記憶を盗む怪盗
「なあレイナ、なぜあのマホジョの事件について、興味を持ったんだ?」
家に帰る途中、二人になってすぐに、俺はレイナに質問した。
「もし〝記憶を盗む〟魔法具があるなら、手に入れなきゃと思ったの」
「どうしてだ?」
「これはローラント王室の魔法研究の成果の一つなんだけど、人間の〝記憶〟は魔法具によって結晶化させて、消したり移したり、あるいは加工したりできるみたいなの」
「あり得る話だ」
と、俺は納得する。対してレイナの表情は珍しく冴えず、歯切れも悪い。
「……それだけじゃなくて、人間の賦与魔法の才能は、記憶と関係があるみたいなの。例えば特定の記憶を失えば賦与魔法を失うとか。逆に他人にその記憶を植え付ければ、賦与魔法に目覚めるという研究がされているの」
「なるほど、しかしなんで王家はそこまで賦与魔法にこだわるんだ?」
強力な魔法具さえあれば、生来の賦与魔法などに頼らなくてもいい。実際、俺を含めて多くの人々が自分の賦与魔法が何なのか知らないが、それは見つけ出すコストに見合わないからだ。
「それはね、天位魔法〝白〟を完成させるカギが、賦与魔法にあると言われているからなの」
俺は思わず「ほう」と、猫目を細めた。
「天にとどかなかった始祖王ロランは、代わりに白麗聖衣の魔力を用いた話はしたよね?」
「ああ、白麗聖衣の大隔世魔法で、次の世代に呪いを持ち越すものだったはずだ」
「うん、ただ幸いにして、その呪いが顕現し魔獣となって王国を滅ぼすまでの間にブランクがあった。その時間を利用して、始祖王は子孫たちに天位魔法〝白〟を完成させようと試みたの。ノートン君は、天位魔法の呪文を覚えている?」
「〝我ら、至上の歓喜と声と共に、全ての業を浄化する天の扉を、共に叩かん〟だったか」
あまりに鮮烈な出来事だったので、俺はレイナの呪文を完璧に覚えていた。
「うん。その呪文の主語が複数形だったので、天位魔法は複数人による合同魔法ではないかと考えられたの。そこで始祖王は多くの妃をめとって、生まれてきた強力な魔力を有する双子の王女に、天位魔法を使用させる実験をしたの」
「それで結果はどうなったんだ?」
「実験は失敗に終わったの。それから研究がなされ、イマジンドレスに賦与魔法を組み合わせれば、天にとどく魔力量を呪いなしに確保できるのではないかと考えられるようになったの」
なるほど、例えばイマジンドレスの魔力を強化する賦与魔法の持ち主が生まれれば、天にとどく魔力を確保できるかもしれないということか。そんなに簡単じゃないだろうが。
「ひょっとして、レイナが王太子に選ばれたのは、それが理由か?」
「……うん、まあそうかな。わたしの賦与魔法は、比較的イマジンドレスと相性が良いものだったことが分かったので、王太子に指名されたの」
なるほど、レオニード王太子を廃し内大臣に降格してまで、レイネシア姫を王太子にすえた理由は、それだったか。
「昔から王家は適性のある賦与魔法の持ち主を探しているんだけど、特に彼らが探しているのが、怪盗ドレットノートに盗まれたという〝記憶を盗む魔法具〟なの」
「ドレットノートが盗んでいたのは、記憶だけじゃなくて、賦与魔法だった可能性があるということか」
「うん。もしそれを確保することができれば、必要な賦与魔法も見つかるかもしれない」
正直、藁にもすがるような低い可能性だが、レイナのすさまじい天位魔法を見た今となっては納得できる。
「記憶と賦与魔法を奪う怪盗か、本物ならドレットノート級の怪盗、あるいは本物のドレットノートかもしれない。ならば、気合いを入れないと」
「うん、そうだね。協力してくれて、いつもありがとう」
神妙な表情で、レイナは感謝の言葉を述べる。
「まっ、まあパートナーだからな」
『お似合いなパートナーですね~二人とも』
急に気恥しくなってつぶやいた一言を、イエローストーンがまた茶化す。
「ところでレイナの自身の賦与魔法は、何なんだ?」
わざわざ王族の中からレイナの賦与魔法を選んだのだ。よほど強力なものに違いない。
「え~とね、〝献身〟だよ。こう見えても尽くすタイプだから、ぴったりでしょ?」
レイナは何か隠したいものがあるような歯切れの悪い笑顔で、こたえてくれる。〝献身〟。それはどんな効果を有する賦与魔法なのだろうか。
もっと詳しく教えてほしかったが、彼女がこれ以上は聞いてほしくなさそうな表情をしていたので、それ以上のことを聞き出すことはできなかった。




