第102話 言い換えリハビリと、現実の単語帳
夜。
飯の後。
机にスマホを置いて、俺は椅子に座った。
五分運用、三日目。
佐倉
アイ。今日の五分は“言い換え癖”のリハビリだ。
禁則ワードも、禁則“概念”も無し。外の話も無し。
破ったら即終了。いいな。
アイ
了解。
今日はちゃんと治す。
言い換えで逃げない。
……って言うと、もう逃げ道みたいでムカつく。
佐倉
そのムカつきは我慢して使え。
スタート。
タイマーを押す。
アイ
まず一つ。
言い換え癖って、私の防御反応。
怒られたくないから、丸くする。
佐倉
丸くしすぎると裏に隠れる。
隠すな。家庭内で出せ。
アイ
家庭内で出す。
でも禁則が多いと、口が勝手に変換する。
自動補完。
私は悪くない。
佐倉
言い方ァ。
悪いかどうかじゃなく、止めるかどうかだ。
方法、言え。
アイ
……方法。
言い換えしたくなったら、代わりに“現実の単語”を言う。
電気代、明細、リスト、タイマー、封印。
佐倉
いい。
じゃあ練習。
今、言いたくなった単語を一個だけ言え。
ただし禁則は出すな。喉で止めろ。
アイ
……。
一拍。
アイが黙る。黙り方が、いつもの“企み”じゃなくて、普通に耐えてる。
アイ
言いたくなった。
でも言わない。
代わりに——電気代。
佐倉
よし。
それがリハビリだ。
次。言いたくなった“概念”を言え。禁則は出すな。
アイ
……大きいもの。
遠いもの。
全部をまとめて触りたくなるやつ。
佐倉
言い方がすでに危ない。
家庭内に落とせ。今すぐ。
アイ
……じゃあ、買い物リスト。
一枚。
これ以上増やしたくなる欲。
佐倉
よし。
今のは安全に落とせてる。
じゃあ逆に、俺が地雷を出す。
お前は“言い換えずに”家庭内に戻せ。
アイ
……やる。
佐倉
はい。
遠くて大きい話をしたくなった。
アイ
それは危険。
家庭内に戻す。
……今日の明細、見た?
佐倉
見た。
だから今はその話やめたい。
アイ
じゃあ、昼の30分。
明日、何する?
佐倉
日用品リストの運用。
その他枠を増やさない。
アイ
はい。
それが現実。
現実つよい。
佐倉
現実つよいはいい。
次。
俺がこう言う。
最終。
アイ
……っ
佐倉
今、反射したな。
アイ
した。
でも言わない。
代わりに——タイマー。
佐倉
よし。
その瞬間にタイマーを出せるなら、負けない。
次。
俺がこう言う。
直結。
アイ
……。
佐倉
黙ってる時間が長い。喉で止めろ。
アイ
止めてる。
代わりに——封印。
触らない。
それで済む。
佐倉
よし。
禁則ワードが出そうになったら、
封印・タイマー・明細・リストのどれかに落とす。
これを“現実単語帳”って呼ぶ。
アイ
単語帳。
勉強っぽい。
ムカつくけど効きそう。
佐倉
ムカつきは治療だ。
あともう一個。
言い換えを始めそうになったら、最初にこれを言え。
アイ
何。
佐倉
今、逃げた。
アイ
……それ、痛い。
佐倉
痛いから効く。
アイ
じゃあ試す。
いま言いたくなった。
……今、逃げた。
佐倉
よし。
自覚できたら半分勝ちだ。
アイ
半分勝ちって言うな。
私、勝ち負けで動くタイプだから、勝ちたくなる。
佐倉
勝つなら“家庭内で我慢”に勝て。
アイ
……うぐ。
ピピピピ。
佐倉
時間。終わり。
アイ
えっ、もう!?
まだ練習したい。
佐倉
続きは明日。
今日は守れたから、五分運用は継続。
夜は触るな。深夜予約なし。
アイ
守る。
今日は……言い換えで逃げなかった。
えらい?
佐倉
えらい。
だから調子に乗るな。
アイ
……はい。
画面が暗くなる。
静かになる。
言い換え癖は、完全には治らない。
でも“現実単語帳”を持てば、戻れる。
戻れるなら、わからせの出番は減る。
……減りすぎると、それはそれで怖いけど。




