▼▼シャンパンコール
砂糖も何も入れずに口をつけたオレンジティーは、そのままで甘露のように甘かった。
半分を飲み干す頃にスカイが焼き菓子を携えて戻って来たので姿勢を正す。
「ほんとうに、どこにでもある不幸な話なんですよ。アリシア様のお耳を汚すまでもない。」
ローラン家のお姫様のね、と続けながらスカイもオレンジティーに口をつけて皮肉げに笑った。
「どこからというと、僕が生まれてしまったことというか…なんの後ろ盾もない平民の家族に、アルファが生まれてしまったことにこの地獄は端を発しているのかもしれない。それでも僕がアルファとわかるまで、定期検診で皇国の検診を受けるまでは家族4人、確かに幸せに暮らしていた。」
あの日、と俯いてしまったスカイがいう「あの日」とは、4歳で受ける魔導適性検査のことだろうか。貴族は個々人で先に受けてしまうが、もともと魔導適正のない者がほとんどの平民は国の検診が行われる時を待つことになる。ここ何年も新しいアルファが平民から出たとは聞かない、とても穏やかな日だっただろう。それが一瞬で変わった。
「それまで優しかったドクター、ナース、大人という大人が僕の魔導適性を見ると蜘蛛の子を散らすように逃げけていった。」
もう一杯いるかい、という声に頷いた。
高い位置からカップに勢いよく落とす紅茶も、スカイのもつリーチでやらえてしまえば冷めてしまうのでは、と思うが保温の魔法が使われているようで熱々のまま目の前に戻された。本当に何も習っていないのが不思議でしかない魔力コントロールだ。
「それからのことをレディーに話すのは多少気後がしちゃうな。一家離散、ってやつ。職を失い、家を失い、最後には命を失いかかった。奇跡的に生きているけどね。」
「…記録では、スカイ様もお亡くなりになっているとお聞きしました。」
「記録ではね!でも、生きてる。論より証拠かな。」
「…」
「あー。ごめんごめん、からかいすぎたね。この家、普段はミカしか住んでないの。僕とは別居してる。今日はミカがいじめられて帰ってきました〜って見た目で俺の仕事場の横を通ったからたまたま居たんだよ。だから、天涯孤独ではないけど、一人暮らしなのは間違いないよ。」
喉が詰まってなかなか紅茶が飲み干せない。
「僕はいま、皇国イチの歓楽街で身を隠しながら働いているんだ。」
なるほど、ホストってやつですね。わからない。




