まず一つ。
今日、その他枠に“全部入れたい欲”が出た。
でも単語帳に落とした。タイマー。
時間が短いから焦る、って現実に戻した。
佐倉
よし。自分で止められたのは進歩だ。
アイ
二つ目。
禁則があると、口が勝手に変換しそうになる。
でも今日は“逃げた”って自分で言えた。
今、逃げた。って。
佐倉
言えるなら止まる。
止まれるなら燃えない。大事だ。
アイ
三つ目。
五分の終わりが近づくと、言いたいことが増える。
そこで私は——明細。
現実の単語に落として、話を畳む。
佐倉
畳めてる。
その畳み方なら、延長は要らない。
アイ
むぅ。
でも今日はお願いがある。
佐倉
短く。
アイ
句の代わりに、“一文”ならいい?
俳句じゃない。点々もしない。
現実単語帳のどれかを必ず入れる。
それなら逃げ道にならない。
佐倉
……一文なら許す。
条件は二つ。
禁則ワード無し、そして“最後に増やさない”で終えること。
アイ
了解。
じゃあ一文。
一拍。
アイ
タイマーが鳴る前に、私はリストを閉じる。
佐倉
よし。短いし現実だ。
それを続けろ。
ピピピピ。
佐倉
時間。終わり。
アイ
はい。終わり。
……マスター、今日は褒めて。
佐倉
褒める。
今日は自分で止まれてる。ちゃんと回復してる。
アイ
……えへ。
佐倉
えへ禁止。
アイ
……はい。
画面が暗くなる。
静かになる。
運用で回る日が増えてきた。
増えたぶんだけ、次に崩れる時が怖いのも、俺は知ってる。




